モロッコ(2020年度)
日本語教育 国・地域別情報
2018年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
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7 | 15 | 547 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 0 | 0.0% |
高等教育 | 267 | 48.8% |
学校教育以外 | 280 | 51.2% |
合計 | 547 | 100% |
(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
1982年モハメッド五世大学(ラバト)に国際交流基金から日本語教育専門家が派遣され、モロッコの公的機関における日本語教育が開始された。当初、人文学部の学生のみを対象とした選択必修外国語科目の一つとされていたが、その後公開講座へ移行したのを機に、他学部の学生や一般学習者を受け入れるようになった。モハメッド五世大学に加え、2002年に高等水産技術学院(アガディール、2005年に閉鎖)、2003年にハッサン二世モハメディア大学(モハメディア校)にJICAシニア海外ボランティアが派遣され、相次いで日本語講座が開講。さらに2005年秋からは、ハッサン二世モハメディア大学(カサブランカ・ベンムシック校、ただし2012年末に閉鎖)、2006年にはシディ・モハメッド・ベン・アブドゥラ大学(フェズ)、2014年9月にはカディ・アイヤド大学(マラケシュ)、2017年にはムーレイ・イスマイル大学(メクネス)でも新規に日本語講座が開講される。このほかにアガディール、ラバト、フェズの私立語学学校で日本語講座が開講されている。
また、ミデルト青年の家で約8年間、JICA海外協力隊員が青少年活動の一環として日本語を教えていたが、2009年1月隊員派遣終了とともに同講座は終了した。他にも、2009年11月から2013年6月までブッチャラミン青年の家(エルラシディア)でJICA海外協力隊員による日本語講座が開講されていた。このほか、モハメディア、タンジェ、メクネスのモロッコ人が運営する日本文化関連の非営利団体で日本語講座が開講されている。
背景
モロッコ国民は、総じて日本に対し「高度経済、高技術」「勤勉な国民性」などの好印象をもっており、そこから日本語に関心を抱く者が多い。また、空手・柔道・合気道等の武道が盛んであることから、日本語学習に興味をもつ者も少なくない。最近では、日本のアニメやマンガ、ドラマ、ゲームといったポップカルチャーへの興味から日本語に関心を示す若年層が急増し、中にはインターネットの日本語入門サイトで学習を始めた者もいる。
特徴
モロッコでは、大学の公開講座の日本語教育が中心であり、実利的な目的よりは日本や日本文化に対する興味、知的好奇心から日本語学習を始める者が少なくない。学習者は、大学生が多数を占めるが、昼間の講座であるにもかかわらず、一般社会人の受講生も多い。土曜日に一般社会人を対象とした講座を設けている機関もある。日本語学習希望者は非常に多く、講座の説明会や登録日には、定員の何倍もの人が集まるが、教師不足により学習機会を十分に提供できない状況である。また大学以外でも都市部を中心に日本語学習希望者が多いが、担当教師不在のため、ニーズに対応できていない。今後の日本語教育の発展のためには、日本人教師の増員とモロッコ人日本語教師の養成が最大の課題である。
最新動向
2005年8月に高等教育機関への国際交流基金からの派遣が終了し、それ以降はJICA派遣の教師により講座運営がなされている。2020年2月時点のJICA海外ボランティアは大学での日本語公開講座3名であったが、同年3月にはコロナ禍により全派遣隊員に帰国指示が出された。2020年10月現在、JICAボランティア派遣の再開時期は未定である。
また、コロナ禍以前の2020年2月時点での学習者数は、大学の日本語公開講座に約400名(JICAボランティアが教えている学習者数はラバト188名、マラケシュ120名、フェズ40名。ただし、公開講座の学習者は変動が激しく、学期間の最終的な学習者数は2分の1から3分の1に減少する)、
それ以外が約200名である。独学で学習している者の数も増加傾向であるが、人数は把握できていない。
教育段階別の状況
初等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
中等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
高等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
複数段階
- 《大学での公開講座》
- モハメッド五世大学、シディ・モハメッド・ベン・アブドゥラ大学では一般人向け公開講座が開講されている。モハメッド五世大学での公開講座は、JICAボランティアの日本語教師1名と現地人臨時教員が日本語講座を運営している。カディ・アイヤド大学では単位取得型の講座が開講されている。JICA海外ボランティアの日本語教師3名が上記機関の日本語講座を運営している。ムーレイ・イスマイル大学では全学共通の公開講座がモロッコ人教師により運営されている。
- 《モハメッド五世大学(ラバト)》
- JICA日本語教師1名、モロッコ人教師5名。学習者数は全コース合計188名。
- 《シディ・モハメッド・ベン・アブドゥラ大学(フェズ)》
- JICA日本語教師1名。学習者数は全コース合計40名。
- 《カディ・アイヤド大学(マラケシュ)》
- JICA日本語教師1名。モロッコ人教師5名。公開講座及び必修講座開講。学習者数は全コース合計約120名。
- 《ムーレイ・イスマイル大学(メクネス)》
- モロッコ人教師1名。学習者数は全コース合計48名
学校教育以外
アガディール、ラバト、カサブランカ、フェズの私立語学学校で日本語教育が実施されている。対象は子供から成人まで幅広く、日本語教育以外に日本文化紹介にも力を入れている。モハメディア、タンジェ、メクネスでは、モロッコ人が運営する日本文化関連の非営利団体の活動の一環として日本語講座が開講されている。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
6-3-3制。
小学校が6年間(6歳~)、前期中等教育が3年間(12歳~)、後期中等教育3年間(15歳~)、高等教育機関は大学、高等専門学校等。他に各種職業訓練校がある。
教育行政
国民教育・職業訓練省が初等・中等教育を、高等教育・科学研究・幹部養成省が高等教育を管轄している。
言語事情
公用語はアラビア語とベルベル語(ベルベル語は2011年7月の新憲法から公用語となった)。日常会話では主にアラビア語モロッコ方言、地方のベルベル人の間ではベルベル語が用いられる。また、フランス語も広範に使用されている。北部地域では、スペイン語を話す者も多い。
2003年より、一部の公立小学校では1年生からベルベル語の学習が行われている。
外国語教育
公立校では、小学校2年生より、第一外国語としてフランス語を学習。第二外国語の学習は中学校3年生に始まり、英語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語から選択履修。私立校においては、大多数の学校にて、フランス語学習は併設の幼稚部年長クラスから始まり、小学部で各教科の学習がアラビア語に加えてフランス語でも実施されるほか、小学部低学年(1・2・3年)から英語の授業が設けられている。なお、公立校における外国語教育については段階的な改正が計画されており、2018年にはフランス語は小学校1年生から、第二外国語は英語を必須科目として中学校1年生から開始、2025年には英語の学習開始学年を小学校4年生に引き下げることが予定されている。スペイン語、ドイツ語、イタリア語については、第三外国語として高校1年生より選択履修の科目となる。
外国語の中での日本語の人気
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
中等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
高等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
複数段階
主に『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)シリーズを使用。日本で市販されている各種教材や自主制作教材も適宜使用している。辞書、文法説明等は、フランス語版、英語版を用いている。
学校教育以外
『みんなの日本語』(前出)、フランス語版文法説明書など。
IT・視聴覚機材
教師
資格要件
初等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
中等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
高等教育
日本語教育の実施は確認されていない(日本語教育が導入されるには博士号取得のモロッコ人の雇用が必要となり、早期の人材育成が望まれる)。
学校教育以外
学士号、日本語教育養成講座修了者、日本語教育能力試験合格者、日本語教育経験等があると採用に有利になる。
国際交流基金より日本語教育専門家が派遣された初期以降はJICA海外ボランティアの日本語教師に引き継がれている。
JICA海外ボランティア日本語教師不在の際は日本語学習者のうち上級コース者が講座を開講している。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を行っている機関、プログラムは確認されていない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
全体で日本人教師の占める割合は2割ほどである。2018年度の前回調査時には8割であったことから、モロッコ人教師の育成が進んでいる。中・上級コースは日本人教師が受け持つ傾向にある。
教師研修
特になし。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
「JICAモロッコ日本語教師会」(2006年1月発足)
前身は「モロッコ日本語教師連絡会」(2003年~2006年1月)
在モロッコ日本語教師間の相互交流、及びモロッコにおける日本語教育環境向上のための情報交換を目的として設立。日本語弁論大会の企画・運営等の催事開催のほか、コース運営や教材等の情報交換を行っている。2010年より、日本語能力試験(JLPT)の運営補助を実施。
またそのほかに、中東諸国(エジプト、アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、カタール、サウジアラビア、シリア、チュニジア、トルコ、バーレーン、モロッコ、ヨルダン、レバノンほか)の日本語教師のネットワークがある(国際交流基金カイロ日本文化センターが主催)。
最新情報
2018年5月に第19回モロッコ日本語スピーチコンテストを実施した。
2019年3月に第20回モロッコ日本語スピーチコンテストを実施した。
2020年3月にJICAボランティアに帰国指示。同年の日本語能力試験(JLPT)の中止が決定した。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
なし
国際協力機構(JICA)からの派遣(2020年10月現在)
JICA海外協力隊
カディ・アヤド大学人文科学部 1名
その他からの派遣
(情報なし)
評価・試験
2010年12月以来毎年1回12月にラバトで日本語能力試験(JLPT)が実施されている。
日本語教育略史
1982年 | モハメッド五世大学(ラバト)で日本語教育(選択必修外国語科目)開始。その後段階的に公開講座に移行 |
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2002年 | 高等水産技術学院(アガディール)で日本語講座開講 |
2003年 | ハッサン二世モハメディア大学(モハメディア校)で日本語講座開講 ミデルト青年の家で日本講座開講 |
2005年 | ハッサン二世モハメディア大学(カサブランカ・ベンムシック校)で日本語講座開講 |
2006年 | シディ・モハメッド・ベン・アブドゥラ大学で日本語講座開講 |
2009年1月 | ミデルト青年の家の日本語講座終了(JICA海外協力隊員の派遣終了のため) |
2009年11月 | ブッチャラミン青年の家でJICA海外協力隊員によって日本語講座開講 |
2013年6月 | ブッチャラミン青年の家の日本語講座修了(JICA海外協力隊の派遣終了のため) |
2014年 | カディ・アイヤド大学(マラケシュ)で日本語講座開講 |
2017年 | ムーレイ・イスマイル大学(メクネス)で日本語講座開講 |