ブラジル(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
261 942 20,732
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 2,189 10.6%
中等教育 4,869 23.5%
高等教育 1,705 8.2%
学校教育以外 11,969 57.7%
合計 20,732 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

ブラジルの日本語教育は、1908年の移民開始による日系人子弟への継承語(国語)教育をその源流としている。第二次世界大戦前に、一時禁止された時期もあったが、戦後再開された。1963年にサンパウロ大学で日本語・日本文学講座(専攻課程)が開講され、高等教育機関での日本語教育が始まり、1989年には、サンパウロ州、パラナ州の教育局の言語センター(サンパウロ州はCEL-SP、パラナ州はCELEM-PR)で中等教育段階の生徒を対象とした日本語教育が開始されるなど、日系人以外も学校教育、学校教育外のさまざまな場面で日本語学習の機会が増加している。
近年の動きとしては、2016年2月よりアマゾナス州の州立中学校Djalma da Cunha Batista校にて、全日制のポルトガル語・日本語のバイリンガルコースが開始された。6年生から9年生が「日本語」の科目の他、数学、理科をポルトガル語・日本語の二言語で学ぶ。2019年度より、Djalma校の卒業生を受け入れている高校(全日制州立校Profa. Jacimar da Silva Gama)もバイリンガル校になり、日本語が必修科目として取り入れられている。
 2016年5月にブラジル教育省とJFとの間で連邦大学における日本語教育支援に関する合意書が締結され、同年10月より、「国境なき言語」プログラム(以下、IsF)による日本語教育が開始された。これにより英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語と同様、日本語もIsFを構成する言語のひとつとして正式に提供されるようになった。IsFの運営主体は、2021年10月開講分よりブラジル教育省から全国連邦高等教育機関学長協会(Rede-ANDIFES)へ移管されている。
 ブラジリア特別連邦区(以下、DF)の言語センター(CIL)では、試験的に日本語コースが導入されていたが、2017年度より正式に提供されることになった。その後、日本語コースを提供する学校は順調に増え、2022年現在、8校で日本語コースが導入されている。教師も、13~14名程度がDF州教育局に正式に雇用されている。
【注】サンパウロ州、パラナ州、DFの言語学習センターは、各州教育局が管区内の中等教育機関施設内に生徒の課外活動や、地域住民への公開外国語講座として設置されているもので、独立した施設を有するものではない。

背景

 上記のとおり、ブラジルの日本語教育は、日本人移民子弟の継承語教育を源流としており、現在、200万人いると言われる日系社会を背景に発展してきた。ただ、日系社会でも世代を経るにつれポルトガル語化が進み、国語の教科書を使用した「継承語教育」は、現在では一部の学校のみとなり、主流は「外国語としての日本語教育」となっている。一方、1990年以降、ポップカルチャーへの関心から日本語学習を始める非日系の学習者も増加している。また、1990年代のいわゆる「デカセギ」ブームから日本との往来が増加し、近年では「帰国生」と呼ばれる日本で生活した子ども達が注目されている。

特徴

 2021年度海外日本語教育機関調査(以下、2021年度機関調査)によると、学習者の約58%が学校教育以外の機関で学んでいる。1990年調査時には同割合が98%であったことを考えると、その比率は下がっているが、なお半数以上が学校教育以外で学んでいる。また、日本語教育の発展の歴史的経緯から、子どもの学習者が多いのが特徴で、初等・中等教育の学習者は2021年度機関調査で約34%を占める。また、日系社会が運営する学校では、文化継承、情操教育なども教育目的とする機関もあり、その内容も特徴的であるといえる。

最新動向

 コロナ禍の中、初等中等教育及び高等教育機関がオンライン授業を開始した。そのため、オンライン教材、日本語学習アプリの需要が高まっており、州立学校附属の言語センターを運営する州教育局のサイトでは教師用、及び生徒用のオンライン教材のリンクが掲載されることになった。JFが開発した教材やアプリも共有している。JFは「まるごとオンラインコース」(自習コース)1-1、1-2ポルトガル語版を2020年10月に、JFサンパウロ日本文化センターは、2022年に『いろどり 生活の日本語』のポルトガル語版を公開した。
 コロナ禍の状況が比較的落ち着いてきた2021年8月より、学校教育は一部の州で通学が復活し、2022年には大学も含めほぼ全校で対面授業(一部オンライン授業も実施している)に戻るなどしている。しかし、2020年はコロナ禍で学期が止まった大学が多かったため、通常の学事予定に戻るのに休暇期間や学期を短縮するなど、数年かけて元の学事予定に戻ろうと対策を講じている。
 日本語学校では、コロナ禍で授業がオンラインに切り替わり、学生数が減少した機関がほとんどだった。2022年現在、その落ち込みは回復傾向だが、コロナ禍発生前の水準に戻っていない機関が多い。授業も対面、ハイブリッド、オンライン授業と学習者のニーズをくみ取りながら実施している。また、コロナ禍の影響で2020~21年中に閉校した機関も少なくない。

教育段階別の状況

 「基礎課程(Fundamental I、II)」と「中等課程(Médio)」の9-3制となっている。  「基礎課程1」は1-5年生の5年間で、【初等教育】に相当する。「基礎課程2」は6-9年生の4年間で、【中等教育】(日本の中学校)に相当する。「中等課程」は1-3年生の3年間で【中等教育】(日本の高校)に相当する

初等教育

 公立校では、パラナ州クリチバ市の市立1校において、パラナ連邦大学日本語学科の教育実習の一環として提供されている。私立校では、就学前の段階(幼稚園)から「基礎課程1、2」までの10年近く日本語教育を行う学校が、全国に10数校存在する。もとは日系移民のための学校であった機関が、バイリンガル校として再スタートした場合が多い。選択科目もしくは課外活動という位置づけがほとんどである。

中等教育

 公立の学校では、「基礎課程2」の6年生(日本の小学6年生に相当)から第1外国語(英語)が導入されている。第2外国語は、地域や学校によりスペイン語、フランス語、ドイツ語などから選択できるところもある。日本語教育は、サンパウロ州、パラナ州、ブラジリア連邦区(DF)の教育局が運営する言語センター傘下の機関で課外活動として行われているものと、バイリンガル教育を実施する学校がある。言語センターがない州で課外活動として日本語教育を実施している学校も存在する。
言語センターは、2022年現在、実施校のうち40数校で日本語コースが提供されている。また、リオデジャネイロ州立大学のプロジェクトとして、リオ州中等教育機関にて日本語教室を実施しており、2020年に3校目が開講された。
 中等教育段階の公立校で日本語が導入されているのは前述3州のほか、アマゾナス州のDjalma da Cunha Batista州立学校(バイリンガル中学校)及びProfa. Jacimar da Silva Gama州立学校(バイリンガル高校)、リオグランデドスル州のTiradentes州立学校(課外科目)リオデジャネイロ州では、前述の3校に加え、2022年よりJosé Maria de Brito Intercultural Brasil-Japão州立学校(バイリンガル校)が開校された。
 なお、【初等教育】で述べた通り、日本語教育を導入している私立校のうち、「基礎課程2」の9年生まで日本語を継続して学習できる学校は多いが、中等課程まで続けられる学校はわずかである。

高等教育

 日本語教育の位置づけとしては、専攻課程、卒業単位として認定される正規の選択科目、そして公開講座がある。
 ブラジルの高等教育機関で日本語の専攻課程を持つ機関は9大学(通信教育の私立大学1校を含む)で、サンパウロ大学(州立)、リオデジャネイロ連邦大学、ブラジリア連邦大学、パウリスタ州立大学アシス校、リオグランデドスル連邦大学、リオデジャネイロ州立大学、パラナ州連邦大学、アマゾナス連邦大学、クルゼイロドスル大学(私立)である。
 サンパウロ大学は日本語・日本文学、特に古典文学を中心とした研究者養成、リオグランデドスル連邦大学は近現代日本文学を中心に翻訳者養成、そのほかの7校は教員養成に重点を置いている。大学院課程としては、唯一サンパウロ大学に修士課程があるものの博士課程はない。ブラジルの大学では、日本研究や日本語教育研究は専門研究分野として地位が十分確立されていない。正規科目としての選択科目があるのは、ブラジリア連邦大学、カンピーナス大学(州立)の2校である。
 学校教育以外に区分される公開講座として日本語講座を開講している大学は、ブラジル全土に20校存在する。
 2016年10月より、5つの連邦大学(リオデジャネイロ連邦大学、ブラジリア連邦大学、リオグランデドスル連邦大学、パラナ州連邦大学、アマゾナス連邦大学)において、ブラジル教育省のプログラムである「国境なき言語(IsF)」にて日本語教育講座が開始された。この公開講座は、大学の国際化とそれに伴う高等教育の充実のための語学教育を目的とし、その大学に在籍する学生と教職員を対象とした。その後、2017年にパウリスタ州立大学アシス校が、2019年後期からは、リオグランデドスル連邦大学からチューター(日本語を専攻する学生が務める日本語指導員)を派遣することで、日本語専攻科がなくても日本語講座を提供する大学(ポルトアレグレ医療福祉大学)が1校加わり、合計7大学で講座が実施された。 IsFは、2021年より全国連邦高等教育機関学長協会 (ANDIFES)が運営主体となった。2022年から、前述の5大学日本語専攻の学生チューターが授業を担当する日本語講座を、全国の52連邦大学の学生が受講可能となった。その背景には、ANDIFESがオンライン講座に切り替えたことがある。
私立大学の日本語コースは5校で開講されており、すべて公開講座である。

学校教育以外

 「学校教育以外」の内訳としては、日系団体経営の日本語学校、民間の外国語学校、大学における公開講座などがある。学習者は20~30代の学生や社会人が多いが、児童・生徒も少なくない。地方都市では、学習者数は4~5人から20~30人規模で、土曜日しか開講しない機関が多い。地方都市でも中核的存在の機関や公開講座の場合は、100~人程度の学習者がいる。特に規模が大きい機関では、例えばサンパウロ市にある日伯文化連盟(アリアンサ)は2022年時点で約700人、ブラジル全土に展開する公文式日本語教室はそれ以上の規模の学習者を擁する。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 9-3制(基礎教育9年[日本の小、中学校に相当]、中等教育3年[日本の高校])
 2005年までは8-3制であったが、2006年から現行制度となった。義務教育段階は前半の9年間(ブラジルでの呼称は「基礎課程(Ensino Fundamental)」)。スクールカレンダーは、一般に2~6月が第1学期、8~1月が第2学期、7月が冬休み、1月が夏休み期間である。
 「基礎課程1、2」は、午前・午後の2部制、「中等課程(Ensino Médio)」と大学は午前・午後・夜間の3部制をとっている。政府には2部制から全日制に移行する計画はあるものの、一部でしか実施されていない。リオデジャネイロ州では、学校を全日制にするため、プログラムとしてESCOLA DUPLA(ダブルスクール)というものを実施し始めている。本プロジェクトは、必修科目の時間以外に英語以外の外国語、美術、裁縫、調理などを提供するものである。働きながら学校・大学・大学院に通うことはごく普通のこととされ、就職に際しても3部制による差別はない。

教育行政

 公立学校は、大学を含め無料である。教育局(市及び州)または教育省(連邦政府)が管轄する。

言語事情

 公用語・国語はポルトガル語であり、全土にわたってポルトガル語が通用する。移民が多い国であることから方言などの地域的特徴が残る。今も移民言語(日本語、ドイツ語)が、日常的に使われている地域もある。

外国語教育

 前述したように、「基礎課程2」の6年生から第1外国語が、「中等課程」の1年生から第2外国語が導入されている。外国語の選択権は各学校にあるが、大学入試などの影響で第1外国語はほとんど英語が、第2外国語はほとんどスペイン語が選ばれている。

外国語の中での日本語の人気

 英語、スペイン語を学ぶ人が多いが、ほかには、フランス語、ドイツ語、イタリア語など人気がある。東洋言語としては日本語の人気が一番高いが、近年中国語や韓国語を教える学校も増えてきた。課外活動として外国語を教えるサンパウロ州教育局の言語センター(CEL-SP)によると、2022年度に開講している学校数を多い順に並べると、スペイン語、英語、フランス語、イタリア語、日本語、ドイツ語、中国語の順となる。なお、CELのコースには、他に手話、外国語としてのポルトガル語講座も開講されている。
 また、パラナ州教育局の言語センター(CELEM-PR)では、スペイン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、日本語、中国語、ウクライナ語、ポーランド語の順にコース数が多い。2018年度から、上記コース以外に外国語としてのポルトガル語と手話のコースが開始された。外国語としてのポルトガル語を取り入れた理由は、パラナ州にハイチ及びシリアからの難民子弟が多く州立学校に通うようになったためとのこと。
 ブラジリア連邦区の言語センター(CIL)では、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語が正式な科目として導入され、日本語は2017年度より正式に提供されるようになった。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

 児童・生徒を対象にした継承語教育を中心に第二次世界大戦以前から教材開発が行われ、1990年代以降は外国語教育への移行を目指した教材も開発された。現在もそれらを使っているところもあれば、日本で発行された教材を使っているところもある。

初等教育

 絵カードや文字カードやぬりえ、歌、踊りを中心に遊びながら日本語に慣れる指導が行われている。
 『きそにほんご』橿元洋子(ラボ・日本語)や、『1・2・3日本語で話しましょう』日本語普及センター教科書編集委員会(日本語普及センター)などブラジルで開発された教材のほか、『日本語ドレミ』(公財)海外日系人協会、独立行政法人国際協力機構(JICA)や、『こどものにほんご』ひょうご日本語教師連絡会議 子どもの日本語研究会(スリーエーネットワーク)など日本で開発された教材も使われている。これらをもとにした自作プリントも使われている。

中等教育

 サンパウロ州教育局の言語センター(CEL)と、アマゾナス州のDjalma da Cunha Batista州立学校(バイリンガル校)では、教育局の要請によりJFサンパウロ日本文化センターが協力して制作した教科書『ことばな』が使用されている。そのほかの公立の学校では、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、“JAPANESE FOR YOUNG PEOPLE” (AJALT)、『きそにほんご』橿本洋子(ラボ・日本語)が使われている。私立の学校の場合、前述した教材に加え、自作プリントを作成し使用している。日系人子弟を中心とする学校では、『新しい国語』(東京書籍)も使用されている。

高等教育

 日本語専攻の機関では半数以上で『みんなの日本語』(前出)が使用されている。そのほか『まるごと』(国際交流基金)、『テーマ別 中級から学ぶ日本語』松田浩志、亀田美保(研究社)、『生きた素材で学ぶ新・中級から上級への日本語』鎌田修他(ジャパンタイムズ)、『Intermediate Kanji Book 』加納千恵子他(凡人社)、『中級から上級への日本語なりきりリスニング』鎌田修他(ジャパンタイムズ)、『留学生のための理論的な文章の書き方』二通信子他(スリーエーネットワーク)、『上級へのとびら―コンテンツとマルチメディアで学ぶ日本語』(くろしお出版)、 自作教材、などが使用されている。

学校教育以外

 ブラジルで開発された『きそにほんご』(前出)、『1・2・3日本語で話しましょう』(前出)のほか、日本で開発された、『みんなの日本語』(前出)、『大地』(前出)、『にほんごドレミ』及び『にほんごジャンプ』海外日系人協会(国際協力機構)、『JAPANESE FOR YOUNG PEOPLE』(前出)、『こどものにほんご』(前出)、『にほんご1・2・3』寺内久仁子他(アルク)などが使用されている。 近年、『まるごと』(前出)への関心が高まり、日伯文化連盟(アリアンサ)や大学の公開講座など採用例が増加している。 講座のオンライン化が進み、『いろどり 生活の日本語』(前出)などオンラインで利用する教材への興味が強まっている。

IT・視聴覚機材

 都市部を中心にICT化が進んでいる。一方、公立の日本語教育機関では、PC、インターネット、WiFi設備が充実していないところも多い。その中でブラジルなどポルトガル語圏を対象に、民間日本語学校や個人が日本語学習をテーマとした独学者向けYouTubeチャンネル、Instagramアカウントを開設している。  

教師

資格要件

初等教育

 ブラジル国籍及びブラジルの教員資格

中等教育

 ブラジル国籍及びブラジルの教員資格
 なお、言語センター日本語教師の採用状況は州教育局によって異なる。例えばCILでは、常勤教師としての採用試験が実施されている。CEL-SPCELEM-PRでは他教科の教師が日本語科目を兼任する場合と、非常勤職員として雇用される場合がある。

高等教育

 国籍、教員資格規定なし。応募資格は大学によって修士課程修了以上の学歴を有するもの、博士課程修了以上の学歴を有するもの、大学院で文学、言語学、応用言語学を専攻しているもの、大学で日本語を専攻しているもの、あるいは文学部または関連分野となっていたりさまざまである。日本語科目の場合ブラジル国内に博士課程が存在しないため、今なお修士号取得者の教員も少なくないが、関連領域(言語学や文学)での博士号取得者が増えてきている。

学校教育以外

 特に資格が問われず、日本語が話せれば教師になれることが多い。長年日系人の職業と見なされてきたが、ブラジルの大学の日本語学科を卒業した人など、1990年代後半から非日系人の教師も増えてきた。近年、親の移動に伴い母語が日本語となって帰国した日系人で教師をする者も出てきている。

日本語教師養成機関(プログラム)

 ブラジルの大学の日本語学科のほとんどは、卒業要件として教員養成課程の単位取得を含めている。リオデジャネイロ連邦大学、ブラジリア連邦大学、パウリスタ州立大学アシス校、リオデジャネイロ州立大学、パラナ連邦大学、アマゾナス連邦大学で、教育実習も行われている。
 そのほか、公認の資格ではないが、ブラジル日本語センター(以下、CBLJ)が毎年1年間の日本語教師養成講座を有料で開講している。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 結婚等による永住予定の日本人教師と、国際協力機構(以下、JICA)や日本の地方自治体を通じての短期の派遣者が存在する。ネイティブ教師は、会話指導や日本文化の最新情報の提供を期待されている。そのほか、日本語が母語となって帰国した日系人の児童・生徒の日本語力の維持などを担当している場合もある。

初等教育

 ブラジル国籍と、ブラジルの教員資格が必要なため、日本人教師の雇用は確認されていない。ただし、JICAボランティアが派遣されている教育機関では、JICAボランティアが有資格者と共にアシスタントとして教室に入ることがある。

中等教育

 上記【初等教育】に同じ。

高等教育

 日本でポルトガル語やブラジル研究を専攻した人、JICA等の派遣を終了したあと永住した方などが、若干名雇用されている。

学校教育以外

 ネイティブ教師のほとんどが学校教育以外で雇用されている。

教師研修

現職教師研修プログラム

 初等・中等教育の教師を対象とした研修は、JFサンパウロ日本文化センターにおいて、1年に1回実施している。学校教育以外に区分される日系の日本語学校の場合は、地域・州ごとに定期研修会を行っているほか、CBLJが実施する全伯日本語教師合同研修会や、近隣諸国からも参加がある汎米日本語教師合同研修会にも参加できる。高等教育の教師を対象とした研修会はないが、地域の研修会に個人的に参加する教師もいる。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 2002年4月に大学の日本語・日本研究の研究者が中心となってブラジル日本研究学会(ABEJ)が発足した。2年に1回、会場持ち回りで3日間の大会を開催している。言語・教育、文学、文化の3つのテーマを交替で扱う。
 日系社会内の日本語学校に関しては、ブラジル日本語センター(CBLJ)が、ネットワーク形成、学習者支援プログラム、教師養成講座及び現職教師研修を行っている。日系社会内の日本語学校のネットワークは地域ブロックごとにブラジル全体で20近く存在するが、日系社会を越えた連携はほとんどない。

最新動向

 ブラジル日本研究学会は、2023年8-9月頃、リオデジャネイロ州ニテロイ市のフルミネンセ連邦大学にて学会を実施する予定。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)

日本語上級専門家

  • サンパウロ日本文化センター 1名

日本語専門家

  • サンパウロ日本文化センター 2名

国際協力機構(JICA)からの派遣(2022年10月現在)

日系社会青年海外協力隊・日系社会海外協力隊

  • ジャカレイ日本語学校 1名
  • リオデジャネイロ州日伯文化体育連盟 1名

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

初等教育

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない。

中等教育

 ガイドラインを州・市単位で有するが、英語やスペイン語など諸言語に共通の一般的なものである。なお、カリキュラムは学校単位でかなり自由に設定できる。

高等教育

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない。

学校教育以外

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない。

評価・試験

 到達度を測る基準として日本語能力試験が位置づけられている。実利ではなく日本語・日本文化への興味から日本語を始める学習者が大半なので、実施は年1回で受験者数も学習者全体の15%程度にとどまっている。日本語能力試験で測れるN5以前のテストとして、CBLJが「センターテスト」を実施している。ほかに、2009年から公益財団法人日本漢字能力検定協会ブラジル連絡事務所による、日本漢字能力検定試験が行われている。2018年J-TESTがブラジルで初めて実施された。

日本語教育略史

1908年 笠戸丸移民(第1回日本移民)
1915年 大正小学校創立
1938年 外国語学校閉鎖令
1956年 日伯文化連盟創立
1963年 サンパウロ大学に日本語日本文学講座(専攻課程)開設
1968年 サンパウロ大学に日本文化研究所設立
1979年 リオデジャネイロ連邦大学に日本語講座(専攻課程)開設
1985年 日本語普及センター(現、ブラジル日本語センター CBLJ)設立
1986年 リオグランデドスル連邦大学に日本語・翻訳講座(専攻課程)開設
1989年 サンパウロ州、パラナ州の州立学校(中等教育段階)で日本語コース開講
1992年 パウリスタ州立大学アシス校に日本語講座(専攻課程)開設
1994年 JFサンパウロ日本語センター(現、JFサンパウロ日本文化センター)設立
1996年 サンパウロ大学に日本語・日本文学・日本文化大学院(修士課程)開設
1997年 ブラジリア連邦大学に日本語講座(専攻課程)開設
2002年 ABEJ(ブラジル日本研究学会)発足
2004年 リオデジャネイロ州立大学に日本語講座(専攻課程)開設
2009年 パラナ州連邦大学に日本語講座(専攻課程)開設
2011年 ブラジリア連邦特別区の州立学校(中等教育段階)で日本語コース開講
2011年 アマゾナス連邦大学に日本語講座(専攻課程)開設
2016年 リオデジャネイロ連邦大学、ブラジリア連邦大学、リオグランデドスル連邦大学、パラナ州連邦大学、アマゾナス連邦大学に「国境なき言語」プログラム日本語コース開設
アマゾナス州Djalma da Cunha Batista州立高校(バイリンガル校)日本語コース開設
2017年 サンパウロ州立パウリスタ大学にIsF日本語コース開設
2018年 J-TEST実施開始
2019年 アマゾナス州Profa. Jacimar da Silva Gama全日制州立学校(高校)(バイリンガル校)日本語コース開設
2021年 IsFの運営主体がブラジル教育省からANDIFESへ移管。5つの連邦大学の学生へ日本語コースの提供を開始
2022年 リオデジャネイロ州に Colégio Estadual José Maria de Brito Intercultural Brasil-Japão(バイリンガル校)開校
2022年 IsF外国語コース提供対象が全ての連邦大学(52大学)へ拡大
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