米国若手日本語教員(J-LEAP) 9期生 年間報告書
ミネソタ州での1年目を終えて

イーストビュー・ハイ・スクール
佐藤 翼

MinneSOta

Target行ったことある?Post-it使ったことある?SPAM食べたことある?という質問をアメリカ人にした時、ほぼ全員がYESと答えます。しかしそれがミネソタ州発祥だという事実を知っている人は少ないでしょう。これらの名前は日本でも聞いたことがあるかもしれませんが、アメリカ中西部の北に位置し日本の本州とほぼ同じ面積を持つミネソタ州から生まれました。日本からの直行便もあるミネソタ州には、アメリカ一の大きさを誇るショッピングモール「Mall of America」があり、国内外から観光客が訪れます。(衣類には税金がかかりません!)
そんなミネソタ州における教育制度はK-12といって幼稚園から12年生(高校生)までで、派遣先の学区では5・3・4学年制が取られています。アメリカ国内でも教育水準が高いミネソタ州ですが、日本語を学べる所は多くはありません。しかし、少なくとも私の派遣先の学区では日本語プログラムは年々大きくなっており、学習者の数が増えています。実際に学校外で日本語を使える機会は多くありませんが、日本人コミュニティーや日米協会などと協力して機会づくりに努めています。アニメ・漫画好きはもちろんのこと、日本人の考え方に興味がある生徒や食文化に興味がある生徒など様々な理由で日本語を学んでいます。

Go! Eastview Lightning!

私の派遣先であるイーストビュー高校は公立高校で都心部から20分ほど離れたアップルバレー市という郊外に位置しています。周りには高い建物が無く、とても開放感のあるところで、学校の敷地面積は東京ドーム約17個分です。9年生から12年生まで4学年の約2,240人と約250人の教員・スタッフが在籍していて、2020年のUS Newsの”America’s Best High School”に選ばれました。大学初級レベルの授業であるAP(アドバンスト・プレイスメント)クラスを履修する学生が多いのも特徴ですが、学問だけでなくスポーツや芸術活動も盛んです。
そんなイーストビュー高校では約160人の生徒が日本語を履修しており、1人の先生が教えています。私はそのリードティーチャー(以下、LT)の下、毎日奮闘しています。主な業務内容としては、毎日の授業準備はもちろん、それに加え課題の添削などが挙げられます。教科書は使用しておらず、独自のカリキュラムで教えています。私の立場はアシスタントティーチャー(以下、AT)ですが、教室内では一つのクラスに2人の先生がいて、一緒に授業を進めるというスタイルを取っており、教師含め教室内全員が学習者のような雰囲気づくりができています。

日本博士!?

授業以外に私が主に担当した活動はJ-Quizと全米Japan Bowlへ向けた準備です。全米Japan BowlとはワシントンD.C.日米協会が1992年に設立した日本語・日本文化の知識を競う大会で、毎年アメリカの首都であるワシントンD.C.で開催されます。そしてJ-Quizはミネソタ州で行われる予選大会で、ミネソタ州で日本語を学ぶ各学校から選ばれたレベル1から4の生徒が参加します。生徒たちはこの大会に向けて授業前や授業後学校に残り、言語のみならず日本の文化、社会、日常生活、歴史、地理、そして時事問題を学んでいます。LTや同じ学区の日本語の先生と準備のために練習クイズを作り練習大会を行った時、私も生徒たちと一緒にクイズに答えていったのですが、日本人の私でもすぐに答えられないような問題も多い中、生徒たちは次々と答えており驚かされました。
2019年度に開催されたJ-Quizではレベル3の生徒が見事優勝し、全米Japan Bowlに出場することができました。今回は新型コロナウイルス感染症の影響で、ワシントンD.C.ではなくDigital Japan Bowlになってしまいましたが、生徒たちは全力を出し切りとても楽しんでいた様子でした。本選のレベルはとても高く、遠く離れたアメリカで、日本にこんなにも興味関心を持つ若い世代がいるのかと感銘を受けました。

新たな挑戦

やっとアメリカでの日本語教育にも慣れ、学年末までラストスパートというところで現れた新型コロナウイルス感染症。生徒だけでなく教師や保護者も翻弄され、慣れない日常に戸惑う日々が今も続いています。しかし私たちの学区はオンライン授業への移行へ向けた体制づくりの取り組みが早く、これまで通りとは言えずとも生徒たちには日本語を学ぶ機会を提供し続けることができました。
私たちの学区はiPadが一人一人に支給されています。Schoologyという学習管理システムを普段から使っており、生徒や保護者はこれを通して成績を確認したり課題提出をしたりしていました。そのためオンライン授業に移行してからも、Schoologyを主に使用し課題提出やクイズの出題などを行うことが出来ました。一番残念だった点としては、チームティーチングができなくなってしまったことです。私は主に授業を担当し、LTは生徒とのコミュニケーションを担当しました。急に学校に行けなくなり、友人や教師に会えなくなってしまった生徒の精神的なサポートはとても重要で、生徒との信頼関係はすぐに築けるものではありません。担当を分担することで私たちの精神的な負担も減り、なんとか残りの3か月を過ごすことができました。来年度もまたオンライン授業もしくはオンラインと対面のハイブリッド型の授業形態がとられると思います。それに向けこの夏しっかり準備を進めたいと思います。

山あり谷あり

この1年を振り返ると、一体何が起こったのか、色々なことが一瞬で起き、過ぎ去っていったようでまだ心と頭の整理ができていません。今ニュースでも多く取り上げられているようにアメリカでは新型コロナウイルス感染症のパンデミックだけでなく、黒人差別問題や、11月には大統領選が控えており、毎日心落ち着かない日々が続いています。しかしこのような状況下で今アメリカにいられることは、大きなチャンスだと感じています。ここで過ごす毎日から新たな発見や学びがあり、このミネソタ州に来て私の価値観も大きく変わりました。以前は西海岸のアメリカへしか行ったことが無く、初めての中西部での生活は、アメリカの規模の大きさを感じさせられ、同じ国でもこんなにも文化が違うのかと驚かされました。
2年目の目標は、まず第一に、生徒が安心して安全に学習できるような環境を作ることです。新型コロナウイルス感染症にかからないことはもちろん、黒人差別の問題、痛ましい事件やニュースで不安になっている子供たちに安心して学習できる環境を提供できるよう一対一のコミュニケーションを大切にして、言語学習の楽しさや新しい価値観を生徒たちに知ってもらえるよう取り組んでいきたいと思っています。そして自分自身も与えられた時間を有効に使い、オンラインだからこそできる交流や講演会などの機会を作り生徒と日本をもっと近づけられるよう努めていきたいです。

  • 派遣先での写真1
  • 派遣先での写真2
  • 派遣先での写真3
  • 派遣先での写真4
What We Do事業内容を知る