フィンランド(2022年度)
日本語教育 国・地域別情報
2021年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
---|---|---|
15 | 28 | 1,584 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
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初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 404 | 25.5% |
高等教育 | 415 | 26.2% |
学校教育以外 | 765 | 48.3% |
合計 | 1,584 | 100% |
(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
フィンランドの日本語教育は、1938年、アルタイ諸語の世界的な権威であり、初代駐日フィンランド公使でもあったG.J.ラムステッドによってヘルシンキ大学において始められ、戦争で一時中断した後、1960年代半ば(64年あるいは65年)に再開され、のちにアジア学、東アジア学、日本学講座の開講へとつながった。1980年から1997年までの期間は、JF派遣の日本語教育専門家がヘルシンキ大学における日本語教育を担当した。 当地では、大学等高等教育機関を中心に日本語が学ばれているが、日本語を専門科目として学ぶのみならず、日本語能力によって日本の技術を学ぶため、あるいは日本語能力によって将来の就職に役立てようという学生たちも多い。ヘルシンキ工科大学(現在アールト大学)では1983年に学生たちの要望によって日本語の授業が開始された。当初はIT技術の専門家ヨウコ・セッパネンが教えていたが、1984年春の中級講座から日本人教師に代わった。その3年後には日本語教師はフィンランドにおける初の専任日本語講師として格上げされ、以後35年間にわたって日本語教育を続けてきた。そしてヘルシンキ工科大学の学生のみならず、ヘルシンキ大学をはじめ、遠くはタンペレ工科大学、ラッペーンランタ工科大学の学生たちなどの指導も行い、日本学を専門とせず、実利目的で日本語を学びたいという多くの優秀な学生たちを育ててきた。その後オウル大学、ラップランド大学、ユヴァスキュラ大学、東フィンランド大学でも日本語教育が始まり、最近ではトゥルク大学が日本語及び日本文化・社会の教育に力を入れるようになった。
背景
フィンランドは歴史的な経緯もあり、親日感情が強く、現在も外交上・経済上の大きな問題は存在せず、二国間関係は極めて良好である。
日本語に関しても、実用的な運用能力を身に付けビジネスに活用する目的のみならず、アニメ・マンガやJ-POP・ファッションなどのポップ・カルチャー、日本古来の武道や伝統芸能などの日本文化が糸口となって学習を開始するものも多いように見受けられる。
特徴
ヘルシンキ大学、トゥルク大学、ユヴァスキュラ大学、東フィンランド大学、オウル大学、ラップランド大学、ダーラナ応用科学大学ヴァーサ協定校などの高等教育機関が日本語教育の中心となっているが、高校や成人学校(各自治体が運営するカルチャーセンターのようなもの)でも多くの授業が実施されている。
日常生活では日本語に接する機会が少ないことから、フィンランド国内の日本語学習者は授業以外で日本語を実際に練習することは難しいものの、インターネットの普及により、日本の音楽・ドラマなどを通じて生の日本語に触れる若者が多く、大学生などは交換留学で日本に滞在し、日本語を学習する者が増えている。
最新動向
首都ヘルシンキのみならず、地方の大学でも日本語教育が活発になりつつある。一定の職業教育高等学校である応用科学大学や高等学校でも日本語教育を行っており、若い世代の間でより関心が高い。また、2005年度から日本語能力試験を実施している。
これまで日本語に関するナショナル・カリキュラムは作られていなかったが、2016年に高等学校のナショナル・カリキュラム(学習指導要領)が改定され、高等学校から学習が開始されるアジア・アフリカ言語科目の選択言語のひとつとして、日本語も正式に加わった。これにより、全国で統一的な日本語教育カリキュラムの作成が可能になった。他方で高等教育機関においては中級以上の日本語が学習できる機会が限られている。アールト大学は2016年11月に日本語教育を打ち切った後、2019年からオンライン講座として日本語教育が復活はしたものの以前のように上級学習者の要求を満たすまでにはいたっていない。また、首都圏での上級日本語育機関はヘルシンキ大学のみであり、かつ、これのほとんどはヘルシンキ大学の日本語研究科の学生のみが受講できるものとなっている。さらに、高等教育機関では経費削減のために日本語教育を打ち切る傾向がみられるなど日本語教育の縮小が懸念される。
教育段階別の状況
初等教育
外国語としての日本語は学校によっては中学校から学ぶことができる。義務教育課程(日本の小学校と中学校に相当)では特別なプログラムとして日本語・日本文化教室を導入している学校もあるが、定期的には実施していない。また、義務教育課程では「母語教育」が取り入れられており、日本語教育についても首都圏ではヘルシンキ市とエスポー市が管理するクラスがある。
中等教育
2019年3月より学習指導要領が新しくなり、聞く、話す、読む、書くそれぞれの学習到達目標がより細かく設定された。高等学校では数校ながら首都圏を中心に全国各地に定期的に日本語の授業が開設されている。またオンラインでのコースがある学校もある。
高等教育
ヘルシンキ大学に1993年から日本学の教授職が設けられている。日本研究・日本語教育は、ヘルシンキ大学の他、アールト大学、東フィンランド大学、オウル大学、トゥルク大学、ユヴァスキュラ大学、ラップランド大学、メトロポリア応用科学大学、ダーラナ応用科学大学ヴァーサ協定校などで受講することができる。
また、高等教育機関の学生を対象としたオンライン言語学習の確立を狙ったKiVAKOプロジェクト(2018-2021)も実施されている。同プロジェクトは2021年からKiVANET交流ネットワークとなり、ネットワークに所属する高等教育機関の学生はKiVANETにてデジタル言語教育を受けられる。
学校教育以外
生涯学習を重んじるフィンランドではさまざまな成人教育講座が開講されており、初級日本語講座を設置する機関も増えている。講師は、通常フィンランドに長く住んでいる日本人や、日本語教師資格を持つフィンランド人が務めている。学習者は成人の他、中学生や専門学校生などの若年層も多い。ヘルシンキ地方(首都圏)の夏季大学では一般の受講に加えてヘルシンキ大学での日本語学習の一部の単位を取得することも可能となっている。また、日本関連友好団体が開く講座もあるが、中級以上で実用的な日本語を勉強したいという学習者のための場はほとんどない。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
基礎学校(あるいは総合学校。日本の小学校に相当する6年間の前期課程と、中学校に相当する3年間の後期課程から成る)における7歳から18歳の12年間が2021年から義務教育とされている。後期中等教育は高校と職業学校に分かれており、どちらも、通常約3年で必要な単位を取得する。高等教育機関は、実務スキルを育成することに重点を置く応用科学大学(ポリテクニック)と、学術研究に重点を置く大学の2種類に分類される。一部の学部を除き、大学では通常3年間で前段階の学位(学士)を取得し、その後通常2年間で後段階の学位(修士)取得を目指すカリキュラムとなっている。大学では修士号取得を目的とし、前後期(学士・修士)合わせて約5年のカリキュラムとなっている。応用科学大学では、基本的には学士号取得を目的としたカリキュラムを3年半~4年かけて履修する。
教育行政
教育政策は国会で決定され、教育政策に関しては教育文化省が管轄する。その下部機関である国家教育庁がその政策指針の施行に携わり、義務教育及び中等教育機関の中核的な模範カリキュラムを作成する。これをもとに各地方自治体または各学校が個別のカリキュラムを作成する。
言語事情
公用語はフィンランド語とスウェーデン語。その他の言語も言語利用者の権利において法律で認められているものもある。人口の約87%がフィンランド語系、約5%がスウェーデン語系。その他、サーミ語が北部の一部自治体で公用語に認定されている。これらの公用語の他にカレリア語が南東部の自治体で、またフィンランド・ロマニ語も話されている。
外国語教育
フィンランドでは母語以外に最低2つの言語を学ぶ。そのうちひとつは母語以外の公用語であり、第二母国語とされている、つまりフィンランド語が母語の子どもはスウェーデン語、スウェーデン語が母語の子どもはフィンランド語になる。各学校と自治体が選択可能な外国語を決定する。
フィンランド母語話者の場合、第一外国語は、日本の小学校に当たる基礎学校1年生で始まり、多くの場合、英語が選択される(4年生か5年生から選択科目として他の外国語を学ぶことも可能。)。
6年生から、第二必修外国語の学習が始まる。第一外国語として英語を学んだ児童は第二母国語として自らの母語以外の公用語も学ばなくてはならない。これら必要最低限の二言語に加えて、学校によってはさらに多くの外国語を学ぶことができる(学習学年に決まりはないが、中学2年生または高校1年生から始まることが多い。)。
高等教育への進学資格となる全国統一の高校卒業資格試験(いわゆるヴァカロレア、アヴィトゥア)にも、複言語主義を尊重する言語教育理念が反映されている。2022年春から必修5科目のうち、母国語は全員受験することが必須となっており、残りの4科目は第二公用語、外国語、数学、または一般教養(歴史、化学、物理など)から選択できる。外国語は、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、ポルトガル語、ラテン語、サーメ語から選択することができる。
外国語の中での日本語の人気
他の外国語(特に英語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、ロシア語)と比較すると学習者の数は必ずしも多いとは言えない。しかし、マンガやアニメへの関心の高まりにともない若年層を中心に日本語への関心も高い。2021年のヘルシンキ大学入学試験の倍率(申請者数に対する合格者数)は、外国語の中では日本語が最も高い倍率となっている。
大学入試での日本語の扱い
大学入試では一般言語学の試験が行われ、日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
市販の教材や教師が自ら用意した(自作含む)配布資料を用いる。
中等教育
市販の教材や教師が自ら用意した(自作含む)配布資料を用いる。
高等教育
日本で出版された日本語教科書と各教師自身が作成した教材などを併用する機関が多い。また、国家教育庁の支援を受け、作成した教材もある。
(https://aasianjaafrikankielet.wordpress.com/2020/04/09/omigoto-japanin-kurssien-uudet-oppimateriaalit/)
学校教育以外
日本で出版され当地書店で販売されている日本語教科書などを使用する機関が多い。また、初級日本語教材はフィンランドでも多く出版されており、これらを使用することもある。
IT ・視聴覚機材
広く活用されている。
教師
資格要件
初等教育
基礎学校前期課程の常勤教師として働くためには、修士号(専門の教科に関する科目を最低60単位要取得)と一般教員資格(60単位から成る一般教員資格取得コースを受講)が必要である。国は大学の教員養成課程への入学者数を調整することにより、教師の数を管理している。初等教育で(主に母語としての)日本語を担当する場合に特定の資格が要求されることはないが、修士号や教員資格があれば就職においては有利である。初等教育においては常勤の日本語教師の採用は現在行われていない。
中等教育
基礎学校後期課程(日本の中学校にあたる)及び高等学校の常勤教師として働くためには、修士号(専門の教科に関する科目を最低120単位+別の教科で最低60単位)と一般教員資格(60単位から成る一般教員資格コースを受講)が必要である。国は大学の教員養成課程への入学者数を調整することにより、教師の数を管理している。日本語教師の多くは、非常勤講師として採用されるため、各校長の許可によって採用される。
高等教育
基本的に修士か博士の資格が要求され、一般教員資格の取得が推奨されている。また、教育学の背景や教材作成能力なども考慮される。
学校教育以外
特定の要件は必要とされていない。
日本語教師養成機関(プログラム)
ヘルシンキ大学においては、言語学修士課程(kielten maisteriohjelma)の日本語教師養成プログラム(japanin aineenopettajalinja)(計120単位: 上級日本語、 ゼミナールと修士論文: 60単位、教育学部による教員養成課程: 60単位)において日本語教師の資格が取得できる。
その他の大学では日本語コースはあるものの、教師養成プログラムはない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
永住者の一部が、成人学校(Työväenopisto, Kansalaisopisto)大学付属の言語センターなどで日本語講師として活躍している。 雇用形態はどの機関も非常勤講師としてのものが多い。
教師研修
フィンランドには2013年まで日本語教師養成課程はなく、JFの日本語教師研修に個人的に参加する教師が多かった。2008年から、パリの日本文化会館主催による欧州日本語教師研修会への募集に応じており、その他、ヨーロッパ日本語教師会日本語教育シンポジウムに参加する者もいる。また、不定期ではあるが、ヘルシンキ大学文化学科がワークショップを開催することがある。また、フィンランド日本語日本文化教師会で年に数回オンライン勉強会が開催されている。
現職教師研修プログラム(一覧)
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
1993年8月に設立された「フィンランド・日本語日本文化教師会」には、フィンランドの日本語教師のほとんどが会員として参加している(会員数は2022年12月現在55名。)。同教師会は、1995年4月に社団法人に認定され、種々の活動を行っている。中でも、2000年には第5回ヨーロッパ日本語教師会を主催したことは特筆に価する。
定期的に会合を開き、セミナーやワークショップ等を開催することにより日本語教師の質の維持・向上に努め、教師同士のネットワークの維持・強化を図っている。しかしながら日本語教師は全国各地で地理的に広範囲にわたって活動しているため、教師会の活動に参加できない会員が多い。
最新動向
毎年3月、同教師会最大行事である「日本語で語る会」(日本語弁論大会)を多くの日本文化関係団体の協力を得て開催しているが、2020年3月に予定されていた第34回大会は、新型コロナ禍のため中止。2021年及び2022年はオンラインで開催された。2023年は3年ぶりに通常通り開催する予定である。2005年度より、年間行事を充実させることを目的として、年1~2回、日本語と日本文化に関するセミナーまたはワークショップを行っている。近年、少しずつ増えている高校での日本語教育と、その継続となる大学における日本語教育において、その統一性などにつき検討・話し合いを進めている。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
国際協力機構(JICA)からの派遣
現在、JF、JICAからの派遣は行われていない。
その他からの派遣
なし
日本語教育略史
1938年 | ヘルシンキ大学 日本語教育開始 |
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1960年代半ば | 戦争中、一時中断されていたヘルシンキ大学における日本語教育再開 |
1983年 | ヘルシンキ工科大学 日本語講座創設(2016-2019講座中断) |
1988年 | オウル大学 日本語講座創設 |
1990年 | ユヴァスキュラ大学 日本語講座創設 |
1994年 | 東フィンランド大学 日本語講座創設 |
1998年 | ラップランド大学 日本語講座創設 |
2005年 | 日本語能力試験実施開始 |
2007年 | トゥルク大学東アジア研究所 日本語コース創設 |
2009年 | ヨウツェノ学院 日本語・日本文化コース開設 |
2013年 | ヘルシンキ大学 日本語教師養成課程開設 |
2016年 | 日本語が高等学校B3言語に認定される |
2020年 | ラッペーンランタ・ラハティ工科大学/LAB応用科学大学 日本語講座開設 |