世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)エジプトの日本語教育―世界との比較、特徴について

アインシャムス大学
森林 謙

シンポジウムの発表で使用したスライドの写真
シンポジウム発表タイトル

2020年以降の世界的なコロナ禍の影響や退避一時帰国等の諸事情により、現在の業務は通常とはかなり異なる状況となっています。そこで、今回は「中東・北アフリカ日本語教育シンポジウム」(2021年3月、国際交流基金カイロ日本文化センター主催、Padlet・Zoomによるオンライン形式)における担当業務の一つであった、「エジプトの日本語教育-高等教育機関を中心に」と題した発表を一部改編し、述べていきます。

データからみるエジプトの日本語教育

エジプトは日本から地理的に離れていることもあり、当地における日本語教育は規模としてみると世界的には決して大きくありません。

「2018年度海外日本語教育機関調査」によれば、エジプトを含む北アフリカ地域は、機関・教師・学習者数のすべてにおいて世界的な割合はわずかです。

【機関数】 東アジア34.7%、東南アジア28.9%、北アフリカ0.2%
【教師数】 東アジア52.6%、東南アジア24.4%、北アフリカ0.2%
【学習者数】東アジア45.3%、東南アジア31.6%、北アフリカ0.1%

ただし、北アフリカの学習者数0.1%に対し、機関と教師の数は2倍にあたる0.2%となっています。エジプトを含む北アフリカ地域においては、教師一人当たりが受け持つ学習者の数は東アジアや東南アジアよりも少ないということになり、学習環境における一つの有利な点とみることができるかもしれません。

ちなみに、10万人あたりの学習者数をみると、北アフリカにおけるエジプトの学習者は多いことがわかります。

【10万人中】大洋州1,208.0、東南アジア204.2、北アフリカ1.3、エジプト1.7人

学習者の内訳からみえるエジプトの特徴

次に、エジプトの学習者の内訳、所属機関に目を向けると、エジプトの日本語学習者の特徴が浮かび上がります。

【学習者数1,602】(初等教育0、中等教育148、高等教育972、学校外機関482)

エジプトでは、高等教育機関と学校外での学習者が90%以上を占めており、この点はアジアや大洋州のように中・初等教育機関における学習者の割合が圧倒的に高い地域とは大きく異なります。つまり、エジプトの特徴として「自らの選択や意思」による学習者が多いという点が挙げられると思います。

この点は、エジプトにおける教師の研修や勉強会などでのやりとりでも、教師側から「学習意欲や動機付け」に関した悩みや相談は出てこないことからも裏付けられます。

エジプトの日本語教育の今後

学生たちとエジプト名物コシャリを食べている時の写真
エジプト名物、コシャリを学生と

エジプトを含む北アフリカや周辺の中東などの地域も同様かもしれませんが、日本語教育はゆるやかに拡大し続けてきました。近年の日本語学科設置の動きなどからも今後も着実に広がっていくと思われます。

1969年在エジプト日本国大使館内の日本語講座に始まり、1974年カイロ大学文学部日本語学科がアラブ圏初の日本語専攻として設置されて以来、近年では2018年アルアズハル大学、カイロ大学言語翻訳学部など、現在までに6大学で主専攻、1大学で必修科目、そして、観光専門学校や一般講座などで日本語教育が実施されています。また、日本語教育機関ではありませんが、「特活」や児童の自主性・自律性など日本式の教育を取り入れた「エジプト・日本学校」が2018年に開校しました。2020年末には43校となり今後も増える予定です。

日本にとってはピラミッドや遺跡などのイメージが先行しがちなエジプトですが、ここには世界的規模は決して大きくはないものの、自らの選択と意思によって熱心に日本語を学ぶ人々がいます!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 アインシャムス大学
Ain Shams University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
アインシャムス大学言語学部日本語学科は2000年に設立され、外国語教育としては国内で高い評価を受けており、入学難易度も高い。特に日本語学科には優秀な学生が集まることで知られている。専門家は学部クラス担当のほか、コースデザイン、エジプト人教員の修士・博士課程進学サポート、指導、助言を行っている。
所在地 Abbaseiya, Cairo, Arab Republic of Egypt
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
アインシャムス大学言語学部日本語学科
日本語講座の概要
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