米国若手日本語教員(J-LEAP) 11期生 年次報告書
ケンタッキー州での1年目を終えて

イースタン・ハイ・スクール
音石 達朗

ケンタッキー州の基本情報と日本語教育の概要

ケンタッキー州の面積は約40,000平方マイルで、人口は約450万人です。州は120の郡に分かれています。バーボンウイスキー、ブルーグラス音楽、競馬などの豊かな歴史と文化的伝統がある街として知られています。マンモスケーブ国立公園、ルイビルスラッガーミュージアム、ケンタッキーダービーなど、数多くのランドマークや観光名所もあります。日本人にとってはよほど精通している人でない限り、フライドチキンくらいしか思い浮かばないかもしれませんが、ケンタッキー州は自然の美しさ、活気に満ちた文化、フレンドリーな人々を誇る州であり、世界中から毎年多くの旅行者が訪れる観光都市となっています。

ケンタッキー州で日本語を学習する環境は大都市圏に比べると限られていますが、州内のいくつかの学校や語学学校、文化機関などで日本語と日本の文化を学ぶ機会は提供されています。学習者の日本語を学ぶ目的はさまざまで、「家族や親戚が日本人だから」「国際結婚や転勤で将来日本に引っ越す予定だから」等の個人的な理由や、「日本のゲーム、アニメ等のポップカルチャーに興味があるから」等の文化的な理由で日本語に興味を持つ学生もいれば、ビジネス、テクノロジー、国際関係などの分野でのキャリアの機会を求めて日本語を追求する学生もいます。

イースタン・ハイ・スクール

私の派遣先であるイースタン・ハイ・スクールは、ケンタッキー州ルイビルにある公立高校です。約2,000人の学生と約130人の教師が在籍しています。日本語の教師はアシスタントティーチャー(以下「AT」という。)の私とリードティーチャー(以下「LT」という)を含めて2人です。LTの先生は2021年度に全米の外国語教師が一同に集まるACTFL(全米外国語教育協会)で最も優秀な言語教師に贈られるティーチャー・オブ・ザ・イヤーを受賞された実績のある方です。日本語クラスはレベル1からレベル4までの4つのレベルのクラス(1コマ50分)で構成されており、昨年は83人の学生に日本語を教えました。「グローバル・クラスメイト」(日本語を学ぶアメリカの高校生と英語を学ぶ日本の高校生を対象としたオンライン言語交流プログラム)や、「日本語スピーチコンテスト」「たこ焼きパーティ」などのさまざまな教材やイベントを学生に提供し、日本語と日本文化の包括的な理解を促しました。将来日本の大学の留学や日本企業への就職を志している学生もおり、多くの学生が高いモチベーションを持って日々日本語を学んでいます。素晴らしい学生や先生、充実した学習環境のもとで働けていることにとても幸せを感じています。

全米ジャパンボウル大会と全米桜祭り

2023年の4月にJAPAN BOWL(全米ジャパンボウル大会)とNational Cherry Blossom Festival(全米桜祭り)に参加しました。ジャパンボウルとは、ワシントンDC日米協会の主催で1992年から毎年ワシントンDCで開催されている日本語・日本文化の知識を問うチーム対抗のクイズ大会です。アメリカで日本語を学ぶ高校生が対象で、全米各地の州予選を勝ち抜いたトップクラスの高校生たちが一同に集います。私の派遣先のイースタン・ハイ・スクールの学生もケンタッキー州代表として参戦しました。大会の3ヶ月ほど前からLTと協力して予想問題の作成や模擬面接等の準備を行いました。大会に向けて日々切磋琢磨する学生たちからは、私も大きな刺激を受けました。本戦は非常に白熱し、とても面白かったです。日本人でも頭を悩ますような難しい問題をスラスラと回答する高校生もおり、終始驚きと感動の連続でした。

ジャパンボウルと同時期に行われているのがNational Cherry Blossom Festival(全米桜祭り)です。毎年ワシントンDCで開催されるアメリカ最大規模の春のお祭りです。私もジャパンボウルの翌日に参加しました。満開の桜の下で行われるパレードや、太鼓のパファーマンスショー等、さまざまなイベントを学生たちと見学しました。学生たちは日本の文化を楽しみながら肌で感じることができ、また私自身はアメリカならではのお花見の機会に触れることができ、大変有意義な経験となりました。

1年目を終えて

目まぐるしくあっという間の1年でしたが、私はこの1年で大切な気づきと学びを得ました。
はじめの頃は失敗の連続でした。夜遅くまで授業準備をして、自信を持って授業に臨んだのに上手くいかなかったなんてことは日常的でした。学生たちから信頼されているという実感が湧かず、辛い時期もありました。そんなとき、私の尊敬するLTの先生から大切なことを教えていただきました。
学生と良好な信頼関係を構築するために必要なのは、単に「おもしろい授業」や「わかりやすい授業」を提供することだけではありません。もちろんそれらも大切ですが、最も大切なのは常に学生たちの気持ちに寄り添い、彼ら一人ひとりをきちんと理解してあげるということです。特に私のクラスの学生は人種や国籍が多様なので、学生一人ひとりが歩んできた人生のストーリーや文化も大きく異なります。自分の知識や経験ばかりを発信する前に、まずは彼らのルーツや価値観を理解するよう努めるようにとアドバイスをいただきました。それから私は毎日意識的に必ず全員の学生と話したり、学生の日本語レベルに応じて話す速度や質問の内容を調整したりといった地道な努力を続けました。その結果、学生たちにも徐々に変化が出てきました。反抗的な態度を示していた学生が授業中に自分の話に耳を傾けてくれるようになったり、質問を積極的にしてくれるようになりました。宿題を今まで一度も提出してくれなかった学生が最終的には毎日忘れずに提出してくれるようになりました。5月の最後の授業の日に学生から感謝の手紙をもらったときは、努力が報われたと心から実感しました。この経験は自分の人生の大きな財産であり、今後学生と向き合う上での大きな指針となりました。
2年目も他校訪問や地域イベント等、活動の幅をさらに広げ多様な価値観に触れることで、教師として、また一人の人間として成長したいです。

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