世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「応変、モンゴル!」:心のデジタルトランスフォーメーション

モンゴル・日本人材開発センター
三本智哉

完全オンラインコースへの歩みとこれから

「いろどり」という教材の使い方を説明するセミナーの写真
オンライン授業実施中

2020年1月末からモンゴル全土の学校が閉鎖され、当モンゴル・日本人材開発センター(以下、センター)でも春コースが延期され、その後中止となりました。200名近くの受講予定者への返金が行われ、教室での対面式授業がいつから行えるのか、どこまで行えるのか先行きの見えない中でオンラインコースへの道を模索し始めました。

そのような中、幾度かの講師間研修と夏コースに向けた話し合いの場を持ち、「まるごとオンライン自習サポートコース」が誕生しました。完全にオンラインに切り替えるにはかなりの作業時間が必要とされていた時期において、学びを止めないようにと立ち上げられた少人数のコースで、週1度の対面授業以外は「まるごとオンライン」で自習を進める形でした。他国の事例を参考にしつつも、モンゴル語のサポートブックや動画教材等を整備したこと、一人ひとりの学習状況をこまめに確認・対応したことで通常コースとそん色のない会話能力の向上や高い満足度が得られました。担当講師の気づきと学びは他の講師にも共有され、有用なデジタルリソースの認知や個別対応の大切さが広がっていきました。

秋コースは、人数を制限しながらも教室での対面授業が行えていましたが、夏コースで得られた経験と自信からどこかのタイミングで教室での対面授業が行えない場合の対策もある程度想定して、コースを計画し進めていくことができました。そして、中間試験直前だった11月の中旬、新型コロナウイルスの影響で対面式の授業がしばらくの間行えないことが決まりました。2週間の準備時間を設けて、その期間をオンライン授業環境の整備、講師間の研修と授業練習、教材作成にあてました。それぞれのレベルの講師同士の協力によって、またオンライン学習に突然切り替わったにも関わらず学びを止めなかった受講生の努力によって無事にコースを終わらせることが出来ました。

そして、コロナ発生から1年後の2021年の春は、コースの広報・受付・授業・試験(筆記・会話)を完全にオンラインで実施しています。それまでは、センターへの通学が可能なウランバートル市内の人にしか提供できなかった講座でしたが、今はモンゴルの地方都市や日本国内やアメリカなどからの受講生がモニターの前で待っていてくれます。講師も工夫を重ねてデジタルの強みを活かした学びの提供や個別対応に手ごたえを感じています。
今後、どのような状況になったとしてもこの困難な状況を乗り越えて、心のデジタルトランスフォーメーションを果たした講師陣なら、臨機応変なコース運営をしていってくれるでしょう。日本語専門家としては、皆さんの広がった視野や使えるツールの増加によって生まれる新しい試みをサポートするのを楽しみにしています。

初中等教員向け教授法研修会2021

昨年に引き続き、センター講師と共に初中等教員向けの研修を2021年1月に行いました。今年度は対象も拡大し、地方都市の教員だけでなくウランバートル市含め合計28名の教員に参加していただきました。オンラインで行い、テーマは「オンラインでの教え方」について扱いました。新学期からオンラインで教えなければならない教員も多かったことから、今年も非常に熱心に参加してくださいました。内容としては「(1)オンライン授業を考える5つのチェックポイント、(2)ビデオ教材の作成方法、(3)同期型授業の体験とふり返り、(4)オンライン読解問題の作成 他」と基本的なことも多かったのです。しかし、オンライン授業をまず5つのポイント(1. 学習者環境、2. インプット、3. アウトプット、4. フィードバック、5. 評価)から整理したことで、参加者それぞれにとって必要な部分を認識しながら、それについてより深く学んだり、悩みや成果物や意見を共有したり、教えあったりする研修の形になりました。そのことで、「より良いオンライン授業を行う」という共通の目的を持った学びあいの場(コミュニティ)が形成され、高い満足度につながったようです。

各種イベントもオンライン開催

『いろどり』教授法セミナー 距離を取って開催の写真
『いろどり』教授法セミナー 距離を取って開催

その他、モンゴル日本語教師会との共催として「日本語教育シンポジウム」や「月例研究会」もオンラインで開催したほか、受託事業として行っている「特定技能」に関係する新テスト:「JFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)」や新教材:『いろどり』の普及活動もオンラインでの活動が大きなウエイトを占めていました。困難な状況でも目的を実現するためのさまざまな選択肢があり、ICT活用のハードルが下がり、社会的距離を保った運営など、先生方の創意工夫によって発想の幅が広がった1年になったと思います。また、巣ごもり中に作品が増えた「モンゴルにほんご多読ライブラリー」もオンラインで活用されはじめたので、事例を重ねつつ、実際に手に取ってもらえる日が来るのを待ち遠しく思っています。

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