マカオ(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
6 63 1,502
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 0 0.0%
高等教育 658 43.8%
学校教育以外 844 56.2%
合計 1,502 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 日本語教育がいつから始まったかは確定できないが、1941年にマカオで創刊された親日華字紙『西南日報』の発行元である西南日報社に附属日本語学校があったことが確認されている。西南日報社は太平洋戦争開戦前から日本語学校を経営していたが、戦争中には、小さなものを含めて10程度の日本語教育機関があったとのことである。
 しかし、日本の敗戦によってそれらの学校は自然消滅したものと思われる。戦後は1964年ごろから日本人観光客のガイドをしていた人たちが、日本人観光客と接触する土産物屋の店員やホテルの従業員などに個人的に日本語を教授し始めた。その後、1970年代には粤華中学の校友会が高校生や社会人を対象に留学日語先修班を始めている。1976年に創立された港澳中日語文翻訳研究所附属日語班は、1980年ごろには100名ほどの学習者を擁していた。そして、1981年に澳門(マカオ)大学の前身、澳門東亜大学が創立され、文学部で選択科目としての日本語コースが開講された。さらに、1992年には現在のマカオ大学に経営学と日本研究とのジョイント・メジャーコースが設置された。1995年に設立した、観光業などに従事する人材を育成する高等教育機関である旅遊学院(2019年にマカオ旅遊学院に改称)は、開校当初から外国語選択必修科目に日本語を開講している。
 マカオ大学のジョイントコースは、2003年をもって廃止され、社会科学及人文学院の日本研究センターにおいて日本語教育が専攻化される形で、受け継がれた。また、マカオ大学では、校外課程センター(持続進修中心)でも社会人を対象にした日本語コースが開かれている。高等教育機関では2020年現在、マカオ大学(学士課程、持続進修中心の2部門)の他にマカオ旅遊学院(学部生対象選択クラスと持続教育学校の2部門)と、マカオ科技大学の持続教育学院で日本語教育が行われている。その他民間の語学学校、学習塾等で、年少者から成人までの日本語クラスが実施されている。

背景

 戦後の日本語教育再開は、1960年代半ばの日本人観光客の増加が引き金となった。2020年10月現在も、旅行・観光業に従事する人材を育成するマカオ旅遊学院で日本語教育が行われている。しかし、1970年代には旅行・観光業関係者だけでなく、日本の歌やマンガ、アニメ番組やテレビドラマからの影響で日本語を学習する者が多くなっていた。このころマカオで日本製の車や電化製品が急激に増加した。1980年代後半は日本語学習の動機として「日本の経済的発展への関心から」を挙げるマカオ大学の学生が多かった。現在、日本のファッションや、コンピューターゲーム、アニメなどのポップカルチャーなどもマカオの若者に人気がある。また、ここ数年マカオ市内に大衆的な日本料理店が急増し、以前はあまり受け入れられていなかった刺身を食べる習慣も、特に若者の間では一般化してきている。

特徴

 マカオ政府は生涯学習を推進する目的で2012年より「持続進修発展計画」制度を設けた。15歳以上のマカオ住民に対して、3年間に上限6000Pataca(2020年10月現在1Pataca=約13.1円)を支給する制度であり、認定を受けたコースの受講料や試験料に使用することができる。民間日本語学校や生涯学習の受講者にもこの制度の利用者が多い。本制度は現在2020-2023年度の支給が開始されている。

最新動向

 マカオにおける日本語学習者数は微増ながら増加傾向にある。また、日本語能力試験のマカオ会場応募者数を見ると、2009年に462人だったのが2010年に295人と大幅に減少したが、これは香港の状況も同じなのだが、新試験への躊躇、様子見などが要因と考えられる。その後、2011年285人、2012年296人と横ばいが続いたが、その後試験会場の都合により試験は実施されず、2015年第2回の再開時は、225人だった。そして、2016年度579名、2017年度595名、2018年621人、2019年774人と年々増加している(2016年以降の応募者数はいずれも第1回、第2回の合計)。

教育段階別の状況

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 高等教育機関では、マカオ大学、マカオ旅遊学院と、マカオ科学技術大学の持続教育学院で日本語教育が行われている。

学校教育以外

 高等教育機関の校外課程(マカオ大学持続進修中心、マカオ科技大学持続教育学院、マカオ旅遊学院持続教育学校の3校)、公的研修機関であるマカオ生産力技術移転センター、市内の民間日本語学校や学習塾で行なわれている。初等・中等教育で、正規の日本語教育が行われていないためか、多くの中学生や高校生がこれら民間学校や学習塾などで学習している。この他の学習者の職業は多岐にわたるが、総じて10代後半から20代の若者が多い。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 マカオには統一された教育制度はない。
 教育言語も広東語、英語、ポルトガル語と学校によって異なる。広東語で教育を行なう学校では通常6-3-3制(小学校が6年間、中学校が3年間、高校が3年間)である。同様に、英語の学校では小学校は6年間で中等学校が5年間のものも、6年間のものもある。ポルトガル語の教育では3段階の基礎教育(4年、2年、3年)と、3年間の中等教育にわかれている。なお、マカオ大学では、中等教育を5年間しか受けていない学生のために、大学入学前の予科コースが1年設定されている。
 マカオでは15年間(幼児教育3年、小学校6年、中学校3年、高校3年)無償教育を実施している。これにより無償教育を実施する公立学校および私立学校と、無償教育を実施しない私立学校に分かれるが、無償教育を実施しない私立学校に通う学生には補助金が支給されている。

教育行政

 幼稚園から職業訓練、成人教育(生涯教育)まで、教育及青年局の管轄下にあり、高等教育は高等教育輔助弁公室の管轄下にある。

言語事情

 マカオの公用語は中国語とポルトガル語であるが、生活言語は広東語使用者が多い。2016年のマカオ政府による市民調査(https://www.dsec.gov.mo/getAttachment/E20C6BAB-ADA4-4F83-9349-E72605674A42/E_ICEN_PUB_2016_Y.aspx)によると、マカオに住む人の88.4%が中国籍(2011年の同調査比3.8%減)、ポルトガル籍1.4%(同0.5%増)。フィリピンなどアジア諸国からの就労などの移民が増え、中国籍以外の人の割合が11.60%と2桁に達したという。このような背景の中、日常生活での使用言語は広東語が80.1%(同3.8%減)、標準中国語(広東語では普通話という)5.5%(同0.4%増)、タガログ語3.0%(同1.2%増)、英語2.8%(0.5%増)。 広東語話者で流暢に他の言語を使用できる人の割合は、普通話50.4%(同9.4%増)、英語27.5%(同6.4%増)、ポルトガル語2.3%(同0.2%減)となっており、ポルトガル語の比重は減少傾向にある。

外国語教育

 上記の言語事情と関連し、教育媒介語以外の言語教育を重視している。
 ほとんどの教育機関で小学校から教育媒介語以外の言語を必修科目としている。例えば、広東語を媒介語としている小学校では英語が必修科目であり、英語を媒介語としている小学校では中国語が必修科目である。中国語とポルトガル語の両方が必修科目の学校もあり、言語教育は学校によって様々である。

外国語の中での日本語の人気

 英語、ポルトガル語以外では、日本語、韓国語の順に人気があると言われている。観光産業の発展にともない外国語能力は就職の際に有利となる能力のひとつである。そのため、外国語を学習し、資格取得を目指す人は多い。日本語学習者は日本のアニメやゲームなどポップカルチャーへの興味関心から学習を始める人が多い。また、韓国語はK-Popやドラマの影響により人気が高まっている。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 マカオ大学日本研究コースでは『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)を使用している。

学校教育以外

 民間の語学学校では『みんなの日本語』(前出)、『大家的日本語』(スルーエーネットワーク『みんなの日本語』の台湾版、大新書局)を使用している学校が多い。

IT・視聴覚機材

 教室内にコンピューターを設置し、パワーポイントを利用した授業も行なわれている。インターネットを利用して、日本のアニメやドラマ、ゲームを楽しんでいる学習者も多い。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

 マカオ大学では修士号取得者、助教授以上は原則として博士号を持っていること。

学校教育以外

 詳細不明。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教師養成を行なっている機関、プログラムはない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 日本語のネイティブ教師(日本人教師)は媒介語を使用したり、中級レベル以上の授業を担当したりする学校もいくつかみられる。

教師研修

 マカオで実施する教師研修なく、香港日本語教育研究会が香港で実施する教師研修セミナー、シンポジウム等に参加するマカオ在住の日本語教師は少なくない。

現職教師研修プログラム(一覧)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

  • 香港日本語教育研究会(Society of Japanese Language Education Hong Kong):
    香港、マカオ地区における日本語教育のネットワーク。日本語教育関係者の親睦、情報交換を目的として1978年に創立され、現在では、日本語教育関係者のみならず、日本関係諸学の研究者にも門戸を開き、香港、マカオ地区の日本語教育・日本研究の発展に寄与する交流の場として、様々な活動を行っている。具体的には毎月の「月例会」(講師による講演・報告会または参加型の日本語教育ワークショップ)に不定期のセミナー、シンポジウムなどが実施されている。1994年から『国際日本語教育・日本研究シンポジウム』を開催し、2018年に第12回を迎えた。世界各国と地域の研究者と教員のための交流と発表の場となっている。また、1997年に『日本学刊』を創刊し、日本語教育、日本研究の研究者に発表の場を提供している。2004年より「香港中高生日本語スピーチコンテスト」を開催している。2007年より正式にNPO法人化され、2008年には国際交流基金のJFにさくらネットワークに加入した。2009年3月より国際交流基金さくら中核事業として香港日本語教育セミナーを年1回開催している。また、年少者向けの初等、中等日本語教育が徐々に広がっており、2011年に高校及び副学士課程の日本語成績優秀者の奨学金と日本研究関係のプロジェクト賞を設立した。2004年から「日本語教育グローバルネットワーク」の一員となり、海外の日本語教育の専門家や研究者の方々との交流に努めている。 2013年「平成25年度外務大臣表彰」受賞。 2020年10月現在、会員は約412名。
  • 香港・マカオ・広東日本研究大学聯合(The University Alliance for Japanese Studies in Hong Kong, Macau and Guang Dong Province, 港澳粤日本研究大學聨合會):
      3地域における大学の日本研究及び日本語教育の学術的発展と相互交流を目的に、2009年11月に設立された。2020年時点で、会員数は約160名。

最新動向

 2020年10月31日~11月1日に開催予定だった「2020年日本語教育国際研究大会 香港・マカオ(ICJLE2020)」兼「第13回国際日本語教育・日本研究シンポジウム」(主催:香港日本語教育研究会、会場:マカオ大学)は2022年に新型コロナウイルス感染の影響により延期となっている。「国際日本語教育・日本研究シンポジウム」は、香港日本語教育研究会が主催し、隔年開催されているシンポジウム。香港や日本、中国をはじめとするアジアおよび世界の国や地域から参加・発表があり、香港を中心とした国際的日本語教育ネットワーク形成の場となっている。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

国際協力機構(JICA)からの派遣

 国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 (情報なし)

日本語教育略史

1941年 西南日報社に附属日本語学校が存在
1964年ごろ 日本人観光客のガイドをしていた人たちが、日本人観光客と接触する土産物屋の店員やホテルの従業員などに個人的に日本語教育を開始
1970年 粤華中学の校友会が留学日語先修班(高校生や社会人を対象の日本語クラス)を開始
1976年 港澳中日語文翻訳研究所附属日語班を創設
1981年 澳門東亜大学(澳門大学の前身)が創立され、文学部日本語コース(選択科目)開講
1992年 マカオ大学に経営学と日本研究とのジョイント・メジャーコース設置(2003年に廃止され、新設の日本研究センターに受け継がれる)
1995年 旅遊学院(2019年、マカオ旅遊学院に改称)開学、学士課程の外国語必修選択科目に日本語を開講
2003年 マカオ大学にて日本研究(日本語)の単独での専攻化が実現
2009年 香港・マカオ・広東日本研究大学聯合設立
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