米国若手日本語教員(J-LEAP) 12期生 年次報告書
J-LEAP1年目を終えて

エヴェレット・アルバレス・ハイ・スクール
小林 詩織

日本とのつながりの強い州、カリフォルニア

アメリカの西海岸に位置するカリフォルニア州は、面積約42.4万平方km(全米第3位)と日本の国土よりも広く、中南米やアジア諸国からの移民を含む約3,900万人(全米第1位)の人々が暮らしています。北には世界的なIT企業が集まるシリコンバレー、南にはハリウッドやディズニーランドといった観光名所があり、日本人にも馴染みの深い州なのではないでしょうか。歴史的に見ても日本との結びつきは強く、19世紀末に多くの日本人が移住したことから日系人が多い州でもあり、在留邦人数も約13万人と全米の約30%を占めています。
カリフォルニア州における日本語教育は全米でも特に規模が大きいことで知られており、大学や日本人学校・補習校だけでなく、K-12と呼ばれる5歳から18歳までの義務教育期間内に日本語を履修できる学校も多く、州内で継続した日本語学習が可能という特徴があります。日本語教育関連の組織・団体も多いため、日本語教員同士の繋がりも強く、州全体で研修やワークショップが充実しています。

サリナス市における日本語教育

エヴェレット・アルバレズ・ハイ・スクールは、カリフォルニア州の中部モントレー郡サリナス市に位置する公立高校です。サリナス市はレタスやいちごの生産で有名な農業地帯で、メキシコからの移民が多く、派遣校に在籍する約2,100人の学生のうち約95%がヒスパニック系です。学生の約90%が経済的困難を抱えているというデータもあり、貧困や治安の問題を抱えている地域ですが、陽気で明るい人々が暮らしている地域でもあります。
派遣校には2名の常勤日本語教員がおり、約230名の学生がJapanese 1からAP(Advanced Placement:大学の単位にもなる上級レベルのクラス)までの計10クラスで日本語を学んでいます。外国語科目には2年間の必修義務があり、日本語以外にもスペイン語、フランス語が開講されていますが、「家族に勧められた」「難しいことに挑戦したい」といった理由で日本語を選択する学生が多いようです。
学区内では派遣校を含む5つの高校で日本語プログラムが実施されているため、私を含めた計9名の日本語教員が隔週でミーティングを行い、文化的・社会的テーマを、日本語を通して学ぶコンテントベースのオリジナル教材を使用した授業の実践や、カラオケ大会や年賀状コンテストといったイベントの実施に取り組んでいます。

学区内外でのさまざまな課外活動

学区の課外活動として、サンフランシスコのJapantownへのフィールドトリップや、ロサンゼルスのJapanese American National Museumへの一泊旅行に同行しました。授業以外で学生とコミュニケーションをとることで、日本語学習に対する思いや、授業では見られない学生の一面を知ることができ、授業への取り組み方を顧みる良い機会となりました。また、地域の節分イベントでのボランティアやJLPTの試験監督といった、学校以外でアメリカにおける日本語・日本文化に触れる機会にも恵まれ、より広い視野をもって日本語教育に取り組みたいと考えるようになりました。
夏休みには、ミネソタ州で行われた日本語のサマーキャンプにボランティアとして参加しました。Concordia Language Villagesという団体によるイマージョンキャンプ(学習目標言語のみを用いて生活するキャンプ)で、スタッフは皆、朝起きてから夜寝るまでの間ずっと日本語だけを使って子どもたちと関わることになっており、私は茶道や日本手話を教えたり、日本の歌を紹介したりしました。授業以外の食事や掃除といった生活に関する活動を通して子どもたちが日本語を学んでいく様子はとても新鮮で、この経験から得た学びや気付きを2年目の活動に活かしていきたいと思っています。

学びも課題も多かった1年目を終えて

期待と不安が入り混じった気持ちで渡米してから1年、たくさんの人に出会い、多くのことを学び、さまざまな気付きを得ることができました。アメリカの高校での日本語教育に携わって強く感じたことは、日本語の上達よりも日本文化の正確な理解よりも、日本語教育を通した人間形成が最も大きな目標になっているのではないかということです。日本語という新たな言語を学ぶことで新しい物の見方を身につけ、日本文化を知ることで視野を広げることで、よりよい人間になってほしいというメッセージを感じました。 高校で教えることもアメリカで生活することも初めてだった私にとって、初めの数ヶ月は難しさを感じることもありましたが、振り返ってみるとたった1年とは思えないほど充実した毎日を過ごすことができたと思います。2年目は柔軟な姿勢と積極性を持って、1年目に挑戦できなかったこと、2年目の今だから挑戦できることに取り組んでいきたいです。日本語教師としてのキャリアを自分らしく歩んでいくために、J-LEAP2年目も周りの方々のサポートを受けながら精一杯頑張りたいと思います。

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