世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)COVID19パンデミック下における日本語学習継続の難しさと挑戦

ケニヤッタ大学
阿部康子

2020年は世界中全ての人にとって本当に厳しい年でした。まずケニアでのこの一年間の日本語教育現場での状況をお話ししたいと思います。
ケニアでは2020年3月12日に初のコロナ感染者が報告されました。その直後からイベントや集会の禁止、程なくして全ての国際線発着禁止、そしてロックダウンに入りました。報告者は国際線発着禁止の直前に日本に一時退避帰国をし、再びケニアに戻って来られたのは翌年2021年2月です。そして、この原稿執筆時の2021年4月現在、ケニアは第2回目のロックダウンの最中です。
このパンデミックにより、日本語弁論大会は開催一週間前に急遽中止、9月開催予定だった第2回アフリカ日本語教育会議、12月の日本語能力試験も中止せざるを得ませんでした。このような中で、教育機関、特に高等教育機関ではオンラインで授業を再開していますが、実際には中々上手くいっていないのが現状です。というのも、ケニアでは安定したインターネット環境を確保するのが難しいからです。大学自体がオンライン学習環境を整えても、それを受け取る学習者側の環境が整っていないのです。ケニアでは、自宅にwi-fi環境を設置している人、パソコンやタブレットを持っている学生は多くありません。学生たちの多くはオンラインで授業を受ける場合、スマートフォン内のデータを使って接続します。そして、このデータ通信料は彼らにとってはかなりの金銭的負担になるのです。大学側は学生に無料でデータを配布し、教師たちは新しいオンライン授業体系を試みていますが、それでもオンラインでの授業には多くの問題があるのが現実です。

第13回ケニア日本語弁論大会オンラインの様子の写真
第13回ケニア日本語弁論大会オンライン

報告者は日本滞在中に、オンラインで教師向けセミナーを行ったり学習者向けにイベントを行ったりしましたが、こういった事情からか、あまり多くの参加が得られないだけではなく、参加者のインターネット接続が途中で切れてしまうことも頻発しました。

ケニア日本語弁論大会は、毎年3月に開催されてきました。2年連続の中止はどうしても避けたく、2021年3月の大会はオンラインで実施しました。前年度よりは参加希望者は減ってしまいましたが、それでも12名の弁士たちが参加してくれました。事前に録画した弁論ビデオを提出してもらい、弁論に関する質疑応答のみを当日オンラインで行うという形にしました。インターネット接続が不安定な参加者のためにホテルの一室に会場を借り、その会場とオンライン参加者、審査員やスポンサー閲覧者を繋ぎ、ハイブリッド形式で行いました。幸い技術的なトラブルもなく、成功裏に大会を終えることができました。参加者は久しぶりの日本語イベントを楽しみ、今までの弁論大会よりも弁論の内容・質が共に高かったと、審査員や閲覧者の方々からのご好評もいただきました。質の高い弁論が揃ったのは、おそらく弁士たちが自分の納得の行くまで何回もビデオ録画をし直すことができたからでしょう。この点は、オンラインで行うことで得られた良い結果であり、今後も質の高い弁論を促すためのモデルになると期待しています。

学校閉鎖中の閑散としたケニヤッタ大学構内ショップ及びカフェテリアの写真
学校閉鎖中の閑散とした大学構内ショップ及びカフェテリア

COVID 19のパンデミックにより、民間の語学学校の日本語講座は閉じられ、大学の日本語講座の学習者数も減少し、日本語教師たちは仕事を失っています。しかしそのような中でも、日本語学習に意欲を持ち続けている学習者は沢山いますし、日本語教師たちはまた学習者が戻ってくることを信じて待っています。自分にできることは、せめてそのような人々を少しでも励まし、支援することです。オンラインを対面の代替として使うことが難しい中、何かしらできることを見つけてやってみること、失敗を恐れずにチャレンジしてみることの重要さ、必要性をひしひしと感じています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kenyatta University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
専門家は多岐にわたる業務を行う。国立ケニヤッタ大学では2004年から日本語の授業が開始、現在は自由選択科目の入門日本語コースと、その上の日本語副専攻コースが開講されている。専門家は同大学における日本語の授業、現地日本語教員に対する助言の他、在ケニア日本国大使館広報文化センターにおいても各種日本語講座を担当する。ケニア日本語教師会を支援し、日本語能力試験、日本語弁論大会、日本語教育会議の運営に携わり、ケニア及びサブサハラ・アフリカ全域におけるネットワーク形成促進、各種調査等に従事する。
所在地 P.O.BOX 43844-00100 Nairobi Kenya
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ケニヤッタ大学人文社会学部 文学・言語学・外国語学科
日本語講座の概要
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