プラスチックごみの向こうに見えた未来―日本とASEANの若者たちによる4か月の挑戦
2025年 日 ASEANユース・フォーラム Take Actions for Social Change 参加者インタビュー

日 ASEANユース・フォーラム Take Actions for Social Change(TASC)(以下、TASC) は、国際交流基金がASEAN大学ネットワークや京都大学東南アジア地域研究研究所と連携して2023年から実施している国際交流プログラムです。
2025年度は日本とASEANの9か国から、合計28名の学生が参加しました。社会課題に対してともに学び、対話し、行動する4か月間のプロセスを通じて、課題解決の意識と持続的なネットワークを育みました。
2025年のテーマは「プラスチックごみ」。オンライン研修やフィリピンでのフィールドトリップ、日本での研修を含むプロセスを通じ、学生たちは現場に触れ、議論を重ねました。知識の習得にとどまらず、仲間との出会いを通して新たな洞察も得ることができました。
最終発表会では、学生たちの堂々とした姿と、仲間同士の信頼に満ちたやりとりが印象的でした。真剣さとあたたかさが共存する空気感に、現場も自然と笑顔に包まれていました。
「知る」から「行動する」へ
プラスチックごみをテーマに進んだTASCの4か月
2025年度のTASCでは、日ASEANの学生たちが「プラスチックごみ」という共通課題に4か月かけて取り組みました。
- 8月:オリエンテーション・オンラインセミナー
講義やグループワークを通じて交流を深め、協働の基盤となる関係性と理解を築きました。 - 8月~9月:フィールドトリップ(フィリピン)
現地の団体や施設を訪問し、社会課題の解決に取り組む人々との対話を通じて、プラスチックごみ問題への理解と行動意識を深めました。
- 11月:オンラインセミナー
各チームがアクションプランの草案を発表し、アドバイザーやメンターからのフィードバックを受けて内容を深める中間共有の機会となりました。 - 11月~12月:訪日研修・最終発表会
各地の視察や関係者との対話を通じて循環型の取り組みへの理解を深め、4か月の学びをアクションプランとしてまとめ、発表しました。
| グループ | アクションプランの概要 |
|---|---|
| チームA: Terra Rangers | 教材・キャンプ・動画コンテストを組み合わせた、多段階型の環境教育プログラムを提案 |
| チームB: BlueWave | 観光地のプラスチックごみを回収し、土産物にアップサイクルして販売する循環型ビジネスを企画 |
| チームC: Manibu Warashi | 子どもたちが遊びながら環境を学べるボードゲームを開発し、行動変容につなげることを目指す活動 |
| チームD: Green Hashiras | 若者のプロジェクトと資金支援をつなぎ、ユースのエンパワーメントを通じてプラスチックごみ問題への理解を広げる仕組みを提案 |
| チームE: Blue Horizon | 若者主導の国際組織として、SNSや映像表現も活かしながら、プラスチックごみ対策に向けた啓発と国際連携を進める構想を発表 |
各チームとも力を合わせて、教育・観光・体験型の遊び・ユースネットワーク・国際発信など、多様なアプローチからプラスチックごみ問題の解決策を探りました。
参加者5名が語る、変化のストーリー
同じ課題に向き合った4か月の過程で何を感じ、どのような変化が生まれたのか。それぞれの目線から語られるストーリーを紹介します。
── それぞれの場所から見えた「行動のかたち」
Yu(ユウ): 橋本 友さん(日本/立教大学・異文化コミュニケーション専攻)|環境と向き合う視点が、アジアへと広がっていく
Yuさんは、ゼミの先生の紹介をきっかけにTASCに応募しました。環境保全委員会での活動経験から、「ASEANの学生がどのようなアクションを起こしているのか知りたい」と感じたといいます。
はじめは英語やプレゼン力への不安を抱えていたものの、仲間たちが自信を持って将来のビジョンを語る姿に刺激を受けました。「恥ずかしいと思っている自分のほうが恥ずかしい」と気づき、堂々と自分の考えやキャリアを語るようになったといいます。
これまでインドやバングラデシュの大気汚染やファストファッション廃棄について学んできたというYuさんは、日本やASEANの取り組みをモデルに「自分にできること」を考えるようになりました。
卒業論文や研究で今回のネットワークを活用し、将来はアジアでの国際協力を通じて、環境問題に取り組んでいきたいと語ります。
Najo(ナジョ): Fauzan Abdullah Azzamさん(インドネシア/インドネシア大学・心理学専攻)|コミュニティの力を信じ直したフィールドでの出会い
Najoさんは、母国インドネシアで社会・環境課題に取り組んできました。「インドネシア流」だけでは限界があると感じ、他国や日本の取り組みから学びたいと考えてTASCに参加したといいます。
フィリピンのバセコ地区(貧困層コミュニティ)では、厳しい生活環境の中でも、アップサイクルを通じて地域を良くしようとする人々に感銘を受けました。日本では廃校を活用した京都里山SDGsラボ「ことす」で、住民がともに学びの場をつくる姿に、コミュニティの力を実感しました。人間としてつながる思いやりの美しさにも気づいたと話します。
プラスチックごみを負の存在としてではなく、資源として捉える視点を得たことも大きな学びの一つだったといいます。今後、自国でのアクションや将来の活動に活かし、仲間とのネットワークを通じて学び合いを続けたいと考えています。
Lucas(ルーカス): Nguyen Tien Thanhさん(ベトナム/ベトナム国家大学ホーチミン市校・医学専攻)|医療の視点から環境と地域をつなぐ
Lucasさんは、観光地を多く抱える地域で育ち、日常的に環境問題を目にしてきました。高度な技術に頼らず、地域に根ざした課題解決の方法を学びたいと考え、TASCへの参加を決めたといいます。
印象に残っているのは、仲間である日本人チームメイトの存在。心身を気づかいながら、文化や知識を丁寧に共有してくれたことに感謝していると語ります。また、日本やフィリピンでの視察を通じて、観光とプラスチックごみの関係をより立体的に理解し、行動変容の大切さにも気づきました。
プログラム全体を通して、発展途上にある国の出身である自分でも、日本の学生と対等に知識を共有し合えるという実感が得られたことも大きな学びでした。今後は医療の道を進みながら、地域と連携し、健康と環境の両面から社会に貢献していきたいと考えています。
Eaindray(アンドレイ): Eaindray Phoo Myatさん(ミャンマー/ヤンゴン大学・法学専攻)|制度を見る目を育てた、日本とASEANの現場
日本への関心に加え、法学を学ぶ学生として環境政策にも関心があったEaindrayさんは、TASCを通じて学びを深めたいと考え、参加を決意しました。
企業や自治体の施設見学では、プラスチックごみの分別や資源化が制度として支えられている現実を目の当たりにし、制度的アプローチの重要性を再認識しました。DINS関西株式会社のリサイクル施設で目の当たりにした高度な分別システムや、フィリピンで訪れたSM GUUN Environmental Companyの取り組みも印象深かったと語ります。
仲間との対話を通じて、自国とは異なる多様な方法があることを学び、法の観点から自分にできることを考えるようになったといいます。「もし母国でリーダーになれたら、人びとの暮らしに関わる幅広いルールを変えていきたい」という想いを胸に、将来は自国の社会制度や政策の改善に取り組みたいと話しています。
Ram(ラム): Ram Paulo Macamさん(フィリピン/ダ・ラ・サール大学 ・コミュニケーションアート専攻)|伝える力もアクション──SNSと映像で広げる環境への学び
Ramさんは、大学の案内でTASCを知り、「フィリピンが舞台」「プラスチックごみがテーマ」である点に強く惹かれて参加を決意しました。幼い頃から海辺のごみ問題を目にし、姉と二人でビーチクリーンを続けてきた経験が背景にあります。
プログラムを通して仲間と語り合い、ムスリムのルームメイトとの対話から宗教や文化への理解も深まりました。フィリピンのバセコ地区(貧困層コミュニティ)では、プラスチックをアップサイクルする草の根の団体を見学。企業による高度な分別と合わせて多くの人に「伝えるべき現場」があると強く感じたといいます。
「環境の専門家ではない自分にもできることがある」と気づき、現在はすでにSNSや映像を通じて現場の声を届ける活動を始めています。多文化をつなぐ物語の力で、身近な人にも学びを広げていきたいと語っています。
共通していたのは「小さな一歩」
5つのストーリーから見えた共通点と多様性
共通していたのは、「小さな一歩から始める」という姿勢でした。
異なる国の制度や価値観を知ることで、自国の制度や文化を見直す視点が生まれ、それぞれの強みや課題に目を向ける契機となりました。そして何より、「一人ではなく仲間とともに取り組む」ことの意味を深く実感していた点も印象的です。
一方で、5つのグループのアプローチは実に多様でした。
法や政策の仕組みを変えたい人、医療や教育の立場から行動する人、メディアを通じて意識を広げようとする人など、専門性によって見えてくる景色が異なります。 さらに、海沿いの国、内陸部、観光地など、それぞれの地理的・社会的背景も課題の捉え方に影響していました。
このフォーラムでは「正解を一つにする」のではなく、多様な視点が交わること自体を価値としてきました。違いを超えて学び合う対話が、新しい発想と行動の源泉となっています。
仲間と考え、動くという経験が未来につながる
プラスチックごみという身近な課題を通じて、学生たちは社会の仕組みだけでなく、自身の生き方や将来の方向性を見つめ直しました。その過程で育まれたのは、「一人ではなく仲間とともに考え、動く」という姿勢です。違いを超えて学び合うその経験が、未来に向けた確かな一歩となっていきます。
インタビュー・文:松川 清美
編集:国際交流基金





























