ウクライナ(2020年度)

日本語教育 国・地域別情報

2018年度日本語教育機関調査結果

2018年度日本語教育機関調査結果に関する帯グラフ。機関数は20件、教師は97名。初等教育は209名で全体の9.6%、中等教育は465名で全体の9.6%、高等教育は809名で全体の37.2%、学校教育以外は691名で全体31.8%。

(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 ウクライナで日本語教育が始まったのはソ連時代の1940年代キエフ国立大学においてである。その基盤は弱く、消滅と再開を繰り返した。しかし、1991年の独立の頃より、現在中心的役割を果たしている大学数校で本格的な日本語教育が始まり、その後、約10年のうちに大学から初等・中等教育機関へと急速に広がった。1996年にはNIS諸国派遣日本語教育事業が開始され、教育環境も整い、全体的な学習レベルも上がった。
 2006年にはJICAの支援によりキエフ工科大学内にウクライナ日本センターが設置され、一般社会人・学生を対象にした日本語教育が本格的に始められた。2008年にはキエフ国立大学に三菱商事株式会社からの支援により日本語講座が開講され、日本語を主専攻としていないキエフ大学の学生にも日本語の学習機会が与えられた。また、ウクライナ語化政策に伴い、2007年度よりウクライナ日本センターのプロジェクトとして進められていた『みんなの日本語初級Ⅰ Ⅱ翻訳文法解説ウクライナ語版』が完成し、ウクライナ語しか理解できない学習者の日本語学習が容易になった。

背景

 ウクライナは日本から遠く、文化交流は盛んとは言えないが、同じ被爆国であるということや敗戦をへて経済大国になったことから、日本及び日本文化に対し、多くのウクライナ人が尊敬の念を抱いている。2014年のマイダン革命後、日本のウクライナへの経済支援も一国としては最大(約2,000億円)になった。2017年にはウクライナにおける「日本年」として、大統領令のもとウクライナ全土で日本に関する様々な行事が行われた。しかし、富裕層を除けば、多くの国民の生活は苦しく、日本は気軽に行ける国ではない。同年、EUへのビザなし短期渡航が可能になったこともあり、渡航しやすく言語のハードルも低いヨーロッパへの憧れは強さを増している。日本への関心は好奇心程度であり、広く国民の間に根付くまでには至っていない。
 教育省のガイドラインの中には特に日本語コースの設置基準やカリキュラムはない。英語等の外国語のガイドラインに準じて、各学校または大学が日本語コースをデザインしたり、ロシアの大学の講座内容も参考にしたりしているようである。

特徴

 ウクライナにおいては、上記の理由から、英語、フランス語、ドイツ語などの欧州言語の人気が高い。日本語はそれほど戦略的に重視されておらず、限られた教育機関において、各機関東洋言語の1つとして数名の教師により日本語教育が行われている程度である。
 大学ではトルコ語、中国語、韓国語と同じ学科に組み込まれている場合が多い。選択科目として日本語を設けている大学は非常に少なく、主専攻として日本語学科を設けている大学がほとんどである。日本語講師を含めた日本語母語話者の数も極めて少ないため、学習者が日本語に触れる機会は限られている。地方都市においては、旅行者を除き、日本語母語話者はいない。
 学習動機としては、大学では、留学や給与の高い就職先を目的に日本語を学んでいる学生が多く、学年が上がるにつれ、目標を見失う学生が多い。社会人では、日本文化(アニメ、伝統文化、文学など)への関心、「東洋言語」への語学的な興味から日本語を勉強する人が多い。

最新動向

 日本語能力試験(2019年度現在、同国内では12月の第2回のみ実施)の受験者数は、2013年度出願者数(714名)をピークに、徐々に減少しており、2019年度の出願者数は560名だった。これはウクライナ情勢のためクリミア、ルガンスクからの団体出願が行われなくなったこと、モルドバ、ベラルーシの国外からウクライナへの出願もなくなったことが影響していると考えられる。受験料が上がり、気軽な気持ちでは受験できなくなってきていることも理由にあげられる。団体出願は、キエフのほかリヴィウ、ハリコフ、ドニプロ、オデッサ、ミコライフで行われている(2019年度現在)。
 2018年7月には、リヴィウ工科大学において、夏期日本語集中キャンプが開催された。リヴィウの地元の教師たちが積極的にキャンプの運営に関わることで、より多くのリヴィウの学生たちがキャンプに参加し、日本語や日本文化に親しむことができた。
 また、近年は学習者の学習方法にも変化が見られる。これまでは、学校に通うなり家庭教師を雇うなりして、勉強するのが普通だったが、最近はインターネットのリソースを活用したり、スカイプ等の手段でウクライナに興味を持つ日本人との交流を楽しむ学習者が見られ、学習環境・学習手段の多様化が見られる。

教育段階別の状況

初等教育

 2019年10月現在、キエフ市内では公立、私立のシュコーラ(初等・中等一貫教育機関、小学校1年から第一外国語として日本語を取り入れている第一東洋語学校が1校。その他一般には第二外国語または課外講座)の数校で継続的、もしくは断続的に日本語教育が行われている模様。キエフ以外では、キエフ近郊の中小都市、イルピン、チェルカシ、またハリコフ等の地方都市で日本語教育及び日本文化の教育を行うシュコーラがある。キエフ市内のシュコーラにはキエフ国立言語大学やキエフ国立大学とネットワークを持つ学校もあり、大学院生を非常勤講師として迎えたり、4、5年生の教育実習を受け入れたりしている。ただし、キエフの初等・中等教育機関の教育の主眼は、数校を除き日本文化の理解である。シュコーラを卒業後、大学の日本語学科に進学する学生はほとんどいない。

中等教育

 ウクライナの教育制度では初等・中等教育がほぼ一貫教育となっているため、日本語教育を行っている機関では、中等教育段階においても初等教育機関から継続的に日本語教育が行われている。そのため、概要は上記初等教育に同じである。

高等教育

 日本語教育の中心は首都キエフのキエフ国立大学及びキエフ国立言語大学(英語とのダブルメジャー)であるが、稀に選択科目として日本語講座が開講されている大学もある。また、地方都市では、リヴィウ、ハリコフ、ドニプロにも日本語主専攻を設置した大学がある。こうした機関では、日本語、日本文学、通訳・翻訳の専門家を育成することが目的になっている。
 国費留学制度、大学間の交換留学プログラム、及び私費留学等による訪日歴のある学生が増加している。しかしながら、留学経験のある教師や日本で教師研修を受けた教師の離職や解雇も目立ち、質の高い日本語教育の維持が困難になってきている。教育機関内での腐敗や不正を正すためにも、教師の待遇の改善が切に望まれている。

学校教育以外

 2006年10月にキエフのウクライナ日本センターで日本語講座が始まり、一般社会人・学生を対象に日本語教育を実施している。2019年度の長期コース受講者は250名程度で、受講者の過半数は公的教育機関での日本語学習経験のない社会人である。また、2015年度以来、子供クラスも開講され、若年層からのニーズも確認されている。
 2019年現在、キエフ市内には民間日本語学校も2校ほど存在しており、主に若年層の学習者を対象に入門・初級レベルの講座を開講している。その他、リヴィウ、ハリコフ、オデッサ、ミコライフ等の地方都市においても、一般学習者を対象とした日本センター、民間の語学学校が存在する。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 4-5-2(3)制。
 初等教育が4年間(6または7~10歳)、前期中等教育が5年間(10~15歳。ここまでの9年間が義務教育)、後期中等教育が2~3年間(15~17歳)。「シュコーラ」「ギムナジウム」と呼ばれる11年ないし12年の一貫教育校が多いが、専門性のある後期中等教育機関「リツェ」もある。高等教育は大学(5年間)と、シュコーラ9年生修了後に入学できる高等教育機関として技術・芸術系の専門を勉強する「ウチーリッシェ」(2~4年間)、職業専門学校の「テフニコム」(3~4年間)等がある。
 高等教育では、これまでロシア型の学位システムを採用していたため、日本やヨーロッパの大学と対応させることが困難であった。「ボローニャ・プロセス」と呼ばれるヨーロッパ型の単位認定システムを導入しつつあるが、教育制度はいまだ移行途中にあり、統一されていない。

教育行政

 初等、中等、高等教育機関のほとんどが教育省の管轄下にある。

言語事情

 公用語はウクライナ語であるが、ロシア語も生活言語として広く使用されており、首都キエフに住む者の多くはバイリンガルである。しかし、ウクライナ全土では地域性が見られ、大まかに見ると東部・南部はロシア語、西部はウクライナ語が優勢である。近年は「ウクライナ語」化政策が採られ、教育機関だけでなく、全ての国の機関でウクライナ語の使用が義務付けられている。

外国語教育

 ソ連時代から外国語教育が盛んである。第一外国語は英語、ドイツ語、フランス語などヨーロッパ言語が主流であるが、アラビア語、トルコ語のほか、日本語、中国語、韓国語等の極東語も人気があり、少しずつ学ばれるようになっている。
 外国語教育が必修になるのは前期中等教育(5年生)から。しかし、大都市では初等教育(1年生)から外国語教育を始める学校も多くなっている。教育機関によって、外国語教育の開始時期及び外国語の種類・数(第2、3言語を開講しているかどうか)も異なる。

外国語の中での日本語の人気

 人気が高いのは英語、フランス語、ドイツ語、ポーランド語である。極東語と呼ばれる中国語・日本語・韓国語も人気があり、中でも資金が潤沢にあり、留学機会に恵まれている中国語に人気が集まっている。日本語と韓国語は次に人気がある。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 ウクライナ語による教育省の認定を受けた教材も開発されたが、日本語教育が正規の科目として行われているキエフ市内の学校では使用率は高くない。多くは日本で出版された教科書をベースに教師が作成したオリジナル教材を使用している。

中等教育

 中等教育機関でも、上記初等教育機関同様の状況である。主に教師が独自に作成した教材を利用している。

高等教育

 ほとんどの教育機関が日本で出版された教材・教科書を使用している。キエフ、リヴィウ、ハリコフ、オデッサ等の大学では、副教材として独自の日本語教材も作成されている。既に作成されたものに関してはその使用が見られる。また、ウクライナ日本センターで作成された『みんなの日本語Ⅰ Ⅱ翻訳文法解説ウクライナ語版』も、キエフ市内の一部の大学やリヴィウでは活用されている。

学校教育以外

 学校教育以外の機関で使用されている教材についての確実な資料はほとんどない。キエフ市内の民間の語学学校及び個人によるクラス等では、日本で出版された教科書を使用している場合が多い。ウクライナ日本センターでは2012年入門クラスより『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)を使用している。

IT・視聴覚機材

 授業中DVD、コンピューター、タブレット等を使用する教師も増えているが、学生にコンピューターを利用させる日本語の授業はほとんど行われていない。

教師

資格要件

初等教育

 原則として日本語学士号を持っていることが条件。ただしパートタイムとして、大学在学中の学生が教師を務めることもよくある。

中等教育

 初等・中等一貫教育のため、上記初等教育に同じ。

高等教育

 日本とは学位システムが違うが、大学常勤講師は 日本語・日本文学か文化(つまり人文科学系)に関する修士号(マギストル、大学5年を修了時に取得)を取得していること、また助教授以上は、Ph.D.相当学位である博士候補生(カンジダット・ナウーク)の資格を持っていることが条件。キエフ国立大学の例では、講師でも通常、博士候補生(カンジダット・ナウーク)の資格が必要であり、博士候補生学位非保持者に関しては、学位を一定期限年内に取得することが望まれている。日本人などの外国人講師の場合は、外国(出身国を含む、ウクライナ以外の国)で取得した学位でも認められるが、ウクライナ人の場合、ウクライナあるいはロシアなどのウクライナの学位システムと似ている国で取得した学位でないと認められないケースが多い。

学校教育以外

 特に資格要件はない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教育を主専攻にしている大学では、外国語教育課程があり、4年、5年次に教育実習を行っている。また、キエフ国立大学には6年制(修士課程)の日本語・日本文学研究課程があり、かつ博士課程の研究が可能である。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 2019年度、キエフではキエフ国立大学で2名、キエフ国立経済貿易大学で1名が正式に常勤講師として大学に雇用されている。キエフ以外の都市では、日本人教師はいない。ウクライナでは教師の待遇が非常に悪く、キエフはもちろん、それ以外の都市の大学及び初等・中等教育機関でも日本人教師の需要はあっても、なり手がいない。日本人教師に期待されている役割は、会話など口頭表現、文章表現といったノンネイティブ教師が不得手な分野の指導が主なものである。大学の広告塔的な役割も担っている。ウクライナ日本センターでは専任講師1名(国際交流基金派遣日本語専門家)、非常勤の日本人講師2名が教鞭をとっている。 専任講師1名(国際交流基金派遣日本語専門家)、非常勤の日本人講師2名が教鞭をとっている。

教師研修

 日本語教育を主専攻にしている大学では、外国語教育課程があり、4年、5年次に教育実習を行っている。
 現職教師は、日本で行われている国際交流基金の日本語教師研修(長期・短期)に参加を希望する教師が多い。

現職教師研修プログラム(一覧)

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 高等教育機関の日本語教師を中心的な会員とする「ウクライナ日本語教師会」がある。キエフで行事開催等の必要時に会議を開催し、行事の準備等を行っている。教師会の目的は、教師間のネットワーク構築、日本語・日本語教授能力の向上であり、具体的な活動には10月の日本語弁論大会、12月の日本語能力試験の運営がある。

最新動向

 ウクライナは国土が広く、地域ごとの結束の方が強い。毎年開催しているウクライナ日本語教師会主催の「日本語弁論大会」や「日本語教育セミナー」、「日本語能力試験」の実施により、地域の壁を越えたウクライナ全国の教師間の交流も生まれている。また、キエフでは、不定期ではあるが、国際交流基金派遣専門家が中心となり、現地日本語教師向けの日本語教育勉強会が行われている。
 2017年にキエフ大の基金専門家、2018年にキエフ言語大の指導助手が帰任し、現在、派遣専門家はウクライナ日本センターの専門家のみである。教師会の運営・活動は、専門家への依存が大きかったため、今後は現地ウクライナ人教師のリーダーシップが強く求められている。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2019年10月現在)

日本語専門家

 ウクライナ日本センター 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

 義務教育における外国語教育全般についてのスタンダードが教育省から発行されている。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語では既に教育省が定めたカリキュラムがあるが、日本語にはまだなく、既存のカリキュラムに合わせて開発することが期待されている。
 ただし、このスタンダードは正規の授業に適用されるもので、課外授業等で日本語教育が行われている学校では各教師が独自のシラバスを作成し、授業を行っている。

評価・試験

 客観的な到達度を測る全国共通の公的試験は実施されていないが、2005年12月よりキエフで日本語能力試験が実施されており、この試験が唯一の客観的な試験である。教育機関の資格認定としての効力はないが、就職等で日本語力の判断基準として使用されている。

日本語教育略史

1940年代 キエフ国立大学で日本語教育が始まるが中断。その後も開始と中断を繰り返す
1990年 キエフ国立言語大学附属東洋語大学で日本語教育(主専攻)開始
(他地方を含む主要大学でも日本語教育開始)
1996年 キエフ国立大学で日本語が主専攻となり、NIS諸国派遣日本語教育事業として日本からの教師の派遣が開始(この時期、他大学及び初等中等教育機関にも日本語教育が広まる)
1996年 ウクライナ日本語教師会の前身であるキエフ日本語教師会が活動を開始。第1回日本語弁論大会開催
2002年 第1回ウクライナ日本語教育セミナー開催(以降、毎年開催)
2005年 キエフで第1回日本語能力試験実施(以降、毎年12月に実施)
2006年 ウクライナ日本センターが活動開始
2009年 第1回全ウクライナ国際公開学術シンポジウム開催(以降、ウクライナ日本語教育セミナーと共同で毎年開催)
2009年9月 第14回ウクライナ日本語弁論大会開催(毎年開催)
2012年9月 東洋世界大学(キエフ)が閉校、日本語科目が所属する文学部は(私立)ウクライナ大学へ編入される
2012年11月 キエフ国立大学言語学院ボンダレンコ・イヴァン教授(日本語学科長)に旭日中綬章、リヴィウ国立工科大学フェドリシン・ミロン准教授(日本語講座長)に旭日小綬章が授与される
2013年4月 第1回GUAM諸国合同日本語弁論大会開催
2013年7月 第1回ウクライナ日本語キャンプ開催(2017年をもって終了)
2013年9月 キエフ国際大学の東洋語選択科目廃止により、日本語講座が消滅
2015年8月 キエフ国立言語大学・元講師でウクライナ日本語教師会初代会長の鄭信一(てん・しんいち)氏に平成27年度外務大臣表彰が授与される
2017年9月 リヴィウ国立大学に東京外国語大学のグローバル・ジャパン・オフィス(GJO)が開設される
2018年7月 第1回リヴィウ夏期日本語集中キャンプ開催(リヴィウ工科大学)

参考文献一覧

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