世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教育が盛んな韓国で何ができるかを問い続けて

国際交流基金ソウル日本文化センター
黒野 敦子

1.中等教育機関での訪問授業

高校での「浴衣」の授業の写真
高校での「浴衣」の授業

日本語専門家(以下、専門家)の重要な仕事の1つに、中学校や高校に行って、日本文化や日本語の授業をすることが挙げられます。ソウルには多くの日本人が住んでいますが、中学生や高校生が実際に日本人と接する機会は少ないとのことで、私たちが学校を訪問すると生徒たちはとても喜んでくれます。
授業の内容は、学校の希望を聞いて決めます。一番依頼が多いのが「浴衣」の授業です。授業では、最初に浴衣に関するクイズを行って知識を深めてもらい、次に浴衣の着付け方を説明します。そして最後に実際に着てみます。ペアになってお互いに着せ合うのですが、なかなかうまくできない生徒もいるので、その時は専門家や一緒に学校に行ってくれる在留邦人(日本語サポーター)が手伝います。1クラスの人数が多いと全員に着付けるのは大変ですが、満足そうに友達と写真を撮っている様子を見ると、疲れも吹っ飛びます。
実際に学校に行って学習者に会うことや先生方からお話を聞くことは、教育現場を肌で感じる非常に貴重な機会となっています。韓国の中高生は何に興味があるのか、どうして日本語を学んでいるのか、先生方は何に困っているのかを知るためには、現場に行かないとわかりません。これからも一人でも多くの学習者に日本語や日本文化に興味を持ってもらえるように、楽しくて実りある授業作りを考えていきたいと思います。また、現在は日本語の授業よりも日本文化の授業のほうが多いので、文化理解と合わせて言葉の学習にも力を入れていきたいと考えています。

2.月に一度の日本語教師サロン

センターでは、毎月1回、日本語教師サロン(以下、サロン)を開いています。これは日本語の先生方を対象に行っているセミナーなのですが、参加者は中学・高校の先生だけでなく、大学や日本語学校の先生、企業で教えている先生、フリーランスの先生など様々です。
テーマ決めは毎回悩みますが、教育現場に役立つことは何か、先生方が知りたいことは何かを考えて、理論を踏まえつつ、現場に即した内容になるよう心がけています。2019年度は、レベル差のあるクラスでの教え方、『まるごと 日本のことばと文化 中級1』に込められた学習デザインの意図と工夫、ゼロ初級日本語学習者を対象にした読解授業などを取り上げました。講師は、大学の先生にお願いしたり、専門家が務めたりしています。
講師の講義を聞くだけではつまらないので、サロンの後半では参加者が意見交換をする時間を設けています。この話し合いは毎回盛り上がるのですが、お互いの教育現場の事情を知ったり、悩みを共有する場にもなっているようです。サロンのこのグループ活動がきっかけで知り合いになったという話も聞き、サロンが先生方のネットワーク作りに多少なりとも貢献していることを大変うれしく思います。
今後も引き続き、外国語教育の基本的かつ重要な内容を取り上げながら、時代とともに変わる現場のニーズにも応えられるサロンを目指していきたいと考えています。

3.現場で頑張る先生方への研修、日本語教育専攻の大学生への研修

毎年1月に中学・高校の先生を対象にした「冬季中等日本語教師集中研修」を、2月に日本語教育専攻の大学生を対象にした「全国師範大学生日本語教育研修」を行っています。
2019年度の冬季中等日本語教師集中研修では、専門家による「日本文化の取り入れ方」「遂行評価」などのワークショップ、「けん玉」「折り紙」などの文化体験に加えて、教科書執筆者であり高校で教鞭もとっている3名の先生方をお招きして、先生方が執筆した教科書の具体的な活用法や授業アイデアを聞く時間も取り入れました。アンケートでは「学校の現場で活用できる研修でした」「各地域の先生方にお会いできて、多様な情報を共有することができて本当によかったです」などの声が聞かれ、満足していただけた様子がうかがえました。
全国師範大学生日本語教育研修では、将来の日本語教育を担う大学生を対象に「ひらがなの指導法」について研修を行いました。例年ですと、実際に高校生にセンターに来てもらって模擬授業を行うのですが、新型コロナウイルスの影響で高校生に授業に参加してもらえず、大学生が教師役と学習者役に分かれて行いました。この研修の目的は、教育現場で役に立つ実践的なスキルを身につけてもらうことですが、もう1つの重要な目的は、普段接する機会のない他大学の学生と共に学ぶことで人的ネットワークを構築することです。アンケートでは「実際に教師になって使えることをたくさん教えてくださって本当によかったと思っています」「他の大学の日本語教育科の学生と交流する機会が少なかったんですが、この研修で他の大学の学生たちと親しくなってよかったと思います」などの声が聞かれ、研修の目的を達成できたのではないかと考えています。

冬季中等日本語教師集中研修の写真
冬季中等日本語教師集中研修

韓国は、日本語教育機関数が世界1位、教師数が2位、学習者数が3位の国です。このように非常に日本語教育が盛んな国で、専門家としてできることは何か、やらなければいけないことは何かを問い続けながら、これからもがんばっていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行なうとともに、教師を対象とする支援を大きな柱とした各種支援を実施する。具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校及び高校への訪問授業等である。また、入門段階から日本語能力試験N1合格レベルまでの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けて、ホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行なっており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行なっている。
所在地 Office Bldg.4F, Twin City Namsan, 366 Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名(内1名は嶺南地域担当、釜山駐在)、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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