米国若手日本語教員(J-LEAP) 7期生 年間報告書
ロサンゼルスの外れ、山の小学校より

ダンズモア・エレメンタリー・スクール
多田 都

カリフォルニア州

カリフォルニア州はアメリカの西海岸に位置し、人口は全米最大、面積は日本の1.1倍で全米第3位。北はゴールデンゲートブリッジでおなじみのサンフランシスコや、数々の有名IT企業が本拠地を置くシリコンバレー、南はハリウッドを擁するロサンゼルスからメキシコの国境まで続くサンディエゴ等、一つの州とは言えその大きさゆえ地域によって全く違う顔を持っています。移民や様々なルーツの人が生活しているため文化も多様です。また、カリフォルニア州は日本人が戦前から移民として渡米し暮らしてきた州です。ロサンゼルスにあるリトルトーキョーをはじめアメリカにある日本町(ジャパンタウン)の3つすべてがカリフォルニア州にあることなどからも、日本とのつながりが長くここにあることがうかがえます。今でも多くの日本人や日系人が暮らしており、子どもが日本語を母語や継承語として学ぶための日本人学校や補習校、日本語学校なども各地で運営されています。

ダンズモア小学校

晴れ渡った空にヤシの木が続くビーチ、ハリウッドのきらびやかな街並み。私の派遣先であるダンズモア小学校は、そんなロサンゼルスのイメージとはちょっと離れた、海の気配のない山の近くの小学校です。ロサンゼルス中心地の北にあるグレンデール市に位置しており、1年間リードティーチャーと共に2年生を教えました。
ダンズモア小学校では本来の英語だけで学ぶクラスに加え2014年から日本語イマージョンプログラムを導入しており、2017年度はKindergarten(幼稚園)~3年生まで各学年約40人の生徒が日本語クラスに在籍していました。イマージョンとは英語のimmerse(浸す、つける)からきている言葉で、文字通り目標言語(ここでは日本語)に“浸った”状態で学習することを指します。ダンズモア小学校は日本語:英語=50:50のイマージョンプログラムなので、生徒たちは毎日一日の半分を英語、一日の半分を日本語で学んでいます。また、国語(日本語)から算数、理科、社会、音楽、体育などあらゆる教科を日本語で学びます。そのため、私自身も日本語だけではなく算数なども教えており、日本語教師というよりは「日本の小学校の先生」のような形で活動をしています。
よく「日本語クラスの生徒は日本人なの?」と聞かれるのですが、クラスの約半分が日本にルーツがあり継承語として日本語を学ぶ子ども、残りの半分は家庭で日本語を話す環境がなく日本語を第二言語として学んでいる子どもです。とても多様性のあるクラスである反面、日本語能力はばらばらなので、授業では易しい日本語を使い、言葉がわからなくても絵や図を使ってビジュアルで分かるよう心掛けています。席に座って話をきちんと聞かせるところから指導を始めなければならないので、静かに話を聞ける年齢の生徒に教えるのとは別の難しさがありますが、生徒たちは素直でとてもかわいく、仕事の原動力です。

“大人の”先生になる

上記のようにダンズモア小学校の日本語クラスには、日本にルーツがなく家庭では日本語を使わない生徒が何人も在籍しています。しかしそのような生徒でも、日本語クラスでは先生も生徒も英語を使わないルールなので日本語でコミュニケーションを取らないといけないし、家では日本語の宿題をこなしテスト勉強もしなければなりません。日本語が母語ではない子どもにとって家庭でのサポートはとても大事になってきます。そこで、そんな子どもの勉強を手助けしたい、家で日本語を話す機会を増やしたいという保護者が日本語を学ぶことができるよう、週1回夜に「保護者クラス」を開講しました。参加者は日本語を勉強するのが始めてという方から、自分で勉強してある程度理解したり話せたりする方まで様々。クラスでは初めて学ぶ人向けに文字や挨拶、数字など基礎的なことを勉強しつつ、教科書的な文法や文型の説明よりも日常の場面で使う会話や語彙を中心に扱い、子どもと日本語でコミュニケーションをとる機会を増やすきっかけになるよう努めました。普段学校で教えているときとは違って英語も使用しながらレッスンを進めたので、難しく感じることもありましたが貴重な経験になりました。参加者からも「このクラスがあって助かる」という言葉を頂いたので、2年目も保護者クラスを続けられたらと思っています。

1年目を終え、2年目へ

今まで自分が勉強してきた、そして携わってきた日本語教育は主に高校生以上が対象だったので、今回日本語イマージョンの小学校というアメリカでも決して数の多くない機関で活動したことで、日本語教育に対する視野がぐっと広がりました。小学校教育の現場に立っていると、イマージョンプログラムの面白さはもちろんですが、小学校は教科だけではなく、子どもたちが人としての基礎を学ぶ場でもあるということを実感します。2年目は1年目の経験をいかして授業をするとともに、小学校が子どもたちにとっていい思い出の場所になるよう生徒一人一人と丁寧に向き合えたらと思っています。
アメリカは暮らしている人の多様性が日本の比ではなく、渡米して1年過ぎた今でも驚いたり感心したりすることが多々あります。もちろん日本で暮らす人々も多様なのですが、「日本は“日本人”の国」と言う意識がまだ強いように思えて、排他的で不寛容に感じることもしばしば。しかし、カリフォルニアという土地柄やイマージョンプログラムに関わっているということも大きいと思いますが、ここではアメリカ人であっても「何系なの?」という会話が生まれたり、ミックスレースや移民などルーツやバックグラウンドが本当に様々です。国や国籍・人種とは何だろう、と今まで気に留めてもいなかったことを意識するようになったのは、日本を出なければ得られなかった価値観かもしれません。生徒たちには、この国ではマイノリティーになるであろう「日本語」での学習や友達とのかかわりを通して、色んな価値観に触れてほしいなと願っています。そのための手助けができるような活動を残りの1年間もしていきたいです。

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