世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コロナ禍でも止まらないメキシコ・中米カリブの日本語教育

国際交流基金メキシコ日本文化センター
佐藤五郎、佐藤志穂

2020年3月、メキシコと中米カリブ諸国でも新型コロナウィルスの感染が広がり始めました。教育機関は軒並み閉鎖され、授業は次々とオンライン化していきました。私たち国際交流基金メキシコ日本文化センター(以下、JFメキシコ)は、大きく変化する状況の中で現場のニーズに臨機応変に対応しつつ、これまで取り組んできたこともコツコツと続けてきました。コロナ禍での新たな取り組みとその成果、そして長期にわたる事業の成果をご紹介します。

1.オンライン授業の質向上のために・学びを止めないために

オンライン授業はほとんどの先生方にとって初めてのことでした。そこで、オンライン授業実施のための基本事項をレクチャーする研修シリーズや、先生方にご自身の取り組みを紹介していただく実践紹介シリーズなどを企画・実施しました。いずれも好評を博し、1年間で26 の国から延べ1,094人の先生方が参加してくださいました。時間も距離も障壁にならないオンライン研修ならではの成果と言えるでしょう。また、スペイン語母語話者向けのオンライン日本語学習素材が少ないことに着目し、「オンライン学習素材作成コンテスト」も実施しました。このコンテストには23作品が集まり、2度にわたる審査を経て、上位3作品と審査員特別賞2作品が選ばれました。なお、1位に選ばれたのは国際交流基金の日本語学習プラットフォーム「 JFにほんごeラーニング みなと」( https://minato-jf.jp/ 以下、「みなと」)で独習していた学習者で、これは私たちにとっても大きなサプライズでした。一次審査通過6作品はJFメキシコのウェブサイトからダウンロードすることができます。

一方、授業のオンライン化により生まれた問題も次第に明らかになりました。居住地域のインターネットの脆弱さや家庭の事情等によりオンライン授業に参加できない学習者の存在が先生方から報告されるようになったのです。そこで、各現場でそのような学習者に対応している先生方の実践を集め「IT環境未整備地域・学習者向け日本語教育支援」ハンドブックを作成し、JFメキシコのウェブサイトで公開しました。このハンドブックは誰でも自由にダウンロードすることができます。

オンライン学習素材作成コンテスト優勝作品の写真
オンライン学習素材作成コンテスト優勝作品

2.「みなと」オリジナルコースの完成

「みなと」には、大きく2つのコースがあります。ひとつは、完全自学自習で学べる「自習コース」、もうひとつは教師によるライブレッスンなどのサポートが含まれる「教師サポート付きコース」です。JFメキシコでは2017年より、スペイン語を使う中南米在住の独習者を対象に、「教師サポート付きコース」を運用してきました。2021年3月末現在、メキシコにおける「みなと」累計登録者は世界で最も多く、41,758人に上ります。これはメキシコの日本語教育機関に所属する学習者数13,673人(国際交流基金「2018年度海外日本語教育機関調査」より)の約3倍にあたる大きな数です。他地域にも目を向ければ、オンラインで日本語を独習するスペイン語使用者はさらに多いでしょう。

そこで、より多くの方に、より速く日本語を学ぶ機会を届けたいという思いから、JFメキシコは2019年10月、スペイン語を媒介語として学べるオリジナルコースの制作に取り掛かりました。特にメキシコでは日系企業の進出に伴い、日本語への需要・関心が高まっていることから、ビジネス日本語をテーマとしました。そして制作開始より1年を経た2020年10月、「初級からビジネス日本語(A2)Vol.1 教師サポート付きコース」を開講しました。コースには日系企業に勤める方、将来、日系企業で働くことを希望している方が集い、約1か月間、講師とともに楽しく学習を進めました。コース閉講時には、受講者から「ビジネスの場面での話し方やマナーを学ぶことができた。日系企業で働く際に役に立つ文法に加え、文化も学んだ。」といった満足の声が聞かれました。
「教師サポート付きコース」はこのように、講師や受講者同士で交流しながら学べる利点があります。残念ながら定員と開講時期には制限があるため、「より多くの方に、より速く」日本語を学ぶ機会を届けるという目的はまだ達成半ばです。そこでこのコースを、誰でも、いつからでも学べる「自習コース」として再編し、2021年3月末に開講しました。さらに現在、Vol.1の続編として、Vol.2の制作も進めています。オンラインで日本語を学ぶ人が「みなと」で多様な日本語に出会えること、日本語学習をさらに楽しんでもらえることを願っています。

オンライン学習ビジネス日本語コースのロゴの画像
「初級からビジネス日本語(A2)Vol.1」のコースパネル

オンライン化の波は日本語の先生や学習者たちにメリットもデメリットももたらしています。新型コロナウィルスのパンデミックによる影響は今後もしばらく続くことが予想されますが、全ての人が学びの機会を失わないよう私たちに何ができるかを考え実行していきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Mexico
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
メキシコ及び中米カリブ諸国において、カリキュラム・教材・教授法等に関する助言・支援活動、現場のニーズに応じた教師研修を行っている。教師間ネットワーク形成の促進を行い、各地での自主研修も奨励している。またメキシコ日本語教師会、中米カリブ日本語教育ネットワーク、各地の教師会等との共催による教師研修、学習者奨励事業も行っている。E-learningプラットフォーム「JFにほんごeラーニングみなと」内の『まるごと教師サポート付きコース(スペイン語)』も実施。日本語教育関係者を対象にSNSを活用して情報発信も行っている。
所在地 Ejército Nacional #418 Int. 207
Colonia Polanco V sección
C.P. 11560, CDMX, México
国際交流基金からの派遣者数 日本語上級専門家1人、日本語専門家1人
国際交流基金からの派遣開始年 1998年
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