メイン州の日本語教育

RSU#2
ホールデール・エレメンタリー/
ミドル/ハイ・スクール
湊 智子

メイン州RSU#2の日本語教育

私が派遣された地区では、幼稚園から高校まで全部で12校で、選択科目として日本語プログラムが行われていた。 いうまでもなく、選択科目として位置づけられている日本語プログラムの場合、生徒や保護者、学校へのアドボカシーが何より大切になってくる。内だけではなく外に向いたプログラムを是非実施しようということで、中学、高校では「ワールドランゲージフェア」、小学校では「外国語プログラムによる生徒たちの発表会」が行われた。私は当初、J−LEAPの研修で得たアドボカシー案を参考にして、ワールドランゲージフェアは文化祭のようなものをイメージして行うことを考えていたが、結果的には、授業紹介を兼ねた展示会という形になった。それまでに行った料理クラスで作った料理を振るまう、 生徒のビデオを放送する、参加者に書道体験をしてもらう、人気のアニメの看板を作って写真をとる、など、大盛況のイベントとなり、大成功に終わった。また、小学校では生徒全員に役を与え、着物を着せ、日本語劇を行った。発表の場を提供することによって生徒たちのモチベーションが上がり、日本語を勉強していることへの「誇り」を感じたと生徒たちにも大変好評であった。保護者や周りにも外国語プログラムの存在を大きく印象づけることができ、非常に有益なものとなった。

その他の活動

私はLTに和太鼓を教えて頂き、毎週火曜日と木曜日の放課後に太鼓クラブの生徒たちと共に練習をし、また、メイン州のチルドレンズミュージアム、近隣校のダイバーシティイベント、その他のフェアで太鼓演奏やワークショップなどの活動に参加した。小さい子供たちに音楽を通して日本文化を伝えることができること、地元の中高生と共に太鼓を演奏できることは本当に楽しく、素晴らしい経験だった。
その他、もともとは近所の人たちに日本料理を振舞ったり、アメリカの料理を教えてもらったりしていたことが始まりで、だんだん定期的な集まりになり、月に2、3回、材料を買いに行くところから始めて日本料理を紹介してみんなで作るという活動を行った。近くにアジアンマーケットや日本の食材を置いているところがほとんどなく、アメリカでは多いことかもしれないが、日本料理=寿司と思われていたり、その寿司もタイ料理屋にあったり、アジア料理と日本料理の区別がない地域で、 色々と誤解を受けていたため、何を説明してもいろいろと驚かれることが多かった。メニューもなるべく、地元のスーパーで買える食材だけで作るように考えるのは大変だったが、とても喜んでもらえたし、大好きな料理を通して文化交流をおこなえるのはこの上なく有意義なことだったと思う。

「日本文化」とはなにか

メイン州では日本人、アジア人の数が圧倒的に少なく、生徒達にとってはネィテイブ日本人の私たちが言うことは、「こちらが発信する情報は全て正しい」と思われる可能性が高く、文化紹介は非常に重要かつ難しいものであった。 そのような中、最近の若者(各生徒達の年代の日本人)に人気のある映画、動画、漫画などのサブカルチャーをリサーチし、生徒に見せる意味は非常に大きかった。人種のサラダボウルと言われるアメリカでは珍しく、外国人に接する機会が圧倒的に少ない彼らは、一歩間違えると視野が狭くなり、自分たちの環境が全てで、また正しいものであると思ってしまう可能性があったので、様々な文化があること、また、「違うことは悪いことではなく、面白いもの」と思ってもらうことが私のゴールであった。そのため、普段から文化紹介をする際には、根本的に日本人はどういった人種で、どういった考え方を美徳とし嫌うのか、それらの根本的な原因となる日本人の風土や歴史も交えて紹介し、自分たちで考えてもらえるように努めた。また逆に、日本の高校生が短期、長期に渡って滞在することがあったが、多忙なLTに変わって彼らのプレゼンテーションの指導やチェックなどを行ったり、違いすぎる環境で戸惑う彼らの相談にのることもあった。

今後の若手日本語教員に期待すること

日本語ATとして派遣され、日本語教育プログラムをどれだけ学び、また貢献することができるだろうか、と思っていたが、結局は日本語教育だけではなく、外国語教育や「教育」そのものについて様々なことを学べた二年間だった。 日本人はつい「こんなことをしていいのだろうか」と思ってしまうのだけれど、「できないことでもやらせてください」という勇気を持つことは非常に重要だったのだと思う。自分にできることだけをするという選択をしている限り、せっかく他の人にはできない経験をする機会を得た意義を失っていく。今後海外に派遣される若手日本語教員には、「どんなに難しそうに見えても、どんなに無理だと思っても、恥ずかしい思いをして、失敗して当たり前なんだ」と思えるくらいの胆力で事に挑んでもらえればと思う。
また、自分が外国で感じた違和感を記録することは本当に大切だと思う。それがたとえ些細なことであっても、もしかすると各国の文化の違いだったり、何か大きな疑問へのヒントになる可能性がある。違和感という自分の直感を信じて欲しい。そしてそういった小さな違和感や疑問は、そこに長期滞在することによって自分の中で当たり前になってしまい、後々思い出すことが難しくなってしまう。今後派遣される若手日本語教員には忙しくても、なるべく日々の記録をつけて、帰国後も自分の貴重な経験の普及や広報に務めていただきたいと思う。

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