ラオス(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
16 74 3,118
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 422 16.0%
中等教育 1,555 49.9%
高等教育 369 11.8%
学校教育以外 772 24.8%
合計 3,118 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1965年から、青年海外協力隊によりビエンチャン内のいくつかの公的機関で日本語教育が盛んに行われていたが、1975年の革命を機に日本語教育は全く行われなくなった。
 革命終了後の1995年に、ラオス国立大学基礎教育課程日本語コースが、日本の文部科学省奨学金による国費留学の準備コースとして発足した。以後毎年20~30名の留学候補者を対象として6~8か月間、初級の日本語教育を行っていたが、2005年に閉講している。これと前後して、2003年9月に、ラオス国立大学文学部日本語学科が設立され、同年10月より日本語の授業が開始された。これまでに第1期生~第15期生が卒業し、2022年12月現在118名が在籍している。
 また、2001年に国際協力機構(JICA)とラオス国立大学による共同プロジェクトとしてラオス日本人材開発センター(略称:LJセンター、現在はラオス日本センター(LJI)に改称)日本語コースが開講された。2012年からJICAに代わってJFが日本語教育部門の運営に協力しており、「JF講座」を開講している。2022年度の年間受講者数は、244名である。
 さらに、中部の中核都市サワンナケートにあるサワンナケート大学言語学部でも、2013年より外国語選択科目の一つとして日本語の授業が開講されてきたが、2017年7月に日本語専攻学科に昇格、10月より新入生を迎え日本語学科が正式に開講した。2021年には第1期生を輩出している。
 ラオスでは、2008年に中等教育段階(前期中等教育4年、後期中等教育3年)において第二外国語を履修する政策が出され、2010年に前期中等教育カリキュラム、2011年に後期中等教育カリキュラムが施行され、日本語が第二外国語の1つとして位置づけられた。
これを受けて、ビエンチャン特別市では、2015年9月よりビエンチャン中等教育学校で日本語教育が開始された。その後、中等教育への日本語導入のためのパイロット校として、2016年9月よりノンボン、ピヤワット各中等教育学校、2018年9月よりポンタン中等教育学校においても日本語の授業が開始され、2022年現在、公立中等教育機関4校で日本語教育が行われている。日本語導入校の増加及び、日本語を学ぶ生徒の進級ごとに中等教育における日本語学習者数は増加している。
 その他の公的機関、民間日本語学校でも日本語クラスが開講されており、ラオス人及び日本人が個人的に日本語を教えている例も見られる。
 ラオス日本語スピーチ大会は、毎年の恒例行事として定着しており、さまざまな日本語教育機関に所属している日本語学習者や個人で学んでいる学習者が参加している。

背景

 ラオスと日本は2020年に外交関係設立65周年を迎えた。1991年以来、日本はラオスにとって世界最大の援助国となっている。
 ラオスは1965年に日本が初めてJICA海外協力隊を派遣した国であり、当地の日本語教育もJICA海外協力隊によって始められた。両国の関係は革命で一時中断したものの、ラオスの市場経済化の動きが本格化した90年代から日本政府による有償・無償資金協力及び技術協力、日本企業のラオスへの進出が拡大し、日本語ができる人材の需要増を背景に、日本語学習者も除々に増えてきた。
 首都ビエンチャンでは、2000年まで、日本の文部科学省奨学金による留学候補者のためのラオス国立大学日本語講座と民間日本語講座を合わせて100名前後が日本語を学習している状態が続いていたが、2001年のラオス日本センターの日本語コース開講を機に、それまで潜在的にあったラオス人の日本語学習熱が表面化し、日本語学習の希望者が増加した。

特徴

 日本語教育機関は依然として首都ビエンチャンに集中しているが、2017年より中部の中核大学・サワンナケート大学でも言語学部に日本語を主専攻とするコースが新設された。また、パクセーなどの地方都市においても、民間日本語学校による日本語教育が行われてきており、日本語教育の地方への着実な広がりが確認できる。
 また、首都ビエンチャンのインターナショナルスクールや私立校で日本語の授業を行っている学校があり、ビエンチャン特別市の公立中等教育機関では、2015年9月より1校(ビエンチャン中等教育学校)、2016年9月より2校(ノンボン、ピヤワット各中等教育学校)、2018年9月より1校(ポンタン中等教育学校)で、第二外国語として日本語の授業が開始されるなど、初等・中等教育段階への日本語教育の広がりも確認できる。

最新動向

 2016年以降、ラオス教育スポーツ省教育科学研究所において、中等教育の日本語教育カリキュラム、教科書を策定中であり、JFが日本語専門家を派遣して、これに協力している。2022年1月には国定教科書『にほんご1』~『にほんご4』正規版として承認され、ラオス全土の中等教育学校で使用可能となった。続く2023年に『にほんご5』が国定教科書として承認され、現在、『にほんご6』の施行版がパイロット校4校で使用されている。
 中部の中核都市サワンナケートにあるサワンナケート大学では、2017年7月に主専攻課程としての日本語学科開設の認可が下り、言語学部日本語学科として正式に開講、2022年には第2期生が卒業した。ベトナム中部からラオス、タイ、ミャンマーを結ぶ国際ハイウェイ構想「東西回廊」上に位置するサワンナケートはサワン・セノ経済特区(SEZ)を有し、日系企業の進出拡大に伴い、日本語ができる人材の需要増が期待されている。
 2022年7月に在留資格「特定技能」を有する外国人に係る制度の適正な運用のための情報連携の基本的枠組みに関する協力覚書が交わされるなど、日本でラオス人を雇用する動きが活発化することが予想される。2022年11月には技能実習生の送り出し機関からの受託でラオス日本センター(LJI)でラオス人材育成のための日本語コースが開始された

教育段階別の状況

初等教育

 授業に日本文化や日本語を取り入れた教育を行っているインターナショナルスクールや私立校がある。

中等教育

 2008年に中等教育段階(前期中等教育4年、後期中等教育3年)において第二外国語を履修する政策が出された。これにより、2010年に前期中等教育カリキュラム、2011年に後期中等教育カリキュラムが施行され、日本語が第二外国語の1つとして位置づけられた。これを受けて、ビエンチャン特別市の公立中等教育機関では、2022年現在4校において日本語の授業が行われている。
 他に、第二外国語として日本語を取り入れているインターナショナルスクールや私立校がある。

高等教育

 ラオスには5つの国立大学があるが、そのうち2校で日本語教育が行われている。ラオス国立大学文学部日本語学科は2003年の設立以降、2022年現在に至るまで、国内の日本語教育をリードする中核機関である。文部科学省国費留学生の他に、東京外国語大学、創価大学、専修大学と提携を結び留学生を送っている。
 もう1校、サワンナケート大学言語学部では2017年から日本語を主専攻とする日本語学科が言語学部の中に設置され、2022年には第2期生が卒業した。
 その他に、私立のカレッジでも日本語講座が開講されている。

学校教育以外

 ラオス日本センター(LJI)は、ラオス国立大学の一部門として設立されたが、ラオス国立大学や私立のカレッジの大学生のみならず、高校生から成人一般を対象に初級、中級クラスを開講している。
 民間の日本語学校としては、てっちゃんねっとトレーニングセンター、パクセーのラオス日本人材交流センターで日本語が教えられている。その他に、コロナの収束とともに技能実習生送り出しを目的とする日本語教育機関が増加している。

教育制度と外国語教育

教育制度

 5-4-3制(普通教育の場合)。
 2009年に前期中等教育が1年追加され、2017年現在、ラオスの教育制度は、初等教育5年、前期中等教育4年、後期中等教育3年の12年制で、前期中等教育までの9年間が義務教育である。
 高等教育は5年制であったが、2011年新入生より4年制に変更された。
 全国に8校ある教員養成校(Teacher Training College)においては、就学前教育、初等教育、前期中等教育、後期中等教育の教員養成が行われている。
 技術・職業教育に関しては、大別すると、前期中等教育修了者を対象とした基礎職業訓練校、後期中等教育修了者を対象とした技術・職業教育/訓練校がある。

教育行政

 国家レベルの教育行政は、教育スポーツ省が所管している。

言語事情

 主要言語は、ラオス語(低地ラオ族使用語)で、公用語になっている。

外国語教育

 2022年現在、初等教育カリキュラムでは、3年生から週2時間の外国語教育(英語)を行うことになっている。
 また、前期中等教育カリキュラムでは、第一外国語として週3~4時間(英語あるいはフランス語)、第二外国語として週2時間(第一外国語が英語の場合、フランス語、日本語、中国語、ベトナム語より選択)、後期中等教育カリキュラムでは、第一外国語として週3時間(英語あるいはフランス語)、第二外国語として週1~2時間(第一外国語が英語の場合、フランス語、日本語、中国語、ベトナム語より選択)を行うことになっている。この4か国語に加えて、現在韓国政府の支援を得て、韓国語教育もシラバス及び教材の準備段階にあり、早ければ2020年9月からは第二外国語として中等教育カリキュラムに加わる予定である。
 しかしながら、教員不足等の問題で、特に地方においてはどの第二外国語もカリキュラムどおりに行うことが難しい現状である。

外国語の中での日本語の人気

 最も学習熱が高いのは英語であり、近年は中国語の学習者も増加している。
 日本語学習者数は、2018年度日本語教育機関調査では1,955名であったが、2021年度同調査では3,118名へと増加している。今後も中等教育段階の学習者の増大が期待される。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 『にほんごをまなぼう』文部省(ぎょうせい) など。

中等教育

 『にほんご』ラオス中等教育教科書(ラオス教育スポーツ省教育科学研究所、国際交流基金 - 現在5冊目までが正規版として承認されており、6冊目が試行版として配布されている。全7冊を作成し、中等教育段階全体をカバーする予定である『あきこと友だち』ラオス語版(てっちゃんねっと)(『あきこと友だち』国際交流基金(Kinokuniya Thailand)を翻訳・改編)、『初級教科書げんき』坂野 永理ほか(ジャパンタイムズ)。

高等教育

 『みんなの日本語Ⅰ,Ⅱ』(スリーエーネットワークの著作権認可により本冊ラオス語版ならびにラオス語文法解説書をラオス日本センター(LJI)が発行)、『中級へ行こう』平井悦子ほか(スリーエーネットワーク)、『中級を学ぼう』平井悦子ほか(スリーエーネットワーク)、『テーマ別 中級から学ぶ日本語』松田 浩志ほか(研究社)など。

学校教育以外

 『まるごと 日本のことばと文化』国際交流基金(三修社)、『みんなの日本語Ⅰ,Ⅱ』(前出)、『あきことともだち』ラオス語版(前出)など。

IT・視聴覚機材

 一部機関では、DVDやコンピューターによる映像を利用した授業を行っている
 2021年から2022年にかけてコロナの影響により高等教育機関や一部中等教育機関でオンライン授業が実施された。それにより、学習者はコンピューターやスマートフォンによる学習環境に適応した。しかし、コロナの収束とともにすべての教育機関が対面授業に戻り、2022年現在、オンライン授業は高等教育機関で一部行われているのみである。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教師としての資格については、特に定めがない。

中等教育

 日本語教師としての資格については、特に定めがない。

高等教育

 ラオス教育スポーツ省の方針として大学教員の7割は修士号以上の学位を持つことが求められている。

学校教育以外

 日本語教師としての資格については、特に定めはない。

日本語教師養成機関(プログラム)

 ラオス国立大学文学部日本語学科で「日本語教授法」の授業が行われている。2022年にはラオス国立大学教育学部の協力を得て、JFの助成により教育学部と文学部日本語学科の学生を対象とした日本語教師養成セミナーを開催した。
 2016年7月より、ラオス教育スポーツ省教育科学研究所とJFの協力により、ラオス国立大学文学部日本語学科教師を講師とした、現職中等教育教師向け日本語研修(他教科の教師を日本語教師として育成する研修)を実施している。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 2022年度は、JFからラオス国立大学文学部日本語学科に1名、ラオス日本センター(LJI)に1名、ラオス教育スポーツ省教育科学研究所に1名の専門家を派遣しており、日本語の授業や教師研修の実施、カリキュラムや教材開発への助言、日本語普及活動を行っている。また、日本語を導入している公立中等教育学校4校に1名ずつ、計4名の日本語パートナーズが派遣されており、ラオス人日本語教師のアシスタントを行っている。
 ほかに、ラオス日本センター(LJI)や日本語学校に専任講師がいる。

教師研修

 ラオス人教師がJFの日本語教師長期(6か月)研修、短期(2か月)研修や、JFバンコク日本文化センターが実施するオンライン研修会に参加している。
 また、ラオス日本センター(LJI)では、2022年現在、LJI所属ラオス人教師のための日本語力向上のための「中上級ブラッシュアップコース」を開講している。

現職教師研修プログラム(一覧)

  •  長期(6か月)研修 (JF
  •  短期(2か月)研修 (JF
  •  JFバンコク日本文化センターオンライン教師研修会

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 日本語教育関係者間のメーリングリストを通じた情報共有のほか、日本語スピーチ大会実行委員会の定例会合を通じて、情報交換が行われている。

最新動向

日本語教師等派遣情報

国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)

日本語上級専門家

 ラオス国立大学 1名

日本語専門家

  •  ラオス日本センター 1名
  •  ラオス教育スポーツ省教育科学研究所 1名

日本語パートナーズ

 2022年度 計10名(長期4名、短期6名)

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

初等教育

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない。

中等教育

 公立中等教育機関では、2010年に施行された前期中等教育カリキュラムに基づいたシラバスが作成された。2011年に施行された後期中等教育カリキュラムに基づいたシラバスは教科書とともに現在作成中である。

高等教育

 高等教育機関では、各大学がカリキュラム・シラバスを作成している。

学校教育以外

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない。

評価・試験

 2007年より、日本語能力試験が年1回12月に実施されている。
 受験者数は年々増加している。

日本語教育略史

1965年 JICA海外協力隊によりビエンチャン内の公的機関で日本語教育が行われる
1975年 日本語教育が行われなくなる(革命のため)
1995年 ラオス国立大学基礎教育課程の日本語コース発足(2005年閉鎖)
2001年 ラオス日本人材開発センター(略称:LJセンター。現在はラオス日本センター(LJI)に改称)日本語コースが開講
2003年 ラオス国立大学文学部日本語学科が開設、授業開始
2007年 ラオス日本センターにて日本語能力試験実施開始
2013年 サワンナケート大学で第二外国語科目として授業開始
2014年 ラオス国立大学法律政治学部ラオス日本法教育研究センターで日本語講座開設(2017年に閉鎖)
2015年 公立中等教育機関であるビエンチャン中等教育学校で第二外国語として日本語授業開始
2016年 公立中等教育機関である、ノンボン中等教育学校、ピヤワット中等教育学校で第二外国語として日本語授業開始
2017年 新たな学士コースとしてサワンナケート大学言語学部日本語学科が開設
2018年 公立中等教育機関であるポンタン中等教育学校で第二外国語として日本語授業開始
2022年 中等教育機関向け教科書『にほんご1』~『にほんご4』の正規版が国定教科書として正式に承認され、全国展開可能となる
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