オーストリア(2020年度)
日本語教育 国・地域別情報
2018年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
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14 | 28 | 800 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 41 | 5.1% |
高等教育 | 632 | 79.0% |
学校教育以外 | 127 | 15.9% |
合計 | 800 | 100% |
(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
首都ウィーンにおける日本研究の歴史は長く、1939年にはウィーン大学に日本学研究所が設立された(同研究所は1945年に活動を停止したが、日本語の講義は1947年に再開。1965年に新たに日本学研究所が設立。その後2000年1月に中国学研究所と統合し、現在は東アジア研究所となっている)。1973年にはウィーン大学翻訳・通訳研究所に日本語学科が設置された。このほか、ウィーン経済大学、グラーツ大学、ザルツブルク大学、インスブルック大学、オーバーエスタライヒ専門大学、ヨアネウム専門大学、ザルツブルク専門大学で選択科目として日本語が導入されている。
大学では以前はマギスター(日本の大学院修士課程に相当する学位)取得のためのカリキュラムが提供されていたが、大学法改定を受け、2003年にウィーン大学東アジア研究所日本学科に学士制度が導入された。
中等教育機関では、1982年にウィーン22区の商業高等アカデミーで課外選択科目として、また1991年より正規の第二外国語として日本語が導入された。同校では2003年6月に日本語講座は廃止されたが、2020年10月現在、ウィーン市で2校、グラーツ市及びブルック市で各1校が課外選択科目として日本語を導入している。また、複数の市民大学、職業訓練学校等で日本語が教えられている。
背景
1873年に開催されたウィーン万国博覧会で日本の美術品・工芸品が高く評価され、欧州に流入した浮世絵がユーゲントシュティールに大きな影響を与え、また明治期以降多くの日本人留学生がウィーンで学んでいるように、芸術・学術面における日墺交流の歴史は長い。
現在でも、日本はアジアにおける経済的なパートナーとして重視されている他、オーストリアを訪れる日本人観光客も多く、日本のプレゼンスは高い。一方、学生など若年者層が日本語学習を始める動機としては、マンガ、アニメなどのポップ・カルチャーが多い。
特徴
ウィーン大学東アジア研究所日本学科はヨーロッパでも有数の伝統ある日本研究機関で、充実した講師陣とカリキュラムを誇っている。
初等・中等教育においては、東欧を含む欧州の他言語の教育に重きを置いており、日本語教育を導入している中等教育学校は数校に留まっている。
最新動向
ウィーン大学東アジア学科日本学コースでは2020年10月現在869名が登録しており、そのうち新規入学者は271名。
教育段階別の状況
初等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
中等教育
ウィーン市で2校、グラーツ市及びブルック市で各1校が課外選択科目として日本語を導入している(2020年10月現在)。なお、グラーツ市の講座は受講を希望する市内全域の高校生を1校に集めて開講されている。
高等教育
ウィーン大学東アジア研究所日本学科及び翻訳・通訳研究所日本語学科で日本研究及び翻訳・通訳(日本語)の学位が取得できる。ウィーン大学東アジア研究所日本学科では2003年より学士制度が導入され、日本語・日本学専攻学生は3年間で学士号を取得し、日本学で修士号を取りたい学生はその後修士課程に進学する。
東アジア研究所日本学科(3年間の学士課程)では最初の2年間に日本語を集中して学び、常用漢字習得と日本語能力中級に到達することが求められる。1年目はオーストリア人教師担当の日本語理論(文法説明、翻訳、漢字習得)と日本人教師担当の実用日本語(文法練習、会話など)をそれぞれ週6時間、2年目はそれぞれ週3時間を必修科目としている。3年目は日本語理論、実用日本語、新聞購読をそれぞれ半年間、週2時間を必修科目としている。
翻訳通訳研究所日本学科においては,日本語を専門とした場合にのみ日本語を修士課程で学習可能である。
このほか、ウィーン経済大学、ザルツブルク大学、インスブルック大学、オーバーエスタライヒ専門大学、ヨアネウム専門大学、ザルツブルク専門大学で選択科目として日本語が導入されている(2020年10月現在)。
学校教育以外
ウィーン大学言語センター、グラーツ大学言語センター、インスブルック職業訓練学校、いくつかの市民大学及び商工会議所等で日本語講座が開設されている。一般の語学学校でも日本語講座が設けられており、幅広い層にわたって日本に関心を持つ人々が日本語を学んでいる。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
4-4-4制(普通教育中等学校高学年に進学する場合)。
4-4-1~4制(職業中級学校に進学する場合)。
4-4-5制(職業上級学校に進学する場合)。
4年間の基礎学校(6~10歳)修了後、一般教育中学校(AHS)(全生徒数の約6割が所属)または新中等学校(Neue Mittelschule)(約4割が所属)があり、義務教育は6歳から15歳までの9年間。その後の一般教育高等学校ならびに職業教育高等学校の修了時には卒業試験があり、それが大学入学資格となる。
教育行政
大学を含めて教育全般については、連邦教育・学術・研究省が所管している。
言語事情
公用語はドイツ語。
義務教育に係る教育機関では、1992年より必要に応じてドイツ語を母語としない児童のためのドイツ語による補講、母語による授業の導入が行われている(2018年~2019年の調査によると26%以上の生徒が日常生活でドイツ語以外の言語を使用)。またオーストリア国内に住む少数民族(主に隣国人)のためにケルンテン州(スロベニアとの国境)ではスロベニア語で、ブルゲンラント州ではクロアチア語とハンガリー語でも授業が行われている。
外国語教育
2001年欧州評議会による欧州言語年提唱に応えて外国語教育を重視した教育政策をとっている。EUの東方拡大を考慮して、東欧の諸言語に特別な注意を払っている点が特徴的である。
初等教育から外国語を必須科目としており、2003年9月からは1年次からの外国語教育が義務化された(英語・フランス語・イタリア語・クロアチア語・スロベニア語・ハンガリー語・チェコ語・スロバキア語のいずれか。ほとんどの学校が英語を選択)。
中等教育では、一般教育中学校では第二外国語が必須科目となっている。学校によって言語の選択肢が異なるが、英語・フランス語・イタリア語・スペイン語・ロシア語・チェコ語・スロベニア語・ハンガリー語・クロアチア語・ボスニア語・セルビア語などがある。中等教育で履修率が高い外国語は英語(97.8%)、次いでフランス語(7.6%)、イタリア語(4.9%)(2017年/2018年度調べ)。
オーストリアでは、近年は現代日本文化(特にアニメ・マンガ)への関心の高まりなどから、日本語は、青少年層をはじめ幅広い層で人気がある。
外国語の中での日本語の人気
詳細不明
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育の実施されていない。
中等教育
- 自主作成教材と『漢字たまご初級 』
高等教育
- ウィーン大学東アジア研究所日本学科
1年生『文化初級日本語 改訂版 Ⅰ』凡人社
2年生『上級へのとびら』くろしお出版、『文化初級日本語 改訂版 Ⅱ』凡人社、『これで身につく文法力』くろしお出版
3年生『上級へのとびら』くろしお出版、『これで身につく文法力』くろしお出版 - ザルツブルク大学
『Japanisch bitte! Neu A1-A2』Watanabe-Rögerer Yoshiko他
学校教育以外
- ウィーン大学言語センター
『Marugoto. Japanese language and culture. Starter A1 + Starter A1 Rikai』 Sanshusha Publishing - リンツ市民大学
『Japanisch bitte! Neu』Klett Verlag - ザルツブルク市民大学
『Minna no nihongo. Shokyu 2, Honsatsu』 と『Marugoto. Japanese language and culture. Starter A1 + Starter A1 Rikai』 三修社 - グラーツ大学言語センター
自主作成教材と『Japanisch Intensivkurs Grundstufe 1』
IT・視聴覚機材
ウィーン大学では、eラーニングプログラムに大学の学習プラットフォーム"Moodle"があり、右は日本学科の日本語の授業でも使われている。
なお日本学科では別途自主制作の教材等を集めた専用ウェブサイトを設けており、学生の自習や宿題に利用されている。なお新型コロナウイルスを受け、授業の一部はオンラインで行われている。
教師
資格要件
初等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
中等教育
語学教員資格及び経験を有する者。
高等教育
修士号及び高等教育機関での2年程度の教授経験を有する者。ドイツ語能力必須。
学校教育以外
語学教員資格及び経験を有する者。
日本語教師養成機関(プログラム)
詳細不明
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
ウィーン大学東アジア学科日本学コースでは、日本語教育に携わる7名の教員のうち4名が日本人教師。日本人教師のうち専任は3名で1名は非常勤講師として採用されている。同翻訳・通訳研究所では2名の教員のうち1名が日本人。
中等教育機関で日本語教育に関わっている教員は日本人が多い。市民大学でも日本人教師が日本語講座を担当する例が多い。
現職教師研修プログラム(一覧)
現職の日本語教師対象の研修はない。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
1995年に「日本語教師の会」が発足。2001年に「オーストリア日本語教師会」に改称。教師26名が定期的(年2回)に勉強会を開催して教授法等について情報交換を行っている。
最新動向
特になし。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
国際協力機構(JICA)からの派遣
国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。
日本語教育略史
1939年 | ウィーン大学にて日本学研究所設立 |
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1945年 | ウィーン大学日本学研究所、活動停止 |
1947年 | ウィーン大学日本学研究所、日本語の講義再開 |
1965年 | ウィーン大学にて新たに日本学研究所設立 |
1972年 | ウィーン経済大学にて選択科目として日本語が導入 |
1973年 | ウィーン大学翻訳・通訳研究所に日本語学科設立 |
1979年 | ウィーン工科大学にて選択科目として日本語が導入 |
1982年 | ウィーン22区の商業高等アカデミーにて課外選択科目として日本語を採用 |
1988年 | ザルツブルク大学にて選択科目として日本語を導入 |
1991年 | 商業高等アカデミーにて第二外国語として日本語を導入 グラーツ大学にて選択科目として日本語を導入 |
1995年 | 「日本語教師の会」発足 |
2000年 | ウィーン大学にて日本学研究所が中国学研究所と統合される |
2001年 | 「日本語教師の会」が「オーストリア日本語教師会」に改称 |
2002年 | インスブルック大学にて選択科目として日本語を導入 |
2003年 | ウィーン大学東アジア研究所日本学科に学士制度が導入 |
2012年 | 日本語能力試験の導入 |