令和5(2023)年度 国際交流基金賞受賞者

国際交流基金(JF)が設立の翌年の1973年から実施する「国際交流基金賞」は今年で50周年を迎えます。「国際交流基金賞」の2023年度の受賞者が決定しました。本賞は、学術や芸術などのさまざまな文化活動を通じて、日本と海外の相互理解促進に顕著な貢献があり、引き続き活躍が期待される個人または団体に対して授与しています。
記念となる第50回の今年度は、内外各界の有識者及び一般公募により推薦のあった78件から、有識者による審査を経て以下の3件の授賞となりました。

宮城 聰氏(演出家/SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督・静岡県コンベンションアーツセンター館長)【日本】

宮城 聰氏の写真
(c) Ryota Atarashi

授賞理由

SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督を務める宮城聰氏は、身体と言葉と音楽が一体となった独自の手法で祝祭的な舞台空間を創り出し、世界的に評価の高い舞台芸術の演出家だ。

1959年東京に生まれた宮城氏は、大学で演劇論を学び、1990年に「ク・ナウカ」を旗揚げする。演出の特徴は、主な登場人物が「語る」俳優=speakerと「動く」俳優=moverに分かれており二人一役で演じられる点だ。座ったまま台詞を語る俳優と無表情で文楽人形のように動く俳優の、極度に抑制され純化されたエネルギーが舞台上で交錯するときに生まれる、日常を超えた独特のダイナミズムで、シェイクスピアから三島由紀夫まで幅広いレパートリーを上演。2007年にSPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を招聘する演劇祭を開催するなど、「世界を見る窓」としての劇場づくりにも力を注いでいる。2018年芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)受賞、2019年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ受章。

宮城 聰氏による公演の写真
(c) Stephanie Berger

宮城氏は、海外公演をク・ナウカ時代から積極的に行ってきたが、大きな注目を集めたのは2014年のアヴィニョン演劇祭石切場で上演されたインド叙事詩『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』と、2017年同演劇祭法王庁中庭でアジア圏の劇団が歴史上初めてオープニングを飾ったギリシャ悲劇『アンティゴネ』だろう。同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は高い評価を受けた。2018年にはフランス、コリーヌ国立劇場の委嘱により同劇場でL・ミアノ作『顕れ』を発表、またパリでのジャポニズム2018で『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』を上演。米国で実施したJapan 2019では、ニューヨークで『アンティゴネ』を上演し一万人以上の観客を動員。2022年にはベルリン国立歌劇場でモーツァルトのオペラ『ポントの王ミトリダーテ』を演出するなど、現在世界から注目を集める日本の演出家の一人と言って良いだろう。

このように長年にわたり舞台芸術を通じた国際相互理解の推進に貢献してきており、今後ますますの活躍を期待して国際交流基金賞を授与する。

小川 洋子氏(小説家)【日本】

窓際に立つ小川 洋子氏の写真
(c) 講談社

授賞理由

小川洋子氏は1988年に文芸誌の新人賞を受けてデビューし、3年後、『妊娠カレンダー』の芥川賞受賞を機に日本国内で広範な読者を得た。以降30余年に及ぶたゆまぬ創作活動によって、すぐれた長編、短編を次々に生み出し、『博士の愛した数式』(2004年、読売文学賞)『ミーナの行進』(2006年、谷崎潤一郎賞)『小箱』(2020年、野間文芸賞)などの受賞歴を誇る。

「『アンネの日記』を読んだことで作家になった」。そう意識してきたという小川氏の作品世界は、死者の記憶に刻まれた過去の時間のように静かな、閉ざされた空間であることが多い。登場人物たちは、そこで失われゆく記憶や命と向き合い、奇妙な遺物を大切にし、慈しんで弔う。死はすべての人々に平等だとの思想に貫かれた物語には、科学技術によって合理化される現代社会への警鐘も低く響く。

小川 洋子氏と翻訳者Rose-Marie MAKINO FAYOLLE氏 二人で並ぶ正面からの写真
翻訳者のRose-Marie MAKINO FAYOLLE氏と

端正な日本語で書かれた小川作品は、言語や国境の壁を越えて共感を呼び覚ます、普遍的な力があると直感する研究者、翻訳者らは次第に増え、2000年代に入ると欧米各国で急速に紹介が進んだ。とくにフランス語版の読者が多く、これまでに27作が訳され、『薬指の標本』は2005年にフランスで映画化もされている。近年は台湾、中国、韓国などアジア諸国への広がりもめざましく、2023年半ばまでに36作品(共著を含めると39作品)が合わせて37の言語に翻訳され、海外で本になった。

『博士の愛した数式』『密やかな結晶』『ホテル・アイリス』はとりわけ多くの国で読まれ、評価が高い。このなかの『密やかな結晶』は、いつしか記憶まで消されていくディストピアを描いた長編だが、英語版が2019年に出るとイギリスのブッカー国際賞、全米図書賞・翻訳文学部門が最終候補として選出。小川氏が現代文学の第一線に位置する作家であることを証明した。

世界各地の読者だけでなく、いまや後に続く日本語作家、さらには日本語教育に携わる人々を牽引し、激励する存在である小川洋子氏。文学や日本語を通じた国際相互理解の推進に大きく貢献してきており、今後ますますの活躍を期待して国際交流基金賞を授与する。

ペルー日系人協会【ペルー】

公演を行ったアーティスト、観客とペルー日系人協会の人々の写真(c) APJ

授賞理由

これまで在米やブラジルの日系人については、情報や交流が多く日本社会に広く知られる存在であったが、10万人を超える規模を有するペルーの日系人についての知見は比較的少なかった。ペルーにおいて日系の大統領が誕生した近年の歴史を思い起こせば、ペルー社会において日系人がいかに定着し活躍してきたかを再認識することができる。日ペルー国交樹立から今年で150周年、移住開始から124年、その中にあってペルー日系人コミュニティを長年支えてきたペルー日系人協会(APJ)の存在を忘れてはならない。

同協会は1917年の創設以来、日系人の相互扶助に努めるとともに、ペルー社会への定着を促進してきた。日本語教育は協会創設以前の1908年には早くも移住者の子弟のために始まっていたが、戦争中は日系人の活動が制限された。同協会の日秘文化会館を中心に日本語教育がペルー社会に浸透していったのは、戦後、それも近年になって、日本のマンガやアニメなどポップカルチャーが世界的に注目を浴びてから特に著しい。同協会は、2015年に南米スペイン語圏9か国の日本語教育の連絡機関である「南米スペイン語圏日本語教育会議」を立ち上げるなど、今や南米における日本語教育のハブとしても活躍している。

日秘文化会館 舞台の写真
(c) APJ

また、同協会はペルー日系社会最大の文化施設ともいうべき日秘文化会館を有し、コンサート、演劇、展示会、会議などの文化活動の中心的存在となっている。加えて、日本の古典文学の翻訳出版や中南米諸国の日系人対話をリードするなど、日本研究と国際対話にも積極的である。同会館内美術館には日本人移民の歴史も常設展示されている。注目すべきことに、同協会は医療サービスの分野でも社会に貢献している。1981年に開設された日秘総合診療所は、年間100万人の利用者があり、また、日系人移民100周年を記念して2005年に開設された日秘百周年記念病院にも一日に1,000人の外来患者があるという。

以上のような多くの理由から、日ペルー150周年を迎えた記念の年に、ペルー日系人協会に国際交流基金賞を授与することはきわめて時宜にかなっている。

[お問い合わせ]

国際交流基金(JF
広報部
電話:03-5369-6075 ファックス:03-5369-6044
Eメール:kikinsho@jpf.go.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)

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