シンガポール(2019年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
19 221 12,300
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 394 3.2%
中等教育 1,457 11.8%
高等教育 4,056 33.0%
学校教育以外 6,393 52.0%
合計 12,300 100%

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 日本語教育略史参照。

背景

 シンガポールは、1965年にマレーシアより独立以来、外国企業に対し精力的に誘致を行ってきた。
 1966年に戦後賠償協定が結ばれると、日本からの技術協力と同時に日本語教育に対する協力も行われるようになる。1970年代になると、日本企業は次々と東南アジア諸国へ製造拠点を求め進出し、1980年代シンガポール政府の「日本に学べ」運動に伴い、日本企業の進出が急増する。
 1980年代後半より第一次日本語学習ブームを迎え、日本語学習熱は高まっていった。日本の景気低迷の影響を受けてか、1994年以降、大手民間日本語教育機関での日本語学習者はやや減少の傾向を見せるが、1999年以降、第二次日本語ブームを迎え、日本語学習者数は再び上昇する。第一次日本語ブームが日本の経済力の影響によるものであったのに対し、第二次日本語ブームは日本のテレビドラマ、アニメ、マンガ、J-POP、ファッション等に支えられていた。
 2011年東北大震災後の調査では一時学習者数が減少したものの、その後は微増している。

特徴

 シンガポールの中等教育における日本語教育の特徴は、小学校卒業試験(PSLE)で上位10%以内の成績を修め、英語と母語に加えて第三言語を学ぶ素地があると考えられる生徒にのみ教育省語学センターで、「第三言語としての外国語」として、日本語・ドイツ語・フランス語・スペイン語の中から1つの言語を学ぶ権利が与えられる。なお、日本語を選択できるのは原則的に母語が中国語の学生のみとなっており、母語がマレー語、タミール語の学生は日本語の選択ができない制度となっている。
 同センターでは、日本語学習の最終到達目標を、日本の大学進学においているため、到達レベルは中学4年生で日本語能力試験N3、高校2年生でN1、N2とかなり高い水準である。
 シンガポールにある5校のポリテクニック(高等専門学校)のうち、2校で日本語教育が行われている(2020年11月現在)。初級レベルの学習者が多く、日本文化学習と組み合わせて教えているところもある。
 シンガポールにある6つの国立大学のうち、4大学で日本語教育が行われている。シンガポールで唯一の日本研究学科であるシンガポール国立大学人文社会科学部日本研究学科には博士課程も設置されており、日本の社会、文化等に関する幅広い研究も行われている。また、社会人の日本語学習も盛んで、多くの民間語学学校が存在する。

最新動向

 教育機関数の減少は見られるが、学生者数は微増しており、日本語は依然高い人気を維持している。近年、日本関連ビジネスで活躍できる人材の需要の増加に伴い、就職を意識した学習者も増加しており、学習動機が多様化している。

教育段階別の状況

初等教育

 2018年より、一部初等教育機関で課外活動として試験的に導入されている 。

中等教育

 シンガポール教育省語学センター(2017年現在、ビシャン〔Bishan〕校及びニュートン〔Newton〕校の2校体制)において、日本語教育が実施されている。2007年から2校体制となった。
 語学センターでは、中学生が4年間コースでケンブリッジ GCE Oレベル試験(日本語能力試験N3程度)を、高校生が1年コースで同H1レベル(日本語能力試験N2間程度)を、2年コースで同H2レベル(日本語能力試験N1、N2程度)を学習することができる。中等教育における日本語を含む第三外国語教育は、優秀な生徒・学生に対してのみ行われるエリート教育的な位置付けにある。
 同センター以外では、シンガポール国立大学附属数理高校でも日本語とフランス語が選択科目として提供されている。

高等教育

 シンガポール国立大学では、2001年より語学教育研究センターで日本語教育が行われている。科目は、日本語1~6、ビジネス日本語及び新聞読解など。日本研究学科では、学部レベルでの交換留学をはじめ、日本への長期、短期留学プログラム、ホームステイプログラムなど、日本との交流を積極的に行っている。大学内の言語コースとしては日本語の人気が最も高い。
 南洋(ナンヤン)理工大学では、自由選択科目の1つとして日本語を学習することができる。クラスは初級から中級まで5レベルのクラスを開講し、日本語の人気は高い。
 シンガポール経営大学でも、日本語は自由選択科目の1つである。但し、レベルは初級のみである。
 シンガポール工科大学は海外大学との連携コースによる日本語の授業や授業外の教養講座の一つとしての日本語の授業が不定期に実施されている。
 シンガポールにある2校のポリテクニックにおいても主に初級レベルの日本語の授業が開講されている。

学校教育以外

 子供から成人までを対象とした日本語学校が多くある。コミュニティセンター(公民館)等において、生涯教育の一環としての日本語を教えているところもある。民間の日本語学校には、シンガポール日本文化協会日本語学院、生駒言語学院などがある。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 6-4(5)-2制。
 小学校(Primary School)6年間、中学校(Secondary School)4~5年間、高等学校(Junior College)2年間またはポリテクニック(Polytechnic〔高等専門学校〕)2~3年間、大学(University)3~5年間となっている。義務教育は小学校のみ。小学校卒業試験(PSLE)の成績などをもとに、進む中学校を選択する。
 中学校では、エクスプレスコースの学生は4年間、ノーマル・コースの学生は5年間在籍し、卒業時に、ケンブリッジGCE試験のNレベルまたはOレベルを受験する。中学校卒業後は、高校(Junior College)・ポリテクニック・職業技術訓練校などの進路を選択する。高校やポリテクニック卒業後、高校卒業時に受験するケンブリッジGCE試験Aレベルや国際バカロレア試験、ポリテクニックでの成績などをもとに、国内外の大学に進学する生徒が多い。 近年では、中高一貫教育の学校や、国際バカロレア課程を設ける学校も増加しており、スポーツや芸術に特化した学校も設立されている。

教育行政

 小学校、中学校、高等学校はすべて教育省管轄下にある。ただし、一部の学校は独自のカリキュラムを組める自治校(Autonomous School)である。

言語事情

 多民族国家であるシンガポールでは、その人口比が、中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他2%となっている(2019年)。国語はマレー語、公用語は英語、中国語(Mandarin)、マレー語及びタミール語であるが、公の場では英語が最も使われている。
 学校では二言語(バイリンガル)教育が実施されており、英語のほかに華人の子弟であれば中国語、マレー系であればマレー語、インド系であればタミール語を習うが、華人の家族や友達との会話では福建語や広東語などの地方語も話されている。

外国語教育

 1973年より二言語教育政策が導入され、小学校1年生から英語と母語(中国語、マレー語、タミール語から自分の民族の言語を選択)を学ぶ。二言語教育は小学校、中学校、高校を通じ必修であり、小学校では授業の約3分の1が言語教育に充てられている等、二言語の習得に力が入れられている。従って日本語は第三言語である。
 生徒は、小学校卒業時に卒業試験を受けるが、この試験で成績上位10%以内に入り、英語と母語において優秀な成績を修めた生徒だけが、教育省語学センターで日本語、ドイツ語、フランス語、スペイン語のいずれか1つを選択し、学ぶことができる。また自治校として認定された中等教育機関において、日本語を教える学校もある。

外国語の中での日本語の人気

 日本語の人気は総じて高く、多くの機関において他言語よりも学習者人口が多い。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は選択可能な科目の一つである。

学習環境

教材

初等教育

 一部試験的に導入されている教育機関では,『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)が使用されている。

中等教育

 シンガポール教育省語学センター:『文化初級日本語ⅠⅡ』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)、『文化中級日本語ⅠⅡ』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)、『毎日の聞きとりPLUS 40(下)』宮城幸枝ほか(凡人社)、『日本への招待』近藤安月子ほか(東京大学出版社)

高等教育

 各機関で『みんなの日本語ⅠⅡ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)が広く使用されているが、教育機関独自の教材が使用されているケースもある。
 その他、『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)、『JAPANESE FOR BUSY PEOPLEⅠⅡ』国際日本語普及協会(講談社USA)、『新文化初級日本語ⅠⅡ』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)、『ビジネスのための日本語』米田隆介他(スリーエーネットワーク)、『商談のための日本語』米田隆介(スリーエーネットワーク)、『上級へのとびら』くろしお出版等。

学校教育以外

 機関により様々で『みんなの日本語』(前出)、『JAPANESE FOR BUSY PEOPLE』(前出)などが使われている。

IT・視聴覚機材

 シンガポールのインターネット普及率は、全家庭の98%、コンピュータ所持率は89%(『Annual Survey on Infocomm Usage in Households and by individuals, 2019』による)と非常に高い。日本語教育でもe-Learningが奨励されており、学習者の自主学習のためのプラットフォームが整備されている学校が多い(大学・ポリテクニック・シンガポール教育省語学センターなど)。

教師

資格要件

初等教育

 民間日本語学校から、教師が派遣されている。

中等教育

 ノンネイティブ日本語教師は日本の大学の学士号取得者、あるいは日本語能力試験N1合格者であるなどの日本語力が求められる。大学卒業後、National Institute of Education(国立教員養成機関)にてPost Graduate Diploma in EducationSecondary)[PGDE]を取得しなければならない。
 日本人教師の場合は、日本語教育を大学で専攻または副専攻した者、もしくは民間の教育機関などで日本語教授法を学習した者、日本語教育能力検定試験合格や日本語教授経験等が求められる。

高等教育

《シンガポール国立大学》
常勤:修士号以上。日本語教育、応用言語学、日本語学、国語学またはそれに準ずる専攻。
非常勤:学士号以上。日本語教育または応用言語学専攻が望ましく、経験を重視。
常勤・非常勤ともに学内業務がこなせる英語能力が必要。
《南洋(ナンヤン)理工大学》
常勤:修士号以上。日本語教育、応用言語学、日本語学、国語学またはそれに準ずる専攻。
非常勤:学士号以上。日本語教育または応用言語学専攻が望ましく、経験を重視。
常勤・非常勤ともに学内業務がこなせる英語能力が必要。
《シンガポール経営大学》
非常勤:日本語教育関連分野の修士号。日本語教授経験。
学内業務がこなせる英語能力が必要。
《シンガポール工科大学》
非常勤:学士号以上。学士号は言語学分野であること、または日本語が母語であることが望ましい。5年以上の経験や当地他大学での日本語教授経験があると望ましい。
《ポリテクニック》
常勤・非常勤を問わず、学士号以上及び学内業務がこなせる英語力が必要。また、学校によっては日本語・外国語教育の関連分野の修士または学士号、2~3年の日本語教授経験が求められる。

学校教育以外

 学士号、日本語教師養成講座修了者、日本語教育能力検定試験合格者、日本語教授経験等を採用条件としているところが多い。

日本語教師養成機関(プログラム)

 シンガポール国内には日本語教師養成機関がないため、国際交流基金が実施する海外日本語教師訪日研修等に参加するなどしている。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 日本人教師は公教育及び民間の教育機関において広く活躍しており、教師数もシンガポール人教師より多い。しかし、年々ビザ取得が難しくなっており、日本人教師の雇用に影響を与えている。学校外においても日本語スピーチコンテストをはじめ日本語に関する様々な場面で活躍しており、シンガポールにおける日本語教育の質を高めている。

教師研修

 シンガポール日本語教師の会主催セミナー、講演会などが、年に2~3回開催されている。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 シンガポールにおける日本語教育の普及と発展に理解と関心のある者を対象に、積極的な意見、情報交換の場を幅広く提供することを目的として、2001年3月に「シンガポール日本語教師の会」が、シンガポール日本人会地域社会交流部の中に設立された。シンガポールにおける日本語教育の発展に寄与するために、以下の活動を中心に行っている。

  • シンガポールにおける日本語教育セミナーの企画・実施
  • シンガポール日本人会 地域社会交流部への協力
  • シンガポール日本語教育関係者間のネットワーク確立

 執行部は、主要日本語教育機関の代表者で構成されている。2か月に1度程度定例会を行い、会の運営方針、セミナー企画、日本人会行事への協力等に関する話し合いを行っている。また、日本語スピーチコンテストへも、審査基準の見直しをはじめ、実行委員、審査委員として貢献している。
 JFにほんごネットワーク(通称:さくらネットワーク)の中核メンバーとなっており、シンガポールにおける日本語教育の更なる発展に寄与することが期待されている。
 また、2018年には、日本語教師学会が設立した日本語教育グローバルネットワーク(GN)に12か国目として加盟し、「日本語教育国際研究大会」開催に向けた支援や、「グローバルにつながるオンライン日本語教育シリーズ」の企画・運営などにも関わっている。

最新動向

 最近のシンガポール日本語教師の会主催によるセミナー等の実績は以下のとおり。
 2020年は新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響により、ほぼ全ての教育機関での授業がオンラインに移行したため、オンライン授業において必要なICT知識、また、オンラインならではの課題に対し、3月4月7月の3回に分けて、勉強会を実施。
 2020年4月には、「教師のポートフォリオ作成—自ら学び成長し続けるために−」の題目に沿い、外部講師によるウェビナーを開催。 5月に予定していたセミナーは日本からの講師招へいが叶わず延期。12月には再び「オンライン授業を振り返り今後に活かす」の題目で外部講師によるウェビナーを企画。
 また、日本語教育グローバルネットワークによる「グローバルにつながるオンライン日本語教育シリーズ」の一環として、オーストラリア・ニュージーランドの日本語教師ネットワークと協働で、「上級日本語」に関する調査・分析を企画している。

日本語教師等派遣情報

国際交流基金からの派遣

日本語パートナーズ

国際協力機構(JICA)からの派遣

 国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 (情報なし)

日本語教育略史

1966年 民間日本語教育機関シンガポール日本文化協会において日本語講座開講
1977年 シンガポール政府が中学生を対象に日本語を第三言語に指定
1978年 シンガポール教育省が外国語センターを設立。中学生を対象とした第三言語(日本語、ドイツ語、フランス語)の教育を開始
1981年 シンガポール国立大学(National University of Singapore)に日本研究学科開設
日本語がシンガポール-ケンブリッジ GCE Oレベル試験
Singapore-Cambridge General Certificate of Education Ordinary Level)の科目となる
1982年 外国語センターにおいて高校生の日本語クラス開設
1982年 日本語がシンガポール-ケンブリッジ GCE AOレベル試験
Singapore-Cambridge General Certificate of Education Alternative Ordinary Level)の科目となる
1986年 外国語センターがシンガポール教育省語学センターとなる
1992年 ラッフルズ高校(Raffles Junior College)において選択科目として日本語コースが開講
1992年 ポリテクニック(Polytechnic、シンガポール独自の技術系高等専門学校)において日本語教育開始
1993年 シンガポール-ケンブリッジ GCE Aレベル試験(Singapore-Cambridge General Certificate of Education Advanced Level)科目に日本語追加
1994年 南洋(ナンヤン)理工大学(Nanyang Technological University)に日本語講座開講
2005年 シンガポール経営大学(Singapore Management University)に日本語講座開講
2007年 語学センターの定員増員及び遠方の学校から通う生徒の通学時間短縮のために、語学センター・ギンモー(Ghim Moh)校が開設され、従前からあるビシャン(Bishan)校と共に2校体制に。
2012年 ギンモー校がニュートン地区に移転し、ニュートン(Newton)校として公式オープン。日本語はビシャン校及びニュートン校の2校で開講されている。
2013年 シンガポール工科大学(Singapore Institute of Technology)に日本語講座開講
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