世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)想像力は無限大、通称「かなコン」!ひらがな・カタカナ デザインコンテスト

国際交流基金ソウル日本文化センター
黒野敦子、信岡麻理

1.ひらがな・カタカナから広がる想像力

ソウル日本文化センターでは、ひらがな・カタカナをモチーフに創作したグラフィックデザインを競う「ひらがな・カタカナ デザインコンテスト」、通称「かなコン」を実施しています。韓国の中学生・高校生および青少年(14~18歳)を対象に、2016年度から行っています。
1年目の2016年度は、2,566点の作品(中学生部門686点、高校生部門1,880点)の応募がありましたが、4年目の2019年度には4,365点(中学生部門1,366点、高校生部門2,999点)と応募点数が1.7倍に増え、多くの学習者に参加してもらえるコンテストとなりました。2020年度は新型コロナウイルスの影響で学校での対面授業が減少したせいか、2,391点と前年に比べて少なくなりましたが、創意あふれるユニークな作品がいくつもあり、アイデアの豊さに感心しました。

2020年度「ひらがな・カタカナ デザインコンテスト」の作品募集ポスターの写真
2020年度 「かなコン」作品募集ポスター

審査は、デザインの専門家、当センターの所長、日本語専門家など5名で行います。審査をしながら数ある作品の中で心が惹かれるのは、作品を見てすぐに何の文字が描かれているか、何の単語をモチーフに創作しているのかがわかるものです。全体的なデザインや絵が上手でも、よく見ないと何の文字(単語)が描かれているのかわからない作品は、あまり印象に残りません。「かなコン」ですので、かなで表した単語から想像力豊かに表現された作品やこちらが考えもつかなかった発想で描かれている作品には、「わあ、すごい!」「今まで見たことのない作品だ!」と感動します。
2020年度の中学生部門の大賞には、女性が手に持った花火で「はなび」の文字を描く作品が選ばれ、高校生部門の大賞には、「ねむい」の3文字それぞれに眠そうな顔を織り交ぜた作品が選ばれました。2020年度の他の受賞作品や過去の作品は、「かなコン」公式サイトに展示されています。大賞作品以外にも魅力的な力作がたくさんありますので、ぜひご覧ください。

2.「かなコン」が育む無限の力

「かなコン」が愛される理由の一つは、中学・高校で、または独学などで日本語を学んでいる人なら誰でも応募できることです。日本語のレベル、学習期間、学年に関係なく、日本語を学ぶ対象年齢の生徒(青少年)なら誰でも参加することができます。また、中学校・高等学校の教師にとっては、日本語の授業の一環として取り上げることもできますし、クラブ活動(日本語クラブ)の中で、あるいは特別な課題(休み中の宿題、評価用の課題)として扱うこともでき、取り入れ方に様々な選択肢があるため、毎年、多くの作品の応募があるのだと思います。
韓国の中等教育でも10年ほど前から核心力量(=キー・コンピテンシー)の考えを取り入れた授業や融合的授業(複数の科目、複数のスキルが身に付けられる授業)の実現を目指した授業が求められるようになりました。「かなコン」の作品作りは、核心力量の中にある「知識・情報の処理能力」「創造的な思考力」「審美的な感性」に関わるものであり、生徒たちの複合的な力を培うことができます。そして、美術・創作と日本語という複数の科目を融合させた活動でもあります。「かなコン」は21世紀を生きる若者に必要とされる能力を、楽しみながら、自然に育むことができる一つの例でもあります。
そして最後に、日本語に難しさを感じている生徒・若者がもしいたなら、「かなコン」の作品作りを通じて、自己肯定感を得られたり、日本語への自信のなさを払拭できたり、ほんの少しでも、日本語は面白い!という気持ちを持ってくれるといいな、と願っています。

2020年度「ひらがな・カタカナ デザインコンテスト」中学生部門の大賞作品の写真
2020年度大賞作品(上・中学生部門ペユンジンさんの作品、下・高校生部門ノヨンウンさんの作品)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育事情の把握、日本語教育関係機関および日本語教育関係者とのネットワーキングに努めるとともに、日本語学習者と日本語教師の双方を対象とした多様な支援を行っている。
具体的な支援活動は各種中等日本語教師研修の実施、各地域の日本語教育研究会・日本語教師会への出講、日本語教師・日本語学習者を対象とした特別セミナーの開催、日本語教師との協働・ネットワーキングおよび情報収集を目的とした中等・高等学校訪問、日本語講座の実施、学会参加等を主軸とし活動を行っている。また、韓国全土に向けて、ニュースレターやSNSを通じた情報提供を行なっている。
所在地 Office Bldg.4F, Twin City Namsan, 366 Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名(内1名は嶺南地域担当、釜山駐在)、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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