スイス(2022年度)

日本語教育 国・地域別情報

2021年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数※
77 197 2,791
※学習者数の内訳
教育機関の種別 人数 割合
初等教育 0 0.0%
中等教育 178 6.4%
高等教育 931 33.4%
学校教育以外 1,682 60.3%
合計 2,791 100%

(注) 2021年度日本語教育機関調査は、2021年9月~2022年6月に国際交流基金(JF)が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 1968年チューリッヒ大学、1977年ジュネーブ大学に日本学科が開設され、高等教育機関における学術研究分野として日本語教育及び日本研究が開始される。1980年代には、一般市民層にも日本の伝統文化に対する関心が高まったことにより、市民大学や語学学校にも日本語講座が開設され、ビジネス上の必要から日本語を学習する人口も増えて、民間の日本語教育も本格化する。
 1990年代に入ると日本語学習者の年齢、学習目的などの多様化が始まり、民間語学学校講座数の増加が顕著となる。また、公的教育機関においても、大学では日本学専攻以外の学生を対象とした講座の開設、ドイツ語圏の高等学校では選択科目として日本語講座を設置するなど、教育機関レベルでの新機軸が見られた。
 21世紀に入りCEFRが推奨され、JFスタンダードが作成されたことにより、大部分の教育機関はA1からのレベル別のコースを設立するようになった。
2010年頃からポップカルチャーの影響で、マンガ、アニメ、コスプレフェスティバルが定期的に行われ、一部の若者の人気を集めた。その影響からか、教育機関に頼らず多種多様のアプリやYouTubeなどのオンラインで自己学習する若者たちが増え始めた。
また、多様化する日本語学習のニーズ合わせて、旅行者のためのクラッシュコースや、日本の食文化を紹介する短期コース、オンラインコースなども開講されはじめた。
 2020年3月以降、新型コロナウィルス感染拡大に伴うロックダウンにより対面授業が不可能になり、ZoomTeamsSkypeなどのWeb会議システムを介したオンライン授業が急増した。同年5月より段階的に、2022年には全面的に対面授業が再開されたが、その後も対面授業とオンライン授業が混在している。

背景

 日本のゲーム、アニメ、武術や食文化など、日本文化への関心への高まりから、日本語学習者数は増加し続けている。
さらに2016年以降は、休暇先として日本への関心が高まり、日本の文化や日本語の認知度・人気も急増した。2020年の新型コロナウィルス感染拡大により日本への渡航が困難となると、新規日本語学習者は一時的に落ち込んだが、その一方で学習形態が多様化し、オンライン授業やYouTubeなどを利用する潜在的な学習者が増加した。
 また、永住邦人人口の増加により、その子弟を対象とする継承語としての日本語学習分野で着実な発展が見られる。

特徴

 市民大学、民間の語学学校、個人教授などを含む成人学習者が全学習者数の半数以上を占める。

最新動向

 コロナ禍以降、教育機関に頼らず、多種多様のアプリやYouTubeなどを使って独学で日本語を学ぶ学習者や、地理的制限のないオンライン授業の受講者が増加した。その一方で、対面授業を望む声も依然根強く、学習形態が多様化してきている。
 新型コロナウィルスの影響で2020年は実施されなかったこともあり、日本語能力試験受験者数は21年に過去最多を記録。22年は若干減少したものの、19年までに比べると大幅に増加した。
 2022年、日本への観光渡航が再開されたことで、23年以降、日本への旅行者、短期留学者、そして新規日本語学習者の再増加が見込まれる。

教育段階別の状況

初等教育

 下記【中等教育】を参照。

中等教育

 スイスでは移民融和政策の一環として、各州教育省管轄の継承語・継承文化授業コースが推奨されている。略称は、ドイツ語圏では『HSK』(Heimatliche Sprache und Kultur)、フランス語圏では『LCO』(Langue et Culture dʼorigine)。各教育機関の運営形態は様々だが、HSK/LCO授業校に認定されると、学習の記録や評価、成績が正規教科同様に通知表に記載される。また、公立学校建物内にある教室の無償貸与、授業に必要な機材の使用などの支援を受けることができる。スイスには、民間組織による非営利の継承日本語教育機関 / HSKLCO授業校が7校、文科省認可の日本語授業校が2校ある。
 なお、高等学校では、チューリッヒ州、バーゼル州、ザンクトガレン州などの州立ギムナジウム(大学進学準備高校)8校で、選択科目として日本語講座が開設されており、週2~3コマ(1コマ45分)の授業を最長で4年間履修することができる。(2021年現在)
 また、IB(国際バカロレア)を採用しているインターナショナルスクールでも、日本語を外国語の選択科目に設けている学校もある。

高等教育

 チューリッヒ大学及びジュネーブ大学の2校は日本学科を擁し、高いレベルの日本語教育を実施している。
 このほか、スイス連邦工科大学・チューリッヒ大学共通語学センター、ザンクトガレン大学、ベルン大学、ルツェルン応用科学・芸術大学、ラッパースヴィル工科大学で、日本語講座が開設されている。

学校教育以外

 バーゼル、ベルン、ルツェルン、ローザンヌ、ヌーシャテル、チューリッヒ、ツークの各都市には日本語を母語とする者を両親のいずれかに持つ児童を対象とした学校もある。「スイス日本語教師の会教科書制作グループ」では、こうした児童のための日本語教材の開発に取り組んでいる。
 また全国にある市民大学、またはKlubschule Migros(ドイツ語圏)、école-club Migros(フランス語圏)などに代表される民間語学学校において、多くの日本語講座が開設されている。2010年以降、成人学習者のほとんどが「言語としての興味」「日本文化への関心」から日本語を始め、生涯学習として長期に渡り学習を続けるケースも少なくない。2020年以降はオンライン授業の受講者やアプリなどを使った独学による日本語学習者も増加してきている。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 スイスの教育制度は州の専管事項となっており、州ごとに教育制度が異なっているが、おおむね満6歳から9年間が義務教育(初等教育6年、初期中等教育3年)となっている。通常、大学進学希望者(義務教育終了生徒の2~3割)はさらに高等学校3~4年を経て、大学入学資格を取得した上で大学に進学する。大学の修学期間は4年から5年である。3分の2の生徒は職業訓練に進み、働きながら週に1~2日、職業訓練学校に通う。

教育行政

 教育行政は連邦政府が行っているのではなく、州の専管となっている。このため、教育制度が州で異なり、不便な点もあるので、各州は連絡協議会を設け各州間の教育制度の相違からくる不都合の調整にあたっている。
 また、大学は州と地方自治体の公的資金でまかなわれており、10校の国公立大学、2校の連邦工科大学、その他、応用科学の国公立大学が9校、教員養成大学が23校ある。

言語事情

 ドイツ語(62.6%)、フランス語(22.9%)、イタリア語(8.2%)、ロマンシュ語(0.5%)の4か国語、及び、外国人が話すその他(5.8%)。(www.myswitzerland.comより、2020年時点)

外国語教育

 スイスでは言語教育が重要視されており、子どもたちは義務教育期間中に英語または第2公用語を学ぶ。ドイツ語圏の学校ではフランス語を、フランス語圏ではドイツ語を教えているが、近年英語への関心が高まり、チューリッヒ州のように英語を第1外国語としてフランス語より早く教え始める州も出てきている。また、多くの州で第1外国語学習は小学校3年生から、第2外国語は5年生から開始される。
 なお、ドイツ語圏のスイス人は日常生活においてはスイスドイツ語と呼ばれる方言を話し、ドイツで話される標準語とは大きく違っている。

外国語の中での日本語の人気

 他の外国語(特に英語、フランス語、ドイツ語)と比較すると学習者の数は少ないが、学生のみならず一般市民の間でも日本語学習に対する関心は高い。また、ゲームやアニメ、食文化などの影響により、若年層の日本語への関心も高まってきている。

大学入試での日本語の扱い

 大学入試で日本語は扱われていない。

学習環境

教材

 入門、初級にかけては人気教材が固定しているが、読解訓練、日本語能力試験対策、ビジネス日本語など、学習目的がより細分化する中級から上級クラスで使用する教材は、教師の選択により多岐にわたる。

初等教育

 下記【継承日本語教育】を参照。

中等教育

 主なものとしては『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)と『げんき』(The Japan Times)がある。

高等教育

 主なものとしては、『Kompaktlehrgang JapanischDr. Heinrich Reinfriedasiaintensiv)、『げんき』(The Japan Times)、『みんなの日本語Ⅰ,Ⅱ』(スリーエーネットワーク)

学校教育以外

 主なものとしては、『みんなの日本語 初級Ⅰ,Ⅱ』(スリーエーネットワーク)、『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)などがある。中・上級のクラスでは、『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)、『中級へ行こう 日本語の文型と表現55』(スリーネットワーク)、『みんなの日本語 中級Ⅰ、Ⅱ』(スリーエーネットワーク)の他、新聞・雑誌記事、Webサイト、インターネット動画など、生教材も頻繁に使用されている。

継承日本語教育

 主なものとしては、『文部科学省指定小学校・中学校 国語教科書』(光村図書)、『日本語1年生 -この指とまれ-』、『日本語2年生 -はないちもんめ-』(スイス日本語教師の会教科書制作グループ)、『Japanisch im Sauseschritt, Universitätsausgabe mit Kana und Kanji』(DHD)などがある。中・上級のクラスでは、『まるごと 日本のことばと文化』(三修社)、『中級へ行こう 日本語の文型と表現55』(スリーネットワーク)など、その他、新聞・雑誌記事、携帯用教育アプリ、Webサイトやインターネット動画なども頻繁に使用されている。

IT・視聴覚機材

 2020年春以降、ほとんど全ての教育機関がZoomなどによるオンライン授業に授業形態を切り替えざる得なくなったが、22年、対面授業が全面再開となった後も、その利便性から、オンラインを続行するケースや、対面とオンラインを組み合わせるケースなど授業形態が多様化した。そのため、コロナ禍以来、日本語学習においてもインターネット、コンピューター、スマートフォンは必須アイテムとなり、ほとんどすべての教育段階、教育機関で、授業にWebサイトやアプリケーション、チームコミュニケーションツールやオンライン教材が何らかの形で使用されるようになった。

教師

資格要件

初等教育

 日本語教師としての資格は必須ではないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者などが採用される場合が多い。

中等教育

 日本語教師としての資格は必須ではないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者などが採用される場合が多い。

高等教育

 日本語教師としての資格は必須ではないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者などが採用される場合が多い。大学の高等教育レベルになれば、ある程度の学位が必要となる。

学校教育以外

 日本語教師としての資格は必須ではないが、大学卒業者、教師資格保持者、日本語教師養成講座履修者などが採用される場合が多い。

日本語教師養成機関(プログラム)

 2011年にチューリッヒ大学が語学教師養成プログラムを実施したが、大変高額な上に内容が大学講師対象、また使用言語がドイツ語であったため、参加が難しかった。将来同じプログラムが再度実施されるかどうかは、未定である。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

 初等・中等教育機関、学校教育以外(成人教育)の日本語教育機関、また日本語を継承語として教えている機関では、そのほとんどがネイティブ教師である。
 チューリッヒ大学、ジュネーブ大学日本学科では、日本語担当教師の常勤ポストが複数設置されており、両大学ともにネイティブ教師が採用されている。ジュネーブ大学においては、フランス語から日本語への翻訳の授業と日本語会話の授業をネイティブ教師が担当、日本語での口頭試験の審査官という役割も担っている。

教師研修

 国内研修としては、スイス日本語教師の会による教育セミナーが毎年2回開催されている。JFの助成と在スイス日本国大使館の支援を受け、最先端の日本語教育分野で活躍する講師を招いて行う研修会には毎回50名ほどの教師会会員が参加する。
   教師会やその会員が主催する勉強会も盛んで、欧州セミナーの参加者による報告会のほか、最近では日本語関係図書についての意見交換会や読書会など、多様な勉強会が催されている。 さらに継承語関係では、継承日本語教育機関連絡会議の主催者による教師の勉強会も毎年行われている。
 また、2020年以降は世界各地の日本語教師向けの研修会やセミナーがオンラインで開催されるようになった。こうしたセミナー開催情報は教師会を通して会員に配信されている。

現職教師研修プログラム(一覧)

 特になし。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 ネットワークとしては「スイス日本語教師の会」が存在する。会員は大学、高等学校、市民大学講座、語学学校、継承語教育機関の日本語教師と幅広い層にわたっている。
 会が毎年春と秋に開催している「日本語教育セミナー」は、日本語教師としての質的向上を目的とするだけでなく、会員間の情報交換、親睦の場としての役割も大きい。また、会で発行している会報『交流』やメーリングリストによる日本語教育・日本文化関連の情報提供も当地の日本語教育関係のネットワーク強化に役立っている。
 継承語教育においては、学校運営メンバーと教師が一堂に集う継承語教育機関連絡会議が毎年行われており、スイスにおける継承日本語教育の発展とネットワーク強化の役割を担っている。

最新動向

 「スイス日本語教師の会」では、2020年春以降、5回のセミナーをオンライン形式で開催してきたが、2022年9月、セミナーの対面開催再開に伴い、会員限定ではあったが、簡易ハイブリッド形式を実験的に実施した。
2023年、「スイス日本語教師の会」は設立30周年を迎える。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣

国際協力機構(JICA)からの派遣

 JFJICAからの派遣は行われていない。

その他からの派遣

 (情報なし)

シラバス・ガイドライン

「初等教育」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない

「中等教育」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない

「高等教育」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていない

「学校教育以外」

 全国統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムは確認されていないが、市民大学や民間語学学校では講座のレベル分けにヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)を使用し、レベルの統一化を図っている。

評価・試験

 2005年以来、毎年12月に日本語能力試験が実施されている。(現在の会場はチューリッヒ大学)。全ての教育段階(継承語、中等・高等教育、成人)において、一つの目標または学習ポートフォリオとして挑戦する者も多く、受験者は毎年増加傾向にある。特に、新型コロナウィルスの影響で2020年は実施が取りやめになったこともあり、21年、22年の受験者数は2019年以前に比べ大幅に増加した。

日本語教育略史

1968年 チューリッヒ大学に日本学科開設
1977年 ジュネーブ大学に日本語科開設
1980年代 市民大学や語学学校に日本語講座開設
1990年代 民間語学学校講座数が増加
2005年 日本語能力試験の実施を開始
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