ルーマニア(2020年度)
日本語教育 国・地域別情報
2018年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
14 | 87 | 1,389 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 25 | 1.8% |
中等教育 | 50 | 3.6% |
高等教育 | 585 | 42.1% |
学校教育以外 | 729 | 52.5% |
合計 | 1,389 | 100% |
(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
1970年代にブカレスト人民大学に市民対象の日本語講座が開設され、1978年より、ブカレスト大学外国語学部に国際交流基金から日本語教育専門家が派遣されるようになった。1989年の「革命」までは、この2校以外での日本語教育はほとんど行われていなかった。
「革命」以降は、ブカレストの私立大学3校(スピルハレット、ヒペリオン、ディミトリエ・カンテミル)、クルージュの国立バベシュ・ボヤイ大学、中等教育機関であるイオン・クレアンガ高校で日本語教育が始まった。また、日ル交流団体(ブラショフ武蔵野センター、トゥルグ・ムレシュ「至道」協会)、児童の課外活動を実施する「子供宮殿」(ヤシ、シビウ、トゥルグ・ジウ)等、学校教育以外での日本語教育も盛んになった。
これらの機関のいくつかには、1997年よりJICA海外協力隊の日本語教師が派遣された。2000年初頭には、JICA海外協力隊による日本語教師会もが発足、2005年11月にはルーマニア人教師が加わりルーマニア日本語教師会が正式に立ち上がり、2007年11月には同教師会は法人化した。同教師会の主な活動は、日本語プレゼンテーション・コンテスト(2017年より日本語弁論大会より移行)及び勉強会の開催・運営、日本語能力試験の実施・運営、近隣諸国での研修会参加等であり、国際交流基金派遣の日本語専門家との協力により日本語教師の研修、レベルアップに努めている。しかし、2007年のルーマニアのEU加盟により、2009年1月にJICA海外協力隊が完全撤退したため、日本人教師は激減し、現在はルーマニア人教師を中心として教師会が運営されている。
2005年度よりボローニャ・プロセスによる学制の変更があり、4年制の学士課程が3年に、修士課程が2年になった。
ブカレスト大学では2006年にルーマニア初の日本研究が可能な修士課程が設置された。また、2010年に博士課程が設置されるとともに、日本研究センターが設立された。現在、学部3年、修士2年の連続性のあるカリキュラムが模索されている。また2013年度から2014年度にかけて学部カリキュラムの大幅な改定を行った。新カリキュラムはヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)・JF日本語教育スタンダードを取り入れている。
クルージュのバベシュ・ボヤイ大学では日本語セクションが主専攻となり、これで日本語を主専攻とする国立大学はブカレスト大学と合わせて2校となった。
JICA海外協力隊が撤退したヤシの子供宮殿では、ボランティアグループが中心となり非営利協会「ひまわり」を設立、日本語学習の場を維持するとともに、ヤシにおける日本文化の普及にも尽力している。その他、クルージュの日本文化芸術センターのような、日本・ルーマニア両国に関わる人々の間で日本関連の民間組織が作られており、日本語や日本文化に触れることができる機関が増えてきている。
2009年2月より、外務省による「日本文化発信プログラムボランティア」が始動し、6名のボランティアが派遣された。JICA海外協力隊撤退後、母語話者教師の不在が大きな問題とされていたが、このプログラムによって再び母語話者教師がルーマニア各地に配置された。しかし、2011年2月、同プログラムが第一期で終了となり、ボランティアは全員帰国した。そのフォローアップとして、外務省の「草の根日本発信プログラム」により2名が、2011年10月より約3か月、ブカレストの高校と地方の大学2か所(兼任)に派遣され、日本語教育を実施した。その後は同様のプログラムはなくなり、母語話者教師の不在により、多くの講座・機関で閉講を余儀なくされている。
ルーマニアの各大学と日本の大学との交流協定(連携大学のインターンシップ制度等)が増加している。また、バベシュ・ボヤイ大学では、2017年に日本研究センターが設立された。
ルーマニアでは、それまで20年にわたり日本語弁論大会が開かれてきたが、2017年より日本語プレゼンテーション・コンテストに移行することになった。
背景
1989年「革命」以降、日本に関する情報や物品が多く流入したことに伴い、国民の間に潜在的にあった日本への関心が大きくなった。また、二国間の文化交流を促進する友好団体の活動、日本・ルーマニア友好都市間(例:ブラショヴ市と武蔵野市)交流等を通じ、草の根レベルでの二国間交流が発展したことも、日本語学習者増加の要因となっている。
特徴
学習者規模は年々大きくなっており、2015年には約2,000名(国際交流基金調査 2015年度日本語教育機関調査)を越えたが、2018年度の同調査では1400名弱と減少に転じている。一方、教師数は41名から87名と増加している。これまでは高等教育で学習を始める者が多かったが、初等・中等教育や学校教育以外での学習者が増え、学習者層が厚くなりつつある。日本のアニメやマンガ、J-POP、ゲーム、コスプレへの興味等が、日本語に関心を持つきっかけとなる例が多い。
最新動向
過去に青年海外協力隊や日本文化発信プログラム(J-CAT)の派遣があったティミショアラ西大学において2020年2月から課外活動としての一般講座が再開された。
新型コロナウイルスの影響により、2020年3月中旬以降多くの教育機関で対面授業が中止となり、機関の一時閉鎖やオンライン授業への対応を余儀なくされた。9月からの初等・中等教育機関の新学期、10月からの高等教育機関の新学期は各市町村の感染者数に応じて完全オンライン授業あるいはハイブリッド型で行われている。
ルーマニア日本語教師会は2020年からこれまで開催していた日本語教育・日本語学シンポジウムを勉強会へと形を変えて教師研修を行っている。2020年3月に予定されていたプレゼンテーションコンテストと12月に実施されていた日本語能力試験は中止となっている。
教育段階別の状況
初等教育
異文化理解及び欧州域外の文化と接する機会の提供を目的に、2017年現在、ブカレスト市内の小学校1校で、課外活動として、日本語・日本文化が教えられている。2017年には同校で、ブカレスト大学との交流活動として、同大学の日本語専攻の学生たちが中心となって小学生たちに日本語・日本文化を教えるというプログラムも実施された。また同じくブカレスト市内のアフタースクール(私営の学童保育のような機関)1校で、日本語の授業が開かれている。特に初等教育レベルの子どもたちの日本語・日本への関心が高まっており、今後もさらなる広がりが予想される。上述の小学校と私立の学童で教えている教師が2019年度国際交流基金の海外日本語教師研修に参加した。
中等教育
首都ブカレストにあるイオン・クレアンガ高校では日本語教育に力を注いでおり、日本語インテンシブクラスを設置の上、週30時間以上の日本語授業を実施している。同校の教員2名は、2016年度国際交流基金の海外日本語教師研修に参加した。
ブカレストとトゥルゴヴィシュテの中学校ではそれぞれ課外活動として日本語が教えられているが、コンスタンツァにあるMircea高校で開講されていた選択コースは履修者の減少のため2019年度は閉講となっている。
高等教育
ルーマニアの大学では、日本語はダブルメージャーの一つとして専攻できる。国立大学では、ブカレスト大学(日本語は主専攻のみ)、バベシュ・ボヤイ大学(主専攻、副専攻のどちらも可)の2校で、私立大学ではディミトリ・カンテミル大学、ヒペリオン大学の2校が日本語専攻を持つ。それ以外に、日本語が選択科目として単位が取得できる大学が2校(経済大学、ルーマニア・アメリカ大学)あるほか、ルーマニア・アメリカ大学では大学所属の学生だけでなく、一般講座も実施している。
文部科学省奨学金のほか、大学間の交換留学制度(ブカレスト大学と大阪大学、お茶の水女子大学など十数校、ヒペリオン大学と弘前大学、ディミトリ・カンテミル大学と大阪国際大学など、バベシュ・ボヤイ大学と神戸大学)等がある。
学校教育以外
社会人や子どもを対象にした市民講座及び課外活動が国内各地に存在している。ブラショヴには、日本語や日本文化を学べる「武蔵野センター」を姉妹都市である東京都武蔵野市と共同運営しており、武蔵野市から派遣された日本人教師が常駐し活発に活動が行われている。また、ヤシの「ひまわり」や、コンスタンツァの「さくらんぼ協会」でもボランティア中心の日本語講座が開かれている。
ブカレスト市内には「さくら日本語学校」「International House」「日本語センターあきの」「ブカレスト日本語学校」、「Tomodachi」、等がある。
また、教育機関に属さず家庭教師などの個人教授を受けて日本語を学ぶ学習者や、インターネットなどを利用した独習者の数も増えてきている。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
8-2-3制。
現在義務教育は、小中学校8年間と高等学校最初の2年間の10年制。
大学はボローニャ・プロセスにより学部4年制が2005年度より3年、修士課程が2年となった。
教育行政
初等、中等、高等教育機関は教育・研究・青年省の管轄下にある。
言語事情
公用語はルーマニア語。
トランシルバニア地方のハンガリー人コミュニティでは、ハンガリー語が話されている。
外国語教育
第一外国語開始時期は小学校1年生。
第一、第二外国語として教えられる言語は主に英語、フランス語であるが、その他ドイツ語、イタリア語、スペイン語、日本語を教える機関もある。また、初等・中等教育で少数言語(ハンガリー語、ドイツ語、ウクライナ語、セルビア語、チェコ語、クロアチア語、トルコ語等)による教育を行う機関もある。
外国語の中での日本語の人気
英語や欧州言語とは違い、日本語は実用的な言語というよりは、ポップカルチャー(特にアニメやマンガ)や伝統文化を学ぶ「異文化理解」の一部として捉えられている。
大学入試での日本語の扱い
大学の入学資格検定に必要なバカロレア(高校卒業試験)では、1999年度から日本語を選択することができるようになった。
学習環境
教材
初等教育
初等教育機関では、絵カードや日本の幼児向け教材などを使用しているようであるが、現在初等教育機関の学習者にふさわしい教材を模索中である。
中等教育
中等教育機関では、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)や『げんき』坂野永理ほか(The Japan Times)などが使われている。イオン・クレアンガ高校では「まるごと」の導入を検討している。
高等教育
日本で出版されたものを教科書にしている場合が多い。よく使われているものとしては『みんなの日本語』(前出)、『げんき』(前出)、『BASIC KANJI BOOK』加納千恵子ほか(凡人社)、『日本語初歩』国際交流基金日本語国際センター(凡人社)、「上級へのとびら」(くろしお出版)等がある。
教材開発については、これまで作成した自作教材をまとめてテキスト化した『Nihongo o benkyō shiyō! Manual de limba japoneză pentru anul I』が2010年秋にブカレスト大学から出版された。
また2016年には、ブカレスト大学から、派遣専門家と指導助手の協力も得て、ルクサンドラ・ライアヌ・黒田朋斎共著『意味と機能からわかる日本語文型解説 Ⅰ』、『同 Ⅱ』、ルクサンドラ・ライアヌ・千々岩宏晃共著『初中級場面別語彙集かけはし』、『中級場面別語彙集きざはし』、ルクサンドラ・ライアヌ著『日本語上級文型解説』、が出版されている。
学校教育以外
『にほんごかんたん』坂起世ほか(研究社)、『日本語初歩』(前出)、『みんなの日本語』(前出)、『新日本語の基礎』海外技術者研修協会(スリーエーネットワーク)等。その他、ルーマニアで作成された教材としてアンジェラ・ホンドル著『日本語入門』、『日本語会話』、ラルカ・ニコラエ著『常用漢字』がある。
2013年と2014年に出版された『まるごと 日本のことばと文化』(前出)についても、日本語専門家によるCEFR・JF日本語教育スタンダード研修や国内各都市でのワークショップ開催等により、現地教師の理解も深まってきているので、今後使用する学習者・機関が増えていくことが期待される。
教師
資格要件
初等教育
日本語教師としての資格要件は特に定められておらず、日本語学習経験のある現地教師が教えている場合がほとんどである。
中等教育
日本語教師としての資格要件は特に定められていないが、実際には日本語専攻の学士号以上の取得者。ただし、初等教育でも中等教育でも専任教員となるためには、国家試験に合格する必要がある。
高等教育
日本語教育関連の博士号取得者(または在籍者)が最低条件。
学校教育以外
日本語教師としての資格要件は特に定められていないが、実際には言語学(または日本語専攻)の学士号以上の取得者。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を行っている機関、プログラムはない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
国立の教育機関では外国人教師(EU圏内の教員互換制度を除く)の専任としての雇用は非常に難しいが、私立の教育機関では日本人教師を雇用する場合もある。また、国際交流基金の給与助成を受けている機関もある。いずれにしても、労働ビザ取得やその他の手続きが煩雑で時間がかかるため、それが日本人教師採用への高いハードルとなっている。
教師研修
- ルーマニア日本語教師会主催 日本語学・日本語教育シンポジウム(2019年まで)2020年からは勉強会を開催
- ブカレスト大学主催(国際交流基金助成) 日本語教育シンポジウム
現職教師研修プログラム(一覧)
(国内)
上記2つのシンポジウム
(海外)
- 国際交流基金ブダペスト日本文化センター主催の中東欧日本語教育研修会への招聘参加
- 国際交流基金主催の海外日本語教師研修など
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
2005年11月、正式にルーマニア日本語教師会が発足し、2020年現在約25名が会員となっている。教師会の活動としては勉強会の開催(2019年まではシンポジウムの開催)、日本語プレゼンテーション・コンテスト、メーリングリストによるオンラインセミナー情報の共有を行っている。かつて日本語サマースクールも行われていたが、現在では各機関が独自に行うようになっているため、教師会としては開催していない。2010年から日本語能力試験の実施機関となっている。
最新動向
なし
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
日本語専門家
ブカレスト大学 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
(情報なし)
日本語教育略史
1970年代 | ブカレスト人民大学にて市民対象の日本語講座開設 |
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1978年 | ブカレスト大学外国語学部に国際交流基金より日本語教育専門家派遣開始 |
1997年 | JICA海外協力隊の日本語教師派遣開始 イオン・クレアンガ高校にて日本語教育開始 |
1998年 | 私立スピルハレット大学(日本語は閉講)、国立バベシュ・ボヤイ大学にて日本語教育開始 |
1999年 | ヒペリオン大学にて日本語教育開始 バカロレアで日本語が選択できるようになる |
2000年 | 日本語教師会発足、ディミトリエ・カンテミル大学にて日本語教育開始 |
2004年 | 第1回日本語能力試験がブカレストにて実施 |
2005年 | ルーマニア日本語教師会発足 |
2007年 | ルーマニア日本語教師会法人化 |
2008年 | バベシュ・ボヤイ大学の日本語セクションが主専攻化 アレキサンドル・イオンクーザ大学で選択科目としての日本語クラス開講(2017年現在は、開講されていない) |
2009年2月 | 外務省による「日本文化発信プログラムボランティア」が始動。6名のボランティアが派遣される |
2011年 | 「日本文化発信プログラムボランティア」終了 |
2018年9月 | 国際交流基金の指導助手派遣終了 |