世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)イランにおける日本語教育 ――量的な変化と質的な変化――

テヘラン大学
須藤 展啓

日本・イラン外交関係樹立90周年となる2019年、イランの日本語教育は発展しつつあります。

まず日本語学習機関・学習者数が増えました。テヘラン大学では従来から外国語・外国文学部での日本語・日本文学科と日本語教育専攻修士課程があり、別キャンパスにある外国語教育センターでも一般向け公開講座で日本語講座が行われてきました。その公開講座では受講者が従来毎年80名程度だったのですが現在は100名を超え、レベルごとに20クラス程度に多岐に分かれるようになりました。それに加え2019年から新規に、同大学で日本語専攻以外の人でも受講できる日本語会話コース、日本文化学習コースなども始まり、20名程度の新規受講者が学んでいます。

またテヘラン以外にも、2017年からゴム州のアルムスタファー大学においても選択科目として日本語の授業が始まりました。イランの北西部に位置するタブリーズのタブリーズ大学でも2018年から第二外国語として日本語の授業が始まり、イラン東部の都市マシュハドにおいてもマシュハド・フェルドゥースィー大学が日本語授業の開講に向けて準備をしています。私が赴任した2017年当初、日本語を学べる大学はテヘラン大学1機関のみでしたが、現時点で少なくとも3機関に増えました。新規校の日本語教育も継続するようサポートしていきたいと思います。

また、日本語能力試験(以下JLPT)の受験者も増えています。2015年に53名だったのが、2016年85名、2017年97名、2018年は152名と大幅に増加しました。2015年までの受験者数が例年50~65名程度だったことから考えると、ここ数年で日本語学習熱が高まり試験の存在が一般に広く認知され始めたようです。

同様に、イラン日本語弁論大会への参加者も盛り上がっています。2015年13名、2016年7名、2017年10名、2018年16名、2019年15名となっており、ここ数年は10名を下回ることはなくなってきました。観客数が150名程になることからも、注目度の高さが伺えます。ここまでがイランにおける日本語教育の定量的な成果です。

日本文化紹介イベントの様子
日本文化紹介イベント。愛の字の中にハートマークが。

質的な変化

「日本語弁論大会は参加者数よりも質が大事なのではないか」と思われた方もいるかもしれません。弁論の内容としては、人生における純文学の重要性を説く弁論や、漢字を覚える際の心の変容など、微妙な心内描写をする弁論が見られます。また、アケメネス朝についてや、日本のトヨタの企業方針についての弁論など、自分で調べた物を熱を持って話すタイプの弁論もあります。子供の頃に日本に滞在した経験を話す参加者も見られました。私は2年ほどしか関わっていないので5年前10年前と比較することはできませんが、イランの観客の方や大使館の方から弁論の質の向上について好意的な意見をいただくことがあり、「少しは良くなっているのかな」と思っています。発表者は概して高尚な内容を扱いたがる傾向があるのかなと感じます。

テヘラン大学にて開催された演劇『夕鶴』の告知パネルの写真
演劇『夕鶴』告知。
テヘラン大学内ホールにて。

高尚さを好む傾向は語学劇にも見られます。テヘラン大学ではここ数年外国語演劇祭を行っており、学生達とともに私や他の教員も準備に携わっています。2017年は『父帰る』、2018年は『夕鶴』を上演しました。2019年は『弱法師』を行う予定です。「文学的にも価値がある日本の戯曲を実際に演じる」という部分に価値を感じる学生が多く、演じる学生達は自主的に作品を選び、時間をかけ演技プランを練り、長台詞を覚えます。舞台演出も自分たちで考え衣装や小道具なども作ります。普段にはない熱量で細部にこだわる学生達の姿を見ると、自主的に何かを習得することの重要性を痛感させられます。準備期間から上演を通しての演者・スタッフの日本語能力面・性格面での変容は大きいです。また、観客からも「自分もやってみたい。来年は自分も演者として参加したい。」という声も多く聞きました。演劇に限らず舞台芸術全般に通じることかもしれませんが(などと知った風なことを言うのはおこがましいですが)、練習を通じての人としての変容・成長や、発表の現場にいるからこそ共有できる感動というものは、数値化できなくとも確実にあるように感じられます。指導する教員側もまた、「どう指導すればよりよい演劇になるのか」と苦心しながら考え方が変容しているようです。

冒頭に「イランの日本語教育は発展しつつあります」と書きましたが、イランにはもともと渡日経験者も多く、日本に興味がある層も大勢います。日本語・日本文学・日本文化に造形が深い専門的な人材に会うことも少なくありません。日本語教育関係者の努力によって「日本に興味がある層」がJLPT受験者や弁論大会の観客数など、目に見える数値になって現れ始めたのだろうと思います。質的にも量的にも安定的な発展を続けられるようがんばりたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 テヘラン大学
University of Tehran
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
イラン・イスラム共和国唯一の日本語主専攻コース。学生は全国各地から集まっており、かなり質の高い学生が多く見受けられる。2008年より大学院修士課程での日本語教育が始まり、修了者は同大学公開講座などで日本語を教えている。日本語教育専門家の主な業務は日常の授業を担当するほか、他の教師に対する教授法の指導、カリキュラム、シラバスなどの作成補助、日本での新しい教材、基金助成プログラムなどに関する情報の提供、申請の補助等である。
所在地 North Kargar, between St. No.15 & 16. Tehran
国際交流基金からの派遣者数 専門家1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
外国語・外国文学部 日本語・日本文学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 1989年より選択科目
1994年から正規学科
  国際交流基金からの派遣開始年 1995年
 
コース種別
  専攻
 
現地(日本語)教授スタッフ
  常勤5名(内、邦人0名)、非常勤2名(内、邦人1名)、基金派遣専門家1名
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年生25、2年生25、3年生20、4年生18 計88名
  学習の主な動機 日本への興味 留学希望 日本企業への就職
  卒業後の主な進路 大学院進学、通訳、ガイド、放送局、一般企業など
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2受験可能な程度
  日本への留学人数 毎年2,3名程度

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