日本語教育を盛り上げていくステップとなった一年

エルキンズ・ポイント・ミドル・スクール
森 星子

「ディープサウス」のひとつであるジョージア州。気候だけでなく、「サウザンホスピタリティ」と言われるように人々も温かいこの州では、人口の半分以上が居住しているアトランタを中心に、日本企業の進出も盛んです。フライドチキンやグリッツといった南部料理が人気な一方で、日本食レストランも数多く、通常のスーパーでも寿司を取り扱っているところもあるほど。ヒスパニック移住民が比較的多いジョージア州では、English as Second Language (ESL)クラスを併設している学校も多く、私の赴任先であるエルキンズポイント中学校では生徒の28%がヒスパニックであり、スペイン語を母語としながら日本語を選択している学習者もいます。
ジョージア州では中学校で3校、高校では8校(内、バーチャルスクール1校)、大学では11校が日本語教育プログラムを運用しています(2012年12月時点、日本語教師会内で確認できた数)。ジョージア州日本語教師会や総領事館が主催のスピーチコンテストや弁論大会などの年次イベントも盛んに行われています。大学を卒業後、日系企業に就職をしたり、JETプログラムで日本に行ったりと日本語のスキルを活かせる環境も整っているのが特徴で、日本語学習の需要は伸びているといえるかと思います。日本のポップカルチャーも人気で、一年に一度の大規模なコスプレイベントには全米からアニメファンが集まります。

受け入れ先での教育事情

エルキンズポイント中学校での日本語プログラムでは、2011-2012年度は六年生から八年生までの計92名、2012-2013年度は計96名が日本語を選択しており、週5日間、一時間あたり約50分×5クラスの授業を行います。選択が可能な外国語はフランス語、スペイン語と日本語ですが、生徒が日本語クラスを選択する主な理由は「日本語はユニークでチャレンジングだから」、「日本文化(漫画や食べ物)に興味があるから」という生徒が8割以上(2011年8月、六年生を対象としたアンケート結果による)。日本語教師はジョンソン美雪先生で、クラス運営はもちろん、クラス以外でも折り紙クラブ・アニメクラブの運営・推進、総領事を招いた日米友好の桜植樹式や折り紙マスターを招待したイベントなどのホスティング、絆プロジェクトへの参加など日本語教育や日本文化のアドボカシーに積極的に取り組まれ、Foreign Language Association of Georgia (FLAG)のリーダーシップアワードの授賞、学校でのTeacher of the Yearへのノミネートなど、著しくご活躍をされています。日本語クラスでは「Obentoo」というテキストを使用し、3年間で高校一年生レベル(過去形を使用した文章の構成)までを習得させています。授業時間は歌やゲームなどで生徒が楽しく日本語を勉強したり、スキットやポスターなどのプロジェクトで勉強した日本語を応用したりしています。州で行われているオーラルコンテスト、年賀状コンテスト、そしてNational Honor Societyに参加するなど、クラス以外のアクティビティも盛んで、毎日楽しく日本語学習に取り組んでいます。

授業以外での活動

ジョージア州で日本語教育のある他の高校や大学に訪問し、日本語クラスのお手伝いに行ってきました。
同じカウンティの中学校訪問した際、日本クラブでピカチュウの折り方を教えたり、高校では日本舞踊や生け花のパフォーマンスをしたり、ゴミの分別や不動産事情などの文化のプレゼンテーションなどを行ったりました。特に高校では日本人と生徒達が交流する機会が少ないため、会話の練習や生徒のプレゼンテーションなどを聞く事も多くありました。大学では会社でのビジネス経験をふまえ、新入社員研修のように、ビジネス日本語やマナーなどを教えました。1つの学校に月に一度~三ヶ月に一度程度訪問し、各日本語の先生の異なる年齢層やレベルに対しての、異なるスタイルでの授業も見学させていただくことができ、勉強になりました。
夏休み中は、ジョージア州の領事館と日米協会が主催の、六年生に進学する生徒を対象とした日本語キャンプにボランティアとして参加いたしました。日本語プログラムが提供されていないカウンティを中心に、応募者の中から抽選で選ばれた約40名の生徒達に一週間、午前中の三時間半で日本語や日本文化について体験学習をするというものでした。内容は実に盛りだくさんで、日本語のあいさつや食文化の紹介、おにぎり作り体験、たこやこま、福笑い等の日本の伝統的な遊びの体験、和太鼓作り体験、書道、浴衣体験などなど、毎日生徒達はとても楽しそうに文化に触れていました。普段、学校で日本語が学べない生徒達にとっても、自分で勉強をして、大学で日本語をもっと学びたい、とモチベーションを高めていた企画だったと思います。
また、2013年度のジョージア州年賀状コンテストの企画にも挑戦させていただきました。教師会の先生のご協力の元、中学・高校・大学からたくさんの作品が応募されてきました。コンテスト形式のため生徒が楽しく日本の習慣を体験できる、良い機会が作れたかと思います。

一年目を終えて

アトランタに日系企業が多くあり、日本文化に触れる機会が多いことが原因だと思いますが、ジョージア州は私が想像していたよりも、日本語教育が盛んであり、ジョージア州の人たちは日本に対する文化理解が深いことに驚きました。
9月に開催されているJapan Festでは近隣の州からのプレゼンテイターやお客様も多くいらっしゃり、日本文化のステージやブースで大きな会場が埋め尽くされていました。アトランタには日本レストランも数多くあり、オーセンティックな日本料理をいろんな人種の方が楽しんでいます。もちろん、お箸の使い方は子供でも知っている子がほとんどです。アニメファンが全米からあつまるアニメコンベンションも開催され、子供から大人まで大人気で、日本人である私が圧倒されてしまうほど、日本が好きな方が(熱狂的な方も多く)いることに感嘆しました。このような環境から、日本文化や日本人が好き、もっと日本について知りたい、という方も非常に多くいらっしゃると思います。わたしがそういった環境にたまたまいるだけなのかもしれませんが、買い物をしていたり、レストランで食事したりしているときでも、よく「あなた日本人?日本大好きですよ。」と話しかけられます。学校内でも、日本語をとっていない生徒からもクラスの掲示物や私の持ち物など、興味を持ってもらえることが多くあります。また、「サウザンホスピタリティー」と、日本の「おもてなし」や「思いやりの精神」とは、共感できることが多いことも文化を受け入れてもらえている原因のひとつかもしれません。ジョージア州内では、今年から新たに日本語プログラムを導入する中学・高校もあります。こういった日本語教育の促進に追い風の状況の中で、自分にできることを積極的に探し出し、力になっていきたいと考えております。

  • 日本語教育を盛り上げていくステップとなった一年の写真1
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