米国若手日本語教員(J-LEAP) 8期生 総合報告書
アメリカでの二年間

キャベル・ミッドランド・ハイ・スクール
ハンティントン・ハイ・スクール
上尾 志乃

業務と成果

業務の中で最も注力したのは、持続可能な開発目標(SDGs)を軸に21世紀型スキルの向上を目指したカリキュラムの作成です。例として、二つのプロジェクトを紹介します。
ウェストバージニアは肥満、高血圧、麻薬使用死亡者等の割合が全米ワースト1位。メンタルヘルスにおいても深刻な問題となっています。そこで、「ウェストバージニアを健康に」というテーマでプロジェクトに取り組みました。一つ目は、食生活改善プロジェクト。オンライン上で、日本の高校生と食生活について情報交換を行い、「栄養バランスが良く地球に易しい食事とは何か?」を考え、日本語でプレゼンテーションをしました。二つ目は、ソーラン節プロジェクト。日本文化を学びながら楽しんで運動できればと思い、週に一度、ソーラン節を練習しました。はじめは激しい動きに息が上がっていた生徒達ですが、練習を重ね、近隣大学のイベントで披露することができました。後に実施したアンケートでは、86%の生徒が「健康的な体づくりに効果的だった」と回答。さらに、ウェストバージニアを健康にするにはどうすればよいかをグループで考え、学校や地域施設に提案しました。
このような授業は、生徒の思考力や実践力、社会に参画していく力を高める上で大いに有益であったと考えます。異国の学校でクラスをマネジメントすること、次々と新しいテクノロジーやアイデアを取り入れながら授業を行うことは、私にとって学びの毎日でした。ここで培った経験は今後あらゆる場で役立てていけると思います。

授業外の活動

2年間で行った授業外活動の中で、3つを紹介します。

  • 日本語サマーキャンプ:ウェストバージニアで実施される小学生対象のキャンプにインストラクターとして携わり、「東京オリンピック」をテーマとしたプログラムを実施しました。さらにミネソタ州のキャンプでは、2週間中高生やスタッフと生活を共にし、普段の教室とは異なる環境の中で刺激と学びを得ました。

  • 地域でのワークショップ:JOI(日米草の根交流コーディネーター)と共に図書館などでワークショップを実施。和食作りや書道などを紹介し、延べ約150人が参加しました。これまでJOIJ-LEAPが行ってきたこのようなアドボカシー活動が実を結び、2019年の新規日本語履修者数は2年前から1.3倍に増加しました。

  • 署名活動:外国語教育が縮小傾向にある中、派遣先の日本語プログラムも存続の危機に面しました。そこで、生徒と協力して署名活動を行い、約1500名分の署名を集めました。結果的に存続は叶いませんでしたが、日本語プログラムを求める声がこれだけ多くあることを、政府や学校へ周知することができました。

休校中の学習

新型コロナウイルス感染症の影響で休校の間は、主に「JFにほんごeラーニングみなと」の自習コースを使用しました。派遣先校は家庭でのインターネット環境が整っていない生徒が多く、Zoom等を使用したオンライン授業の実施が困難であったため、「どうやって学習を継続させようか…」と頭を抱えました。そのような中、「みなと」は(1)好きな時間に学習できる、(2)各々のレベルやペースに合わせられる、(3)単語帳や解答がすぐに確認でき、自己学習しやすい、(4)音声があり、聴解・発音練習できる、といったメリットがあり、大変有効なツールでした。
一方で課題としては、生徒の学習意欲を保つのが難しかったことです。私は各自の進捗管理やメールでのサポートを行いながら、動画を作成して配信したり、学習に役立つウェブサイトやアプリを共有するなど、生徒の興味や意欲を高められるよう努めました。

海を越えた交流

ウェストバージニアは日本人が少なく、生徒達が日本語を使う機会はなかなかありません。また経済・教育水準が全米で最も低い州の一つであり、留学や海外旅行をする生徒も多くありません。そこで、日本およびアメリカの高校、中学校、児童コミュニティー、計7校と関係を構築し、交流活動を行いました。具体的には、ビデオや手紙の交換、俳句集の共同作成などです。中でも最も盛り上がったのは、お土産交換。一人一人が相手校の生徒へお土産を準備し、メッセージカードを添えて送付しました。異国の友達から海を越えてやってきたお土産を手にし、生徒達は大興奮でした。
さらに高学年は「グローバルクラスメートプログラム」に参加しました。グローバルクラスメートは、半年間に亘って日米の高校生がオンライン上で交流したり、様々なトピックについて意見交換したりできるプログラムです。教師は日本語指導やファシリテーションを行いましたが、主体は常に生徒。後に実施したアンケートでは、90%の生徒が「日本人や他校との交流で学習意欲が向上した」と回答しました。生徒自らが目的意識を持ち、楽しみながら学び成長していく姿を見ることができ、嬉しく思います。

未来へ向けて

私は「多文化共生社会の構築」を目指して、日本語教育の道へ進みました。多様な人同士が違いを認め、尊重し合える社会をつくっていけるよう、学校、企業、自治体、そして地域を結ぶ役割を担いたいと考えています。また、日本の「21世紀型教育」の発展に貢献できるよう、知識と能力を高めていきたいです。
これからアメリカへ派遣される方には、派遣先はもちろんのこと、他の地域(特に日本語教育が盛んでない地域)への支援やアドボカシー活動も期待しています。きっとそれぞれの場所で違った発見と学びが得られるはずです。著しく変化する社会、進化するテクノロジーの中で様々な壁がありますが、J-LEAPの強みを活かし、アメリカと世界の日本語教育をさらに盛り上げていきましょう。 J-LEAPで得た多くの学び、人脈、仲間、そして生徒達とすごした時間は、私にとってかけがえのない財産となりました。関わってくださった全ての方に、心から感謝しています。

  • 派遣先での写真1
  • 派遣先での写真2
  • 派遣先での写真3
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