米国若手日本語教員(J-LEAP) 10期生 総合報告書
ATとしての活動報告

サウス・アカデミー・オブ・インターナショナル・ランゲージズ
石橋 果林

子ども×根気×時間=成長

日本語以外の教科も教えなくてはいけないイマ―ジョンスクールでは、限られた時間の中で日本語をどこまで学んでもらえるかが課題でした。私が担当した3年生の中には、幼稚園を含めて既に3年間日本語を勉強しているにも関わらず、自分の名前と苗字をカタカナで書けない子もいました。派遣2年目には、朝自習の時間に子ども一人ひとりとフラッシュカードを使いひらがな・カタカナの復習をしたり、帰りの会の間をつかって宿題をさせたりと、少しでも時間を見つけて日本語に触れる機会をつくりました。なかには文字を認識して書くこと自体が苦手であったり、自分の力に自信がなかったりした子たちがいたものの、根気強く向き合った子どもたちは、成功体験を重ねるにつれ学習意欲をみせることが増えていきました。その結果、クラス全員がひらがな・カタカナテストでの成績をあげることができ、ほとんどの子が最終的には自分の名前を正確に書くことができるようになりました。自分自身の成長を喜んでいる子どもたちの姿を見て、結果を出すまでには、根気強く時間をかけることが大事であるということを教育の面でも再認識しました。今後日本語教師に限らず、人に何かを教えるという立場になる時にも、対人関係スキルとして重要なこの経験を思い出すようにしたいです。

コロナ禍を乗り越えて

派遣された1年目は新型コロナウイルスの影響でほかの日本語教育機関への訪問が難しかったものの、2年目はリードティーチャー(以下「LT」という。)の協力のもと、州内外の大学や高校を訪問することができました。市内で日本語を教えている大学にお邪魔した際には、中上級レベルの学生に私の出身地について紹介する機会をいただきました。普段教えている小学生とは当然日本語のレベルや興味関心が違うため、実際に教壇に立ち、話をすることは新鮮で興味深い経験でした。また、訪問の機会をくださった教授からは、「新型コロナウイルスの影響で長い間ゲストを招いた交流ができなかったため、学生たちにとってとてもいい機会だった。学生からとても楽しかったとのコメントをもらった。」と言っていただけました。コロナ禍で閉ざされていた学習者との交流がようやく再開できたことは大きな喜びであったし、日本語を学ぶ大学生に自分の出身地の良さを伝えることで、J-LEAPの目的のひとつである、日本文化・社会理解促進にわずかながら貢献できたと思います。

日本語教育が繋げてくれた出会い

サマーキャンプ「森の池」では、高校生に日本語を教えるクレジットティーチャー(参加者が高校1年分の日本語の単位を取得できるコースの日本語教師)として参加しました。担当することになったのは、日本語のレベルや学ぶ意欲が高くとても優秀な学生たちで、彼らに何を教えてあげられるかというプレッシャーで毎日頭を悩ませました。4週間のキャンプ終了後、担任をしたひとりの学生からもらった手紙には、「Your life style of living around the world inspires me」と書かれていました。ある日の授業の中で自分のゆかりのある場所について発表するという課題をだした際、学生たちの発表の例として取り入れた私自身の経験をその学生はよく覚えていてくれたようでした。自分のしてきた経験が時を経て、思ってもいなかった所でひとりの高校生の人生を考えるきっかけのひとつになったことは、私にとっても有意義な出来事でした。また、違う学生に「一度やめていた日本語学習だけれど、この夏に先生と一緒に学んだことで、日本の言語と文化が大好きだった自分を思い出せた」と言ってもらえた時には、言葉にできない気持ちがこみ上げ、胸が熱くなりました。日本語教育というきっかけで、優秀なアメリカの高校生たちに出会い、お互いにとって良い刺激になったことはJ-LEAPの活動のなかでも特に印象的な経験です。

いつか咲くかもしれない花の種まき

J-LEAPに参加し改めて学んだことのひとつは、どんな経験も自分の糧になること、また、それを信じることです。新しい環境や挑戦にはとりわけ困難がつきもので、くじけてしまったり心が疲れてしまったりすることがあると思います。2年間のアメリカでのアシスタント経験を通して、嬉しいことも辛いこともたくさんありました。教えたことの成果がすぐに数字などに表われにくい初等教育に長年携わっているLTがある日、「毎年、花の見えない植物の種をまいている」と言っていたのをよく覚えています。教えていた時は小さかった子たちが、何年も経って大学でも引き続き日本語を勉強していたり、日本に留学する報告を聞いたりする時にはとても喜んでいました。いつどこで咲くか分からない花の種をまき続けることはとても大変な仕事ですが、花が咲いた時にはそれだけ喜びも大きく、やりがいもあるのだと感じました。それと同じように、どんな経験も、今すぐではなくてもいつか未来の自分にとって意味のあるもの、花が咲くための栄養だと信じることで、今抱えている困難から抜け出す一歩を踏み出しているのだと思います。

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