米国若手日本語教員(J-LEAP) 8期生 総合報告書
2年間を振り返って

バラク・オバマ・アカデミー・オブ・インターナショナル・スタディーズ
西明 絵理

オバマアカデミーでの2年、そこからの学び

アシスタントティーチャー(以下、AT)として、オバマアカデミーでは中学校(6年生~8年生)全クラスと高校(9年生)1クラスを担当しました。日々の業務としては、毎日の出席確認や授業のプランニング、そしてカリキュラムの作成までと多岐に亘るものでした。どれもリードティーチャー(以下、LT)と相談・分担しながら行いました。授業は基本チームティーチングで、2年目からは教える項目ごとにLTATの役割を交代しながら授業を進めていきました。リードする教師が違う授業は、生徒にとっても良い刺激となっていたのではないかと思います。2年を終えて振り返ると、初めて派遣校に来た時と比べ、教室内の日本語使用率がぐんと上がっていることに気が付きました。英語を母語としない存在が教室にいることで、まず生徒にとって目標言語(日本語)を使う理由になったこと、そしてなにより教師自身が一緒に教えていく上で自然と日本語をより多く使うようになったことがそれに繋がったのだと思います。こうした経験は、今後国内外で言語教育に携わる上で、目標言語を使って言語を教える(90% target language)授業づくりに大きく役立っていくものだと考えています。

流しそうめんプロジェクト!

受入機関外の活動として印象に残っているのは、「流しそうめんプロジェクト」です。これは毎年地域で行われているブロックパーティーにおいて、日本の流しそうめんを紹介したものです。
きっかけは、ホストファミリーに誘われて行ったクリスマスパーティーでした。そこで知り合った友人が流しそうめんのYouTube動画を見ながら言った一言、「これ、とってもCoolだよね!」からすべてが始まりました。そもそもその友人は流しそうめんが日本のものだとは知らなかったそうなのですが…。とにかくじゃぁみんなでやってみよう!と計画に取りかかることになりました。クリスマス直後から準備をはじめ、作業はみんな仕事の合間を縫って行いました。そして翌年の夏、パーティー当日にはたくさんの地域の方々に日本の夏の風物詩を体験してもらえてとてもうれしかったです。学校の言語教育から離れた環境で純粋に日本の文化に触れてもらう機会を作ることができたこと、また準備期間も含め地域の方々と協力しながらできた活動ということもあり、特に思い入れのある活動となりました。

新型コロナウイルス感染症-臨時休校とそれに伴う教育環境の変化-

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、派遣校でも3月末から臨時休校の措置が取られていました。もちろん誰も予想すらしていない状況ではありましたが、派遣先における対応は他の地域と比べ少し遅れをとっていたように思います。それはJ-LEAPの仲間との情報交換や地域の人々の声を聞いても明らかなものでした。市の教育委員会(以下、市教委)から明確な指針が示されたのは、学校が閉じられてから2か月ほど後のことだったと思います。
市教委から出された方針は、インターネットへのアクセスの有無による不公平が生まれないよう、オンラインで授業は進めない、ということでした。それに沿って、派遣校では、ピッツバーグ公立学校指定のオンライン上のプラットフォームに週に3つの課題を出し、それをオンライン上で提出させるという方法をとっていました。私とLTで、3つの課題の作成、アップロード、その提出状況の確認を役割分担して行っていました。新学期も引き続きオンラインでの学習が必要となることを前提に、生徒がしっかり学べる環境づくりを整えることが必要だと感じました。

広がる日本の輪-まずは知ってもらうことから-

「後々まで続く関係を作るためにはまず自分について知ってもらうこと」 J-LEAPとして活動する中で常に私の中にあった考えです。その信念のもと、この2年間自分が日米間の交流において寄与できたのではないかと思う経験を挙げさせていただきたいと思います。
まず派遣校では、未来を担う若者たちに、授業や日頃のやり取りを通じて日本の言語や文化について伝えることができたと感じています。派遣校の日本語クラスには、学校のシステム上、日本について特に知識も関心もない生徒が集まっていました。そのため、授業ではまず日本について知ってもらうこと、そして言語の習得自体を楽しいと思って学習できるような授業づくりにLTと共に取り組みました。また授業外では日本語を選択していない生徒とも交流するよう心掛けました。その結果、日本語のクラス外からも『日本に行ってみたい!』と言う生徒が出てくるなど、日本の輪をより広げることに成功したと感じています。
派遣校外では、地域の方々や趣味を通して出会った友人に、ピッツバーグでも日本語教育が実施されていることを広く伝えることに尽力しました。中学・高校の段階で日本語を選択できる環境があるということ自体を全く知らない人が多く、みんな一様に驚いていました。

未来を担う若手日本語教員の方々へ

みなさんに何よりもお伝えしたいのは、「そこにいるだけで価値がある!」ということです。私自身、現地校で働く中で、「自分って本当にここで役に立てているのかな?」と不安になったことが何度もありました。そんな中、J-LEAPの研修で「教室に日本人としているだけでも生徒には大きな刺激となっている」と先輩の先生に言っていただき、肩の荷が少し軽くなったのを覚えています。実際に自分の毎日接する生徒について考えてみると、日本どころかピッツバーグから出たことのない生徒が多くいることに気が付きました。もしかしたら、そうした生徒にとっては人生で唯一接した日本人が自分になるかもしれない…。そう考えたときに、「いるだけで価値がある」という意味が少し分かった気がしました。一緒に笑って、一緒に学んで、そうした毎日が生徒の中に少しでも残ってくれれば自分がそこにいた価値があるということだと私は思います。大変なこともあるとは思いますが、手厚い支援、恵まれた環境のもと活動できることに感謝し、前向きに一瞬一瞬を楽しみながら活動していっていただきたいです。私自身もこれから国内外で言語教育に携わっていく中で、またみなさんと一緒に働かせていただく機会があればうれしいです。

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