米国若手日本語教員(J-LEAP) 9期生 総合報告書
1年を終えて

カメハメハ・ハイ・スクール・マウイ・キャンパス
中村 美幸

アシスタントティーチャーとしての活動

私がアシスタントティーチャー(以下、AT)として担当した主な業務は、会話練習、日本文化の授業、宿題の採点です。日本文化の授業はネイティブだからこそできた授業で、リードティーチャー(以下、LT)にも非常に喜んでいただき貢献できたと思っています。取り上げたテーマは、日本の学校、祝日、料理、若者言葉、漫画・アニメ、音楽など。どのテーマも私の実体験や写真、日本人の動画(YouTube)などを見せ、学生がリアルな日本を感じられるようにしました。
なかでも、音楽の授業はとても人気がありました。まず、ミュージックビデオを見せて、感想を発表し合い(どんな曲だと思ったか、好きか嫌いかなど)、次に音楽を何度も聞き、歌詞の書き取りをして、最後は皆で歌うという流れで、聞く・書く・話す練習をバランスよくできました。またそれがきっかけとなり、多くの学生がJ-POPに興味をもちはじめ、カラオケで日本の歌を歌うことが趣味になった学生もいました。
「好きこそ物の上手なれ」とはよく言いますが、普段の授業では控えめな学生が私に「和楽器バンド」(日本の8人組バンド。テンポが速く難しい曲が多い)の歌の一節を披露してくれた時は、とても感動し、10代の「好き」が生み出すパワーの凄さに圧倒されました。これからも学生の自発的学習意欲がわくような授業作りをしていきたいです。

授業以外の活動

派遣校カメハメハ・スクール・マウイ(以下、カメハメハ)では、授業以外に日本クラブの担当をしました。休み時間や放課後に集まり、オススメのアニメ情報を交換したり、鑑賞会を行ったりしました。年間目標は文化祭をすることで、お弁当をみんなで作って販売する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響でできなくなってしまったのが、とても残念でした。
カメハメハ以外では、日系人の方が参加するイベントのボランティア活動を行いました。当日、お茶やポップコーンを販売したり、会場案内をしたりしました。活動を通して多くの日系人の方と知り合いになり、彼らや彼らの家族向けに日本語のミニレッスンなどを行いました。

試行錯誤のオンライン授業

カメハメハでは、新型コロナウイルス感染症の影響のため3月下旬からオンライン授業に切り替わりました。この期間はLTとも会えなかったので、別々で授業を行いました。私は、週3日学生とチャットで会話をし(読み書きの練習)、週2日Zoomを使い文化授業(話す聞くの練習)をしました。LTは新しい文法の練習やテストなどを行っていました。
突然のオンライン授業、そして一日中家にこもり友達とも会えない日々は、学生にとってかなりストレスがあったと思います。全講師の会議では、学生の欠席率が目立つことが何度か話題になりました。そこでLTと話し合い、私の担当授業の目標は「学生が日本語離れしないようにすること」としました。チャットでの会話では、既習の文法・単語だけを使って挨拶や毎日の出来事を話し、文化授業ではゲームを使って盛り上げ、学生が負担なく楽しんで授業に参加できるようにしました。
学習ペースが遅くなってしまうデメリットはありましたが、別のクラスでドロップアウトの学生がいる中、日本語クラスは欠席率ほぼ0%、学生に毎日日本語と触れ合う機会を与えることができました。今回のオンライン授業への切り替えは不測の事態でしたが、LTと何が学生にとって大事かを話し合い柔軟に対応することができました。

日本を知るきっかけづくり

「日本ファンを増やすこと」がJ-LEAPでの目標の1つでした。そのために日本語クラスを受講していない学生とも積極的にコミュニケーションをとりました。彼らに日本を知ってもらうきっかけを作りたかったからです。昼休みにゲームをしたり、放課後に一緒に筋トレをしたり、部活動の試合の応援にもたくさん行きました。
ある時、その中の学生からビデオプロジェクトに協力してほしいと頼まれました。そのビデオは「外国人(私)がロコモコを食べ比べてみた」というテーマのもので、3つのお店のロコモコを食べリアクションし、どれが一番美味しかったかコメントする内容でした。そのビデオが評価され、校内放送されると、私がビデオ内で連発していた「おいし~!」がその日の学校の流行語のようになりました。たった1つの単語ですが、たくさんの学生がその日「おいしい」という日本語を覚えてくれました。
帰国前に日本語クラスを受講していない学生からも「中村先生に会いに、日本に行きます」とメッセージをもらいました。「日本ファンを増やすこと」ができたかはわかりませんが、私との想い出が一人でも多くの学生の心に刻まれ、それが日本に旅行するきっかけや、日本文化を学ぶきっかけになってくれていたら嬉しいなと思います。

今後派遣される方へ/今後の展望

今後J-LEAPで派遣される方に期待することは、柔軟性と広い視野をもって積極的に活動してもらうことです。授業が予定通りにいかなかったり、同じアクティビティーでも学生によって反応がまるで違ったりと、私はこの1年間で何度も柔軟性を求められる場面がありました。その都度「じゃあ、この場合どうする?」と自分に投げかけ、試行錯誤しながら答えを見つけていきました。その答えが簡単に見つからず苦労したこともありましたが、その苦労も学びだと考え次の成長の糧にしました。新しい環境に飛び込んだ時、必ずといっていいほど自分の思っていたことや価値観と違うことと向き合わなければいけない時があると思います。そんなとき、それらを拒否するのではなく、その状況を受け止め、その中で「自分にできること」を考えて最善の行動をしていってください。
私はこの1年間で、日本語教師としてだけではなく、人間としても成長できたと思っています。それはたくさんの「初めて」が私に刺激を与えてくれたからです。これからもそんな刺激を求めて、海外で日本語教師をしていきたいと考えています。

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