シリア(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

 2018年調査時点では回答をえられなかった。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1979年に在シリア日本大使館で日本語講座が開講(1999年に閉鎖)され、シリアの日本語教育は産声を上げた。
 1995年のアレッポ大学学術交流日本センター開設を嚆矢に、1999年にはダマスカス大学付属言語研究所に日本研究センター(2009年より「ダマスカス大学高等言語学院日本語科」に名称変更)が開設され、2002年にはダマスカス大学人文学部に日本語・日本文学科が開設された。大学内に本格的な日本語教育を行う3つの機関が設立されると、シリアの日本語学習者は数、習熟度ともに飛躍的な向上を見せる。2010年には、アレッポ大学人文学部哲学社会学科に日本研究専攻の修士課程が設立された。

背景

 日本は、第二次世界大戦の敗北から奇跡的な経済復興を成し遂げた国として注目されており、国民は概して親日的である。近年では、自動車や電化製品の生産国としてだけでなく、アニメ文化の国としても認知されつつあり、ポップカルチャーの影響で日本語を学習する者も増えている。

特徴

 シリア人には人と話すことを何よりの楽しみとする人が多く、会話が好きな学習者が多い。学習者の意欲は旺盛で、授業中のアクティビティにも積極的に取り組む反面、暗記中心の学習ストラテジーを取る学習者が多く、実践力の養成が課題となる。学習者の中には日本語教師を志す者もいるが、常勤講師の募集はほとんどなく、安定した職業となりえていない。
 アレッポ大学学術交流日本センターやダマスカス大学高等言語学院日本語科では、自主的に日本文化祭を企画・運営するなど、日本文化をシリアで積極的に紹介しようとする動きが見られる。

最新動向

 JICA及び国際交流基金派遣の日本人教師がシリアの日本語教育において果たしてきた役割が大きく、日本語教育の「現地化」が近年の課題となっていた。2011年3月、シリア政府に対する大規模な抗議活動が発生、日本人教師全員が国外退避となり、3機関ともシリア人教師だけでの運営を余儀なくされた。
 ダマスカス大学日本語・日本文学科では、国際交流基金派遣の日本語専門家が学科運営の中心であったが、2011年5月以降はシリア人教師のみで運営されるようになった。2011年夏以降は卒業生の中から助手や非常勤講師が採用されており、授業や学科運営の中核を担っている。また、2011年8月まで助手を務めていた卒業生1名が、ダマスカス大学の派遣により博士号取得のため日本に留学した。こうした努力にもかかわらず、内戦の厳しい状況を受け、現在は新規入学生の募集を停止している。
 ダマスカス大学高等言語学院日本語科では、現在は日本語講座が開講されていない。シリア人教師1名が在籍。アレッポ大学では、学術交流日本センターに加え、2010年に日本研究専攻の修士課程が開設された。開設以降、日本研究専攻修士号を持った卒業生31名を輩出した。2015年以降、授業を停止している。

教育段階別の状況

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

ダマスカス大学人文学部日本語・日本文学科(学士:4年間)
 日本語及び日本に関連する科目を1年生から4年生まで週20時間学んでいた。2016年11月現在の在籍者数は4年生4名。シリア人教師4名(助手2名、非常勤講師2名)が学生の指導にあたっている。

学校教育以外

  •  ダマスカス大学高等言語学院日本語科
  •  アレッポ大学学術交流日本センター

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 6-3-3制。義務教育は9年間。
 中等教育以降の教育機関として、大学および専門学校(2年間ないし3年間)がある。
 大学は学部が4年間から6年間(工学部、薬学部5年間、医学部6年間)で、それ以降は2年間の修士コース、3年間の博士コース(最高学位)がある。大学卒業後、海外留学を希望する者が多く、各国政府奨学金への応募者が非常に多い(日本の文部科学省奨学金の他にフルブライト奨学金、フランス政府、ドイツ政府奨学金等)

教育行政

 初等、中等教育は教育省の管轄。
 大学、専門学校以上は高等教育省の管轄となっている。

言語事情

 公用語はアラビア語で、国民の9割近くがアラビア語を母語としている。このほか、クルド語、チュルケス語、トルコ語を母語とするイスラム教徒や、アルメニア語、アラム語、シリア語を母語とするキリスト教徒もいるが、公式文書や公立学校で使われるのはアラビア語のみである。
 シリア国民の大多数が母語とするアラビア語は、厳密に言うと「アーンミーヤ」と呼ばれる口語シリア方言であり、標準語フスハーは学校に入ってから学ぶのが普通である。フスハーは新聞、出版物、教科書などの書き言葉としての使用が主で、口語としての使用はニュースや演説など限定的な場面にとどまる。一方のアーンミーヤは、日常会話から大学の講義まで様々な場面で口語として使用されるばかりか、最近ではブログやメールの書き言葉としても使用されている。

外国語教育

 2000年以降、外国語教育重視の政策が推進されるようになると、英語教育の低年齢化が年々進み、現在は6歳(初等教育1年)から英語教育が行われるようになった。また、英語に続く第二外国語としてフランス語かロシア語が必修となり、13歳(中等教育1年)からの学習が開始される。
 高等教育では、英文科と仏文科がすべての大学に専攻学科としてあるほか、ペルシャ語学科が3つの国立大学にある。日本語、スペイン語、ドイツ語の専攻学科があるのはダマスカス大学のみで、トルコ語学科があるのはアレッポ大学のみである。これ以外の言語の講座は、大学付属の高等言語学院などで行われており、社会人も受講することができる。

外国語の中での日本語の人気

 大学・大学院に専攻学科があるアジア言語は、日本語を除くと周辺国のペルシャ語、トルコ語のみであることから、高等教育において日本語が一定の注目を集めていることがうかがえる。

大学入試での日本語の扱い

 バカロレア(高校卒業時の一斉試験)で試験科目として存在するのは英語とフランス語のみで、日本語は大学入学のための科目としては扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育はの実施は確認されていない。

高等教育

 ダマスカス大学人文学部日本語学科:
 『みんなの日本語 初級Ⅰ、Ⅱ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『ニューアプローチ中級日本語 基礎編改訂版・完成編』小柳昇(語文研究社)、『トピックによる日本語総合演習 中級前期・中級後期・上級』専修大学国際交流センター(スリーエーネットワーク)

学校教育以外

  •  ダマスカス大学高等言語学院日本語科:『みんなの日本語 初級Ⅰ、Ⅱ』(前出)
  •  アレッポ大学学術交流日本センター:『みんなの日本語 初級Ⅰ、Ⅱ』(前出)

IT・視聴覚機材

 日本政府からダマスカス大学とアレッポ大学にAV機器、プロジェクター、実物投影機などが供与され、これらを利用した授業や学生による発表が行われている。シリアはインターネット環境の整備が十分になされていないため、双方的なIT・視聴覚機材の使用はまだ行われていない。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

中等教育

 日本語教育の実施は確認されていない。

高等教育

《ダマスカス大学人文学部日本語学科》
  1. 1) 常勤講師:修士号以上の保有者
      * 学士号のみの保有者は取得後5年以上経っていること
  2. 2) 助手:毎年の首席卒業者
  3. 3) 非常勤講師:卒業生ほか、日本語を専攻していた者を採用
      * シリア人教員養成のため、2011年に卒業生の中から特別枠の助手を3名採用

学校教育以外

《ダマスカス大学高等言語学院日本語科》
  1. 1) 常勤講師:高等教育省の派遣により、海外で日本語専攻の学位を取得した者
  2. 2) 非常勤講師:受講生の中から成績優秀者を随時採用
《アレッポ大学学術交流日本センター》
  1. 1) 非常勤講師:受講生の中から成績優秀者を随時採用

日本語教師養成機関(プログラム)

 ダマスカス大学人文学部日本語・日本文学科では,4年次に「日本語教授法」が必修科目となっている。2010-2011年度は前期に教授法一般を学び、後期に1年生に模擬授業を行った。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 2016年現在、シリアに日本語のネイティブ教師はいない。

教師研修

 ダマスカス大学人文学部日本語・日本文学科では,卒業生1名が大学からの派遣で、修士号・博士号取得のため日本に留学中である。
 ダマスカス大学高等言語学院日本語科からは、日本語教育専攻の修士号取得のため2名が高等教育省から日本へ派遣され、帰国後は言語学院で教鞭を取る予定である。アレッポ大学学術交流日本センターでは、受講者から成績優秀者を非常勤講師として採用した。また、国際交流基金の海外日本語研修プログラムを利用し、シリア人教師の派遣を行った実績がある。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 「在シリア日本語教師会」が1999年に創設され、情報交換や日本語スピーチコンテストの開催を行っていたが、日本人教師が不在となった2011年5月以降は、目立った活動が行われていない。
 このほか、中東諸国(エジプト、アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、カタール、サウジアラビア、シリア、チュニジア、トルコ、バーレーン、モロッコ、ヨルダン、レバノンほか)の日本語教師の組織である「中東日本語教師連絡会」がある。

最新動向

 2010年に第13回日本語スピーチコンテストが開催された(2010年以降、開催されていない)。

シラバス・ガイドライン

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

 共通の評価基準や試験はない。

日本語教育略史

1979年 在シリア日本大使館主催の日本語講座開講(1999年に閉鎖)
1995年 ホテル観光学校日本語コース設置(2000年に閉鎖)
SSRC(シリア国立科学技術研究所)にも日本語コース設置(1999年に閉鎖)
アレッポ大学学術交流日本センター設立
1999年 ダマスカス大学日本研究センター(1999年時点での正式名称:ダマスカス大学付属言語センター・日本研究センター)設立
「シリア日本語教師会」発足
2002年 ダマスカス大学人文学部内に日本語学科開設
2009年1月 ダマスカス大学「言語センター・日本研究センターLanguage Center Japanese Studies Center」が「ダマスカス大学高等言語学院日本語学科・Japanese Language Section, Higher Language Institute of Damascus University」と正式名称を変更
2010年 アレッポ大学人文学部哲学社会学科に日本研究専攻の修士課程開設
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