イマージョン教育を一年経験して
ダンズモア・エレメンタリー・スクール
穐山 寛子
カリフォルニア州の日本語教育事情
アメリカ西部に位置し、西海岸の大半を占めるカリフォルニア州は、全米第3位の広さを持つ州で、全米最大の人口数を誇っています。南米、アジアからの移民も多く、様々な人種が集まった州です。派遣地のロサンゼルスでは、お盆祭りやお正月など日本の行事も盛んに行われており、日本食も簡単に手に入るため赴任直後は米国に来たという実感があまり湧きませんでした。カリフォルニアは、年間を通して比較的穏やかな気候ですが、雨があまり降らないため各地で水不足が生じていて、節水対策などが行われています。
カリフォルニア州の教育は、州の教育法に沿って行われ、公立学校は幼稚園から高校まで公費で教育が受けられるようになっています。移民も多いため、学校によってはESLクラスが設置されており、第二言語学習者への言語指導も行われています。ロサンゼルスでは、日本語以外にも様々な言語のイマ―ジョンプログラムを導入している学校があります。日本語学習においては、日本語補習校が土曜日や放課後に行われていて、日本人はもちろん、家庭で日本語を話さない環境にいる子どもも通っています。日本語の学習目的は、日本語や文化を失ってほしくない等の継承語としてであったり、日本への帰国を考えての学習であったり、また日本語を母語としない子どもにおいては、日本への強い関心、バイリンガルに育てたいなど家庭によって様々です。
ダンズモア小学校での活動
受入校のダンズモア小学校は、カリフォルニア州南部のロサンゼルス郡ラ・クレセンタ市にある公立小学校です。学校は閑静な住宅街と公園に囲まれ、放課後は公園で遊んでいる児童も多く見られます。学校全体の児童数は約450人、教師数は18人と小規模ですが、アットホームで児童ものびのびと学校生活を送っています。日本語イマージョンプログラムは2014年度に導入されたばかりで、幼稚園、1年生の2学年のみです。教員数は、4人(英語担当2人、日本語担当2人)、アシスタントティーチャー(以下、AT)は私一人です。日本人の親はもちろん、イマージョンプログラムに関心のある親も多く、このプログラムの導入により児童数が増え、今後も増えていくと考えられます。クラスは、日本語がネイティブレベルの児童と、そうでない児童がほぼ半数ずつ一緒に学習しており、算数、理科、社会などの各科目を学習する時間が英語と日本語で50%ずつになるように授業を行っています。日本語の授業では、教科書や教材がないため、英語の教科書を参考にして教材を作成したり、一般に使用されている日本語学習テキストや学習サイトを活用したりしています。
今年度は、週2日は幼稚園、週3日は1年生を担当し、リードティーチャー(以下LT)の指導のもと、授業アクティビティの提案、作成を協力して行いました。主に担当した業務は、1年生では読解・文作り、漢字学習の教材作成および指導、幼稚園では会話アクティビティの提案と指導、また授業内ワークシートや宿題のチェック、教室のポスター作りを主に行いました。
授業外の貴重な経験
学校の授業外活動は、日本語サポートが必要な児童のアフタースクール、児童の保護者を対象に日本語クラスを行いました。アフタースクールは語彙や文を正しく使えるかなどに焦点をあてて、ゲームやクイズなどをしました。放課後は児童も疲れているので「短いスパンの集中力で楽しくできるアクティビティを考えないといけない」と逆に勉強になりました。保護者を対象にした日本語クラスは、「子どもの日本語学習をサポートしたい」、「子どもと日本語で会話したい」など参加者によって動機は様々でしたが、子供を思う気持ちは皆一緒で、私自身も役に立ちたいと強く思いました。結果として、「役に立つ日本語を学べて良かった」と意見をもらうことができました。年少児童の日本語学習では、学校だけでなく親の協力が非常に大きいので、この活動が少しでも役に立ってよかったです。
また、全米で行われるジャパン・ボウルという高校生を対象にした日本語クイズ大会があり、カリフォルニア州で行われる予選の作問および予選当日の日本語モデレーター(日本語問題を読み上げる係)に協力しました。普段接することのない高校生と関われたことは私にとって大変貴重でした。日本語だけでなく日本文化や歴史についても勉強し、クイズに臨んでいる高校生はとても生き生きとしていて逆に圧倒されました。こういった地域活動に参加し、アメリカの日本語教育事情なども知ることができました。
1年目を終えて、そして2年目に向けて
この1年はイマージョンプログラムという環境で、年少児童に有効な日本語授業は何かということを日々考えさせられる1年でした。小学校教師の経験がないため悩んだりすることもありましたが、LTや幼稚園の先生の授業スタイル、授業への引きつけ方などを学んでいくうちに、前向きな気持ちで自分のするべきこと、何をするのが児童やこのプログラムにとって良いのか考えるようになりました。年少児童への授業は、ただ日本語を教えるわけにはいかないということ、彼らの年齢で考えられる状況、立場になって授業を進めること、人間として考える力がまだ発達段階であること、授業内で使う言葉のコントロール、生活面での指導やクラスマネジメントなどを、上手くいったりいかなかったりした経験からたくさん学びました。
2年目もLTから授業への姿勢を学ぶことを忘れずに、より良いカリキュラムにすること、1年目で始めたアフタースクールや保護者の日本語クラスを継続して行うことはもちろん、手の行き届かなかったことを行うことを目標にしたいと思っています。授業内で日本語の遅れをとっている児童に対する個別指導や、次の1年が終わった後も使用してもらえる授業内ワークシートや教材の作成、ポスターなど残せるものを作っていきたいと思います。また日本語教師としては、日本語に対する知識をもっと増やし、学校だけでなく地域の日本語教育現場などにも積極的に参加し、日本語教育に貢献したいと考えています。