世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コロナを転機に

キング・サウード大学
米田 晃久

2020年3月6日夜

第11回日本語弁論大会の延期が発表されました。大会前夜のことです。今回の弁論大会のテーマの一つは「働く」。ここ数年、社会が大きく変わりつつあるサウジアラビアで「働く」ことについて、どのように考えているのか、それが聞けるのを楽しみにしていました。キング・サウード大学の学生も大会に向け練習してきた中での延期でした。

3月8日

大学の授業で学生に会うと、「せっかく準備をしてきたのに…」と拍子抜けした様子でした。

3月9日

サウジアラビアは全国的に教育機関において、生徒・学生は自宅待機することが決まりました。同時に翌週から大学は遠隔授業を実施するよう指示が出ました。様々なことが突如として決まり、驚いてばかりの1週間でした。

自宅待機前の授業の様子の写真
自宅待機前の授業の様子

3月10日~12日

遠隔授業をするよう指示が出たものの、私を含め教員の大半が遠隔授業をしたことがなく、学習管理システムやWeb会議ツールについて教員向けの勉強会が大学で始まりました。学生が自宅待機の中、教員は狭い教室に集まり、集中的に新しいツールの説明を受けました。内容が盛りだくさんで頭が熱くなったのか、人の密集で熱くなったのか、これで大丈夫なのかと不安になりましたが、考える間もなく準備の時間が過ぎました。教員の中にはICTを使って授業をすることに慣れていない人も多く、授業の進め方等について聞かれることもありました。私も決して、詳しいわけではなかったので、その場でわからなければ、宿題として持ち帰り、調べたことを翌日、共有するという状態でした。日本語専門家としての「支援」というには少し頼りなかったように思いますが、できることをやる日々が続きました。

3月15日

それぞれの教員が自宅から遠隔授業を開始しました。おそらく、ほとんどの学生にとっても自宅から授業を受けるのは初めてのことだったと思います。しばらくの間、慣れないこともあり、いつものように授業ができませんでした。学生の顔が見えなくなり教員は困惑、学生もずっとパソコンや携帯電話の前に座り続けるのが大変等、不満も多く「やはり、教室がいい」という意見も聞かれました。

遠隔授業の様子の写真
遠隔授業の様子

しかし、徐々によい点も感じ始めました。通勤通学の時間が長かったこれまでに比べて遠隔授業だと時間が有効に使える。また、授業のスタイルが変わり、例えば、学生が個人個人のペースでリスニング教材を聴けたりすることは、教室での一斉授業ではできなかったことです。

遠隔授業で一度ハプニングがありました。授業をしていたら女性の声が聞こえてきたのです(キング・サウード大学は男女別学)。ほんの1分ぐらいでした。おそらく、誰かからオンライン授業の情報を聞き、興味本位で入ってきたのだと思います。学生たちはざわつきましたが、私は一つの可能性を感じました。

以前にも書きましたが、サウジアラビアでは女性が日本語を勉強できる高等教育機関はありません。しかし、日本語を勉強したい女性はたくさんいます。これまで文化的な事情や女性教員の滞在の難しさもあり、女性が日本語を学べる学部学科の設置が難しかった背景があります。これまでも技術的には遠隔で日本語を教える・学ぶと言うことは可能だったと思いますが、2020年以前は、特別な試みのように扱われてきました。しかし、今後は一つの選択肢として遠隔授業が選ばれやすくなると思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
King Saud University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
キング・サウード大学では1994年に日本語専攻課程が開設された。1998年には、それまでの3年制から予備教育期間を含めた5年制の課程となった。現在は4年制の課程となっている。日本語専攻課程は日本語学習を通じた全般的な異文化理解教育を目指している。カリキュラムは通訳や翻訳といった実務的かつ高度な運用能力を育成すべく、デザインされている。また、湾岸諸国で唯一、日本語専攻の学士号が取得できる教育機関であることから、湾岸諸国、アラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。専門家は授業担当、カリキュラム・教材作成に対する支援、加えて研究への助言などを行う。
所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語翻訳学部 近代言語学科 日本語専攻課程
日本語講座の概要
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