米国若手日本語教員(J-LEAP) 8期生 年間報告書
「私のJ-LEAP」1年目

グレンブルック・サウス・ハイ・スクール
渡部 逸平

イリノイ州の日本語教育

イリノイ州は面積149,998平方キロメートルという北海道の約2倍、全米50州中25位の面積、人口は全米6位です。アメリカ中西部にありながら、シカゴという全米人口第3位の大都市があるイリノイ州は大都会での生活もある中で、シカゴから車を少し走らせば、コーン畑が広がるのどかな場所にも行くことができる州でもあります。中西部では一番大きな都市があるため、日本に関する多くのイベントがシカゴ周辺で開かれることも少なくありません。
教育制度はK-12(幼稚園と1年生~12年生までの教育)がとられています。日本語教育に関しては、幼稚園、小学校、中学校、高等学校および大学等の高等教育機関といった、子どもたちの様々な成長過程で学べる機会があるものの、かなり限られた場所や学校のみで行われているのが現状です。私の勤務するグレンブルック・サウス・ハイ・スクールでは、入学してくるほぼ全員の子どもたちが通っていた地域の中学校に外国語科目として日本語がないため、生徒たちは日本語についての知識がほぼない状態から高校での日本語学習が始まります。しかし、近年、シカゴの公立高校では日本語を選択科目に入れようとする動きもあり、また、日本語学習者を支援するために、日本語を学習する子どもたちに対して様々なイベントが行われています。例えば、高校生向けには全米ジャパンボウル(日本語/日本文化の全米クイズ大会)の前に行われるイリノイジャパンボウルというイリノイ州での地区予選会が開催され、シカゴでは毎年日本語弁論大会が行われています。このほかにも日本語学習を盛り上げるイベントが数多く行われており、様々な教育機関に所属する児童・生徒・学生が参加しています。

私の学校とATとしての仕事

私の派遣校はグレンビューというシカゴ中心地まで車で30分程度の郊外にあり、教員は230人以上、学生は3100人以上いる大きな学校です。自分のアイデンティティーを育み大切にする、という学校の方針のためか、一人ひとりが自分らしさを大切にしながら他の学生や先生を尊重して学校生活を送っている印象を受けており、そんな派遣先の高校が私は大好きです。日本語プログラムは大きく分けて4つのレベルがあり、高校の4年間を通して日本語を学べる環境があります。日本語教員は私のリードティーチャー(以下、LT)である日本人の先生1名のみで、日本語を取る生徒は全クラスで約80名です。同じ先生が4年間教える、クラスのメンバーが変わることはほとんどないということもあり、授業はアットホームな雰囲気で行われています。
アシスタントティーチャー(以下、AT)としての業務はいろいろとありますが、この1年で1番印象に残っているのは、私が中心に行わせてもらった短歌・習字コンテストに向けての指導です。習字の姿勢、筆の使い方や、俳句や短歌のいろはを教えると、生徒たちはとても興味を持って、いつにも増して真剣に取り組み、最後には私たちを驚かせるほどの良い作品を作りました。コンテストの結果は高校生の部で賞を総なめにし、多くの生徒たちが賞をもらいました。中でも私が嬉しかったのは、あまり日本語が得意ではなく授業もなかなか集中できなかった生徒が、全米のコンテストで賞をとったことです。それが大きな自信となったためか、以後の授業態度が大きく変わり、日本語の授業に以前よりもはるかに前向きに取り組み始めてくれました。小さなことかもしれませんが、この出来事がこの生徒に日本語や勉学に対する自信をつけさせ、また今後もこの生徒の人生にとって何か良い役割を果たしてくれることを願うような、私にとっても非常に嬉しい経験でした。

日本語授業外での活動

日本語の授業以外での活動では、日本語クラブのサポート、イリノイジャパンボウルや日本語弁論大会のための指導と参加、日本からの交換留学生の受け入れ等をLTと共におこないました。また、個人では地域の人に毎週木曜日に1対1で日本語を教えたり、地域の日本語を学んでいる学校との交流のためのイベントでゲームの企画・運営等も行いました。
地域に出向いた活動で印象に残っているのは、同じ地区の小学校で主催されていた世界各国の文化に触れるイベントに私の高校の生徒と共に参加したことです。そのイベントでは、私の学校の高校生たちは日本語の授業で習った折り紙や書道を小学生や幼稚園の子どもたちに楽しそうに教え、それに夢中になる子どもたちの姿を見ることができました。また、ひらがなやカタカナを習って間もない生徒たちが、日本のブースに来てくれた子どもたちの名前を一生懸命日本語にしてカタカナで書いてあげていました。私たちが教えたことをすぐに実際に使って、それで人を喜ばせている様子を見ることができ、教師として本当に嬉しく思う瞬間でした。

これからの目標

1年が終わった今、いろいろなことを振り返り、やはりこの1年間は本当に濃い1年だったと感じています。ドラマティックな日々の連続で刺激ばかりでした。1年経った今でも未だに毎日驚かされることばかりできっと帰る日まで日々驚いているのだろうなと思います。そして、そのようなとても刺激的な1年でしたが、「アメリカの学校で教師として過ごすことができたこと」によって得られた学びが何よりも大きかったと思っています。学校のシステムはもちろん、生徒の学校生活の様子、先生の仕事の様子、一人一人の生徒たちが輝ける機会が溢れるイベントの数々と、日本との様々な教育の違いを現地の教員として目の当たりにしました。特に個々を伸ばすという点においては日本の教育も学ぶべきことが多く、特に数多くの科目で最新の技術を使いつつ、多くの生徒参加型の指導法を行なっているという点では、今後日本の教育もまだまだ改善できる点があると感じました。また一方で日本の教育の良さを実感することもあり、両方の教育現場を経験した私だからこそできることをこれからの両国、また世界に発信したいと思っています。
そんななか、これから2年目に突入しますが、私の2年目は「伝える」をテーマにしたいと思っています。1年目は慣れることと、周りから学び吸収する1年だったと思っています。2年目は1年目で学んだことや今までの私の経験から、学校、生徒、コミュニティーに対して私にできることをできるだけ多く伝え、還元し、残していくことが目標です。
この貴重なJ-LEAPでの経験を今後の私自身の人生で最大限に活かすため、今何を学び、どう行動するべきか考え1日1日を過ごしていきたいと思っています。そして、この2年間で身につけた力を今後私が出会う人に対して、また日本、アメリカ、世界のこれからの日本語教育に対して還元できるよう、あと1年一生懸命頑張りたいと思います。

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