米国若手日本語教員(J-LEAP)13期生 年次報告書 「ニュージャージーでの1年間」

カーニー・ハイ・スクール
持田 佳奈穂

ニュージャージー州

ニュージャージー州はアメリカ北東部に位置し、全米の中では面積が比較的小さい州ですが、人口密度は全米で最も高く、多様な人々が生活する活気ある地域となっています。また、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンD.C.といった東海岸の主要都市へも電車でアクセスでき、歴史や文化に触れながら、さまざまな人や価値観との出会いを楽しむことができます。
2025年現在、ニュージャージー日本語教師会(以下、NJATJ)に登録している日本語教育機関は22機関あり、定期的に開催されるミーティングでは日本語教育に関する勉強会や意見交換が積極的に行われています。教師同士がつながりながら、授業や学習環境について学び合う場となっていて、ニュージャージー州は教師と学習者双方にとって、とても良い日本語教育の環境が整っています。
また、ニュージャージー州は日本とも深い縁があり、州最大の都市ニューアークにあるブランチ・ブルック・パークでは、毎年春になると全米最大規模となる約5,000本の桜が一斉に咲き誇ります。この桜並木の歴史は古く、1927年に、日本の桜の美しさを再現したいという思いから植えられたのが始まりとされており、現在では春の桜まつりを通じて多くの人々が花見を楽しみ、日本文化に親しんでいます。

カーニー高校

私の派遣校であるカーニー高校はニュージャージー州のハドソン群カーニーに位置する公立高校で、学生数は約1,800人です。校舎からマンハッタンのビル群が一望でき、州の中でも都会的な環境にあります。メキシコ、エクアドル、ブラジル、ドミニカ共和国など南米にルーツを持つ学生が多く、校内ではスペイン語やポルトガル語が行き交っており、多言語環境が学生の学びの背景にあります。
外国語学習はスペイン語、イタリア語、フランス語、日本語の4言語があり、いずれかを2年間履修することが必修です。日本語の授業は、リードティーチャー(以下、LT)とアシスタントティーチャー(以下、AT)である私の計2名で担当しており、2024年度は77名の学生が日本語を学んでいました。2025年度には日本語のクラスが1クラス増える予定で、今後も楽しい授業を作っていきたいです。
授業では教科書は使用せず、LTや前任のATの方々が作成したオリジナルの教材を使用しています。私は授業中の活動補助に加え、既存の教材を現在の学生に合わせた内容に作り替える役割を担っています。さらに文化紹介活動として、書道体験や折り紙を使った平和学習、日本のお正月体験などを企画しました。在学中に日本へ行ける学生が多くないのが現状のため、日本をさらに身近に感じてもらえるよう、今後も「さまざまな日本を学校に持ち込む」活動に力を入れていきたいです。

学生とともに一歩前へ

この1年を振り返り、最も心に残っているのは、学生とともに作り上げた合唱団です。NJATJが2025年3月に主催した日本語学習優秀賞授賞式(Japanese Language and Culture Study Award Ceremony)において、日本文化紹介の一環として、カーニー高校の合唱を提案し、初めての合唱発表を行いました。参加したのはJapanese2〜4の学生25名で、多くの学生が合唱未経験、私自身も指導は初めてであったため、どのような仕上がりになるのか分からないまま、先の見えない雲の中を手探りで進むような感覚で練習を重ねました。練習期間の約3か月間、互いに励まし合い取り組む中で、自然と協調性が生まれ、異なるバックグラウンドを持つ学生たちが日本語を通して心を一つにしていく姿に、感動を覚えました。曲は「自分を信じ、一歩前へ踏み出してほしい」という願いを込め、杉本竜一さん作詞・作曲の「Believe」を選びました。本番当日、緊張の表情で舞台に立った学生たちでしたが、私の期待以上の歌声を会場に響かせてくれました。歌い終えた後の達成感に満ちた笑顔はとても印象的で、学生にとっても私にとっても忘れられない経験となりました。今回の取り組みは、日本語学習を仲間との繋がりに広げる、貴重な経験になったと感じています。

1年目を終えて

わくわくと不安の入り混じった気持ちで渡米してから、あっという間に1年が経ちました。アメリカへ来る前、私は日本の日本語学校で大人の留学生を対象に日本語を教えてきました。そこでは、日常生活で使う日本語に加え、進学や就職といった進路に必要な試験対策の指導も行い、「実際に使える力」を育てることを大切にしていました。ところが、アメリカに来てからは、日本の日本語学校とは教育の目的や教え方が大きく異なることを知り、戸惑う場面がたくさんありました。こちらでは日本語の学習を通して豊かな人間性を育むことが重要視されており、これまでの経験とは全く異なるアプローチが求められました。慣れるまで時間はかかりましたが、LTやJ-LEAPの先輩方、同期の支えもあり、日々多くの学びを得ることができました。
2年目は、1年目の経験を活かし、学校で日本の文化や言語に触れられる機会を積極的に作っていきたいです。また、心にゆとりを持ち、学生一人一人の思いに寄り添いながら関わっていきたいです。さらに、学校外では9月から夜の時間帯に週に1回、大人向けの日本語教室を開講できることになりました。地域社会における日本語と日本文化の理解促進にも貢献できるよう、一歩ずつ取り組んでいきたいと思います。

  • 教室にて、男女9名が漢字が書かれているうちわを持って写っている。
  • ニュージャージー日本語教師会 日本語学習優秀賞 授賞式のステージにて、生徒25名が写っている。
  • 教室にて、スライドを用いて日本についての授業をする持田 佳奈穂さん。
  • スーツを着た男性1人と、ドレスを着ている持田さんと他4人の女性が写っている。
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