スイス(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

2018年度日本語教育機関調査結果に関する帯グラフ。機関数は72件、教師は194名。初等教育は4名で全体の0.1%、中等教育は120名で全体の4.0%、高等教育は676名で全体の22.5%、学校教育以外は2,208名で全体の73.4%。

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1968年チューリッヒ大学、1977年ジュネーブ大学に日本学科が開設され、高等教育機関における学術研究分野として日本語教育及び日本研究が開始される。1980年代には、一般市民層にも日本の伝統文化に対する関心が高まったことにより、市民大学や語学学校にも日本語講座が開設され、ビジネス上の必要から日本語を学習する人口も増えて、民間の日本語教育も本格化する。
 1990年代に入ると日本語学習者の年齢、学習目的などの多様化が始まり、民間語学学校講座数の増加が顕著となる。また、公的教育機関においても、大学では日本学専攻以外の学生を対象とした講座の開設、ドイツ語圏の高等学校では選択科目として日本語講座を設置するなど、教育機関レベルでの新機軸が見られた。
 21世紀に入りCEFRが推奨され、JFスタンダードが作成されたことにより、大部分の教育機関はA1からのレベル別のコースを設立するようになった。
 2010年頃からポップカルチャーの影響で、マンガ、アニメ、コスプレフェスティバルが定期的に行われ、一部の若者の人気を集めた。その影響からか、教育機関に頼らず多種多様のアプリやYoutubeなどのオンラインで自己学習する若者たちが増え始めた。
 また、多様化する日本語学習のニーズ合わせて、旅行者のためのクラッシュコースや、日本の食文化を紹介する短期コース、オンラインコースなども開講されている。されはじめた。
 2020年3月以降、新型コロナウィルス感染拡大に伴うロックダウンにより対面授業が不可能になり、Zoom、Teams、SkypeなどのWeb会議システムを介したオンライン授業が急増した。5月より段階的に対面授業が再開されたが、ソーシャルディスタンスの確保などの理由により対面授業とオンライン授業が混在している。

背景

 日本のアニメやマンガなどのポップカルチャーに関心をもつ若者層、日本の武術を通して日本文化に接している層などの日本語学習熱を背景に日本語学習者数は確実に増加し続けている。2016年以降は、休暇先としての日本の人気が急増し、旅行のために日本語を学習する者が増加してきていたが、2020年の新型コロナウィルス感染拡大で日本への渡航が困難となった後は、旅行のための新規日本語学習者は減少した。
 また、永住邦人人口の増加により、その子弟を対象とする継承語としての日本語学習分野で着実な発展が見られる。

特徴

 民間の語学学校の学習者が全学習者数の半数以上を占める。

最新動向

 休暇先として日本が人気となり、日本の文化や日本語への認知度・興味が倍増した。その反面、学習者や授業形態も多様化し、ネットやアプリを利用して学習する潜在的学習者の数も増加傾向にある。
 2020年の新型コロナウィルスによるロックダウン以降、新規学習者は落ち込んだ一方、従来からの学習者はオンラインと対面授業を両立して学習を継続している。

教育段階別の状況

初等教育

 下記【中等教育】を参照。

中等教育

 スイスでは移民融和政策の一環として、各州教育省管轄の継承語・継承文化授業コースが推奨されている。略称は、ドイツ語圏では『HSK』(Heimatliche Sprache und Kultur)、フランス語圏では『LCO』(Langue et Culture dʼorigine)。各教育機関の運営形態は様々だが、HSK/LCO授業校に認定されると、学習の記録や評価、成績が正規教科同様に通知表に記載される。また、公立学校建物内にある教室の無償貸与、授業に必要な機材の使用などの支援を受けることができる。スイスには、民間組織による非営利の継承日本語教育機関 / HSK・LCO授業校が7校、文科省認可の日本語授業校が2校ある。
 なお、高等学校(ギムナジウム・リセ等)では、チューリッヒ州、バーゼル州、ベルン州及びザンクトガレン州の10校(2019年3月現在)で、選択科目として日本語講座が開設されている。

高等教育

 チューリッヒ大学及びジュネーブ大学の2校は日本学科を擁し、高いレベルの日本語教育を実施している。
 このほか、スイス国立工科大学・チューリッヒ大学共通語学センター、ザンクトガレン大学、ベルン大学、ルツェルン応用科学・芸術大学、ラッパースヴィル工科大学で、日本語講座が開設されている(2019年9月現在)。

学校教育以外

 バーゼル、ベルン、ルツェルン、ローザンヌ、ヌシャテル、チューリヒ、ツークの各都市には日本語を母語とする者を両親のいずれかに持つ児童を対象とした学校もある。「スイス日本語教師の会教科書制作グループ」では、こうした児童のための日本語教材の開発に取り組んでいる。
 また全国にある市民大学、またはKlubschule Migros(ドイツ語圏)、école-club Migros(フランス語圏)などに代表される民間語学学校において、多くの日本語講座が開設されている。成人学習者の場合、年齢も職業も様々だが、武道や日本庭園、ゲーム、アニメなど、ちょっとした日本文化との関わりから日本語を始めるケースがほとんどである。多言語を操るスイス人の語学への興味の高さや国民性も影響してか、生涯学習として何年にも亘り日本語学習を継続する者も多い。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 スイスの教育制度は州の専管事項となっており、州ごとに教育制度が異なっているが、おおむね満6歳から9年間が義務教育(初等教育6年、初期中等教育3年)となっている。通常、大学進学希望者(義務教育終了生徒の2~3割)はさらに高等学校3~4年を経て、大学入学資格を取得した上で大学に進学する。大学の修学期間は4年から5年である。3分の2の生徒は職業訓練に進み、働きながら週に1~2日、職業訓練学校に通う。

教育行政

 教育行政は連邦政府が行っているのではなく、州の専管となっている。このため、教育制度が州で異なり、不便な点もあるので、各州は連絡協議会を設け各州間の教育制度の相違からくる不都合の調整にあたっている。
 また、大学は州と地方自治体の公的資金でまかなわれており、10校の国公立大学、2校の連邦工科大学、その他、応用科学の国公立大学が7校、教員養成大学が17校ある。(2017年11月現在)

言語事情

 ドイツ語(62.6%)、フランス語(22.9%)、イタリア語(8.2%)、ロマンシュ語(0.5%)の4か国語、および、外国人が話すその他(5.8%)。(www.myswitzerland.comより、2020年時点)

外国語教育

 スイスでは言語教育が重要視されており、子供たちは義務教育期間中に英語または第2公用語を学ぶ。ドイツ語圏の学校ではフランス語を、フランス語圏ではドイツ語を教えているが、近年英語への関心が高まり、チューリッヒ州ではむしろ英語を第1外国語としてフランス語より早く教え始める傾向が出てきており、様々な議論を呼んでいる。また、多くの州で第1外国語学習は小学校4年生から、第2外国語は6年生から開始される。
 なお、ドイツ語圏のスイス人は日常生活においてはスイスドイツ語と呼ばれる方言を話し、ドイツで話される標準語とは大きく違っている。

外国語の中での日本語の人気

 他の外国語(特に英語、フランス語、ドイツ語)と比較すると学習者の数は少ないが、学生のみならず一般市民の間でも日本語学習に対する関心が高い。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

 入門、初級にかけては人気教材が固定しているが、読解訓練、日本語能力試験対策、ビジネス日本語など、学習目的がより細分化する中級から上級クラスで使用する教材は、教師の選択により多岐にわたる。

初等教育

 下記【継承日本語教育】を参照。

中等教育

 主なものとしては『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)と『げんき』(The Japan Times)がある。

高等教育

 主なものとしては、『Kompaktlehrgang JapanischDr. Heinrich Reinfriedasiaintensiv)、『げんき』(The JapanTimes)、『みんなの日本語Ⅰ,Ⅱ』(スリーエーネットワーク)

学校教育以外

 主なものとしては、『みんなの日本語Ⅰ,Ⅱ』(スリーエーネットワーク)、『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)、『JAPANESE FOR BUSY PEOPLE Ⅰ, Ⅱ』(The Japan Times)などがある。中・上級のクラスでは、新聞・雑誌記事なども頻繁に使用される。

継承日本語教育

 主なものとしては、『文部科学省指定小学校・中学校 国語教科書』(光村図書)、『日本語1年生 -この指とまれ-』、『日本語2年生 -はないちもんめ-』(スイス日本語教師の会教科書制作グループ)、『Japanisch im Sauseschritt, Universitätsausgabe mit Kana und Kanji』(DHD)などがある。中・上級のクラスでは、『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)、『中級へ行こう 日本語の文型と表現55』(スリーネットワーク)など、その他、新聞・雑誌記事、携帯用教育アプリ、インターネット動画なども頻繁に使用されている。

IT・視聴覚機材

CDDVD
 ほとんどすべての教育機関で、教材付属のCDDVD、ダウンロードした音声教材を、聞き取り・発話練習はもとより、日本の文化・生活習慣の紹介ツールとして活用している。
《インターネット》
 読解用マテリアルをダウンロードして使用したり、漢字テストなどフリー教材を多く活用したりしている。また、授業で必要な情報を生徒にインターネットで予め収集させるなどの試みも行われている。かな・漢字学習用のアプリや辞書ツールの使用が増えている。
《パソコン》
 課題の作文をパソコンで書いて学習者に提出させることで、文法・語彙だけでなく、文字の習得に繋げている教育機関も多い。また、新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウン以降、ZoomやTeams、SkypeなどのWeb会議システムを介した授業も増えている。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教師としての資格は特にないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者等が採用される場合が多いようである。

中等教育

 日本語教師としての資格は特にないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者等が採用される場合が多いようである。

高等教育

 日本語教師としての資格は特にないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者等が採用される場合が多いようである。大学の高等教育レベルになれば、ある程度の学位が必要となる。

学校教育以外

 日本語教師としての資格は特にないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者等が採用される場合が多いようである。

日本語教師養成機関(プログラム)

 2011年にチューリッヒ大学が語学教師養成プログラムを実施したが、大変高額な上に内容が大学講師対象、また使用言語がドイツ語であったため、参加が難しかった。将来同じプログラムが再度実施されるかどうかは、未定である。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 初等・中等教育機関、学校教育以外(成人教育)の日本語教育機関、また日本語を継承語として教えている機関では、そのほとんどがネイティブ教師である。
 チューリッヒ大学、ジュネーブ大学日本学科では、日本語担当教師の常勤ポストが複数設置されており、両大学ともにネイティブ教師が採用されている。ジュネーブ大学においては、フランス語から日本語への翻訳の授業と日本語会話の授業をネイティブ教師が担当、日本語での口頭試験の審査官という役割も担っている。

教師研修

 国内研修としては、スイス日本語教師の会による教育セミナーが毎年2回開催されている。国際交流基金の助成と在スイス日本国大使館の支援を受け、最先端の日本語教育分野で活躍する講師をおよびしての研修会は毎回好評で、近年では50名以上の教師会会員が参加する。
 また、訪日研修としては、国際交流基金の日本語教師研修及び、欧州研修として国際交流基金パリ日本文化会館とアルザス・欧州日本学研究所(CEEJA)が共催するアルザス研修会などがある。
 会員が主催する勉強会も盛んで、著名な講師をおよびしての1日研修や、欧州セミナーの参加の報告会など、多様な研修会が催されている。
 さらに継承語関係では、継承日本語教育機関連絡会議の主催者による教師の勉強会も毎年行われている。

現職教師研修プログラム(一覧)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 ネットワークとしては「スイス日本語教師の会」が存在する。会員は大学、高等学校、市民大学講座、語学学校、継承語教育機関の日本語教師と幅広い層にわたっている。
 会は、毎年春と秋に「日本語教育セミナー」を開催している。これらは会員の日本語教師としての質的向上を目的とする一方で会員間の情報交換、親睦の場となっている。また、会報『交流』を年1回発行するほか、メーリングリストによる日本語教育、日本文化関連の情報提供を頻繁に行い、会員への便宜を図っている。
 また継承語教育においては、学校運営メンバーと教師が一堂に集う継承語教育機関連絡会議が毎年行われており、スイスにおける継承日本語教育発展を担っている。

最新動向

 日本語が学べる教育機関が増え、教師数も確実に増えてきている。日本語学習熱は継続しており、教師会の会員も100名を超え、ヨーロッパの小国にしては多人数の日本語教師が活躍している。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

国際協力機構(JICA)からの派遣

 国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

「初等教育」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない

「中等教育」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない

「高等教育」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない

「学校教育以外」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていないが、市民大学や民間語学学校では講座のレベル分けにヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)を使用し、レベルの統一化を図っている。

評価・試験

 2005年以来毎年12月に日本語能力試験が実施されている。(現在の会場はチューリッヒ大学)。全ての教育段階(継承語、中等・高等教育、成人)において、一つの目標または学習ポートフォリオとして挑戦する者も多く、受講者は毎年増加傾向にある。

日本語教育略史

1968年 チューリッヒ大学に日本学科開設
1977年 ジュネーブ大学に日本語科開設
1980年代 市民大学や語学学校に日本語講座開設
1990年代 民間語学学校講座数が増加
2005年 日本語能力試験の実施を開始

参考文献一覧

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