チェコ(2022年度)
日本語教育 国・地域別情報
2021年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
13 | 83 | 1,304 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 44 | 3.4% |
高等教育 | 622 | 47.7% |
学校教育以外 | 638 | 48.9% |
合計 | 1,304 | 100% |
(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
1947年に、プラハにあるカレル大学に日本研究学科が創設され、チェコスロバキア(当時)における日本語教育が本格的に始まった。
1993年にはオロモウツにあるパラツキー大学にも日本学科が設置された。また、1990年代以降、チェコ第二の都市ブルノにあるマサリク大学、オストラヴァのオストラヴァ大学で、選択科目として日本語のコース(エキゾチック言語コースの一つとして)が開設された。中等教育機関では、1991年にプラハにあるギムナジウムにおいて初めて外国語教育に日本語が取り入れられた。
ボローニャ宣言(1999年)以降の大学の制度改革により、日本語・日本研究の主専攻があるカレル大学、パラツキー大学では3年で学士号取得、さらに2年で修士号取得という新システムに変更された。現在は、新カリキュラムでの授業が行われている。2008年10月にはブルノのマサリク大学に日本研究学科が設立された。
中等教育機関(ギムナジウムと呼ばれ日本の高等学校にあたる4年間から6年間の教育機関)でも、自由選択科目第三外国語として設けている高校が増えてきた。
一般教育機関では、プラハ市立言語学校(当時はプラハ国立言語学校)が1952年から、またチェコ・日本友好協会でも1998年から日本語のコースを開設している。
現在は、私立の語学学校などでも日本語を取り上げる学校が増えている。例えば専門的に毎日日本語を学習する「高校卒業後学習pomaturitne studium」も開催されている。かつては1校だったが、現在は2校に増えた。高等教育機関への予備コースとしてこのコースで大学入学準備をする学習者もいる。
2007年秋に日本センター・ブルノがオープンし、大学生や一般成人向けの日本語授業がスタートした。プラハなどの都市部だけではなく、地方の小都市などでも日本語を学ぶ機会が増え、希望すればいろいろな方法で日本語学習ができるようになってきている。また、オンラインツールを活用し、チェコまたはチェコ以外の国の日本語教師から習ったり、インターネットで独学したりしている学習者もいる。
日本企業でも、日本語学習を奨励したり、従業員に日本語教育を行ったりしているところもある。
2008年度よりプラハ市立言語学校が国家試験実施校となり、2009年度からはチェコ国内で唯一CEFR(Common European Framework of Reference for Languages)基準の試験が実施されているものの、JLPT受験への移行が見られる。2022年現在、CEFR基準試験の受験者はいない。日本語教師会が主体となって、2003年より日本語能力試験の模擬試験が開始され、2010年からブルノ市で日本語能力試験が実施されるようになった。2022年からは夏・冬2回開催となっている。なお、2022年の受験者数は、夏冬合わせて550名を数えた。
背景
1989年のビロード革命、1993年のチェコの分離・独立以降、日本・チェコの両国は友好な関係を築いている。また、近年チェコの経済発展はめざましいものがあり、2018年時点で、250社以上の日本企業がチェコに進出している。なかでも製造業の比率が高く、習得した日本語をビジネスの場面で生かしている者も多い。さらに武道、邦楽など伝統的な文化や、マンガ・アニメなど日本のポップカルチャーの人気が高い。
特徴
高等教育機関での日本語教育が従来盛んであったが、中等教育機関、あるいは学校教育以外の機関での日本語学習者も増えつつあり、特に近年では若年層で急増の傾向にある。
学習動機は、以前は日本の伝統文化への興味が主であったが、アニメなどのポップカルチャーの影響から日本語学習を始める若い学習者が多い。また、自らの母語とは大きく異なる「めずらしい言語」「おもしろい言葉」として日本語を学習しようとする人やシニア世代の間からも、生涯学習の一環として日本語を学習しようとする動きが現れてきた。近年は、日本旅行を体験し、日本文化に実際に触れ日本文化に興味を持ったので、日本語を習いたいという中高年の学習者も多くなってきている。さらに、日本人とチェコ人夫婦の間に生まれ、継承語として日本語を学習する子どもも存在する。
最新動向
2020年の時点におけるチェコではIT産業が隆盛で、その顧客として日本のIT企業との取引に日本語による対応が求められていることや、チェコ人以外の外国人(例えばチェコ国内に居住するロシア人など)の日本語学習者の増加が挙げられる。日本企業では、日本文化理解を促す行事なども行われ、自社内で日本語教育に興味を持つ企業もある。一方で、国内に存在する日系企業にはかつて通訳業務なども多かったが、近年は日本語能力よりもむしろマネジメント能力が評価され、日本語を話さないチェコ人が管理職として採用されるケースも現れてきた。
2020年時点の学習者の特徴としては若年層の急増が挙げられる。例えば、チェコ・日本友好協会が主催する日本語教室では、2019年に10〜13歳程度の子どもクラスをこれまでの1クラスから3クラスに増設した。子どもの学習者が増加した理由としては、両親の「英語とは異なる言語を習わせたい」という希望による。中には3歳児の親からの問い合わせもあったという。チェコでは幼児向けの英語教室などが多数存在するため、同様な発想から他言語である日本語にも幼児クラスを期待したと思われる。
教育段階別の状況
初等教育
トヨタ・プジョー・シトロエン・オートモビル(TPCA)社の工場があるコリーン市において、2006年より小中学校3校でクラブ活動の一環として日本語教育が行われていたが、2010年に同社による支援が終了して以来、行われていない。
中等教育
ギムナジウムなどの中等教育機関で外国語教育に日本語を取り入れるところが現れている。2020年現在、プラハ市内を中心に数校のギムナジウムにおいて、選択科目として第三外国語としての日本語クラスが設けられている。日本語クラス開設の可否は学校長の裁量により決定される。プラハ市のサーザフスカー高校では、選択クラスとして45分の授業が週に3コマ実施されており、CEFRのB1レベルが到達目標として掲げられている。またリトミシュル市は日本との文化交流に熱心で、市内の高校でも選択科目として週1回の日本語のクラスがあり、日本の高校への短期留学も行われている。他にも2017年以降の新しい動向としてプラハ市にあるアマゾン高校(私立)で日本語が正規の第2外国語として採用されたことを取り上げておきたい。週に4時間の授業があるほか、学習者からの相談に応じるコンサルタントが1時間ある。成績はこまめに数値化され、オンラインで父兄にフィードバックされるシステムを持つ。
高等教育
カレル大学、マサリク大学には日本研究、パラツキー大学には日本語専攻の学科がある。これらの学科では毎年数名が日本へ留学し、卒業後は通訳者・翻訳者として活動する者、教師・研究者となる者もいる。このほかには、オストラヴァ大学、チェコ工科大学、ニューヨーク大学プラハ校、メトロポリタン大学(プラハ)、あるいはピルゼン市の西ボヘミア大学でも、選択科目として日本語の授業が開講されている。また、地方の観光関係の高等専門学校においても、従来の日本人ビジネスマンとの関わりを想定した日本や日本語に関する知識へのニーズのほか、日本へ観光旅行に行くチェコ人の増加により、日本語の需要が高まっている。
学校教育以外
プラハ市立言語学校は主に成人の学習者を対象としている。一方、同じくプラハにあるチェコ・日本友好協会の日本語講座には、成人のほか高校生の学習者もいて、日本語教育だけでなく、書道、墨絵、歴史講座、さまざまなワークショップなど文化紹介のプログラムも作られているほか、2019年に10〜13歳の子どもクラスを増設した。
ブルノ市にある日本センター・ブルノでも、小学校低学年から70歳代までの幅広い年齢層の学習者が日本語学習に取り組んでいる。
また、プラハ市内及び日本センター・ブルノでは、日本人とチェコ人夫婦の間に生まれた子どもたちを対象に、継承語としての日本語クラスが開講されており、年齢や時間に応じてクラス分けされ、文化理解も含めた日本語が学ばれている。
在チェコの日本企業、また日本企業と取引のあるチェコの企業の中には、ビジネスのための日本語クラスを開講しているところもある。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
9-3制。
初等教育は通常9年間(6~15歳)、中等教育は3~4年間(15~19歳)でギムナジウム、専門学校等で行われる。少数であるが成績優秀者は、5年で初等教育機関から中等教育機関へ移り、中等教育を8年間受ける者もいる。6歳からの9年間が義務教育。
高等教育機関は主に大学で、専門によって3年から5年の教育を受ける。ボローニャ宣言を受けて、新たに学士制度が設けられ、従来の5年間で修士号取得のシステムから、学士課程(3年)と修士課程(2年)に分けるシステムへと変更している。
教育行政
初等、中等、高等教育機関のほとんどが教育省の管轄下にあるが、公立校においても授業内容など、かなりの部分を校長の裁量で決めることができる。
言語事情
主要言語、公用語ともチェコ語。
外国語教育
初等教育課程では第3学年から外国語学習が開始されるが、主に英語である。
中等教育では第1学年から外国語学習が必修科目になっており、主に英語、他にもドイツ語、フランス語、ロシア語から選択する場合もある。
外国語の中での日本語の人気
カレル大学において、2022-23年度の受験者数と入学者数は、日本研究が173名中25名、韓国研究が180名中21名、中国研究は70名中21名であった。韓国研究の希望者が日本研究を上回ったのは2022-23年度が初めてではない。しかしながら、日・韓研究は同じアジア研究所内に設置されており、両国の文化に関心を寄せ、両国の言語を学ぶ学生も少なくない。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
ただし、カレル大学とマサリク大学では、日本研究科の入学試験が実施されており、日本語の表記(ひらがな・カタカナ)及び日本に関する知識を問う試験が含まれている。カレル大学では、漢字知識も出題される傾向にある(約30字程度)。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育の実施は確認されていない。
中等教育
『みんなの日本語 初級』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『初級日本語 げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)、『まるごと 日本のことばと文化』独立行政法人国際交流基金(三修社)のほか、チェコ語で書かれた教科書『初級日本語Japonstina』(LEDA)が使用されている。
高等教育
『みんなの日本語 初級』(前出)、『中級へ行こう』『中級を学ぼう』平井悦子ほか(スリーエーネットワーク)、『文化中級日本語』文化外国語専門学校(凡人社)、『中級の日本語』三浦昭ほか(ジャパンタイムズ)などのほか、パラツキー大学では独自に編纂した初級教科書を使用している。
学校教育以外
チェコ・日本友好協会から2007年に出版された『絵でおぼえるひらがな』、同じく2010年に出版された『絵でおぼえるカタカナ』、『絵でおぼえる漢字』(2014年出版)、『Situational Functional Japanese』筑波ランゲージグループ(凡人社)、『みんなの日本語 初級』(前出)、『初級日本語 げんき』(前出)、『Japanese for Busy People』国際日本語普及協会(講談社USA)、『会話の授業を楽しくするコミュニケーションのためのクラス活動40』安部達雄ほか(スリーエーネットワーク)、『毎日の聞き取り』宮城幸枝ほか(凡人社)等のほか、言語学校で独自に編纂された教科書も使用されている。また、一部の機関の成人向けクラスでは『まるごと』(前出)が主教材として使われている。
IT・視聴覚機材
大学などでは学生の成績管理はオンラインで一括管理されており、カリキュラム情報などの提供にもインターネットが利用されている。学内ネットワークが完備されており、講師から個々の学生への連絡、教材の配布、課題の提出などにもこれらが活用されている。
こうしたLMSやITツールの活用は2020-21年のパンデミックを経てさらに活発になった。2022年現在、国内では対面授業が復活しているが、従来の教材や機材にITが加わったことで、教授法の改善も継続している。
教師
資格要件
初等教育
修士号以上
中等教育
修士号以上
高等教育
修士号以上
学校教育以外
教育機関によってさまざまであるが、チェコの大学を卒業していることを条件としているところもある。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本研究、日本語専攻を持つ大学は3つ(カレル大学、マサリク大学、パラツキー大学)あるが、日本語教授法などの教師養成のためのコースや講義は開講されていない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
マサリク大学とパラツキー大学では、それぞれ複数名の日本人教員(専任・非常勤を含む)を雇用しているほか、他の言語学校や教室でも現地採用の日本人教師を雇用している。数ヶ月から2年程度の雇用契約で採用され、複数の学校・機関をかけもちで教えている講師も少なくない。
教師研修
現職の日本語教師対象の研修制度は国内にはないが、JF日本語国際センターの公募研修プログラムへの参加や、ブダペスト日本文化センターの中東欧日本語教育研修会(2008年度から実施)などに参加している。また、日本語教師会の月例会での勉強会や、弁論大会開催時に合わせるなどして、国外から講師を招いてワークショップなどを開催することもある。
現職教師研修プログラム(一覧)
なし
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
当初はJF派遣の日本語専門家を中心に勉強会が行われ、2005年からメーリングリストの整備などの段階を経て、2007年1月に教師会が正式に発足した。毎月1回(年10回)の定例会やメーリングリストでのやりとりは教師会の活動の一環として続いており、2013年には教師会ウェブサイトが開設、2022年に一新された。 https://www.kyoshikai.com/ja
2007年秋には、教師会メンバーによる自主制作教材『絵でおぼえるひらがな』、2010年春には『絵でおぼえるカタカナ』、2014年3月には同シリーズの漢字教材『絵でおぼえる漢字』を、また、2020年春には『初級読解教材 よんで』を出版した。その他、日本や隣国から講師を招いてワークショップなども開催している。メンバーは2022年10月時点で20名ほどである。
会員にはチェコ人をはじめ日本語非母語話者教師もいるが、日本語母語話者の会員に比べ、まだ人数は少ない。教師会の活動や会員間のネットワークは安定しているものの、さらなる新規加入者(日本人・チェコ人双方)の増加や、地方での学習者数とその学習方法の把握など、今後どのように活動の輪を広げていくかが課題となっている。
最新動向
2020年春、自主教材としては第4弾となる『初級読解教材 よんで』が出版された。チェコ文化の特徴を生かした本文やイラストも豊富で親しみやすい内容となっている。
2021年より教師会メンバーによるチェコとスロバキア教師の交流会も隔月で主催されている。講師を招へいする勉強会とは異なり、対話を通じて教授スキルを向上するというユニークな取り組みである。
毎年春に弁論大会と作文コンテストが教師会の主催により開催されており、次回は2023年4月に開催される予定である。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)
日本語専門家
カレル大学 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。
評価・試験
評価・試験の種類
共通の評価基準や試験はない。
日本語教育略史
1947年 | カレル大学に日本語研究学科創設 |
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1952年 | プラハ市立言語学校で日本語コースを開設 |
1991年 | プラハにあるギムナジウムが、中等教育で初めて日本語教育を開始 |
1992年 | マサリク大学(ブルノ)で選択科目として日本語コース開設 |
1993年 | バラツキー大学に日本学科設置 |
1998年 | チェコ・日本友好協会で日本語コース開設 西ボヘミア大学(ビルゼン)で選択科目として日本語コース開設 |
2006年 | コリーン市の学校でクラブ活動の一環として、初等教育で初めて日本語教育を実施 |
2007年 | 日本センター・ブルノが開所し、大学生や一般成人向けの日本語授業開始 |
2008年 | プラハ市言語学校が国家試験実施校となる マサリク大学(ブルノ)に日本研究学科設立 |
2009年 | プラハ市言語学校がチェコ国内で唯一CEFR基準の試験を実施 |
2010年 | チェコ南東部のブルノ市においてチェコで初めてとなる日本語能力試験JLPTを実施、現在に至る。 |