スリランカ(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
89 164 9,746
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 6,412 65.8%
高等教育 833 8.5%
学校教育以外 2,501 25.7%
合計 9,746 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 スリランカの日本語教育は、1967年に首都コロンボの私塾で始まり、その後、1975年に大使館の日本語講座として受け継がれた。この講座は1994年からスリランカ日本語教育協会附属日本語講座として民営化され、民間の日本語教育機関の中心的存在となった。当初は初級のための講座を開設していたが、学習者の継続学習への意欲に答える形で1998年7月から「4年間で日本語能力試験N2合格を目指す」ことを教育の目標として、中級コースに力を入れている。
 1978年にケラニア大学で日本語の課外コースが開講され(学位取得コースは1980年)、1979年にAレベル試験(高校卒業試験兼大学入学試験)の選択科目に日本語が採用されたことにより、高校での日本語教育が始まった。さらに2001年12月に、Oレベル試験(中学卒業試験兼高校入学試験)の選択科目に日本語が導入され、第1回の試験が実施された。
 Aレベル試験は、1995年に最初のシラバス改訂が行われ、1997年にシラバス改訂後第1回目の試験が行われた。2003年の初回受験者数は537名でその後増加を続け、2017年は982名、2018年は1211名、2019年は1376名、2020年は1833名と、増加傾向にある。
 Oレベル試験は、2003年には536名が受験し、2006年には958名になった。2016年はシラバス改訂後初の試験で503人にまで減少したが、2017年は764名、2018年は1348名、2019年は1616名、2020年は2099名と、大幅に増加している。
 2008年には「第1回日本語教育セミナー」がスリランカ日本語教師会主催、日本大使館後援により開催され、その後第13回(2021年)まで回数を重ねている。
 スリランカでは留学や雇用機会の多い中国語や韓国語が学習者数を伸ばしており、日本語学習者の減少が懸念された。しかし、他言語の学習者数の増加とは関係なく日本語学習者数は少しずつ増加している。

背景

 スリランカでは、車や電化製品などの日本製品、ODAによる建造物など、日本の経済力を日常的に目の当たりにすることが多い。ビジネスや留学などで日本への渡航経験がある人も多く、日本語を流暢に話す人に出くわすことも多々ある。また、テレビドラマ『おしん』の影響や仏教国であることから、スリランカの人々は日本に文化的共通点を見出し、好意的な印象を抱いている。アニメ、マンガなどのサブカルチャーに親しみを持ち学習を始める者も、特に若年層に多い。日本での就労機会の増加から、子どもに日本語を学ばせたいという保護者も少なくない。

特徴

 1979年にAレベル試験の選択科目に日本語が採用され、高校の学校教育にも日本語が取り入れられるようになったため、中等教育機関の学習者が多い。学習動機としては、中等教育機関の学習者は日本や日本語への興味関心から日本語を勉強し始める学習者が多い。民間の日本語教育機関では、大学や資格試験などの受験準備、留学のためといった実利的な動機が比較的多い。

最新動向

 中等教育段階では、2015年1月に、Oレベルでシラバスが改訂された。それに伴い教科書もタイのJFバンコク日本文化センターで制作された『こはるといっしょににほんごわぁ~い』(以下、『こはる』)をスリランカ用に一部改編したものを使用している。
 また、Aレベルシラバスも2017年に改訂されたが、こちらは今まで同様『初級日本語総合教科書 スリランカ高校日本語Aレベル―サチニさんといっしょ―』(以下、『サチニ』を改訂して使用する。
 また、特定技能制度の締結にともない、日本で働くことを希望する人々を対象とした民間日本語コースも急増している。
ケラニア大学の全学部生を対象にした1年間のサーティフィケートコースにおいては、2022年、初めて1200名を超える受講者が集まり大盛況となっている。「日本に行きたい」、「日本で仕事がしたい」という目的を持つ者が殆どである。

教育段階別の状況

初等教育

 一部、半公立小学校などでわずかに行われている。

中等教育

 1979年にAレベル試験の選択科目に日本語が採用され、高校では学校教育(第二外国語・選択)に日本語が取り入れられた。これにより、日本語学習者、教育機関が増加した。2001年からは、Oレベル試験の選択科目にも採用された。

高等教育

 2023年1月現在、高等教育省管轄17大学の中で日本語が学べるのは、ケラニア大学(人文学部現代語学科)、サバラガムワ大学(社会科学言語学部言語学科)、ミヒンタレーのラジャラタ大学(言語学科)、ジャヤワルダナプラ大学(人文社会学科)の4校である。その他にビックスー大学(選択科目)、ブッディスト&パリ大学(General学位コース、サーティフィケートコース2つ)、コロンボ技術訓練大学、ゴール技術訓練カレッジ、モラトゥワ大学(選択科目)、ウーワウェラッサ大学(選択科目)、ルフナ大学(サーティフィケートコース)のほか、新しくコロンボ大学(サーティフィケートコース)、でも日本語教育が導入されている。大学院レベルでは、Master in Japanese Studiesがコロンボ大学で行われているほか、2022年ケラニア大学でPost Graduate-Diploma日本語コースが開講された。 ケラニア大学及びサバラガムワ大学では、Aレベル試験で日本語を選択し、それに合格した学習者が継続して日本語を学ぶため、初級後半あるいは中級前半から学習を開始する。よって、卒業時の日本語レベルは日本語能力試験N1(おもに日本留学経験者)からN2程度に達する。かつては、大学で日本語を学んでもそれを生かした就職は少なく、卒業後の対策が課題となっていたが、2023年1月現在は、個人塾を開くなど日本語を使った仕事を自ら始めて収入を得る人も増えている。
 その他に、2013年3月にはキャンディのペラデニア大学にスリランカ日本研究センター(SLJSC:Sri Lanka Japan Study Center)が、2016年2月にはケラニア大学に日本学研究センター(RCJS:Research Centre for Japanese Studies)が設立された。

その他教育機関

 学校教育に日本語教育が導入される前から、民間の日本語学校が存在していた。日本語が好きだから、就職に役立ちそうだから、日本へ行きたいからなど、多様な目的を持つ学習者を受け入れ続け、質的、量的発展を遂げている。そのほか、個人でAレベル試験対策、日本語能力試験対策のための私塾を開いている人もいる。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 5-6(4・2)-2制。
 初等教育は5年間。中等教育は下級中学校4年間、上級中学校2年間(Oレベル)、高校2年間(Aレベル)の合計8年間。義務教育は、5歳から14歳までであったが、2016年に5歳から16歳まで、すなわち初等教育から上級中学校までに引き上げられた。小学校から上級中学校、あるいは高校まで同一の学校で学ぶことができるが、上級中学校卒業時及び高校卒業時に試験があり、それに合格することが卒業及び進学の条件となっている。上級中学校卒業時の試験がOレベル試験、高校卒業時の試験がAレベル試験と呼ばれている。高校段階を持っていない学校で学ぶ生徒が高校に進学したい場合、Oレベル試験を受験し、その後別の高校に進学する。高等教育機関は、大学、教員養成学校、技術専門学校などがある。

教育行政

 初等、中等教育については教育省及び各州教育部、高等教育については高等教育・情報技術省が管轄している。

言語事情

 公用語はシンハラ語とタミル語。
 英語はこの両言語をつなぐ言語とされている。

外国語教育

 初等教育入学時から、英語を第一外国語(必修)として学習し始める。
 日本語などその他の外国語はその次に学ばれる第二外国語である。日本語はOレベル試験の選択科目となっており、10年生(上級中学校)から学習できる。2023年1月時点で、Aレベル試験では、日本語のほか、フランス語、ドイツ語、中国語、ロシア語、アラビア語、ヒンディー語、韓国語などの言語が第二外国語の選択科目となっており、その中で日本語学習者数はアラビア語に次いで2番目に人気である。Oレベルではフランス語やドイツ語、ヒンディー語など8科目が選択科目となっており(第2外国語としてのシンハラ語、タミル語を除く)、日本語選択者数はAレベル試験と同様、アラビア語に次いで2番目に多い。

外国語の中での日本語の人気

 近年、中国企業のスリランカ進出及び韓国での就労機会の増加により両言語の学習者数の伸びが著しい。両言語を選択する学生の増加に伴い日本語学習者の減少が懸念されたが、日本語学習者数は年々増加の一途をたどっている。日本語は他言語に比べ、ケラニア大学を中心とした体制が整っており安定していることがその理由だと考えられる。

大学入試での日本語の扱い

 日本語はAレベル試験(高校卒業試験兼大学入学試験)の第二外国語の選択科目のひとつである。

学習環境

教材

初等教育

 指定教科書は特に決められておらず、各学校が教師の裁量に任せて教材を使用している。その多くは教師のオリジナル教材である。入門コースということもあり、ひらがな、カタカナ、数字の練習や基本的な日常の挨拶、また子どもの遊び(カルタやおはじき、折り紙など)を紹介するなど、日本文化事情に関する教材が適宜使用されている。

中等教育

 Oレベル試験では2015年1月からシラバス改訂にともない、JFバンコク日本文化センターで作成した『こはる』を一部スリランカ用に改訂して使用している。一方、Aレベル試験では、2010年から現地で開発された『サチニ』が使用されている。 2017年度にAレベルのシラバスが改訂されたが、教科書は引き続き『サチニ』を一部改訂して使用している。

高等教育

 大学では、科目に合わせ、日本やスリランカ国内で出版されたさまざまな教科書を使っている。

その他教育機関

 初級、一般コースでは、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)が使われる場合が多い。『いろどり』(国際交流基金)を使用する民間機関も増え始めている。

IT・視聴覚機材

 日本語学習者が個人所有のPCで日本語を使用できるようにしているほかは、日本語で閲覧できる環境はほとんどない。都市部の中学校、高校にはコンピュータールームを持っている学校もあるが、日本語学習とは結びついていない。その他、CDMP3音源を使用した聴解の授業が行われているが、地方ではCDラジカセなどもない学校もある。
 ケラニア大学ではマルチメディアルームなどでパワーポイントを使った講義が可能である。学生もプレゼンテーション時にパワーポイントを積極的に使用している。2014年にはJICAの支援のもと最新のLL教室が設置され、視覚・聴覚教材を使った講義がいっそう行いやすくなった。

教師

資格要件

初等教育

 下記【中等教育】を参照。

中等教育

 現行の教育制度においては、初等、中等教育で英語以外の外国語教師は、政府が認める正規の教師になることができず、個々の学校の判断で非常勤講師として雇用されている場合がほとんどで、統一的な資格要件はない。Aレベル試験に合格した日本語能力試験N4レベルの教師が主流である。常勤講師になるためには、各州で実施される教員採用試験に合格しなければならない。ただし、試験に合格したとしても日本語教師として採用されず、小学校教師などを続けながら日本語を教える機会を待つ場合もある。

高等教育

ケラニア大学
常勤講師:日本語専攻の学士号取得者あるいは修士号取得者。その他論文や学会発表などの業績を得点化し、その得点が基準に達した者。非常勤講師として同一校に2年以上勤務した者は優遇される。
非常勤講師:学士号取得者。日本語科目の成績上位者(First Class)。基本的に契約期間は2年。その後の更新はできない。
時間給講師:1コマごとに契約を結んでいる講師。人数の制限などはなく、日本語科の判断で、必要な人数だけ雇用することができる。

その他教育機関

 特に採用のための資格要件はないが、機関によっては日本語能力試験N2以上の日本語力、教育経験が求められる場合がある。

日本語教師養成機関(プログラム)

 日本研究、日本語専攻を持つケラニア大学、サバラガムワ大学以外、スリランカ国内には日本語教師養成を行っている機関はない。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 ネイティブ教師の数は非常に少ない。スリランカ日本語教育協会(JLEA)に民間ボランティア団体からボランティア教師が継続的に派遣されていたが2016年をもって派遣が打ち切られた。その他に主に民間日本語学校で現地在住の日本人が非常勤講師として雇用されている。彼らは会話など言語技能のための科目や日本文化などの科目を担当することが多い。

教師研修

 1996年及び1997年に国立教育研究所(NIE)、スリランカ日本語教育協会(JLEA)及び大使館が協力し、高校日本語教師養成講座が数回開催された。その後は長らく行われていなかったが、2012年11月からNIEが現職教師向けの教師研修講座を開講し、2013年11月に終了した。2015年9月からは第2回目講座が、2016年4月からは第3回講座が開講し、どちらも終了している。
 その他、JF日本語国際センターで実施される訪日研修には、毎年3名前後の教師が参加している。

現職教師研修プログラム(一覧)

特になし。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 機関の種別を問わず参加できる「スリランカ日本語教師会」が存在。月例会及びワークショップの場で日本語・日本文化を共に学び合うのみならず、スリランカでの各種日本文化行事に参加し、日本文化振興にも貢献をしている。

最新動向

2019年2月に第12回Aレベルセミナー、2019年8月に第12回日本語教育セミナーを開催した。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2023年3月現在)

日本語専門家

 ケラニア大学 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣

 なし

その他からの派遣

 なし

シラバス・ガイドライン

初等教育

 初等教育では、現在、日本語のシラバスがないため、教師が各自で授業計画を立て授業を進めている。

中等教育

 Aレベルでは、1995年に最初の改訂がなされ、1997年に改訂後第1回目の試験が行われた。その後、2009年に再改訂されたシラバスでは、2年間の学習で初級(日本語能力試験N4)レベル程度に到達するとされている。さらに、それに準拠した教科書『サチニ』が2010年に完成し、現在もその教科書が使用されている。2011年には再改訂されたシラバスに準拠した試験が実施された。2017年にも再度シラバスが改訂されたが教科書は今まで同様『サチニ』を使用する。2015年に、Oレベルでもシラバス改訂作業が行われ教科書は『こはる』に変更された。

高等教育

 統一されたシラバスは特になく、各大学が独自のシラバスで教育を行っている。ケラニア大学では1995年に中級以上のシラバスを導入した。それによって、高等学校で初級までの学習を修了した学生が継続して学習することができるようになり、上級までの学習体系が整った。

その他教育機関

 統一シラバス・ガイドラインは特になく、各校が独自に開発したシラバスでコースを運営している。

評価・試験

 JFが実施する日本語能力試験、独立行政法人日本学生支援機構が実施する日本留学試験がある。日本語能力試験は日本語運用力の目安として浸透しており、ほとんどの日本語学習者が受験する。
 また、Oレベル試験、Aレベル試験では、日本語が第二外国語の選択受験科目のひとつとなっている。(Oレベル試験、Aレベル試験については、「教育制度と外国語教育」参照)。

日本語教育略史

1967年 私塾にて日本語教育開始
1975年 私塾を引き継ぐ形で、大使館で日本語講座開講
1978年 ケラニア大学にて課外コース開講
1979年 Aレベル試験選択科目に日本語を採用
1980年 ケラニア大学にて日本語の学位取得コース開講
1994年 大使館日本語講座が民営化(スリランカ日本語教育協会附属日本語講座)
1995年 Aレベルのシラバスを改訂
1996年 サバラガムワ大学に日本語科開講
2001年 Oレベル試験選択科目に日本語を採用
2008年 スリランカ日本語教師会主催、日本大使館後援による「第1回日本語教育セミナー」開催
2009年 Aレベルのシラバス再改訂
2011年 新シラバスに対応したAレベル試験を実施
2013年 ラジャラタ大学にて、日本語講座開講
ペラデニア大学にスリランカ日本研究センターを設立
2014年 ケラニア大学にて日本語専科コース開講
2015年 Oレベルシラバス改訂
2016年 ケラニア大学に日本学研究センターを設立
2017年 Aレベルシラバス改訂
2018年 外国人技能実習制度の二国間取り決め締結
2019年 在留資格「特定技能」を有する外国人材に関する制度の適正な実施のための基本的枠組みに関する協力覚書の手交
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