米国若手日本語教員(J-LEAP) 8期生 年間報告書
1年間を振り返って
リンカーン・サウスウエスト・ハイ・スクール
平岡 優
ネブラスカ州と日本語教育
ネブラスカ州は、アメリカの中西部、グレートプレーンズと呼ばれる大平原にあり、肉牛の放牧や農業が盛んです。州の大きさは日本の半分以上あり、人口は約200万人弱、札幌市と同じくらいです。コロラド州に近い西側には、「スコッツブラフ」や、「チムニー・ロック」といった絶壁の岩山がそびえ立ち、19世紀にアメリカ西部の開拓者が通ったと言われる「オレゴン・トレイル」の目印にされていたそうです。暴れ牛や暴れ馬を乗りこなす「ロデオ」という競技が行われたり、アメリカの高校の学年末にある「プロム」というダンスパーティーで、高校生がカントリーミュージックに合わせてラインダンスを踊ったり、所々に中西部の文化を感じます。また、様々な文化を持ったネイティブアメリカンが暮らしていた地域でもあります。現在は州の北東部と南東部に居留地があり、ネイティブアメリカンの文化を守ろうとしています。
日本語教育の規模は小さく、私の派遣先の高校でも、外国語クラスの中で、日本語クラスが1番小さいのですが、日本語を選択している生徒達のモチベーションは高いです。「日本のアニメや漫画が好き!」という生徒が目立ちますが、日本の建築や伝統文化に興味がある生徒、武道への関心がある生徒、日本にルーツのある生徒、また、将来ビジネスで使いたいという生徒もおり、日本語学習の動機は様々です。
リンカーン・サウスウエスト・ハイ・スクールと日本語授業
私の派遣先、リンカーン・サウスウエスト・ハイ・スクールは、州都のリンカーン市にあり、2002年にできた新しい高校で、約2,000人の生徒が学んでいます。リンカーン市にある他の公立高校との大きな違いは、1日に90分の授業が4コマある、4ブロック制を採用している点と、外国語の授業に日本語がある点です。日本語の授業を取る為に、バスを乗り継いで1時間以上かけて通学している生徒もいます。サウスウエスト・ハイ・スクールはスポーツが盛んで、またシアターにも力を入れており、ミュージカルや劇が評判です。昨年、アメリカの高校で初めて、映画「マイフェアレディー」の脚本の使用が認められ、私達の高校では大きな話題となりました。
アシスタントティーチャーとしての私の主な業務は、リードティーチャー(以下、LT)と協力して授業のプランを考えること、教材を作ること、そして授業でLTとチームティーチングをすることです。LTのアイディアはいつも面白く、一緒に考えを膨らませている時からワクワクします。私の提案も快く取り入れてくれ、「日本語1」の授業では、「~を貸してください。」という表現の練習に、「借り物競争」を提案し、赤組と白組に分かれた生徒達が楽しく競い合いました。
また、プロジェクトの前に、時々例を見せるのも私の担当でした。「日本語4」の料理をとりあげたユニットでは、生徒達がクッキングショーを行うことになり、私は「炊き込みご飯の作り方」のデモンストレーションを行いました。授業の最後に食べるつもりで、生徒達も楽しみにしていましたが、予定通りにいかないこともよくあるもので、授業時間に炊き上がらず、炊き込みご飯は次のクラスの生徒達へとまわりました。「日本語4」の生徒達には、かわいそうなことをしてしまいましたが、「日本語4ではこんなことをするよ。」と、良い宣伝になったかもしれません。
授業外活動
最初にLTと行った授業外での活動は、「ハーベストムーン・フェスティバル」で出した「金魚すくい」です。日本の夏の風物詩の1つを、リンカーンの人にも体験してもらうことができました。日本語クラスと日本語クラブの生徒達が、半被を着て、お客さんにやり方を説明したり、参加賞に日本のお菓子を渡したりして活躍しました。リンカーン在住の日本人の家族は、「アメリカで金魚すくいができると思わなかった。」と言って喜んでくれましたが、私も同じような気持ちでした。LTの発想の柔らかさと実行に移すエネルギーから多くを学びました。
私が担当した中で、1番大きかったイベントは「日本語ランゲージフェア」です。中止になってしまったネブラスカ大学主催のランゲージフェアの代わりに企画し、エルコーンにある2校の高校の日本語クラスを招待しました。サウスウエスト・ハイ・スクールと合わせて、約85人の生徒達が、歌、劇、詩、踊りなどを発表して、教室の中とはまた違った、生徒達の真剣で一生懸命な姿を見ることができ、胸が熱くなりました。練習の成果を出し切れた生徒も、悔いが残ってしまった生徒もいましたが、どの生徒も発表が終わった後はホッとした様子でした。中にはもう来年のことを考えている生徒もいました。他の学校の日本語クラスの生徒達に会えたのも、良い刺激になったようです。このような発表の場があると、生徒達の学習へのモチベーションも上がります。準備は大変でしたが、開催できて良かったです。
1年目の振り返りと、これからの目標
どこまでも広がるとうもろこし畑と、大きな空。ネブラスカ州は、広々とした風景が気持ちの良い、とても素敵な所です。そしてここで、たくさんの優しい人々に出会いました。去年まで、州の観光スローガンだった、「ネブラスカ ナイス」という言葉はその通りです。そんな恵まれた場所で、明るく、ユーモア溢れるLTと1年間を通して楽しくチームティーチングを行うことができ、寛容に受け入れてくれたLTと、これまでサポートして下さった方々に感謝の気持ちでいっぱいです。2年目は、この1年間で考えたことを実行していく年にしたいと思います。
その内の1つは、1年目の授業よりも良い授業をすることです。例えば、生徒に日本語を楽しく学んでもらいたいという思いから、これまで楽しいアクティビティーをすることを意識していましたが、2年目の授業では、もっとオーセンティックマテリアルを取り入れて、考えさせる活動も重視していきたいと思います。
また、昨年はLTがアメリカ人の空手の先生を日本語の授業に招待して、生徒達に空手を教えてもらいました。こういった、生徒達が外部の先生から日本文化を学べる機会をもっと増やしたいです。それから、日本文化でなくても、リンカーン在住の日本人に協力をお願いして、生徒達が日本語で何かを学ぶという機会も作っていきたいと思います。
最後に、この1年はコミュニティへの働きかけが十分にできていませんでしたので、2年目はもっと地域で日本文化を紹介する活動を行いたいと思っています。そして日本ファンを増やして、私の帰国後、LTが驚くくらい、サウスウエスト・ハイ・スクールの日本語クラスを生徒でいっぱいにしたいです。