メキシコ(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
139 612 14,552
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 588 4.0%
中等教育 1,145 7.9%
高等教育 2,103 14.5%
学校教育以外 10,716 73.6%
合計 14,552 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 メキシコにおける日本語教育は、日本からの移民が多い他のラテン・アメリカ諸国同様に、日系人子弟を対象として始まった。榎本武揚らによる初めての入植(1897年)以降、日本人移民入植地のチアパス州アカコヤグア村で、照井亮次郎ら入植者たちによって設立された「日墨協働会社」が寺子屋式の「暁(アウロラ)小学校」を設立(1906年から15年間継続)して、日本人子弟教育として日本式のローマ字を用いた日本語教育を行った。おそらくこれが中南米での最初の組織的な日本語教育であったと思われる。戦前、墨都日本人会(のちの日墨協会)が日本語教育を行ったが、その時には日本の文部省からも教師が派遣されている(1930年)。第二次大戦中から戦後にかけても日系人子弟への日本語教育は継続されており、1944年に中央学園開校、バハ・カリフォルニア州では、1955年からメヒカリ日本語学園が日本語教育を行っている。
 1960年代になると、日系人以外の成人を対象とした日本語教育が始まった。1964年エル・コレヒオ・デ・メヒコにアジア・アフリカ研究センターが設立され、日本語は日本研究科の必修科目となった。1967年にはメキシコ国立自治大学文学部東洋研究所が日本語学科を設置、またこれに前後し日本大使館後援の日本語通訳養成コース(のちの日墨文化学院)が開講された。これは1968年のメキシコオリンピックに向けての必要性からであった。
 1970年代に入るとメキシコに進出する日系企業が増加し、駐在員子弟が急増したことから、これまでの日本人学校では手狭となる一方、戦前から開講してきた日系人のための日本語学校(タクバヤ学園、トラルパン学園、タクバ学園)には、駐在員子弟のための日本人学校と統合した総合学園を建設したいという計画があった。こうした背景もあり、1977年には日本人学校とメキシコの初等・中等教育機関からなる日本メキシコ学院(小学部・中学部〔高校部は1980年開校〕)が設立され、そのメキシココース(メキシコ人児童・生徒、日系人児童・生徒が在籍)では日本語が必修科目となり現在に至っている。また同年には国立工科大学の外国語センターでも日本語教育が始まった。
 1980年代後半から1990年代初めにかけては、継承語としての日本語教育が減少していくのと対照的に、外国語としての日本語教育が増加した。
 2003年7月には社団法人メキシコ日本語教師会が組織され、教師向けの研修事業や日本語弁論大会の開催など、メキシコの日本語教育のレベルアップを目指した活動を展開している。
 2004年の日墨経済協定前後には米国国境地域(バハ・カリフォルニア州、チワワ州、コアウイラ州、ヌエボ・レオン州)へ進出する日系企業の増加に伴い、同地域を中心に日本語講座を開設する機関が増加傾向にあったが、近年は新規に開講した機関は見当たらない。
 2010年代に入ると、各教育段階において日本語教育をめぐる重要な出来事が相次いだ。
 まず、2015年8月、グアナファト大学付属高校グアナファト校ならびにサラマンカ校に、日本の高等専門学校を範とした高専コースが開講した。同コースでは、メキシコの公立中等教育段階において初めて日本語が必修科目とされた(日本語授業開始は2016年1月)。続く2016年8月、グアナファト州サラマンカ市内に、幼稚部~高校部を有する私立校コレヒオ・マグノ サラマンカ校が開校し、小学部から日本語が必修科目とされた。さらに、2018年1月にはグアダラハラ大学ラゴス・デ・モレノキャンパス外国語・外国文化学部にメキシコで初となる日本語専攻が開設された。また、同年5月、グアナファト州イラプアト市内の私立校Colegio Americano del Centro A.C.(小中高一貫)において、小学部と中学部で日本語が必修科目として教えられるようになった(2022年11月現在、同校の存続を確認できず)。
JFは、1972年の設立以来1997年まで、日本語教育の専門家をメキシコの主要な日本語教育機関であるエル・コレヒオ・デ・メヒコ、メキシコ国立自治大学、日墨文化学院に派遣してきた。その後、1999年4月から2003年5月、そして2009年11月から現在に至るまで、メキシコ及び中米・カリブ地域の日本語教育の発展のために、日本語専門家を国際交流基金メキシコ日本文化センター(以下、JFメキシコ)に派遣している。
 JFメキシコは、JF日本語教育スタンダード(以下、JFS)と、JFS準拠日本語教科書『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)の普及を目指し、2012年以降、メキシコの日本語教育機関と共催で日本語講座(以下、JF日本語講座)を開講してきた。日墨文化学院(2012年1月~2013年12月)、日本メキシコ学院(2012年8月~2017年7月)、アジア研究学会(ACIA)(2013年1月~12月)などである。また、JFメキシコでも2014年5月からJF日本語講座を開始した。さらに、日本語専門家によるJFS・『まるごと』普及活動が成果を上げ、同教科書を主教材として使用する機関も増加した。
2022年11月現在、先述の共催JF日本語講座は全て終了している。JFメキシコが行うJF日本語講座は、2017年9月以降、日本語学習プラットフォーム「みなと」を使用したオンライン講座に移行し継続中である。

背景

 今日では日本語学習者の大半は非日系人で占められており、継承語として日本語教育を行っている機関は、年少者を対象とした中央学園1校のみとなった。80年代後半から90年代に入ると多くの大学で外国語教育としての日本語講座が開講されるようになった。これらの学習者の多くは、アニメ、マンガをはじめとするポップカルチャーに対する関心が学習の動機付けとなっていると思われる。
 また、2012年頃にメキシコ中部グアナファト州を中心としたバヒオ地区に日系の自動車関連企業(マツダ、ホンダなど)が進出し始めて以降、企業内の通訳業務など日本語人材の需要が高まっていることを受け、2022年現在も同地区における日本語学習者の増加は続いている。

特徴

 2021年度海外日本語教育機関調査にも明らかなように、「学校教育以外」の占める割合が最大(機関数、教師数は9割弱、学習者数は7割強)であることが、メキシコの日本語教育の大きな特徴である。また、2020年3月以降の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、民間語学学校の中には対面型から完全オンライン型に切り替える機関が現れるとともに、新しいオンラインスクールも生まれている。さらに、オンラインで個人教授を行う教師も増えており、学習者にとっては自分の生活環境や生活スタイルに合わせさまざまな選択肢の中から学習方法を選べるようになっている。
 また、2022年10月末日現在「みなと」累計登録者数が54,971名であることから、機関に所属せず個人でインターネットなどを使って日本語を学ぶ独習者も相当数存在すると見られる。
 日本語学習者のレベルは初級から中級前半のレベルが大半を占め、中級後半から上級の学習者は少ない。
 メキシコ日本語教育界の中核となるメキシコ日本語教師会は、2003年の設立以降、日本語教育シンポジウムなどの活動を継続しており、近年はメキシコのみならず中米カリブ地域とも連携を深めている。

最新動向

 2021年7月よりユカタン州メリダ市、2022年7月よりアグアスカリエンテス州においても日本語能力試験が実施され、2022年度は計4都市・4会場で同試験が実施された。なお、2019年度第1回試験で初めて実施会場となったグアナファト州サラマンカ市は、2021年度第2回試験をもって実施を終了した。
 2019年8月よりメキシコ国立自治大学付属第6高校(Escuela Nacional Preparatoria Plantel 6 "Antonio Caso")、2022年10月よりメキシコ国立自治大学付属第2高校(Escuela Nacional Preparatoria Plantel 2 "Erasmo Castellanos Quinto")にて課外活動「日本語クラブ」が週1回実施されている。同クラブはJFメキシコが教務と運営の両面で支援している。
 新型コロナウイルス感染拡大を受け、メキシコ教育省(SEP: Secretaría Educación Pública)による新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策として、大学を含むすべての学校(私立大学を含め全国の約25万校、約3,300万人の児童・生徒・学生が対象)が1か月間一斉閉鎖された。その後、徐々にオンライン授業として再開し、2020年度は多くの機関でオンライン授業が継続された。2021年度に入ると、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型授業を始める機関が増え始め、同年度後半には多くの機関で完全に対面授業に戻ったようである。ただ、民間語学学校の中にはオンライン授業実施期間中に遠方または国外からの受講者を受け入れるようになったため、現在もオンライン授業を継続せざるを得ないところもある。

教育段階別の状況

初等教育

 日本語はメキシコ教育省のカリキュラムで認められた科目になっていないため、日本語教育を実施している公立の初等教育機関は存在しない。一方、私立の教育機関では、日本メキシコ学院メキシココース、コレヒオ・マグノ サラマンカ校、Genki School(チアパス州)の計3機関で日本語教育が必修科目として実施されている。

中等教育

 2016年1月より、グアナファト大学付属高校グアナファト校ならびにサラマンカ校の高専コースにおいて、公立校としては唯一日本語が必修科目として教えられている(2022年11月現在グアナファト校では実施されてない)。また、メキシコ国立大学付属第2高校と第6高校では課外活動として「日本語クラブ」が実施されている。一方、私立の教育機関では、日本メキシコ学院メキシココースやコレヒオ・マグノ サラマンカ校などで日本語教育が実施されている。形態は、必修科目から課外活動までさまざまである。

高等教育

 2018年1月にグアダラハラ大学ラゴス・デ・モレノキャンパス外国語・文化学部にメキシコで初となる日本語専攻が開設された。一方、多くの大学では日本語講座が選択科目として開講されている。また、日本の大学と提携を結び、大学間交流に積極的に取り組む大学が増えている。主な大学として、プエブラ自治州立栄誉大学と天理大学、チャピンゴ自治大学と東京農業大学、国立工科大学と電気通信大学、グアナファト大学と創価大学、グアダラハラ州立大学と神田外語大学、パナメリカナ大学と帝京大学などが交流事業に取り組み始めている。また、モンテレイ大学とヌエボ・レオン大学は、それぞれ長岡技術科学大学とツイニングプログラムを実施し、日本語を習得した学生の編入制度を設けている。日本研究で唯一修士の学位を取得することができるエル・コレヒオ・デ・メヒコの日本研究コースでは、日本語が必修科目となっている。

学校教育以外

 日系人の継承語教育として始まった日本語学校は、今ではその学習者の9割以上が非日系人で占められており、もはや継承語教育という側面は消滅していると言える。現在その他教育機関の種類としては、一般人に開放されている大学の言語センターと民間の語学学校が大半であり、学習者の多くは大学生以上の成人層で占められている。これまで年少者のみを受入対象としてきたメキシコ市の中央学園でも土曜日に成人コースを開講するなど、成人層の日本語指導にも力を入れ始めている。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 6-3-3-3制。
 就学前教育(3~5歳)、初等教育(小学校6~12歳)、前期中等教育(中学校13~15歳)、後期中等教育(普通高校または専門技術高校16~18歳)の各段階に分けられる。このうち義務教育は、就学前教育から中等教育修了の15年間である。小学校では1日4時間、年間800時間の授業が義務付けられており、午前の部、午後の部の2部制を取るところもある。中学校では1日6時間の授業が義務付けられており、午前の部、午後の部の2部制が多い。
 高等教育は、①総合大学、②技術大学、③教員養成大学、④専門技術校の4種類で構成されている。一般専門課程は4年間で、専門性を高めるためにさらに半年が加わることもある。(たとえば心理学は4年だが、臨床心理学は4年半)。そのほか医学部は6年、会計学は5年など、専門によって多少の年限の違いがある。大学院は、修士課程2年、博士課程3年だが、単位制であるためこの年限で修了しない場合が多い。

教育行政

 就学前教育から前期中等教育(中学校)までは、メキシコ教育省が公立私立を問わず全てのカリキュラムを認定している。公立校の予算は教育省から受けるが、私立については独立採算制である。
 後期中等教育(高校)以上については教育省と国立自治大学のいずれかの管理下にあり、カリキュラムの認定を受ける。私立といえども独自にカリキュラムを作成することはできない。予算的には私立は独立採算制、国立自治大学傘下は同大学から予算を受ける(国立自治大学は教育省を経由せず独自に政府から予算を受けている)。そのほかは教育省から予算を受ける。

言語事情

 公用語はスペイン語。
 ただし、ナワトルやマヤなど固有の言語を持つ民族集団が50以上存在し、州・地域によってはスペイン語とのバイリンガル教育も行われている。

外国語教育

 第一外国語:英語教育が小学校から始まる。私立の学校では幼稚園から英語のクラスを開始しているところもある。大学入学の際、学校によっては外国語(英語)の成績証明書も求められるが、試験制度は学校によって異なり、メキシコ国立自治大学の場合、学部によって英語の試験が取り入れられている。しかし入学後は第一外国語として英語が必修とされている。
 第二外国語:必修科目ではないが、大学によっては選択科目として卒業単位となるところもある。言語の指定は特にないが、多くの大学生が第二外国語にフランス語を選択しており、その次にドイツ語が多い。その他の言語として、イタリア語やロシア語などがあり、日本語を選択する学生は全体から見れば少ない。中国語講座を開講する大学が増え始めているが、日本語学習者数への影響はほとんど聞かれない。

外国語の中での日本語の人気

 日本のアニメーションやゲーム、JPOPなどのポップカルチャーの人気は依然として高く、日本語学習者数は増加している。2012年以降メキシコ中部のバヒオ地区にマツダ、ホンダなど日系自動車関連企業が進出し、日本語通訳の需要が急激に高まりこれらの企業に就職する日本語学習者や転職する日本語教師も増えている。

大学入試での日本語の扱い

 日本語は大学入試科目として採用されていない。

学習環境

教材

初等教育

 日本メキシコ学院メキシココース小学部とコレヒオ・マグノ サラマンカ校では、自作教科書が使用されている。Genki Schoolでは授業担当教師が授業ごとに教材を作成して使用している。

中等教育

 日本メキシコ学院メキシココース中学部・高校部ではオンライン教材「eTRY!」(アスク出版)が使用されている。グアナファト大学付属高校サラマンカ校高専コースでは『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)、コレヒオ・マグノ サラマンカ校の中学部・高校部では自作教科書が使用されている。

高等教育

 グアダラハラ大学ラゴス・デ・モレノキャンパスでは、『げんき』(The Japan Times)を使用。エル・コレヒオ・デ・メヒコにはオリジナル日本語教科書があり、メキシコ国立自治大学では『新文化初級日本語』(文化外国語専門学校)が使用されている。それ以外の大学では多様な教科書が使用されている。例えば、『みんなの日本語』(前出)、『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)などが代表的なものである。

学校教育以外

 代表的なものは次のとおり。

1.年少者対象の日本語教育機関

 中央学園は教科書を使用せず、子どものレベルやニーズに合わせた授業を実施している。
 サテリテ日本語学校では『日本語ドレミ』(海外日系人協会)などを使用している。
 日墨協会日本語学校の年少者対象コースでは特定の教科書は使用せず、プロジェクトベースの授業を実施している。

2.成人対象の日本語教育機関

 初級レベルでは『みんなの日本語初級』(前出)、『まるごと 日本のことばと文化』(前出)を使用している機関が多いが、アジア研究学会(ACIA)のように『できる日本語』(アルク)を使用する機関も出てきた。中級レベルコースの使用テキストは『中級へ行こう』(スリーエーネットワーク)、『みんなの日本語中級1』(スリーエーネットワーク)『文化中級日本語』(文化外国語専門学校)が使用されているが、同レベルを開講している機関はあまり多くない。

IT・視聴覚機材

 学習者の多くは日本語のメディア教材や関連サイトの情報などインターネットを通じて積極的に収集している。日本語教育機関におけるIT・視聴覚機材などの使用については、一部の大学では導入され始めているが、日本語教育機関全般では整備されているとは言えない。その要因のひとつとして民間の語学学校ではコンピューターでの日本語環境を整えることが難しいことが考えられる。しかし、日本語学習者は携帯電話のアプリで漢字を調べることが多くなり、紙の辞書を買う学生が少なくなっている。

教師

資格要件

初等教育

 日本メキシコ学院では日本語教師採用に際し、日本人の場合は大学で日本語教育を専攻または副専攻した者、日本語教育能力検定合格者、日本語教師養成講座修了者、もしくは教員免許を持ち、日本語教育に興味がある者という条件を求めている。またメキシコ人の場合は、学士号以上の学位を持ち、1クラス10~20名のクラスを担当する教師として2年以上の実務(小学生、中学生または高校生のクラス運営)経験があり、日本語ネイティブもしくは日本語能力試験N3レベル以上の者を求めている。

中等教育

 グアナファト大学付属高校高専コースでは最低でも学士号もしくは修士号の資格を求めている。
 日本メキシコ学院は【初等教育】を参照のこと。

高等教育

 メキシコ国立自治大学においては、教師の採用に際し、日本語、スペイン語による「教授理論」、「文字・語彙・文法の言語能力・四技能の言語使用能力」(日本語能力試験N2以上) 、「模擬授業」の3科目による試験が実施され、採用条件は高卒以上とされている。採用後に昇格していくには学士号、修士号以上の学位が必要とされ、コンクールが行われる。その他の大学では業績や経験、学歴などの資格要件は各々異なるが、日本人日本語教師の場合は学士号以上、メキシコ人日本語教師は日本語能力試験N4レベル以上で採用されている。

学校教育以外

 機関によって異なるが、日本人教師の場合には、日本の420時間日本語教師養成講座の修了者、または日本の大学で日本語教育を主専攻、もしくは副専攻した者を採用条件とするところが多い。

日本語教師養成機関(プログラム)

 2010年、メキシコ国立自治大学において、20年ぶりに日本語教師養成コースが開講された(1年間460時間)が、2011年以降は受講者が集まらず開講されていない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 主要日本語教育機関では日本語教育運営責任者に日本人教師が雇用されている。その他にも、経験・年齢ともにさまざまなタイプの日本人教師がおり、メキシコ人教師とともに教壇に立っている。ただし特に地方の日本語教育機関では日本語教育や言語学の専門教育を受けた経験のある教師はあまり多くない。さらに、バヒオ地区では、駐在員の帯同家族がメキシコ人から個人教授を依頼されるケースや、民間語学学校にスペイン語留学に来た日本人が在籍校から請われて日本語クラスを教えるケースなども増えている。

教師研修

 メキシコ国内で広く日本語教師向けに研修などを実施しているのは、メキシコ日本語教師会とJFメキシコである。
メキシコ日本語教師会は、主催事業としてJFメキシコの助成を受け、年1回日本から講師を招へいする大規模な「日本語教育シンポジウム」を開催している。また経験の浅い日本語教師を対象にした「夏季短期集中講座」も実施している。その他、2019年頃までは地方支部主催の勉強会も活発だったが、2020年にコロナ禍を受け中断して以降は北部支部を除き実施されていない。その他、2015年までJICAが助成して日系人子弟対象の日本語教育機関を対象に「日本語教師合同研修会」が開かれていたが、現在は行われていない。

現職教師研修プログラム(一覧)

メキシコ日本語教師会主催、JF助成
  • メキシコ日本語教育シンポジウム:メキシコ人及び日本人日本語教師50名以上が参加、毎年3月に国内外から講師を招へいし講義とワークショップを行う。2021年度・2022年度は同期型と非同期型を組み合わせたオンライン形式で実施している。また、最近はメキシコだけではなく中米カリブ地域からの参加もみられるようになった。
  • 夏季短期集中講座:経験の浅い教師を対象とした日本語教授法、言語、ワークショップなどの集中講座。2022年度は「自律学習:UNAM Mediatecaの実践を知ろう」をテーマに、同期型と非同期型を組み合わせたプレセッション・メインセッション・ポストセッション・フォローアップの4段階で7日間開催。
JICAの助成による教師研修会
  • 日本語教師合同研修会:継承語教育をテーマにした2日間の教師研修会。参加者の大半は日系団体関連日本語機関のネイティブ日本語教師。現在は実施されていない。
JFメキシコ日本文化センター主催による研修会
  • オンライン研修シリーズ「学習者の多様性を考える」:メキシコ・中米カリブ地域・南米スペイン語圏の現職日本語教師対象、隔月実施、Zoomを使用したオンライン型、学習者の多様性を大テーマとし、「学びのユニバーサルデザイン」「UDフォント」「カラーユニバーサルデザイン」「日本語能力試験における受験上の配慮」「教科書に見るバイアス」などの小テーマで2時間程度の研修を行う。テーマによっては外部講師に講義を依頼。
  • 地域別日本語教師研修:メキシコ国内の現職日本語教師対象、基本的に毎月実施、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型、メキシコ国内を5つの地域に分け日本語上級専門家または日本語専門家が現地に赴きハイブリッド型で実施。同地域の日本語ノンネイティブ教師と共同で講義やワークショップを行う。日本語教育関連知識の拡充と同時に各地域でリーダー的立場となる日本語ノンネイティブ教師の育成も目指す。
  • 教師のための日本語コース(旧称「日本語ブラッシュアップ講座」):メキシコ・中米カリブ地域の日本語ノンネイティブ教師対象、第1期(5月~8月)・第2期(9月~12月)、Zoomを使用したオンライン型、A2後半レベルの日本語ノンネイティブ教師がB1前半レベルに到達することを目指す。日本語学習プラットフォーム「みなと」を使った自主学習と、隔週で行う1.5時間程度のライブレッスンを組み合わせている。
  • 中米カリブ日本語教師対象研修:中米カリブ地域の現職日本語教師対象、各国のニーズに応じてオンラインまたは対面、あるいはハイブリッドで実施。対面及びハイブリッドの場合は当該国に出張して実施する。2022年度は、ジャマイカ、パナマ、グアテマラに日本語専門家が出張して実施したほか、ホンジュラス日本語教師に対しメキシコからオンラインで実施した。
  • その他、機関や団体からの要請を受けて『まるごと 日本のことばと文化』の使い方に関する研修を随時実施。2時間×10回程度を基本とし、要請側の都合に合わせて内容を多少変更して行っている。
  • また、日本語ノンネイティブ教師の日本語運用力向上を目指し、JFの他の海外拠点と共同で日本語ノンネイティブ教師交流会を2-3か月に1回実施。2022年度の実績は、JFバンコク、JFカイロ、JFハノイ、JFジャカルタの4拠点。

•教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 1989年、日本語教師組織として、メキシコシティにおいて「メキシコ日本語教師連絡協議会」が発足した。同会は全国規模の教師ネットワーク形成を図ることをめざし、2003年には「社団法人メキシコ日本語教師会(Asociación Mexicana del Idioma Japonés A.C.)」へと組織が再編成された。他方、国内第2の都市グアダラハラ市では2000年に5機関で組織された「グアダラハラ日本語教師勉強会(El Grupo de Profesores de Lengua Japonesa en Guadalajara)」が発足したが、2013年以降はメキシコ日本語教師会の支部に移行し、支部活動の一環として勉強会を実施している。
 メキシコ日本語教師会は、国内外に86名(国内80名、国外6名、2022年11月現在)の会員がいる。
 メキシコ日本語教師会の主な活動としては、毎年国内外から講師を招へいして行われる「メキシコ日本語教育シンポジウム」やメキシコ人日本語教師、経験の浅い日本語教師を対象にした「夏季短期集中講座」などがある。2020年3月までは地方支部主催の勉強会も活発に行われていたが、コロナ禍の影響で中断して以降、2022年現在は北部支部が継続しているのみである。また、地方支部主催日本語弁論大会もコロナ禍を受け中断したままである。一方、コロナ下で普及・定着したオンラインの特性を生かし学習奨励活動が盛んになっている。「中級ディスカッションクラブ」は日本の高校と共同でディベート活動を実施し、「ミニプレゼン交流会」は国外からの参加者も受け入れている。

最新動向

 2023年2月「自律学習」「学習者のモチベーション(教育心理学)」をテーマに「第28回日本語教育シンポジウム」をオンラインで開催。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)

日本語上級専門家

 メキシコ日本文化センター 1名

日本語専門家

 メキシコ日本文化センター 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

 統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。

評価・試験

 日本語能力試験が日本語運用力を測る一つの基準として浸透しており、2022年第1回の受験応募者数はメリダが197名、アグアスカリエンテスが300名、同年第2回の受験応募者数はメキシコシティが1,013名、モンテレイが406名。新型コロナウイルス感染予防策として、2022年度も各会場で受験人数に上限を設けて実施。

日本語教育略史

1897年 5月 榎本殖民団35名がメキシコチアパス州アカコヤグア村に到着
1906年 同村にメキシコ最初の日本語教育機関アウロラ(暁)小学校が開校
1930年 墨都日本語学園開校(墨都日本人会経営 日本政府が補助)
1944年 中央学園開校(日本語補習校)
1945年 タクバ学園開校(日本語補習校1945年~77年)
1964年 エル・コレヒオ・デ・メヒコ アジア・アフリカ研究所日本研究科設置
1967年 日本大使館内にメキシコオリンピックのための通訳養成講座開設
1967-75年 メキシコ国立自治大学文学部に東洋研究所日本学科設置(67~75年)
1975年 メキシコ国立自治大学外国語教育センターに日本語講座開設
1977年 9月 日本・メキシコ学院開校(日本、メキシコ両コースが設置された国際校)
1981年 1月 第1回メキシコ日本語弁論大会開催(主催:メキシコ国立自治大学)
1984年12月 第1回日本語能力試験実施(メキシコシティ)
1987年 8月 JFメキシコ日本文化センター開設
1989年10月 メキシコ日本語教師連絡協議会発足(メキシコ市内の12機関による)
1990年 8月 第1回日本語教育シンポジウム開催(主催:日本語教師連絡協議会)
1991年10月 第1回メキシコ日本語教育研究大会開催(主催:JICA
1992年10月 第1回子どもの日本語話し方大会開催(主催:日墨協会)
1998年10月 第1回日本語ブラッシュアップコース開催(~2007年まで毎年実施)
1999年7月 第1回メキシコ人日本語教師研修コース夏期集中講座開催(2008年より日本語教師短期集中講座に名称変更)
2000年 グアダラハラ市に「グアダラハラ日本語教師勉強会」発足
2002年 2月 Asociación Mexicana del Idioma Japonés(メキシコ日本語教師会)設立準備委員会発足 (メキシコ日本語教師連絡協議会から移行)
2003年 5月 第20回メキシコ日本語弁論大会開催(日本語教師会主催)
2003年 7月 メキシコ日本語教師会が社団法人認可を取得
2003年11月 第1回ベラクルス州日本語弁論大会開催
2004年11月 日墨文化フォーラム(日本語教育シンポジウム)開催(主催エル・コレヒオ・デ・メヒコ)
2005年10月 第1回メキシコ中部地方(グアナファト州、ハリスコ州、ケレタロ州)日本語弁論大会開催
2007年4月 第1回ヌエボ・レオン州日本語スピーチコンテスト開催
2008年3月 日本語教育ボランティア事業実施(基金、教師会共催)
2008年5月 第25回メキシコ日本語弁論大会開催
2009年3月 メキシコ日本語教師会がJFさくら中核メンバーとして認定を受ける
2009年11月 教師勉強会地方巡回指導を開催(メヒカリ市、グアダラハラ市)
2010年10月 第1回メキシコ北部日本語弁論大会開催
2010年12月 モンテレイ市にて日本語能力試験実施(国内2都市目)
2012年1月 日墨文化学院と共催でJF日本語講座を開講(三井物産への出講講座 2012年1月~2013年12月)
2012年8月 日本メキシコ学院高校部新入生クラスでJF日本語講座を開講
2013年1月 アジア研究学会でJF日本語講座を開講(1月~12月)
2013年8月 日本メキシコ学院中学部の一部でJF日本語講座を開講
2014年5月 JFメキシコ日本文化センターでJF日本語講座を開講
2015年8月 日本メキシコ学院中学部・高校部すべてのクラスで『まるごと』使用
日本メキシコ学院がさくらネットワークメンバーとして認定
グアナファト大学付属高校グアナファト校サラマンカ校高専コース開講
2016年8月 日本語能力試験オンライン出願開始
コレヒオ・マグノ サラマンカ校開校
2018年1月 グアダラハラ大学ラゴス・デ・モレノキャンパスに外国語・文化学部日本語専攻開設
2019年7月 グアナファト州サラマンカ市にて日本語能力試験実施(国内3都市目)
※2021年度第2回試験をもって同会場での実施を終了
2021年7月 ユカタン州メリダ市にて日本語能力試験実施(国内4都市目)
2021年9月 ベラクルス州立大学と日墨協会日本語学校がさくらネットワークメンバーとして認定
2022年7月 アグアスカリエンテス州にて日本語能力試験実施(国内5都市目)
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