米国若手日本語教員(J-LEAP) 10期生 年間報告書
ATとしての活動報告

サウス・アカデミー・オブ・インターナショナル・ランゲージ
石橋 果林

第二の故郷

ノースカロライナ州はアメリカの東海岸のほぼ中央に位置する州で、総面積は日本の本州の56%である13.9万平方キロメートルです。2021年のデータでは人口は1千万人を超え、全米9位と比較的大きい州です。今住んでいるシャーロットは州都であるローリーを抜き、州最大の都市です。私の出身である千葉県と同じ緯度に位置し、四季があり、年間を通した気候もよく似ています。今年の冬には、私の住む町で数年ぶりに雪が積もりました。雪に慣れていない人々を見て、千葉に雪が積もった時もこんな感じだな、とこんなにも離れた場所で共通点を見つけ、なんだか嬉しくなりました。アメリカ南部特有のsouthern hospitality の文化の通り、人々は友好的で優しく、アジア人はとても少ないですが、幸いにもアジアンヘイトなども見られません。

デューク大学やノースカロライナ大学チャペルヒル校など優秀な大学も多く、教育に盛んなノースカロライナ州ですが、日本語教育はあまり進んでいるとは言えません。州全体では現在10校の中学、高校そして大学でも約10の大学でしか日本語を学べるところがなく、派遣先のような小学校のイマ―ジョンプログラムがいかに珍しいものであるかがわかります。そのような特別な場所で日本語教育に携わり、貢献できていることを誇りに思います。

SAIL around the world!

ノースカロライナ州で一番栄えているシャーロットのダウンタウンから車で約20分のところに、私の働くSouth Academy of International Languages(以下SAIL)があります。"Language" という名前からも分かる通り、言語に特化した公立のK-8(幼稚園から8年生)の学校です。アメリカの教育についての知識が全く無かった私が最初にびっくりしたのは、後ろから見るとまるでリュックサックが歩いているかの様に見える小さい幼稚園児と、私よりも遥かに体が大きい中学生が同じ校舎で勉強していることです。

SAILの特徴は、何といっても言語の"イマージョンスクール"ということです。幼稚園生として入学した日から、算数・理科・社会といった学習教科を含めた学校生活をすべてフランス語、ドイツ語、中国語、日本語の4つのうちいずれかの言語で行います。英語の授業は毎日ネイティブの先生によって行われ、中学生になるとスペイン語のクラスも希望できます。それら6つの言語が一つの建物から聞こえてくる、これ以上ないインターナショナルな環境がSAILの魅力だと感じます。

日本語を学んでいる子どもたちは幼稚園から中学生まで約200人で、日本語の先生は私のようなアシスタントティーチャーを含め10人。白人系・黒人系・ヒスパニック系・アジア系など学生たちのバックグラウンドは多種多様ですが、そもそも日本人が少ない町であり、クラスの大多数は日本にルーツをもっていない学生たちであるため、基本的な学校生活を日本語で行うことは学生にとっても、先生にとってもチャレンジングな環境と言えるかもしれません。昨年度は20人の3年生をリードティーチャー(以下、LT)と一緒に教えました。算数・理科・社会は学区で定められた内容を勉強しますが、日本語だけはLTと私で何を教えるか決めています。実際に日本で日本人の子どもたちが使っている国語の教科書や日本語の絵本を使って、語彙や読む力を育てています。そして何より、日々の学校生活を日本語で行うことで聞く力・話す力が著しく伸びるということは、イマージョンの名の通り、日本語の環境に一年間"浸った"昨年度の子どもたちを見ても明らかです。

アメリカならではのサマーキャンプ、イマージョンキャンプならではの森の池

1年目の最終学期が終わってすぐに、ミネソタ州で行われる森の池サマーキャンプにボランティアとして参加しました。キャンプには小学生から高校生まで、アメリカ全土から子どもたちが参加します。私の派遣先の学校と同じように日本語イマージョンのキャンプなので、ご飯を食べる時も掃除をする時も基本的にすべて日本語をつかい、日本語の授業の他にも色々なアクティビティを通し日本文化について学ぶことができます。日本語の授業では、4週間の間、14〜17歳の学生たちに毎日3時間教えました。カリキュラムやレッスン内容は指定がなく自由に授業をしていくスタイルだったため、何をしていいのか分からずかなり戸惑いました。しかし、担当した高校生たちの日本語のレベルは高く、かつ日本語を勉強することにとても意欲があり、とてもやりがいを感じました。また、日本が大好きという共通点をもった仲間たちに出会い、5週間寝食を共にし働いたことで、私にとって初めてのサマーキャンプの経験がさらに特別なものになりました。J-LEAPのアシスタントティーチャーとしてでしかできなかったであろうこの貴重な経験を、今後忘れることは決してないでしょう。

子どもたちから学び、共に成長すること

1年間アメリカの小学校で働いて一番強く感じたことは、「子どもの可能性は無限大」ということです。幼稚園で学校に通い始めた子どもたちは、それまでの生活に全く馴染みのない言語で勉強と社会性を身に着けていきます。"子どもの吸収力はスポンジのよう"という言葉は本当で、当初は簡単なコミュニケーションも取れなかった子どもが、毎日日本語を聞いて話すことで、1年後には教師の話していることを理解するだけでなく、日本語でクラスメートの手伝いをする場面を見た時には感動が止まりませんでした。周りでサポートをする大人たちや環境によって、どんなこともできる可能性を秘めているのが子どもの偉大さだということを実感しました。子どもの成長を目の当たりにする一方で、私自身はアメリカに来るまで子どもと関わる仕事をしたことがなかったため、この1年は戸惑うことや失敗がたくさんありました。それでもLTがいつでも忍耐強く向き合ってくれたことで乗り越えてきました。そんな山あり谷ありの1年を終え、2年目のテーマは"当たり前とせず、感謝を伝えること"です。仕事だけでなく生活面でもたくさんのことを経験しましたが、いつも必ず、LT・ホストファミリー・同僚・友だちに助けられ、自分の力だけで解決したことなどはひとつもありませんでした。困ったときに頼れる人がたくさんいることで、どれだけ自分が恵まれた環境にいるかを身に染みて感じた1年目でした。その感謝の気持ちを忘れないようにすること、そして、できる時にできる人に恩返しをしていきながら子どもたちに負けないくらい日本語教師として成長することが2年目の目標です。

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