小さな泉の湧く地 “Ali-shonak” から
グリーンウェイ・ハイ・スクール
ワシントン・ハイ・スクール
門井 美奈子
アリゾナ州といえば,サボテンの生い茂る砂漠地帯を思い浮かべるのではないかと思いますが,この州名は北米インディアンパパゴ族の言語「小さな泉」から由来しているとも言われています。夏はとても暑く,冬は温暖なこの州にはスノーバードと呼ばれる冬の間だけ過ごす人々も見られ,避暑地としても人気があります。また,アリゾナ州は,初期経済として,5C’s: Copper(銅),Cattle(牛),Cotton(綿),Citrus(柑橘類),Climate(気候)が有名で,現在においても,銅は国内最大の生産量を誇っています。
この広大なアリゾナ州の州都フィニックス中心街から約14kmに位置している人口約22万人が住むグレンデール市でスーパーバイザーであるオルソン先生の指導の下で日本語プログラムを支えています。グレンデール統一高校学区では,現在二つの高校で日本語プログラムを提供していて,その両方をオルソン先生が担当しています。当学区の特徴としては,学年末にPerformance-Based Assessment (以下PBA)と呼ばれるテストが行われ,全生徒が単位を取得するために必ず受けなければなりません。外国語に関しては,どの言語(スペイン語・フランス語・ドイツ語・日本語)も同じ目標を持ち,一,二年目ではSpeaking Skillsに,三,四年目ではWriting Skillsに重点を置く形式となっています(今後4 Skillsを取り入れていくことを検討中)。日本語プログラムでも,上記のテストに合格させるため多くの準備が要求される傾向を鑑みながら,取り組んでいます。
二つの高校でのアシスタント業務
派遣先であるグリーンウェイ高校ではJapanese 1-2,3-4の2クラス,ワシントン高校ではJapanese 1-2が 2クラスとJapanese 3-4,5-6,7-8と異なったレベルが混ざった混同クラスが1クラス開講されています。両校を併せ,約150名の生徒が日本語クラスを履修していて,共通する学習動機としては次の4つが挙げられます。
- (1) 日本のアニメ・漫画・ゲーム等のポップカルチャーに興味がある。
- (2) 日本料理・伝統文化・日本人の慣習に関心がある。
- (3) 日本へ行って日本語を話したい。
- (4) 第三言語として日本語に挑戦したい(土地柄母国語としてスペイン語を習得している生徒や言語に長けている生徒)。
主なアシスタント業務は,オルソン先生と各アクティビティの役割を分担したり,教室巡回などをしながら生徒の補助にあたったりすることです。また,混同クラスのあるワシントン高校では,クラスを二つに分け授業を行っているので,その際の指導案,教材や課題作成,授業実施,テスト作成や評価などをオルソン先生と連携しながら担当しています。 また,季節毎の年中行事などの文化紹介やプロジェクトも実施しています。例としては,年賀状をデザインしたり,書道に挑戦したり,日本の高校生(ペンパル相手校)にアメリカの学校を紹介するための学校新聞を作成したりしました。このように,生徒が実際に日本文化を体験できる場や日本人の高校生とコミュニケーションをとることができる機会を与えられるよう努力しています。
両校において使用している教材は,オルソン先生が「なかま上・下」をもとにして作成した独自のものです。そして,昨年度からは,NPO日本語多読研究会で開発されているJapanese Graded Readers(日本語学習者用のためのレベル別読み物)も使用し始めました。現在,その本を活用してできるアクティビティの作成に取り組んでいます。例えば,授業ではReader's Theater (生徒はスクリプトの暗記はせずに演技をするアクティビティ)に挑戦するなど,生徒が楽しんで日本語を読む姿勢を見られることは,とてもやりがいを感じ,励みになっています。
クラス以外での日本・日本文化の紹介
両校とも,多くの授業時間をPBA対策に費やす必要があるため,日本文化の体験,具体的には日本料理のレストランへの遠足や調理実習,盆踊り体験や浴衣・着物の試着,地域の日本庭園や祭りなどへの参加はすべて日本語クラブで実施しています。各校,毎年役員に立候補した生徒が主体となり一年の活動計画を考え,私はその準備をサポートしています。このクラブには,日本語クラス以外の生徒も参加できるため多くの生徒に日本文化を紹介できる場となっています
また,昨年度はグリーンウェイ高校で毎年実施されているUnitownキャンプに引率者として参加する機会がありました。このキャンプは日本語教育とは直接は関係のないものですが,生徒たちが多様性の理解,円滑な人間関係の構築や維持,偏見を減らすといったことを目標に参加するもので,彼らがどのような問題を抱えているかを知る機会,また高校教師としても非常に貴重な経験をすることができました。特に,キャンプ中に行われた各人種・文化を象徴する寸劇発表では,アジア圏の代表として日本文化の一つである着物を披露することができ日本文化に興味を持ってくれる生徒もおり,非常に有意義なものとなりました。
私自身の小さな泉の湧く所「日本語クラス」
一年を通し,「高校での日本語教育」の在り方について,課題や改善するべき点など考えさせられることが多くありました。 派遣先では,ワークショップ等に参加し,指導力の向上,また生徒一人ひとりの学習スタイルに対応できるよう,クラスマネジメント,テクノロジーの活用方法,教授法の導入と応用,学習スキルの指導の重要性等を学びました。また,オルソン先生と共に授業を行う中で,やはり楽しく安心できる学習環境を作り出すことが生徒の学習意力につながるのだと実感しました。
学校という異なったバックグラウンドを持つ生徒たちが集まる場だからこそ,日本語クラスを通して,一人でも多くの生徒に,日本語の言葉の中に表れる日本独自の感性,調和を大切にしながら他者を思いやる気持ちや他者を尊敬する姿勢を伝えていければと思っています。
残り一年,笑顔の絶えない「日本語クラス」を築いていけるよう,一層努力していきたいと思います。