カナダ(2022年度)
日本語教育 国・地域別情報
2021年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
131 | 566 | 18,293 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 128 | 0.7% |
中等教育 | 4,000 | 21.9% |
高等教育 | 10,241 | 56.0% |
学校教育以外 | 3,924 | 21.5% |
合計 | 18,293 | 100% |
(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
最初の日本人移民は1877年にブリティッシュ・コロンビア州で記録されている。日本人または日系人のための私塾的教育施設は19世紀の移住初期にも存在したが、最初の学校組織は、バンクーバー領事森川季四郎氏の提唱により1906年に設立された「バンクーバー共立国民学校」である。これは外国語としての日本語教育のための学校組織ではなく、日本国内の国民学校に準じ、日本の教育制度をカナダに持ち込んだものであった。
1910年代前半からブリティッシュ・コロンビア州の各地に日本語学校が設立されるようになり、1920年代に日本語学校が急増し、1923年「加奈陀日本語学校教育会」が発足した。1930年代、こうした日本語学校は日本帝国主義を教授する機関とみなされていたが、法的にも財政的にもカナダ社会から独立していたため、1940年にブリティッシュ・コロンビア州文部大臣の提案した「外国語学校取締令」が議会を通過するまで、その設立、経営は自由に行われた。
1941年、第二次世界大戦勃発により、カナダ連邦警察の提言によって54校の日本語学校はすべて自発的に閉鎖となったが、1949年以降、継承語教育、高等教育、初等・中等教育のそれぞれの機関での日本語教育が行われている(1949年に戦後初の日本語学校「トロント日本語学校」が開校)。1952年に高等教育(ブリティッシュ・コロンビア大学)、1963年に中等教育(マギー高校)における日本語教育がブリティッシュ・コロンビア州で開始)。
2000年代前半、ブリティッシュ・コロンビア州の高校における、日本語をはじめとするアジア言語の受講率は減少傾向にあった(「Asia Pacific Studies in the Secondary Schools of British Columbia」Asia Pacific Foundation of Canada調査)が、2000年代後半には、ポップカルチャーに対する人気、カリキュラム見直しや新規作成により、ブリティッシュ・コロンビア州やアルバータ州において、学習者の増加が見られた。
ところが、近年の海外日本語教育機関調査の結果から、カナダ全土における学習者数は減少傾向にあることがわかっている。特に、ブリティッシュ・コロンビア州の中等教育機関の学習者に最も顕著な変化が見られる。
背景
1969年に連邦政府による公用語法が制定され、英語とフランス語がカナダの公用語となり、ついで、1971年に連邦政府の多文化政策が打ち出された。多文化政策に基づき、1977年には公用語以外の継承語教育に対して、教師給与の一部援助、教材開発、教師研修など、財政援助がなされた。1988年には連邦政府の多文化主義法が制定されるが、不況のため、連邦政府の教師給与援助は翌1989年に打ち切られた。
教育は州政府による管轄のため、州によりかなり異なる状況がある。日本語教育においても全国共通のスタンダード、カリキュラムなどは存在せず、州ごと、または州によってはっきりしたスタンダードがない場合は機関ごとに決定される。
日系移民が西部に集中していたという歴史的背景などから、日本語の浸透度、重要度も地域差が大きく、概して西において双方とも高く、西部州がより日本語教育に積極的な傾向にある。
特徴
カナダの教育機関の学習者はその7割以上が学校教育(初等・中等・高等)の学習者である。以前はその半数以上は初等・中等教育機関の学習者が占めていたが、初等・中等教育機関の学習者の減少により、現在最も大きな割合を占めるのは高等教育機関の学習者となっている。また、2009年度日本語教育機関調査まで増加を続けていた学校教育以外の機関(語学学校、成人教育、継承語学校等)の学習者数も、近年減少を続けている。
多くの州で行われている高等教育機関の日本語教育では、日本文化(特にポップカルチャー)への興味から日本語履修を希望する学生が多く、大学側の受入れ可能な人数を超過し履修のキャンセル待ちを余儀なくされることもある。
その他、主な州の特徴は以下のとおり。
<ブリティッシュ・コロンビア州>
カナダの学習者全体の4割が存在するブリティッシュ・コロンビア州では、以前は初等・中等教育機関の学習者が多数を占めていたが、2021年調査において、全体の約5割が高等教育機関の学習者となった。学校教育制度の中で日本語は正規科目として、5年生(日本の小学5年生に相当)から12年生(日本の高校3年生に相当)までのカリキュラム・スタンダードが確立されている。近年の海外日本語教育機関調査では、ブリティッシュ・コロンビア州の中等教育機関の日本語学習者が大幅に減少を続けていることがわかってきたが、この背景には、必修科目ではない日本語講座の維持が財政的な事情で困難なこと、教師の退職と共に講座が閉鎖されるケースが起こっていること、さらには講座開講に必要な学習者数に満たないため2つ以上の異なるレベルのクラスを合同で教えなければならない状況の中、講座の質の維持も難しく、さらに履修希望者が減少するという悪循環が起こっていることなどがある。
<アルバータ州>
アルバータ州でもブリティッシュ・コロンビア州と同様に、1995年に10年生(日本の高校1年生に相当)から12年生(日本の高校3年生に相当)までの日本語カリキュラム・スタンダードが認定された。アルバータ州の学習者のほとんどが学校教育で行われ、学習者数は、高等教育段階と初等・中等教育段階がほぼ同数であることはこのような事情による。
初等・中等教育段階の一部である4年生(日本の小学校4年生に相当)から9年生(日本の中学3年生に相当)までの第二言語を選択必修化する2006年度の案が、2007年度に入って州政府の方針として取り下げられることが決まったが、州政府から教育委員会に対する第二言語教育に対する支援は引き続き行われ、オンライン教材の作成・提供、カリキュラム開発が行われた。4年生から12年生までの9年間カリキュラム、7年生から12年生までの6年間カリキュラム、10年生(日本の高校1年生に相当)から12年生までの3年間カリキュラムはすでに整備されている。2022年度現在、今後数年のうちに日本語のカリキュラム改定が予定されている。
<サスカチュワン州>
州都リジャイナでは、リジャイナ大学で、主専攻及び選択科目としての日本語講座が開かれている他、継承語として日本語を教える機関が1つある。また、サスカトゥーン市でもサスカチュワン大学、中等教育機関3機関と、継承語として日本語を教える機関で日本語教育が行われている。
<マニトバ州>
マニトバ州では、初等・中等教育機関でも日本語の選択が認められている。継承語としての日本語教育を主に扱う機関において、アルバータ州の小学校4年から整備されている指導要領を参考にする動きも見られる。一方、不況による予算削減が教育費に与える影響は大きく、複式学級(2つ以上の学年または複数言語を同一教室で教えるクラス)の増加やクラスサイズの拡大といった傾向が目立つ。初等・中等教育機関では、日本語・日本文化に興味を持つ学生が多いことが日本語講座開講に結びつくとは限らず、校長や教育委員会の意向で助成金や支援が多く見込める言語が優先されることも少なくない。
<オンタリオ州>
高等教育機関における日本語教育が中心であるが、学校教育以外の機関が他州と比べて多いことが特徴である。9年生から12年生(中学3年生から高校3年生相当)は選択科目として日本語が履修できる。
<ケベック州>
ケベック州でも、高等教育機関と学校教育以外の機関で日本語教育が行われており、学習者の増加が認められる。
<その他の東部・沿海州(ニューファンドランド州、ノバスコシア州、プリンス・エドワード・アイランド州、ニューブランズウィック州)>
東部・沿海州では日本語教育はほとんど行われておらず、限られた数の高等教育機関、または私塾によって運営されているのが現状である。
最新動向
- 新型コロナウィルスの影響により、2021年も引き続き高等教育機関はほぼすべてがオンラインでの授業を実施、学校教育以外についても多くの機関がオンラインに移行した。2022年9月からの新学期においては多くの教育機関が対面授業に戻ったが、高等教育機関やその他の教育機関においてはハイブリッド、ハイフレックス、オンラインなど、オンライン学習を一部、または全部残している機関も存在する。
- ブリティッシュ・コロンビア州において2016年以来行われていたカリキュラム改定が移行期間を終え、2019年度よりコンセプトベースの新カリキュラムをもって学校教育が実施されている。これに続き、アルバータ州においてもコンセプトベースの新カリキュラムが開発中である。基礎科目から開発が進められているため、日本語の新カリキュラムがいつ実施されるかは未定である。
- 継承語としての日本語教育について、カナダ国内の関心が高まってきている。2019年より年に2回、カナダで継承語としての日本語教育に関わる保護者、教師など関係者を対象とした情報交換会「継承語オンラインネットワーク」が開かれている他、2020年にカナダで子育てをする方への応援サイト「日本語で育てよう」が開設され、同サイト主催のオンラインセミナーが行われている。
教育段階別の状況
初等教育
初等教育における日本語教育も少数だが行われており、ブリティッシュ・コロンビア州には、日本語や日本文化に触れる授業を、学校として特徴づけている小学校もある。
中等教育
第二言語としての日本語を必修としている州はないが、選択科目としての単位は認定されている。公立学校においては、教育委員会や学校によって、ブリティッシュ・コロンビア州では5年生から12年生まで、サスカチュワン州とマニトバ州は10年生から12年生まで、オンタリオ州では9年生から12年生までの単位コースを選択することが可能である。アルバータ州では10年生から12年生までの3年間カリキュラム、7年生から12年生までの6年間カリキュラム、4年生から12年生までの9年間カリキュラムが開発されている。
高等教育
日本語は東アジア学部、または言語学部の科目の1つとして開講されている。第二言語が選択必修とされている大学では、専攻にかかわらず日本語を卒業に必要な単位として使うことができる。日本研究や言語学としての日本語研究をする学生を特に対象とした日本語授業は設けられておらず、他の専攻の学生と同じ授業を受けている。
学校教育以外
(1)継承語としての日本語教育を行ってきた学校、(2)大学、カレッジなどの高等教育機関が開講している市民向け成人教育講座、(3)その他さまざまな形態の民間日本語学校が中心となっている。
- (1) 継承語としての日本語教育は、戦前からの移民に加え、国際結婚、留学、起業などのさまざまな理由による日系移民の増加や移民社会の変容に伴って、そのニーズと共に変化している。主に土曜日などに継承語としての日本語教育を提供している機関は、日本語だけで行う日系人子弟を対象とした講座のみならず、家庭での日本語使用がほとんどない日系人や非日系人を対象とした英語を媒体とした年少者対象講座や、社会人や高校生が通える成人対象講座など、更に広い範囲を対象とした日本語教育を実施している。
- (2) 大学、カレッジなどの高等教育機関が開講している市民向け成人教育講座はコンティニュイング・エデュケーション、エクステンションなどと呼ばれ、主に夜間開講されている。大学など高等教育機関の一部として、主に、成人対象として設置されている機関であるが、学内の学生対象の講座とはカリキュラム、講師、運営も異なる。受講者は主に日本・日本語に興味がある社会人が多く、仕事で日本語が必要だというケースもある。近辺に日本語講座を開講している高校がないため、これらの講座を利用する高校生や、専攻が違うなど大学内での日本語講座の履修ができない大学生、また、日本への旅行のためや、カナダにいる日本人とコミュニケーションをとるために日本語が話せるようになりたいなど、さまざまな理由をもった学習者が在籍する。
- (3) トロント、バンクーバーなどの人口が集中する都市部では、幅広い学習者を対象とした民間日本語学校や、日本語を使用する幼稚園、年少者のプレイグループ、企業内での日本語講座など、さまざまな形態の日本語教育機関が存在する。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
教育制度は州によって異なるが、一般的にはパブリック教育委員会、カトリック教育委員会、英語圏にはフランス語教育委員会、フランス語圏には英語教育委員会などが共存し、私立学校も存在する。
就学前教育(幼稚園)は4、5歳が対象。初等・中等教育は12年間。初等と中等の境目は、一般的には6年生だが、州によって異なる。また、ケベック州では、中等教育は11年生までで、大学進学希望者にはCEGEP(College d'Enseignement General et Professionnel)と呼ばれる2年間の基礎教養課程が存在する。
高等教育機関は、短大(2年または3年コース)、大学(3年または4年コース)、大学院修士課程(1年から2年)、博士課程(3年)が一般的ではあるが、学校や専攻により大きく異なる。
義務教育は州によって多少異なるが、一般的に6~7歳から16歳まで。(URL:https://www.cicic.ca/docs/PTeducation/Canada-s-Education-Systems-PDF.pdf)
教育行政
州ごとの教育省が管轄。連邦レベルの教育省はないが、各州の教育大臣協議会(Council of Ministers of Education, Canada(CMEC))が設けられている。
言語事情
連邦政府としての公用語は英語とフランス語の2言語。州の公用語も別にあり、州によっては4つの公用語を有するところもある。公用語法の目的の一つに、「英語とフランス語の少数派コミュニティの発展を支援し、カナダの社会で英語とフランス語の両方が十分に認められ、使用されるように図る」とあるように、ケベック州やフランス語教育委員会では英語、それ以外の地域ではフランス語が第二言語として初等教育から教えられる。
https://www.cmec.ca/154/Official_Languages.html
外国語教育
初等・中等教育段階での外国語教育については、大きく分けて、移民社会を背景とする継承語としての教育と、学校教育としての第二言語教育の2つが存在するが、その実態は州ごと、都市(自治体)ごと、機関ごとに大きく異なる。日本語教育ではあまり見られない現象だが、他の言語教育では、学校教育としての第二言語教育においても、学習者の言語背景に関わりなく行われる外国語教育という側面と、それぞれの言語背景を持つ移民コミュニティの子弟への言語継承のための教育という側面が混在している。学校教育としての第二言語教育科目(選択科目)として、ブリティッシュ・コロンビア州では日本語、ドイツ語、アメリカ手話、中国語(標準語)、パンジャブ語、スペイン語などが選択でき、また、アルバータ州では、フランス語をはじめ、イタリア語、ウクライナ語、スペイン語、中国語、ドイツ語、日本語、パンジャブ語、アラビア語など各言語のカリキュラム開発を行っているが、その他の州では履修できる言語がかなり限られている。
外国語の中での日本語の人気
特に高等教育機関における日本語の人気は高く、履修定員を大幅に上回る履修希望者があり、多くの大学で多数の待機者が出ている。しかし、大学によってはビジネスコースの学生を中心に中国語やスペイン語に人気が集まっている。スペイン語については冬季の旅行先として南米の人気が高いことも一因としてあるようである。
大学入試での日本語の扱い
カナダでは大学入試はなく、高校での取得単位の内容で大学の合否が決まる。大学や専攻により必要取得単位は異なるが、ブリティッシュ・コロンビア州、アルバータ州、オンタリオ州、マニトバ州は日本語の単位を使用することは可能。ブリティッシュ・コロンビア州では、日本語能力試験の合格結果を高校の単位へ変換可能。
学習環境
教材
初等教育
次項【中等教育】を参照のこと。
中等教育
学校ごとに大きく異なり、特定の教科書がない場合も多い。教科書を使用している学校では、以下のものが多く利用されている。
『Obento』シリーズ(Nelson ITP)、『Ima!』Sue Burnham(CIS/Heinnemann, EMC)、『Kimono』シリーズ(EMC Publishing)、『げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)、『なかま』Seiichi Makino(Houghton Mifflin)、『Adventure in Japanese』Hiromi Peterson & Naomi Omizo(Cheng & Tsui Company)、『JAPANESE FOR YOUNG PEOPLE』国際日本語普及協会(講談社USA)など。 2018年ごろから『まるごと 日本のことばと文化』(国際交流基金)も利用され始めた。また、副教材として『エリンが挑戦!にほんごできます。』(国際交流基金)も使われている。
高等教育
学校ごとに大きく異なり、独自に開発した教材・教科書を使用する場合も多く見られる。市販の教科書を使用している学校では、以下のものが多く利用されている。
『げんき』(前出)、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『なかま』(前出)、『ようこそ』富作靖彦(McGraw-Hill)、『JAPANESE FOR BUSY PEOPLE』国際日本語普及協会(講談社USA)など。2018年ごろから『まるごと 日本のことばと文化』(前出)も利用され始め、初級は既存のプログラムのままで中級から『まるごと』B1の使用を始める事例がみられる。
学校教育以外
機関ごとに大きく異なるが、子ども対象の継承語学校では光村図書版の国語教科書を使用する場合が多く、成人対象のコースでは『げんき』(前出)、『まるごと 日本のことばと文化』(前出)、『みんなの日本語』(前出)、『JAPANESE FOR BUSY PEOPLE』(前出)など日本で出版されている教科書を使用する場合が多い。
IT・視聴覚機材
ブリティッシュ・コロンビア州の中等教育にはオンラインによる日本語コースも開講されている。
アルバータ州では、教育省によりデジタル教材が開発され、インターネットでの使用が可能となっている。
(URL:http://www.learnalberta.ca/content/ilk/index.html)
新型コロナウィルスの影響でオンライン授業や非同期授業に移行した期間に、多くの教員が反転授業用の動画などデジタル教材を作成し、それらを対面授業に戻った後も活用している。また、同時期に、サイモンフレイザー大学制作の日本語学習者と教師向けのオンライン補助教材「にほんご聞くササイズ」が開発された。 (URL:https://www.kikusasaizu.com/)
教師
資格要件
初等教育
次項【中等教育】を参照のこと。
中等教育
基本的に各州の教員免許を保持していることが要件。文部科学省JETプログラム経験のあるノンネイティブ教師も多い。
高等教育
言語学、日本語教育関連分野における修士号以上の学位を求められることが一般的。
学校教育以外
日本の教員免許保持者・教職経験者を前提とするところから、特に規定のないところまでさまざまであるが、日本語を母語とする教師が大半を占める。
日本語教師養成機関(プログラム)
- ヨーク大学 言語・文学・言語学学部:日本語教授法コース(4年生対象、不定期開講)
- アルバータ大学 教育学部
第二言語教育専攻の場合、該当言語、文学、文化、言語学の4つの分野から必要単位を取得。教員(他科目)となった後、第二言語も教えられる資格を得るための1年間のディプロマ・コースもある。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
- 初等・中等教育では各州の教員免許が必要であるが、日本語を母語とする教師は3割ほど存在する。
- 高等教育においては、日本または北米の大学で日本語、日本研究、日本語教育、言語学、教育学の学位を取得した日本人教師が多い。
- 学校教育以外の語学学校では日本人教師が圧倒的に多い。
教師研修
カナダにおける日本語教師を対象とした研修(または日本語教師が参加できる研修)には、CAJLEをはじめとする教師会の年次大会、教育委員会などによる教師研修会、学会やJFが主催する研修会などがある。
現職教師研修プログラム(一覧)
各地の教師会などにより、以下のように教師研修が実施されている。
- JFトロント日本文化センター(JFT:The Japan Foundation, Toronto)2022年度実施の主な事業は以下のとおり。
- 1)プログラム名:オンライン夏季日本語教師研修
-
対象:カナダ国内の日本語教師
内容:夏季に行われるJF派遣日本語上級専門家などによるワークショップ。 - 2)プログラム名:日本語ブラッシュアップ研修
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対象:カナダ国内の日本語非母語話者日本語教師
内容:夏季に行われる日本語教育アドバイザーによるワークショップ。 - 3)プログラム名:JFTオンライン日本語教師研修会
-
対象:カナダ国内の日本語教師
内容:JF派遣日本語上級専門家、日本語教育アドバイザー等によるワークショップ - 4)プログラム名:JFT日本語教師オンライン茶話会
-
対象:カナダ国内の日本語教師
内容:カナダ国内の日本語教師による情報交換会
今後の研修の案内、及び、過去の研修の記録は以下のサイトから確認可能。
https://jftor.org/language/teachers/
- カナダ日本語教育振興会(CAJLE:Canadian Association for Japanese Language Education)
プログラム名:CAJLE年次大会
対象:会員、非会員を問わず、国内外の日本語教師が広く参加している。
内容:学術発表、及び教師研修会が行われている。(JF助成) - ブリティッシュ・コロンビア州現代言語教師会(BCATML:BC Association of Teachers of Modern Languages)
プログラム名:年次大会
対象:ブリティッシュ・コロンビア州の初等・中等教育機関の現代言語教師
内容:参加者による発表やワークショップ、SIGs(Special Interest Groups)、総会が行われる。 - エドモントン市パブリック教育委員会第二言語センター(IISLE:Institute for Innovation in Second Language Education)
プログラム名:Second Language Matter! Best Practices Day
対象:アルバータ州内外の初等・中等教育機関の言語教師
内容:参加者による発表やワークショップが行われる。アルバータ州内で最大の初等・中等教育機関の言語教師のための大会。 - CASLT(Canadian Association of Second Language Teachers)
プログラム名:Language Without Borders(全国大会)
対象:国内外の言語教師、大会テーマに関連する分野の専門家
内容:参加者による発表やワークショップが行われる。 - JALTA日本語教育振興会(BCJALTA:JALTA Japanese Language Teachers Association)
プログラム名:日本語教師研修会
対象:ブリティッシュ・コロンビア州の日本語教育関係者
内容:年1回、開催期間1日の研修会で、招へい講師による講演、ワークショップなどが行われる。 - 南アルバータ日本語教師会(South Alberta Japanese Language Teachers’ Association)
プログラム名:日本語教師研修会
対象:主にアルバータ州南部の日本語教育関係者、継承日本語教育関係者
内容:年2回、開催期間1日の研修会で、主にJFから派遣されている日本語上級専門家または招へい講師による講演、ワークショップなどが行われる。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
地域や機関の性格に応じて異なるいくつかの教師会、学会が存在する。それぞれの組織において、勉強会、講演会、学会などの活動を行っている。
カナダ日本語教育振興会(CAJLE:Canadian Association for Japanese Language Education)は地域や機関種別を問わず、カナダ全土における日本語教育の振興を目的として活動している全国規模の組織である。JFにほんごネットワーク(さくらネットワーク)のメンバーである他、2008年より日本語教育学会の日本語教育グローバルネットワークのメンバーとしても活動している。
日本語教育を含む第二言語教師のための全国組織としてはCASLT(The Canadian Association of Second Language Teachers)がある。メンバーは主に初等・中等・高等教育機関の言語教師及び教育省職員などの教育関係者で構成されている。
州毎に存在する初等中等教育機関の教師会には、下位組織として現代語、または第二言語の教師会が存在する。ブリティッシュ・コロンビア州現代言語教師会(BCATML:BC Association of Teachers of Modern Languages)などがそれに該当する。BCATMLは言語毎のセクションに分かれており、日本語のセクションもある。BCATMLの日本語教師が中心となって活動しているNihongo BC(The Association of Japanese Teachers in British Columbia, Canada)は、教育省や教育委員会の組織からは独立して存在している。一方、アルバータ州にはアルバータ日本語教師会(AJTA:Alberta Japanese Teachers’ Association)が存在している。
継承語としての日本語教育に携わる教師の組織としては、1974年に組織されたJALTA日本語教育振興会(BCJALTA:JALTA Japanese Language Teachers Association)があり、12校の継承語系日本語学校と個人会員によるネットワークが形成されている。南アルバータ日本語教師会は機関種別を問わず、カルガリーとレスブリッジ地区の日本語教師により構成されている。2019年より年に2回、カナダで継承語としての日本語教育に関わる保護者、教師などの関係者を対象とした情報交換会「継承語オンラインネットワーク」をJFとCAJLE共催が立ち上げた他、2020年にカナダで子育てをする方への応援サイト「日本語で育てよう」が開設されている。
最新動向
特になし。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)
日本語上級専門家
アルバータ州教育省 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
学校間で提携しインターン派遣を行っているところがある他、複数の民間の斡旋団体などを通じ、海外ボランティア・インターンが派遣されている。
シラバス・ガイドライン
初等教育
次項【中等教育】を参照のこと。
中等教育
教育は州政府の管轄であるため、州ごとに政策、制度などに違いがある。日本語教育においても全国共通のスタンダードやカリキュラムなどは存在せず、州ごとに異なる基準で行われ、州内でも、プログラムの詳細は自治体や学校ごとに決定される。
ブリティッシュ・コロンビア州、アルバータ州、オンタリオ州のカリキュラムについては シラバス・ガイドライン一覧を参照。
ブリティッシュ・コロンビア州では5年生から12年生までのカリキュラム改定が行われ、2019度より新カリキュラムに完全移行した。
州認定カリキュラムのない所では、各自治体、教育委員会または学校ごとに基準が設定されている。
高等教育
ブリティッシュ・コロンビア州などでは、州内で大学間の移動が可能なように統一されているが、他州においては、基本的には学校ごとに設定されている。
学校教育以外
統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。
評価・試験
評価・試験の種類
- 国際バカロレア レベルB(IB):12年生修了(日本の高校3年生に相当)レベル
IB用コースの日本語を2年間履修(例:高校1年生=通常の日本語10、2年生=日本語IB-20、3年生=日本語IB-30)し、最終学年の3月(口頭、総合評価の70%)と5月(筆記、残り30%)に試験を受け、7分の6以上の成績を修めることで大学の1年分の単位(日本語101と102の単位と成績)と認定される。 - 日本語能力試験:ブリティッシュ・コロンビア州(バンクーバー)とオンタリオ州(トロント、オタワ)では年1回(12月)、アルバータ州(エドモントン)では年2回(7月と12月)実施。
日本語教育略史
19世紀以前 | 日本人または日系人のための私塾的教育施設の存在 |
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1906年 | 最初の学校組織「バンクーバー共立国民学校」設立 |
1920年代 | 日本語学校が急増 |
1923年 | 加奈陀日本語学校教育会発足 |
1941年 | 第二次世界大戦勃発により、カナダ連邦警察の提言によって54校の日本語学校は全て自発的閉鎖 |
1949年 | 戦後初の日本語学校「トロント日本語学校」設立 |
1969年 | 連邦政府による公用語法が制定され、英語とフランス語がカナダの公用語となる。 |
1970年代 | 学校教育内の日本語教育が始まる。 |
1971年 | 連邦政府の多様文化政策(Multiculturalism Policy)適用 アルバータ州において教育法が改正され、英語フランス語以外の言語を授業言語とすることが可能となる。 |
1977年 | 多文化政策に基づき、公用語以外の言語教育も実施が可能となる。 |
1988年 | 連邦政府の多文化主義法(An Act for the preservation and enhancement of multiculturalism in Canada)制定 |
1989年 | オンタリオ州において初等・中等教育での正式な継承語プログラム実施が制定される。 |
1993年 | 基礎教育協力のための西部カナダ協定(Western Canadian Protocol for Collaboration in Basic Education (WCP))締結 オンタリオ州において公用語以外の外国語教育の呼称を「継承語(Heritage Language)」から「国際語」(International Language)に変更 |
1994年 | マニトバ州の初等・中等教育において、学習言語の一つとして日本語が選択可能となる |
2006年 | アルバータ州においてグレード4年生(日本の小学校4年生に相当)から12年生(日本の高校3年生に相当)の第二言語選択必修化が検討される |
2007年 | アルバータ州における第二言語選択必修化検討休止 |
2013年 | ブリティッシュ・コロンビア州で中等教育の学習者が大幅減(2012年度調査) |
2014年 | REXプログラムによる北海道からアルバータ州への教師派遣が終了 |
2019年 | ブリティッシュ・コロンビア州の初等・中等教育課程において、2015年より行われていたカリキュラム改訂が移行期間を経て、全学年で新カリキュラムが実施 |
2022年 | アルバータ州の初等・中等教育課程において、新カリキュラムが開発中 。日本語カリキュラムは近年中に開発開始予定。 |