世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)勢いを増すメキシコの日本語教育

国際交流基金メキシコ日本文化センター
佐藤五郎、鵜飼香奈子

国際交流基金メキシコ日本文化センター(以下、JFメキシコ)には日本語上級専門家1人、日本語専門家2人が派遣され、メキシコと中米カリブ地域の日本語教育支援を行っています。今回はメキシコ国内の日本語教育支援を中心にご紹介します。

1.初等・中等日本語教育支援のつながり

国際交流基金が3年に一度実施している海外日本語教育機関調査が2018年度に行われ、初等・中等教育段階における日本語教育の拡大が明らかになりました。しかし、同段階において日本語は正規科目ではなく国定カリキュラムもないため、現場の先生方が手探りで進めてきたというのが実情です。そこで、2019年度にJFメキシコは初等・中等日本語教育支援に力を注ぐこととし、同段階の日本語教育を一層充実させるとともに多くの人に関心を持ってもらうべく、以下の一連の事業を企画・実施しました。実施にあたっては、国内の初等・中等日本語教育実施機関にもご協力いただきました。

2019年11月 第23回小中高生日本語発表会
       特別セミナー「初中等教育機関における日本語教育を考える」
2019年12月 メキシコ初等日本語教師研修
2020年2月  日本語キャンプin Mexico

ここでは、メキシコ初等日本語教師研修について簡単にご紹介します。本研修は「初等教育におけるシラバス・教材作成」というテーマで行い、小学生を対象に日本語教育を行っている3つの機関(私立学校2校、民間語学学校1校)から32人の先生方が参加しました。日本語上級専門家が講師を務め、小学生向けシラバスと教材を作成する際の留意点や利用可能なリソース等について、自身の教科書制作経験を交えながらお話ししました。研修後半にはグループごとにテーマを決め、シラバスと簡単な教材を作成し発表しました。1時間半という短時間にも関わらず、考え抜かれた力作ぞろいで今すぐ実用化できそうなものばかりでした。その後、本研修が契機となり、ある学校では先生方が一丸となって新しいシラバス・教材作成に取り組んでいます。また、機関の枠を超えた情報交換なども行われているようです。研修での学びを実践につなげ、人と人との交流を生み出してくださった先生方には、研修実施者として感謝に堪えません。2020年12月には初等日本語教師研修第2弾を計画していますが、初等・中等日本語教育の更なる発展をお手伝いできればと考えています。

初等日本語教師研修の様子
初等日本語教師研修の様子

2.オンライン日本語学習「みなと」で登録者数世界一

「地理的、時間的制約によって、日本語の教室に通うことができない学習者」や、「これから学習を始めたい」という世界中の人々に日本語を学ぶ機会を提供するため国際交流基金関西国際センターが日本語学習プラットフォーム「JFにほんごeラーニングみなと」 (以下、「みなと」)を2016年に公開しました。それから約4年、JFメキシコではスペイン語で日本語が学べる「みなと」を皆さんにお届けするため、オフライン・オンラインで様々な広報活動を行ってきました。2020年6月末現在メキシコからの「みなと」登録者数は31,658人で、世界一の人数です。

ライブレッスンで自分の町について自身で撮影した写真を見せながら発表する学習者
ライブレッスンで自分の町について自身で撮影した写真を見せながら発表する学習者

「みなと」には色々なコースがありますが、JFメキシコでは「『まるごと』教師サポート付きコース」を実施しています。日本語専門家はコース運営者として、コースの広報、学習者の管理や支援、授業担当講師へのアドバイス等の業務があります。そこでは「学生が快適に学べ、講師が快適に教えられる環境を整える」ことを目標にコース運営を行いました。例えばライブレッスンでは、講師が授業を担当し、日本語専門家は裏方として講師や学生をサポートします。授業中に停電で急にいなくなる講師、渋滞で自宅に帰れず道路脇に車を停めて授業を受ける学生等、オンライン授業ならではのハプニングも数え切れませんが、それらに対応しクラスが問題なく進められるようにします。コース終了後には受講生から「自分の人生の中で、日本語を先生とそしてクラスメートと勉強することが出来るなんて思っていなかった」、「これからも日本語の勉強を続けていきたい」というコメントもありました。

メキシコの国土は日本の約5倍、全ての地域に日本語学校があるわけではありません。残念ながら治安の問題で語学学校に通うことが難しいという地区もあります。一方、今回の新型コロナウィルスが様々な形で私達の生活に影響を及ぼす中、オンラインコースであったからこそ、日本語学習という一つの日常を続けることが出来、改めてオンライン学習の強みを再確認しました。

JFメキシコではこれからもメキシコや中米カリブの学習者にオンライン学習の機会を提供し、様々な方法で日本語学習の支援を行っていきたいと思います。その取り組みの一つとして、現在は「みなと」で学べる「初級からビジネス日本語A2」を制作中です。

注)初等教育段階の日本語学習者数:2015年度775人→2018年度1,081人、中等教育段階の日本語学習者数:2015年度863人→2018年度1,115人。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Mexico
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
メキシコ及び中米カリブ諸国において、カリキュラム・教材・教授法等に関する助言・支援活動、現場のニーズに応じた教師研修を行っている。教師間ネットワーク形成の促進を行い、各地での自主研修も奨励している。またメキシコ日本語教師会、中米カリブ日本語教育ネットワーク、各地の教師会等との共催による教師研修、学習者奨励事業も行っている。E-learningプラットフォーム「JFにほんごeラーニングみなと」内の『まるごと教師サポート付きコース(スペイン語)』も実施。日本語教育関係者を対象にSNSを活用して情報発信も行っている。
所在地 Ejército Nacional #418 Int. 207
Colonia Polanco V sección
C.P. 11560, CDMX, México
国際交流基金からの派遣者数 日本語上級専門家1人、日本語専門家2人
国際交流基金からの派遣開始年 1998年
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