キルギス(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
19 47 1,606
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 503 31.3%
中等教育 410 25.5%
高等教育 388 24.2%
学校教育以外 305 19.0%
合計 1,606 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1991年のキルギス共和国独立後に国内での日本語教育が開始した。1991年にキルギス国立総合大学(旧日本語名称:キルギス民族大学)に日本学科が設けられ、また同年、初等・中等教育機関の第一寄宿学校でも日本語教育が始まった。1995年にはキルギス日本センターが設立され、一般向け日本語講座が開始した。同センターは2003年にJICAに移管され、キルギス共和国日本人材開発センター(以下、「キルギス日本センター」)となり、日本語講座が引き継がれた。2013年8月からは国際交流基金との共同事業となり、「JF講座」としてJF日本語教育スタンダードに準拠した日本語コースがスタートした。現在、首都ビシケクにあるキルギス国立総合大学、ビシケク国立大学(旧日本語名称:ビシケク人文大学)、アラバエフ国立大学附属日本学院といった高等教育機関が日本語教育の主要拠点となっているが、キルギス日本センターをはじめとする一般の学生を受け入れる機関も一定数の学習者数を集めている。また、日本語を必須科目とする私立の初等・中等教育機関を中心に低年齢層でも日本語学習が盛んに行われている。日本語能力試験は2007年より始まり、2015年からは年2回の実施とされている。2019年は夏と冬を合わせると387名の申し込みがあり、過去最多となった。

背景

 キルギス共和国は日本のODA対象国であり、さまざまな援助を受けている。両国間の経済交流の機会は非常に少ないが、戦後日本の経済発展、現在の日本の科学技術、工業技術に高い関心が寄せられている。また、キルギス人は民族的に日本人への親近感が強く、遠い親戚といったような漠然とした意識をもつ者もいる。政治的に見ると、独立後キルギス政府は外国語教育に力を入れ、特に英語教育が盛んに行われるようになったが、その流れの中で日本語教育もさまざまな機関で行われるようになった。

特徴

 長期にわたるカリキュラムに沿った日本語教育はビシケクの高等教育機関及びキルギス日本センターを中心に行われているが、近年では学生を日本へ送ることを目的とする機関も増え、より短期間で実践的なカリキュラムを組む日本語コースも増えている。
 学習動機は他国の例にもれず、アニメやマンガ、ゲームなど日本のポップカルチャーが挙げられるが、その背景には独立後の日本からの支援によって根付いた日本の科学技術やビジネススタイル、伝統文化に対する関心があり、特に低年齢層では両親のそういった思いが日本語学習に影響を与えている。キルギスは日本語教育の歴史が浅いにもかかわらず、日本語運用能力に長けた者を少なからず輩出しており、今後、日本語を使った多様な分野で優秀な人材が輩出されるものと期待される。一方、日本留学を果たした人材が日本の知見に学んだ後本国で活躍するには、未だ企業も国立機関も受け入れ条件が整備できていないといえる。この状況の改善が今後の課題である。

最新動向

 2017年以降、日本語を必須科目とした11年制の私立のシュコーラ(初等・中等一貫教育機関)が複数開校するなど、中等教育機関を中心に学習者が急増したが、2019年に入ってからは日本の改正出入国管理法を受けて、日本へ行くことを目的とした日本語学校や日本語コースが多く開講している。また、高等教育機関でも在学中に日本へ研修に行ける機関が人気を集めるなど、ここ数年でキルギスにおける日本語教育は大きく様変わりしている。

教育段階別の状況

初等教育

 公立の初等教育機関では日本語教育は必須科目として実施されていない。JICAボランティアが派遣先のシュコーラ(初等・中等一貫教育機関)や子どもセンターで選択科目、課外授業として、日本語教育を行っているが、キルギスの初等教育期間は4年間と短く、その間に日本語教育に触れる機会のある学習者は僅かである。
 しかし、全学年で日本語を必須科目とする私立シュコーラの登場で、初等教育でも日本語教育が行われ始めるなど、幼い時期から日本語に触れる学習者は確実に増加している。

中等教育

 キルギス国内に複数の私立シュコーラを開いているBilimkana(ビリムカナ)では日本語を必須科目としており、Bilimkanaに在籍する学生を中心にキルギスの日本語学習者の半数近くを中等教育機関の学習者が占めている。その他、公立の中等教育機関でも日本語が学ばれており、一般の学生を受け入れているキルギス日本センターでも中等教育機関の学生から申込みが急増するなど高等教育機関入学前から日本語学習を始める学習者は多い。

高等教育

 中等教育機関に次いで、多くの学習者が日本語を学んでいるのは高等教育機関である。大学名や組織の変更など混乱も見られるが、2017年度、新たに2つの高等教育機関で日本語教育が始まり、現在、10近くの高等教育機関で日本語教育が行われている。新しく加わった機関の学部や専攻は「ホテルサービス」や「通訳」などで、在学中に日本へ研修に行けることもあり、開設からわずか数年の2019年には高等教育機関日本語学習者在籍数でトップとなっている。
 大学卒業後の日本語研究の場としては、ビシケク国立大学の大学院修士課程東洋学・国際関係学研究科があり、修了すると東洋学修士、国際関係論修士の学位が取得できる。

学校教育以外

 ビシケクのキルギス日本センターでは2019年11月現在、一般コースとして15歳以上の学習者向けに入門から中上級までの6クラスを開講しており、学生・社会人を中心に約70名が日本語を学んでいる。また、ビシケクでは日本留学や研修を目指して日本語を学ぶ学校も確実に機関数、学習者を増やしているが、教師不足も深刻な状況で、不安定な状況が続いている。
 地方ではタラス市やナリン市の子どもセンターで日本語教室が開かれており、主に10代の若者がNGOボランティアやJICAボランティアから日本語を学んでいるが、こちらもボランティアの派遣状況によって開講が決まるなど継続できるかは支援次第なっている。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 4-5-2制
 初等・中等一貫教育(シュコーラ/11年制)。
 初等教育が4年間(6または7歳~9または10歳)、前期中等教育が5年間(9または10歳~13または14歳)。その後2年間後期中等教育の高等学校に通うものと3年間の専門学校に進学する者とに分かれる。
 高等教育機関には大学(2012年入学者より四年制へ完全移行)、コレージュ(3年間)がある。

教育行政

 初等、中等、高等教育機関のほとんどが、教育科学文化省の管轄下にある。

言語事情

 独立後、国家言語はキルギス語となったが、2000年4月に新たにロシア語も公用語となった。キルギス系住民の約8割はキルギス語、ロシア系や朝鮮系住民及びドゥンガン人など非キルギス系住民とキルギス系住民の約2割はロシア語を使用しているが、旧ソ連時代のロシア語教育の影響で、公共機関においてはロシア語使用が頻繁である。最近は、高等教育現場でも国家言語であるキルギス語使用を政府が強く求めはじめている。

外国語教育

 多くの国立シュコーラでは1年生から11年生まで外国語教育が行われている。生徒は選択科目として外国語を履修する。一番多く学ばれているのは英語で、トルコ語、ドイツ語、フランス語も多く学ばれている。
 キルギス語が国家言語、ロシア語が公用語であるため、キルギス語を使用する学校ではロシア語が必修、ロシア語を使用する学校ではキルギス語が必修となっている。そのほかでは、多くの学校で第一外国語として英語教育が行われているが、一部の私立学校では、第一外国語のほかに第二、第三外国語としてドイツ語やフランス語が選択されている。
 その他「アメリカ大学」「トルコ大学」や「日本学校」(Bilimkana Japanese School)など学校名に国の名前を持つ教育機関ではその国の言語が必須となっていることが多い。

外国語の中での日本語の人気

 外国語を学習する生徒の中では英語が一番人気で、ドイツ語、フランス語がこれに続いている。キルギス語がチュルク系言語であることから、トルコ語が、また、アラブ語、日本語、中国語、韓国語等の東洋言語の人気も伝統的に高い。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 自主制作教材、歌、ひらがなカード、絵教材など

中等教育

  • 『みんなの日本語初級Ⅰ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、DVD
  • 『すいすい』(JICA
  • 『まるごと』国際交流基金(三修社)

高等教育

  • 『みんなの日本語初級』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
  • J-Bridge』小山悟(凡人社)
  • 『中級へ行こう』平井悦子(スリーエーネットワーク)
  • BASIC KANJI BOOK』加納 千恵子ほか(凡人社)
  • 『まるごと』国際交流基金(三修社)

学校教育以外

  • 『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
  • 『文化初級日本語』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)
  • 『日本語20時間 ロシア語版』宮崎 道子ほか(スリーエーネットワーク)
  • 『まるごと』国際交流基金(三修社)

教師

資格要件

初等教育

 学士号(専門不問)を持っていること。

中等教育

 学士号(専門不問)を持っていること。

高等教育

 キルギス国籍保有者は専門学士号(5年間の大学教育修了で得られる)を持っていることが最低基準となっている。また、ほとんどの講師が日本学に関する専門学士号を取得している。日本人講師については特別な要件がないところがほとんどだが、修士号取得を条件とするところもある。

学校教育以外

 学士号(専門不問)を持っていること。その他に教員免許を必要とする場合がある。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教師養成を行っている機関はない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 現在、正確に把握できている日本人教師は日本センターに国際交流基金派遣の日本語専門家が1名、高等教育機関に日本語JICAボランティアが2名、大学のインターン生として日本語授業に関わる者が1名、教育機関が独自に採用している日本人が1名であるが、他にも初等中等教育機関がボランティアとして常時3~4名の日本人を採用していたり、現地日本人が新たに日本語教師として働き始めたりする例もあるなど変容するキルギスの日本語教育に合わせて雇用状況も複雑になっている。役割としては「日本人がいる」ことが教育機関の最大のアピールポイントに繋がるため、日本人採用に各機関が積極的になる一方、日本人教師自身はその役割を模索している状況である。

教師研修

 ビシケク国立大学では、日本語講座修了生の中から優秀な学生を選んで1年間実習生として日本語講座の授業実習をさせている。
 また、キルギスでは日本語教師会主催で日本語教師研修が行われており、これまで夏季集中セミナーや若手日本語教師を対象とした研修が行われた。その他、キルギス共和国日本語教育セミナーでは毎年、様々なテーマでセミナー・ワークショップが行われており、現職講師の研修の場となっている。
 訪日研修としては、文部科学省教員研修留学生、国際交流基金の日本語教師研修プログラムが利用されている。

現職教師研修プログラム(一覧)

  •  日本語講座の授業実習(ビシケク国立大学)
  •  教員研修留学生(文部科学省)
  •  日本語教師研修プログラム(国際交流基金)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 日本語教育の発展を図ることを目的とするキルギス日本語教師会が存在し、日本語教育に関する情報交換の場、日本語教師相互の親睦・交流の場となっている。会員はビシケクの教師だけでなく、地方都市の教育機関に所属する者や日本在住の者も多い。
 主な活動は隔月の定例総会開催、教師会会報の発行、弁論大会、日本語教育セミナーの開催や日本語能力試験の実施などで、活発に活動を行っている。

最新動向

 2019年5月には第23回中央アジア弁論大会及び日本語教育セミナー、8月には、第3回キルギス日本学・日本語教育国際研究大会がビシケク国立大学において教師会主催で開催された。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2019年10月現在)

日本語専門家

 キルギス日本人材開発センター 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣(2019年10月現在)

  •  キルギス総合大学 1名
  •  ビシケク国立大学 1名

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

評価・試験の種類

 キルギス独自の共通の評価規準や試験などはなく、現在のところ、日本語能力試験が唯一の共通の試験となっている。日本へ行くことを目的とする学習者も多いため、日本語能力試験の受験者は年々増加しているが、試験回数の多いNAT-TESTを実施する機関も出てきた。

日本語教育略史

1991年 キルギス国立総合大学に日本学科開設
第一寄宿学校にて日本語教育開始
1992年 ビシケク人文大学東洋国際関係学部にて日本語正規教育開始
アラバエフ記念キルギス教育大学東洋文化部にて日本語正規教育開始
1995年 キルギス日本センター設立、一般向け日本語講座が開始
1999年 キルギス日本語教師会発足
2001年 オシュ国立大学国際関係学部にて日本語正規教育開始
2002年 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国
2003年 キルギス日本センターがJICAに移管
2004年 ビシケク人文大学において日本語日本文学科開設
2005年 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国
2007年 第1回日本語能力試験実施
2008年 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国
2011年 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国
2013年 第1回キルギス共和国日本語教育セミナー実施
キルギス日本センター日本語講座をJF講座として開始
2014年 第18回中央アジア日本語弁論大会
第18回中央アジア日本語教育セミナー開催国
2015年 日本語能力試験の年2回の実施を開始
2016年 第4回キルギス共和国日本語教育セミナー実施
2017年 第21回中央アジア日本語弁論大会
第21回中央アジア日本語教育セミナー開催国
私立シュコーラ、Bilimkanaにおいて全学年で日本語教育開始
第1回日本学・日本語教育国際研究大会
2019年 第23回中央アジア日本語弁論大会
第23回中央アジア日本語教育セミナー開催国
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