米国若手日本語教員(J-LEAP) 7期生 総合報告書
J-LEAPの2年間で得たもの

P.S.147 アイザック・レムゼン・エレメンタリー・スクール
堀野 善康

21世紀型スキルを言語教育で育てる

アシスタントティーチャーとしての主な業務は、国連の「持続可能な開発目標」(以下、SDGs)の概念を取り入れ、協働力、批判的思考力といった、21世紀型スキルを、言語教育を通して養成するカリキュラムをリードティーチャー(以下、LT)と作ったことです。一例として、3年生の「世界の学習(World study)」の授業で、日本とアメリカの小学校を比較し、SDGs目標4の「質の高い教育」とはなにか、子どもたち自身に考えてもらいました。比較対象としたのは、給食、掃除などです。なぜなら、日本の小学校では、配膳、掃除は、生徒がほぼ教師の手を借りず、自立的にしますが、アメリカの小学校では、配膳や掃除は全てスタッフが行います。これらを提示すると、子どもたちから、「生徒が給食を準備するなんてすごい。あと給食がおいしそう!」、「掃除は生徒がやるの?嫌だなあ!」などと、さまざまな声が聞かれ、「じゃあなんで、アメリカの小学校では、こういうことをしないんだろう?」という疑問を持ち始めました。そこから、この比較を通して、子どもたちが協働で考え合い、「質の高い教育とは、授業だけでなく、学校活動を通して協力する力や、生きる力を学ぶことだ」と答えを探求し、子どもたちが批判的思考を使って、かつ言語を学習する授業ができました。
このSDGsを使って、学習者の21世紀型スキルを養成するカリキュラムは、現在、言語教育だけでなく、さまざまな教科教育においても応用されています。私はこの授業を通して、従来の暗記型学習ではなく学習者が自ら探求する学習プロセスを見ることができました。また、ニューヨークでお会いした先生から、MHB学会(母語・継承語・バイリンガル教育学会)への発表を奨励していただき、その発表を通して、他の先生方と実践を共有する機会を得ることができました。今後もより良い教育についてさらに考えていきたいと思っています。

日本の小学校体験:「日本の給食のほうがおいしいです!」

校外での最も印象深かった活動は、P.S.147 アイザック・レムゼン・エレメンタリー・スクール(以下、P.S.147)の希望した子どもたちを集めて、東京の小学校と幼稚園に1週間体験入学するプログラム引率したことです。このプログラムは、「P.S.147の日本語プログラムの子どもたちに実際に日本を体験してほしい」との思いから、LTが2年前に東京の教育委員会に掛け合い、実現したものです。私はこのプログラムの2年目の時に初めて引率させていただき、P.S.147の子どもたちが日本の小学校や幼稚園で学校生活を送るなかで、アメリカの学校との違いを敏感に感じ取る様子などを見ることができました。例えば、給食については、「日本の給食のほうがおいしくて、体に良さそう!」などのコメントがありました。また、1週間という短い時間でも、子どもたちはクラスにうまく溶け込み、すっかり仲良くなって友達ができ、最終日にはそれぞれ別れを悲しむ場面なども見られました。こういった異国で友達を作る経験を、小学生の時からできるのは非常に貴重だと思いました。

ニューヨークの日本居酒屋で日米友好

派遣機関では主に小学生と関わることが多かったのですが、ニューヨーク市では、国際交流基金のほか、ジャパン・ソサエティ(Japan Society)、日本クラブといった民間の団体が開催する日本語クラスや、言語交換の機会などがたくさんありました。そういった場所に積極的に参加することで、日本語を学習するアメリカの若者や、成人の方たちと交流する機会にたくさん恵まれ、多くの友人を作ることができました。それらの機会にP.S.147の日本語プログラムについて話をすると、アメリカ人や日本人を問わず、ほとんどの人から、「ニューヨーク市に小学校の日本語プログラムが存在するなんて知らなかった」との声を聞き、草の根レベルでP.S.147の日本語プログラムのアドボカシーを行うことができたように思います。また、ニューヨーク市でできた友人の中には、日本語はできないが日本文化へ強い興味を持っている人もいました。このような日本語学習者ではない人とも、日本について話したり、日本の祭りイベントに参加したり、また、ニューヨークの日本居酒屋に飲みに行ったりしたこともとても良い経験でした。このように、日本語の授業を通してではなく、友人になるだけでも、日米友好のきっかけになるのだと実感できました。

「なぜ」ことばを教えるのか

J-LEAPで、アメリカに派遣される若手日本語教員には、ぜひ、アメリカの言語教育について積極的に学び、日本国内の日本語教育では見られないものを感じ取ってもらえればと思います。具体的には、アメリカで開催される全米外国語教育協会(ACTFL)に参加し、日本語教育だけではなく他言語の言語教育でなされた研究を学んだり、そもそも「なぜ」言語教育を行うのか、といった言語教育に関わる上で非常に重要な教育観なども学んだりできます。私はそれらの機会で得た知識を通して、日本語教育や、さらには言語教育とは、単にことばを教えるだけではなく、ことばの教育を通して学習者がより協働的、かつ主体的な人になるように育てていくものだと考えられるようになりました。この私が得ることができた教育観は、私のこれからの教育への携わり方を変える大きなパラダイムシフトになったと思います。今後は、日本語教育だけに限らず、国語教育や教科学習といったさまざまな種類の教育にも目を向け、さらに視野を広げていきたいと考えています。また、アメリカで小学校教育に関わることができたので、日本でも外国につながる子どもの教育に携わっていきたいと思います。

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