世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)トルコの日本語教育 手探りの1年

土日基金文化センター
栗田恵美子

2020年3月以降、トルコも他国同様、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、厳しい行動制限措置が取られ、教育機関も、その影響を大きく受けました。各教育機関は、遠隔授業となり、例年、年2回実施されていた日本語能力試験も、感染拡大により中止となりました。日本語専門家(以下、専門家)は、2020年6月に日本に帰国して以来、遠隔で業務を行なっています。日常が大きく変わった中、授業も日本語教育支援も、新しい日常に手探りで対応する1年となりました。

土日基金文化センター日本語講座

オンライン日本語交流会の様子の写真
土日基金日本語講座・日本語交流会の様子

専門家が派遣されている土日基金文化センター日本語講座では、高校生から社会人まで、74人(2021年1月)が日本語を学んでいます。学習の動機は、人気のアニメがきっかけだという人、「日本に興味がある」、「将来、役に立つかもしれないから」という人が多く、漠然とした日本への好意的な関心が大半のようです。
開講20年目の2020年、コロナ禍の影響で、同講座も通常とは異なる対応が求められる1年となりました。感染が下火になった10月から11月は、定員の半分に人数を制限して対面授業を行いました。しかし、感染再拡大で行動規制が強化されると、再び対面オンライン授業に切り替わりました。
例年、講座で行っていた文化体験やビジターセッションができない中、日本語講座では、2021年1月から日本語学習を楽しく継続してもらうべく、大阪のNPO団体と協力して、毎週1回、1時間、オンラインで日本語交流会を行っています。参加者はトルコ側、日本側各10名ほどで、毎回あるテーマをもとに、日本語によるおしゃべりを楽しんでいます。国籍・世代を超えた交流の中で、学習者は、日本側の参加者から話を聞いて日本の文化・生活に触れるだけでなく、自国の文化・生活を振り返り説明することになり、日本語学習に加え、さまざまな気づきを得る機会にもなっています。

トルコの日本語教育

オンラインプレゼン大会の様子の写真
アンカラ日本語弁論大会

2020年3月以降、高等教育機関では、一部で一時的に対面・オンラインのハイブリッド形式が取られることがあったものの、基本的には遠隔教育が行われてきました。日本語も例外ではなく、急に授業が全てオンラインに切り替わり、教師も学習者も急な変更に対応しなければなりませんでした。一般向け機関では、コロナ禍の長期化に伴い、前述の土日基金同様、一部の機関は、オンライン授業に切り替えて授業を継続しています。
このようにオンライン授業が必須となったこの1年、オンラインで双方型の授業をいかに維持するかということは、専門家自身も考えることが多い1年でした。そこで、2020年秋、麗澤大学国際学部教授の金孝卿先生をお招きし、「オンライン学習で学習者の主体的な学びをどうサポートするか」というテーマで、オンライン勉強会を企画・実施しました。当日は、9名の先生が参加され、直接的な交流が難しい中でも、教師間の交流や情報交換のよい機会になりました。終了後には、「次の授業で使えるヒントを得られた」、といった声が聞かれました。
2020年は、シンポジウムやセミナーがオンラインで開催されるようになり、遠く離れたところからでも、こうしたブラッシュアップの機会に気軽に参加できるようになりました。トルコは国土が広く、1つの場所に日本語教師が集まるのは物理的に難しいとされてきましたが、オンラインで何かをすることに慣れた今、新たな情報交換や交流の場として、オンライン勉強会に可能性を感じました。

さまざまな日本語事業

専門家は、日本語弁論大会や日本語能力試験といった日本語事業の支援も行っています。2020年度は、弁論大会や文化祭のようなイベントも、中止またはオンラインによる実施となりました。アンカラ弁論大会は、アンカラプレゼンテーション大会として12月に開催されました。出場者は、初級部門は「日本人の知らないトルコのおすすめ」、上級部門は「どうすれば日土交流が深まるか」というテーマで、プレゼンテーションを行いました。オンラインによる実施は、当然、初めての試みであるため、運営者側は綿密に計画を立てて臨みました。幸い、大きなトラブルはなく、成功裡に終わり、こうした学習奨励の機会を継続することができました。

困難な中でも日本語学習を継続したい学習者に何ができるか、模索が続いた1年でしたが、さまざまなノウハウが積み重ねられた1年でもあったと思います。ここで得た経験が、今後に生きることを願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Turkish-Japanese Foundation Culture Center
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
トルコにおける日本文化紹介、文化交流の中心となるよう設立された機関。センター内の多目的ホール、セミナーホールでは各種文化事業が行われる。図書館には1万冊以上の日本語の蔵書・視聴覚教材が揃っており、日本に関する情報収集の場としての役割も果たしている。
専門家は、派遣先機関の一般市民向け日本語講座の授業担当、コース運営の支援、文化行事への参加協力を行う。このほか、トルコ国内の日本語教育機関、日本語教育関係者、日本語学習者に対する支援・協力、日本語能力試験や弁論大会の実施協力、その他国際交流基金プログラムに関する案内等を行い、トルコ全体の日本語教育の発展に努めている。
所在地 Ferit Recai Ertugrul, Cad. No.2 Oran, 06450 Ankara
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
土日基金文化センター 日本語講座
日本語講座の概要
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