米国若手日本語教員(J-LEAP) 9期生 年間報告書
1年目を終えて

ノース・サリナス・ハイ・スクール
池田 寛子

北カリフォルニアの概要及び日本語教育事情

カリフォルニア州と聞いて、皆さん何を思い浮かべるでしょうか?カリフォルニア州は最も人口の多い州であり、メキシコをはじめとする中南米、中国やフィリピンなどのアジア諸国からの移民も多く、ロサンゼルスのリトル・トーキョーやチャイナタウンなど、それぞれが独自のコミュニティーを成しています。また、南北にながくのびた国土が特徴的で、州全体でおだやかな気候に恵まれています。特に私の派遣先である北部は季節による気温の変動が比較的少なく、1年を通じてすごしやすい場所といわれています。
カリフォルニア州の義務教育はK-12と言われ、これは日本の幼稚園年長から高校3年生の期間にあたります。高校に関しては、日本のようにクラス毎に時間割が決められているのではなく、いつどの教科を学ぶかは生徒により異なり、同じ教室に1年生と2年生が混在することもあります。
カリフォルニア州は全米の中でも日本語教育が特に盛んであると言われており、補習校、幼稚園など日本人の子どもに対する教育機関のほか、アメリカ人あるいは日系人など日本語を母語としない学習者を対象とする公立及び私立の中学校、高校、大学、日本語学校があります。

オリジナル教材を用いたサリナスでの日本語教育

派遣先であるノース・サリナス・ハイ・スクールには2,000人以上の学生が在籍しており、その内訳は約83%がヒスパニック系、その他にも中国、フィリピン、ベトナム系の学生やアメリカで生まれ育った日系人の学生もいます。外国語は必修科目として2年間履修する義務があり、学生はスペイン語、フランス語、日本語の中から選択します。アニメや漫画などのポップカルチャーに興味がある学生もいれば、「難しいことにチャレンジしたい!」という理由で日本語を選択する学生もいます。
2019年度(2019年8月~2020年5月)は、日本語は全部で6クラス開講され学生数は約170人でした。派遣校にはリードティーチャー(以下、LT)を含め、2人の常勤日本語教師がいますが、さらに同じ学区内で日本語クラスを開講している高校が5つあり、各学校の日本語教師が協力しながら、カラオケコンテストやスピーチコンテスト、日本旅行などの学区全体でのイベントを実施しています。また、文法にフォーカスした既存のテキストは使わず、オリジナルのハンドアウトやパワーポイントを使い、コンテントベースの授業を行っているのもサリナスの日本語教育の大きな特徴です。

受入機関外での活動

課外活動として、学区内の日本語AP(アドバンスト・プレイスメント)クラス(大学の一般教養レベルに相当するクラス)の学生たちを対象に、ロサンゼルスにあるJapanese National American Museumへの一泊二日の旅行に同行させていただきました。学生たちは事前に日本からの移民問題を日本語のクラス内で勉強し、理解を深めたうえで現地に赴きました。
リトル・トーキョーと呼ばれる日本食レストランやスーパーが集まる地区では、お好み焼きや季節の和菓子など、学生たちは「日本の味」を体感することができました。この小旅行を通じて、クラス内では見られない学生の一面を発見することができ、また学生同士も絆を深めるきっかけになったように思います。
また、参加した学生たちも卒業文集でこの旅行がとても印象に残っていることを述べており、教室外でも学生と教師、学生同士がコミュニケーションすることの重要性に改めて気づかされました。
特に、来年度は新型コロナウイルス感染症による影響で、これまでとは違う授業方法やクラスマネージメントが求められる可能性が高く、いかにして学生とコミュニケーションをとり、信頼関係を築くかは私にとって大きな課題です。

新型コロナウイルス感染症の状況下での活動

自宅待機になった当初は学区の方針により、新しい内容を教えることができませんでした。そのため、LTと私は学生が楽しみながら日本語に触れる何かができないかと思い、アプリを使って「家の中にある日本のものを写真に撮る」、「家族にひらがなを教える」、「日本語で歌を歌う」などの課題を出し、ポイント制で学校対抗のゲームを行ったり、「旗揚げゲーム」や「あっちむいてほい」など、日本の遊びを紹介するビデオを作成しました。両親や兄弟とビデオを見て遊んでくれた学生もおり、日本語のクラスで学んでいることを家族に紹介するいい機会となりました。
その後、4月以降は学生が興味のあるトピックを選び、調べてまとめる「Personal Impact Project」を行いました。学生にとって、自ら期日を決めて進めていくことは大きな挑戦でしたが、完成させた学生からは「楽しかった」、「やってよかった」などの前向きな声があがりました。また、サリナス学区の日本語プログラムとしてのホームページを作成し、家族や友人、クラスメート、他の学校の日本語学習者にも完成作品を見てもらえたため、学生の達成感にもつながったように思います。

1年目終了の所感、2年目の目標

新型コロナウイルス感染症による自宅待機令が発令された当初は、人との接触が制限され、計画していたことも次々にキャンセルとなり、この1年間での一番の山場だったように思います。教師も学生も、これまでとは異なる環境での授業となり、お互いにとって大きなチャレンジでした。それでも、学生たちからは「日本語のクラスは楽しかった」というコメントをもらい、来学期へのモチベーションにつながりました。
2年目に向け、私は3つの目標を掲げたいと思っています。まず、派遣校外でのつながりを増やし、活動の幅を広げることです。次に、学生の家族とのつながりをつくることです。日本語クラスはレベル3以降は選択科目となるため、親の理解がなければ日本語の履修を継続することが難しい学生もいます。そのため、学生の成果を見てもらえる機会や家族と一緒に参加できるイベントを企画していきたいと考えています。最後に、最も大事なことは、自身が残りの活動を楽しむことであると思っています。先にも述べたように、来年度以降もより創意工夫と柔軟性が必要となるため、制限のある中で、どのようにして自分自身がJ-LEAPとしての活動を楽しむかを模索していきたいです。

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