米国ケンタッキー州での活動報告
キャロウェイ・カウンティ・ハイ・スクール
皆越 香苗
ケンタッキー州と日本語教育
アメリカ中南部に位置するケンタッキー州は、周りを7つの州と接しており、その土地の利便性から多くの企業の製造拠点となっています。また別名「ブルー・グラスの州」と言われるほど緑豊かな大地が広がっており、その肥沃な土壌を活かし、家畜、またトウモロコシや大豆などの農産物の生産地となっています。州の面積は日本の本州の約半分、人口は430万人ほどですが、人口増加率が高く、将来にわたり若い生産人口の拡大が予測されています。
州の東側では、日系の企業進出が盛んなことから日本語教育も充実していますが、私の住む西側では状況は全く異なり、K-12教育機関で日本語プログラムを提供する学校は、以前は数校あったものの、現在では私の赴任先であるキャロウェイ・カウンティ高校のみで、その存続も毎年危惧されています。なかなか日本語教育が根付いていかない、大変厳しい状況です。キャロウェイ・カウンティ高校は、生徒数約1000人、教師数60人の学校です。教師も生徒も大変素朴で明るく、とても親しみやすい印象を受けます。高校ではブロック制を採用し、1ブロック90分授業で生徒は毎日4ブロックを履修します。外国語プログラムは、選択科目として、スペイン語、フランス語、日本語の3つが提供されており、毎年1000人中およそ300人がその中から選択して学習しています。うち、日本語を学習する生徒は毎年75人前後となっており、生徒数の確保が課題となっています。
アシスタントとしての業務
キャロウェイ・カウンティ高校の日本語プログラムは、前期は日本語I、III、AP、後期は日本語II、IV、APというクラスを展開しており、授業では日本語だけではなく、料理や着物、歌やダンスなどの文化的要素も取り入れた活動をしています。生徒数や時間割の関係から、異なるレベルの生徒が同じ教室で学習するクラスがあり、私のアシスタントしての主な業務は、まずその複合クラスの対応でした。具体的には、授業案を立て、教材、配布物を準備し、スーパーバイザーの中村先生と連携を取り、時折アドバイスをもらいながら授業一連の流れを担当していました。またそれ以外のクラスについては、適宜、助けの必要な生徒や中村先生の補助に回ったり、回収物の採点やチェック、練習問題作成等の教材作りを行っていました。生徒は意欲的に学習に取り組んでおり、今年度はAPクラスの2人が、どちらもAP試験に合格するという嬉しい出来事もありました。
クラス外での活動
赴任校では週に1度、放課後に日本語クラブの活動をしており、1年目の今年度は書道パフォーマンス、茶道、着物の着付けに取り組みました。書道と茶道は地域の日本人大学留学生に協力を仰ぎ、インストラクターとして協力してもらいました。特に、書道パフォーマンスは初めての挑戦で、試行錯誤を繰り返しながら、およそ7か月という長期間にわたって活動しました。始めた当初は上手くいくのかどうかもわからない状況でしたが、生徒たちも真剣に練習し、最後には本当に立派な作品を作ることができました。学校以外でも数回パフォーマンスを披露する場を持つことができ、地域へのアピールにもつながったのではないかと思っています。回を重ねるごとに上達する生徒たちを目にし、本当にたくさんの感動を与えてもらいました。
また今年度は、架け橋プログラムという日米交流事業に参加し、赴任校から21人の生徒が日本へ行くという貴重な経験をすることができたことも、特筆すべき出来事です。私は同行することはできませんでしたが、この生徒たちの経験が今後の日本語プログラムを担う大きな支えになってくれることを期待しています。
1年目を終えて
アメリカの高校での日本語教育は、単に言語を教えるだけではなく、成長途中にあるの生徒たちの人間形成に関わっており、日本語の学習や文化を通して、生徒ひとりひとりが様々な状況に対応できる力をつけた人に成長できるよう、責任を持ってサポートしていくことなのだと日々感じています。
赴任校の日本語プログラムは毎年その存続の危機にさらされており、2年目の次年度は継続はしたものの、縮小が決定しました。このような中、長期にわたり安定したプログラムを維持するにはどうしたらいいのか、というのが一番の課題です。2年目は翌年の生徒100人サインアップを目指し、実現に向けての準備をしていきます。学校内では、授業以外で日本語プログラムをアピールする場を設け、文化や言語に興味を持つ生徒を増やしたいと思っています。学校外においても、地域の人々に向けて、理解や協力が少しでも多く得られるよう、日本を紹介したり、文化を体験するような活動ができればと考えています。
これまでにも海外で日本語教育の経験はありましたが、常に教室に教師が2人いるという状況は、新しい方法や技術など、1人でやるのではなかなか得られない別の視点からのアプローチがあり、学び取るものが大変多く、とても勉強になります。このような素晴らしい機会を与えていただいたことに感謝しながら、2年目もアシスタントとして、この地域の日本語プログラムの活性化のために尽力したいと思っています。