ニュージーランド(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
224 432 28,072
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 7,983 28.4%
中等教育 17,399 62.0%
高等教育 1,799 6.4%
学校教育以外 891 3.2%
合計 28,072 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 ニュージーランドの高等教育機関における日本語教育は、1965年にマッセイ(Massey)大学に日本語の学位課程が設けられた後、次々と日本語講座が開設され、2022年現在、ニュージーランドにある7つの国立大学と通称Ara(幅広い分野で専門教育や職業訓練を行う高等教育機関)1校、私立大学1校の計9校で日本語教育が行われている。
 中等教育機関においては、1967年から高校レベルで試験的に日本語教育が開始され、1973年には中等教育修了資格試験に日本語科目が導入された。その後、1980年代の後半から1996年まで、中等教育においては「津波」と言われる急激な日本語学習者の増加が続き、1994年から1998年まで、それまで学習者数の最も多かったフランス語を抜いて、日本語が最も学習者の多い言語となった。しかし、その後日本経済の停滞もあり、日本語学習者数は減少に転じた。以来2016年まで減少傾向にあったものの、ここ数年は全国的にやや回復傾向にある。外国語履修者数は2022年10月時点でフランス語に次いで僅差で2位となっている。(参照Education Count

背景

 英国植民地であったニュージーランドは、文化的にも心理的にも欧米諸国との関係が深かったが、1973年の英国EU加盟で、対英貿易の特権的地位を失い、日本をはじめとするアジア諸国との経済関係が深まった。このことが1990年代までニュージーランドで日本語教育が増加し続けた第一の理由として挙げられる。
 日本からニュージーランドへの観光客も多く、日本語学習は観光業界就職への足がかりともなった。さらに、日本のアニメやゲームに興味を持ち、日本語学習を始める学習者も見られる。しかしながら、ここまでの増加傾向から一転、減少傾向に至ってしまった理由としては、第一に日本経済の不振と中国や南米諸国などの新興経済大国の台頭という国際経済環境の変化が挙げられる。特に2008年4月、ニュージーランドは中国と自由貿易協定を結び、中国との関係を重視した政府も中国語の学習を後押ししている。また、太平洋を挟んだ南米諸国との経済的関係も強まっており、将来は中国語やスペイン語が仕事の上で有利だという認識がニュージーランド人の間で広まっている。第二には日本人留学生の減少が挙げられる。ニュージーランドにとって教育は外貨獲得の大きな産業である。政府からの予算配分が少ない学校は管理運営費を留学生からの高額な学費で補っている。南米や中近東、南アジア諸国からの留学生は増えており、中国は有望な留学生市場と見込まれている。少子化の影響と経済不振から日本人留学生は減少し、日本が以前のように魅力的な留学生市場ではなくなったことが、科目の選択に大きな力を持つ校長や理事会などの決定に影響を与えている。また、国家資格試験(NCEA=National Certificate of Educational Achievement)の導入により、他の言語と同様の成果を求められたとき、ひらがな、カタカナ、漢字という表記の複雑さから日本語がヨーロッパ言語に比べて不利になる、日本語を勉強してもいい成績を取れないと思い込む学生が多い。

特徴

 ニュージーランドでは、初等・中等教育機関での日本語学習者が9割を占めることが特徴として挙げられる。日本語は、外国語(フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語など)としての選択科目のひとつである。中等教育機関だけを見れば、日本語はフランス語に次いで学習者数が2番目に多い言語である。高校の日本語教師はたいていの学校に1名しかいない。日本語の授業担当時間数が少なければパートタイム勤務となるか、または、日本語以外の科目も担当する。オークランドなど都市部ではアジアからの移民や留学生が多く、日本語を学習しているアジア系学生も多い。特に韓国系の学習者は日本語と韓国語との類似から優秀な学生が多く、こうした韓国系の学習者の中には日本語教師になった人もいる。
 初等・中等教育と高等教育の間にカリキュラムの上で一貫性がなく、中学校・高校で日本語を選択した生徒でも、大学で初級クラスからやり直す場合もある一方、既習者は中級レベルからの履修を認めているところもある。教育段階間の一貫性の整備と教師間のいっそうの連携が強く求められている。

最新動向

 教育省は2021年から2025年までの5カ年計画を作成し、段階的にニュージーランドカリキュラム(以下、NZC)の改訂を行っている。コロナの影響で1年ずれたが2026年から完全実施となる見込みである。教育省は改訂が必要な理由を、ワイタンギ条約における義務を尊重し、インクルーシブで、子どもたちにとって重要な学びを明確にし、1年生から13年生まで一貫性のある使いやすいカリキュラムにするためとしている。現行の2007年版NZCの内容の多くを引き継ぐが、2023年から段階的にすべての学校で「歴史(Aotearoa New Zealand’s histories)」が教えられるようになる。また、「日本語」の科目においてもこれまで以上にマーオリ語やマーオリの世界観を適切に取り入れることが求められている。  また、教育省は2021年に実施したLearning Languages領域のNMSSANational Monitoring Study of Student Achievement)調査報告書を公表した。NMSSAは英語媒体の公立校の4年生と8年生(及び担当教師と校長)を対象に生徒の学習到達度を評価するためのサンプル調査である。(コロナ禍での調査であり、サンプル数は当初の予定の半分程度である。)調査に回答した約1,000名の生徒のうち、約53%が何らかの外国語を履修しているが、これは前回の2016年の調査の61%を下回っている。生徒が履修していた言語はスペイン語(38%)、日本語(32%)、フランス語(27%)である。2016年の調査ではフランス語、スペイン語、中国語(マンダリン)となっており、入れ替わりが見られる。外国語履修した8年生の70%近くが外国語学習に対して「重要だ」「とても重要だ」と回答している。しかし、外国語を勉強しているとはいっても64%の生徒の年間学習時間は20時間以下である。教師自身も半数が対象言語を教える自信がなく、外国語教授に関する教師研修の機会が十分でないと感じている。外国語学習の機会を提供するかどうかは学校理事会や校長の裁量に任されているが、回答した3分の2の校長は外国語学習の重要性を認めつつも、提供している教育の質については評価が割れている。また、70%の校長が既存の教師の中に外国語を教えられる教師がいるかどうかが外国語科目を提供するかどうかの重要な判断材料になると回答している。

教育段階別の状況

初等教育

 ニュージーランドの初等教育機関では、外国語学習は必修ではなく、選択科目である。1~6年生では日本語を含む外国語はほとんど教えられていないが、「日本語に触れてみる程度」に日本語・日本文化紹介の授業が行われている学校もある。授業を行う外国語は学期ごと、または年度ごとに変わることもあるので、生徒は複数の外国語を習うチャンスがある。こうした、多言語紹介コースは「Taster(味見)コース」と呼ばれる。3言語、4言語を味見程度に習って、中等教育に進学したときにその中からひとつ選択するという趣旨である。これなら、外国語を教えた経験のないクラス担任の教師でも、簡単な挨拶や単語程度は教えられるので、この方式をとっている学校が多い。クラス担任の中にたまたま英語以外の言語が話せる教師がいれば、年間を通じてひとつの言語を教える場合もある。言語の選択は教師が何を教えられるか、にかかっている。
 小学校で日本語教育を行う学校もあるが、教え方や時間数は学校によって異なるため、一概にはどのレベルとは言えない。ただ、2学年、または3学年混合のクラスであるとか、一学期間だけという場合も少なくない。学習内容は文化的なものを中心に、簡単な挨拶、歌、日本の年中行事の紹介などが主なものである。ひらがなやカタカナの導入は行われない場合が多い。教師の日本語力は、JETプログラム経験者以外は初級か未習レベルで、言語教育の専門性も必要とはされていない。

中等教育

 中等教育が始まる9年生以降は、日本語教育の資格を持つ教師が日本語の授業を担当し、11年生から受験する国家資格試験(NCEA)に向けて学習を続ける。しかし、9年生の段階では、高校であっても前述した「Taster(味見)コース」で複数の言語を教える学校もある。学校の方針により外国語が必修のところもあるが、ほとんどの学校では選択科目である。また、12年生に進学するとき、選択科目の時間割の関係など、さまざまな理由で日本語の履修をやめてしまう学習者も多い。11年生からのクラスは学習者が1クラス10人以下の場合も多く、クラスが成立しないと12年生と13年生をまとめて1クラスにしたりする。それでも学習者が少なすぎるときは、通信制の学校で勉強させることになる。

高等教育

 国立7大学と私立大学1校、Araの、計9校において日本語講座が開講されている。日本語のみの専攻のほか、日本語を専攻しながら、経済経営学、法学、または情報工学などを二重専攻したり、経済経営学、法学などを専攻し、日本語初級レベルを履修したりする学生もいる。2014年に大学における日本語教育と日本文化研究の推進、強化を目的とした大学間のネットワーク組織、JSANZJapanese Studies Aotearoa New Zealand)が大学関係者の努力により創設され、2022年にさくらネットワークの一員となった。シンポジウムの開催、大学生のスピーチコンテストなどを実施している。

その他教育機関

 主要な高校に設置されている生涯教育機関としてのコミュニティースクールにおいて、初級レベルの日本語が教えられている。また、大学やポリテクニーク(専修大学)、大使館などでも夜間コースを開設しているところがある。コロナで一時中断していたコースも再開の動きがあるが、なかなか教師が見つからないといった問題も見受けられる。
 継承日本語という観点からは、オークランドやウェリントンといった都市を中心に、補習校や小規模の日本語クラス、子ども日本語クラブなどの活動がある。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 8-5制。
 ニュージーランドでは、初等教育8年と、中等教育5年に分かれており、高等教育機関には、国立大学8校(University)とAraを含むポリテクニーク(Polytechnic:専修大学)16校、Wānanga3校(マーオリの伝統や習慣にもとづいて学べる国立の教育・研究機関)がある。保育レベルから高等教育に至るまで英語媒体とマーオリ語媒体の教育機関が併存するが、初中等教育レベルで使用されるカリキュラムはどちらかの言語を翻訳したものではなく、内容や構成は多少異なる。
 義務教育(義務教育制度は、1877年から開始)は満6歳の誕生日から16歳の誕生日までであるが、実際にはほとんどすべての子どもは5歳の誕生日から学校に入る。初等教育機関には、1年生から8年生まであるFull Primary Schoolと1年生から6年生までのContributing School、7・8年生だけのIntermediate Schoolがある。中等教育機関(Secondary School)はHigh SchoolCollegeなどの名称を持つが、7年生から13年生までの学校と、9年生から13年生までの学校が混在する。義務教育が終了する16歳は、大半の子どもにとっては12年生にあたるが、法的には16歳の誕生日に学校をやめてよい。高等教育機関への進学希望者は13年生まで在学する場合が多い。
 このほかに、初等教育と中等教育が合併した1年生から13年生までの学校Composite Schoolや遠隔地に住む児童生徒のための通信学校Correspondence School(自分の望む科目が在学校にないときには通学者も受講が可能。都市部でも、受講者が少なく日本語講座が開講されなければ、学校1室で通信教育での学習を余儀なくされる)がある。また、教育省の認可のもとに両親が子どもを教育するHome-Based Schoolingも可能である。

教育行政

 1980年代にニュージーランドで始まった大規模な行政改革の結果、多くの公的機関が民営化された。学校教育については、1988年に「ピコット報告」が出され、中央集権的な教育行政の是正と、各学校現場への教育権限の委譲が提言された。これによって各学校に「学校理事会」(Board of Trustees)が設置された。「学校理事会」は、初等教育機関では、父母の代表5名、校長、教職員代表1名からなっており、中等教育機関の場合は、これに生徒代表1名が加わる。「学校理事会」は、学校運営資金の運用、教員採用などの幅広い責任を負う。この制度は1989年から実施され、現在に至っている。言語教育に関して言えば、どの外国語を教えるか、あるいは外国語自体を教えるかどうかの決定は、理事会の意向を受け校長が決断する。従って、言語教育普及のためには、学校理事会への働きかけが非常に重要となってくる。

言語事情

 公用語は英語とマーオリ語(マーオリ語が公用語となったのは、1987年から)とニュージーランド手話の3言語である。多くの公的機関の名称は英語とマーオリ語が併記されており、一部の公的な書類もマーオリ語で作成されている。テレビ、ラジオ、新聞など、多くのマスメディアにおいてもマーオリ語使用の割合が増えてきている。ニュージーランドは太平洋諸島をはじめ、中国や韓国からの移民が多いが、移民の母語を維持する言語学習プログラムも活発化してきた。マーオリ語・マーオリ文化の積極的導入の傾向が見られるが、パシフィカ言語についてはまだそこまで至っていない。

外国語教育

 外国語は必修科目ではなく、第一外国語、第二外国語という区別もない。科目としての外国語の導入は学校の判断に任されている。小学校で外国語を教えているところは多くないが、中学校(7・8年生)では外国語の導入が進んでいる。外国語として教えられているのは、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、日本語の「主要5言語」のほか、韓国語、サモア語、トンガ語、ラテン語、インドネシア語なども少数の学校で教えられている。高校では大半の学校が外国語教育を提供している。また、外国語教育の重要性が強調され、初等教育段階での外国語教育の導入が奨励されている。

外国語の中での日本語の人気

 日本語は、教えている学校数、学習者数共に大幅な減少が続いていたが、ゆるやかな回復傾向にあり、日本語科目再開の動きも見られる。「主要5言語」のうち、日本語以外の4言語は対象言語を母語とするランゲージアシスタントが派遣されている。中国語は孔子学院から年間150名あまりの若手アシスタントが小学校に送られ、フランス語、ドイツ語、スペイン語のランゲージアシスタントは中等教育レベルに派遣されている。コロナで一時中断していたが、海外渡航制限の緩和に伴い、ヨーロッパ言語のアシスタントは2023年から派遣が再開される。

大学入試での日本語の扱い

 基本的に、大学入学時に外国語自体が必要とされていない。大学によるが、一般的には大学入試で日本語は取り扱われていない。

学習環境

教材

初等教育

 6年生以下ではゲームや歌、教師が作成した教材が使われる。『国際言語シリーズ』(Learning Languages Series)の『Hai!』も使われているが古くなってきている。ニュージーランドの学校ではITを活用した授業が積極的に取り入れられ、各教室にコンピューターの画面を映せるプロジェクターが設置され、教師は自作のパワーポイント教材を使うことが多い。インターネットに常時接続できる教室の利用も増えている。

中等教育

 教育省が定める教科書はなく、教師が独自に開発した教材や複数の市販の教材を使用している場合が多い。オーストラリアで出版されている『Obento』、『Kimono』、『Ima』、『Mirai』、の他、ニュージーランドの日本語教師が開発した『Getting there in Japanese』、『11年生の日本語』『きっとできる』もかなり古くなってきているものの、まだ使っている学校も多い。教科書を使わず、Websiteから適当な教材を探してくる教師が多い。Tony LiddicottiCLTの観点から編集したテキスト『いいとも(ニュージーランド版)』やJFの『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)を使っている教師もいる。  また、BYODBring your own device)が年々普及し、紙媒体の教科書を全く使用しない学校も増えてきている。学生は自分のパソコンやiPadを持参し、日本語だけでなく、全ての教科の勉強をそれ一台でこなすシステムが、特に9、10年生から奨励されている。授業では、Education Perfect(ニュージーランド人が立ち上げた有料の学習サイト)、Kahoot, Quizletなどもよく使用されている。

高等教育

 初級レベルでは、『初級日本語 げんき」坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)の使用が多いが、大学で独自に開発した教材を使っているところもある。中上級レベルでは、生教材が広く使われている。

その他教育機関

 『JAPANESE FOR BUSY PEOPLE』国際日本語普及協会(講談社USA)、『JAPANESE FOR EVERYONE』名柄迪ほか(学習研究社)などのほか、『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)も活用されている。

IT・視聴覚機材

 コンピューターの使用が全面的に奨励されている。通常の授業では、プロジェクターやインタラクティブホワイトボードなどが使用される。また、さまざまなアプリを使って、ひらがな/カタカナ/漢字の練習や、語彙の導入をしている。学生をグループに分け、日本文化に関することをネットで調べる学習も多い。その他、インターネットを使った通信教育も盛んである。日本語教師がいない僻地での学習、学生数がクラスを形成するのに満たない場合、或いは混合クラスで教師が他学年を教えているときなどは、コンピューターによる授業を受けることが多い。コンピューターだけで授業を進める学校もあり、教室のIT化は進んでいる。

教師

資格要件

初等教育

 大学で教育学の学士号を取得する(3年間の課程)か、特定の科目について大学で学士号を取得した(3年間の課程)のち、1年間の教員養成課程を修了して免許を取得するのが通常である。日本語教師としての資格はない。JETプログラムなどで日本に滞在したことのある者が、帰国後、小学校や中学校の教師となり、日本語を教える場合がある。2006年からは教育省の方針により、7・8年生で外国語教育を導入する学校が増加し、日本語学習経験のない教師が日本語を教えなければならなくなっている。ボランティアの日本人アシスタントや教師資格のない現地の日本人が日本語を教える場合もたまにあるが、日本の学校とはシステムや教授法が全く異なるので、問題が多い。

中等教育

 学士号を取得しており、担当する科目のコースを大学で最低2年間履修していること、及び最低2科目担当資格が条件になっている。学士号取得後、さらに1年間の教員養成課程を修了し、最低2年間の学校教育機関での現場経験を満了すると教師資格が認定され、その後New Zealand Teachers' Councilの登録が済むと、教師としての完全登録となる。日本語教師になる教師はほとんど高校や大学で日本語を履修した経験があるが、他の外国語教師が独学で日本語を学習し、日本語を教えている場合もある。教員養成課程では「日本語教育」というコースはなく、「外国語教育」という一般的なものなので、ネイティブの教師を含め、ニュージーランドの教師は日本語教育学を学ぶチャンスがない。

高等教育

 大学やポリテクニーク(専修大学)で日本語を教えている教師は、修士号や博士号の学位のあるネイティブの教師が多い。

その他教育機関

 いくつかの高校に設置されているコミュニティークラスや大学の土曜日や夜間のクラスでも入門コースの日本語が教えられている。教師はネイティブが多い。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本語教師養成機関は存在しない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 日本語のネイティブ教師は、高等教育では約半数程度、初中等教育では全体の約2割程度で、長年ニュージーランドで教えている教師も多い。ニュージーランドのカリキュラムでは、言語教育においても、5つのKey Competencethinking/ using language, symbols, and texts/ managing self/ relating to others/ participating and contributing)にどのように貢献しているかが重要視されるので、言語力だけでなく、教授法を学びニュージーランドのカリキュラムに沿って的確に教えられる教師が求められている。

教師研修

 ニュージーランドでは、全く言語教育に携わったことがない教師が外国語を教えることも稀ではなく、その意味で教育省は教師研修を重要視している。言語に関する教師研修には、TuiTuia|Learning Circle(以下、TTLC)のLanguagesチームが行っているGROWプログラム(通年の教師研修)、EXPLOREプログラム(単発の教師研修)、Immersion Programmeの他にTTLC所属の5言語(中国語・フランス語・ドイツ語・日本語・スペイン語)のナショナルランゲージアドバイザーが主催する各言語別、また全言語共通のワークショップ等がある。Immersion Programmeは日本語に限って言えば、10日~2週間日本に滞在して行われる関西プログラムがある。(コロナ禍で海外渡航ができなかった年はニュージーランド国内で代替プログラムが実施された。)その他、年に2回のJFシドニー文化センター主催の教師研修セミナー(通常1月と9月)、研修プログラムによってはTTLCが費用を一部負担するものもある。また、ニュージーランド全国語学教師会(NZALT=New Zealand Association of Language Teachers)が開催している言語大会は隔年の全国大会と、全国大会のない年に行われるLangsemと呼ばれる地域別大会に大別される。

現職教師研修プログラム(一覧)

なし。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 主要5言語(フランス語・日本語・ドイツ語・スペイン語・中国語)の教師からなる全国組織の「ニュージーランド全国語学教師会」(NZALT=New Zealand Association of Language Teachers)は1年おきに全国大会と地域大会を開催している(「教師研修」の項参照)。NZALTは外国語教師が専門言語や地域の枠を越え、教師の地位向上や政策的支援の獲得などを目指し、政府機関に組織的に働きかけることを目的として1974年に設立された。NZALTは各地域に支部を有し、支部ごとに定期的な会合、ニューズレターの発行、研修会の開催を行っており、日本語教師は各地域のこうした外国語教師のネットワークの中でも活動している。
 地域や言語の枠を越えて組織化されたNZALTの設立趣旨がもともと政治的なものであったのに対し、言語別の教師会のひとつである「ニュージーランド日本語教師会」(NZAJLT=New Zealand Association of Japanese Language Teachers)は日本語教師の教授活動における相互支援、教材シェアリングを主目的として1993年に設立された。会員は、主に中等教育機関の日本語教師であるが、初等教育機関の日本語教師も参加できる。会員になるには会費を支払う必要があるが、2022年12月時点で会員数は115名である。2002年末にウェブサイトを開設し、ログインが必要な教師のサイトには多くの教材がアップロードされており、会員で共有することができる。NZAJLTのメーリングリストでも情報交換、教材やアイディアの共有が行われている。 北島では人口が集中する最大都市オークランド、ワイカト地区の中心ハミルトン、首都ウェリントン、南島ではクライストチャーチ、ダニーデンなどの都市に地域ごとの日本語教師会があり、それぞれで弁論大会やジャパンデーなどを実施しているが、地方の教師会は教師たちのグループといった性格が強く、特にはっきりした組織になっているわけではない。こうした地域別日本語教師会相互の交流の機会はあまりないが、隔年で開催されるNZALTの全国大会やその他の全国レベルの講習会などでお互いの情報を交換している。

最新動向

継承日本語教育について、オーストラリアの全豪繋生語研究会関係者の声かけでニュージーランドでも実態調査、ネットワーク形成をしていくこととなった。2022年現在、大学関係者2名が代表を務めている。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)

日本語専門家

 ニュージーランド教育省(オークランド) 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 なし

シラバス・ガイドライン

 日本語カリキュラムの草稿(初等・中等教育対象)が1996年5月に発表され、約3年間の意見交換期間を経て、1998年に「ニュージーランド日本語カリキュラム(Japanese in the New Zealand Curriculum)」としてまとめられ、同年から本格的に実施された。
 カリキュラムに関しては、ニュージーランドでは、2007年11月に、学校のカリキュラム作成の指針となる教育政策を示す「The New Zealand Curriculum」が改訂され2011年から導入されている。このカリキュラムでは、「英語」と「言語学習(外国語学習)」がそれぞれ別個の学習領域として独立し、7年生から10年生が在籍する全ての学校で外国語が教えられることとなり、日本語を含む外国語学習が一層奨励されている。しかしながら、外国語学習が必須科目になる可能性は低いと言わざるを得ない。2023年現在、2026年の完全実施に向けてさらにカリキュラムの改訂が進められているところであるが、以前外国語科目は必修ではない。

評価・試験

 JF主催の日本語能力試験がオークランド、ウェリントンにて年2回、クライストチャーチにて年1回実施されている。
 試験に関しては、2002年に、国家資格試験(NCEA = National Certificate of Educational Achievement)のレベル1が実施され、11年生が受験した。以後、2003年に12年生用のレベル2が、2004年に13年生用のレベル3が実施され、2004年までに高校の11~13年生のすべての学年で試験が実施されることになった。さらに2005年には奨学金の試験も実施された。2010年には新カリキュラムに基づいたカリキュラム・ガイドラインが発表され、2011年は、レベル1のみ、2012年はレベル1と2、2013年はレベル1、2、3と全てのレベルでNCEAの統一試験が実施された。その後、2019年に発表されたNZC改訂内容に合わせて大幅な見直しが行われ、NCEAもレベル1から順次一部の学校を対象としたミニパイロット、パイロット施行をふまえ、2026年にはすべてのレベルが刷新される予定である。

日本語教育略史

1965年 マッセイ(Massey)大学にて日本語の学位課程設置
1967年 高校レベルで試験的に日本語教育が開始
1968年 オークランド(Auckland)大学にて日本語講座開設
1970年 ワイカト(Waikato)大学にて日本語講座開設
1971年 カンタベリー(Canterbury)大学にて日本語講座開設
1973年 中等教育終了資格試験に日本語科目導入
1980年代
の後半~
中等教育機関において「津波」と言われる急激な日本語学習者の増加
1998年 初等教育機関において『国際言語シリーズ』(International Language Series:現在はLearning Language Seriesに変更)という教材を使用した7、8年生対象のプロジェクト開始
2002年 国家資格試験(NCEA = National Certificate of Educational Achievement)のレベル1実施(11年生が受験)
2003年 国家資格試験(NCEA)のレベル2実施(12年生が受験)
2004年 国家資格試験(NCEA)のレベル3実施(13年生が受験)
2007年 新ニュージーランド・カリキュラム発表
2010年 新ニュージーランド・カリキュラムに合わせた外国語学習ガイドライン発表
2011年 新ニュージーランド・カリキュラム導入
2014年 JSANZJapanese Studies Aotearoa New Zealand)設立
2015年~2017年 政府の助成によるアジア言語学習プログラム(Asian Language Learning in School Programme)実施
2019年 ニュージーランド・カリキュラム改訂発表
2021年~ ニュージーランド・カリキュラム改訂5カ年計画開始
2022年 ニュージーランド日本語教師会(NZAJLT)とJSANZがさくらネットワークに加入
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