世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)プロジェクト学習型の日本語教育

ニューデリー日本文化センター(南インド担当)
村上吉文

皆さん、こんにちは!

まず最初に簡単に自己紹介をさせていただきます。国際交流基金ニューデリー日本文化センターに所属し、南インドの日本語の先生方のサポートを担当している村上と申します。

さて、僕はこれまで何度か国際交流基金の専門家として派遣されたことがありますが、今回はこれまでになかったことが二つあります。

一つは新型コロナウイルスの蔓延により、まだ一度もインドに行ったことがないということです。これまでは一時帰国中に日本から任地に向けて教師研修などを行った経験はありますが、最初からリモートで仕事をするのは今回が初めての経験でした。もちろんコロナ禍が収束すれば派遣される予定ではありますが、今のところそれがいつになるのかは分かりません。

二つ目は、現地の日本語の先生がたに教授法などの研修ではなく、日本語という言語そのもののブラッシュアップを行う仕事が含まれていることです。大学などの教育機関に派遣される場合を除いて、専門家の仕事は教材の作成や教師研修などが多くなるので、実は日本語を教えるという日本語教育そのものの仕事はあまりないのです。今回は本当に久しぶりに日本語教育の現場に入ることができたので、試行錯誤しながらも楽しんでいます。

この日本語ブラッシュアップの仕事で、最初に行ったのは自律学習コースでした。参加者の皆さんにそれぞれ自分の学ぶ方法や内容を決めてもらう形式のものです。このコースでの経験を通じて、最近のネットやアプリを利用した学習方法に馴染みのない方の存在が可視化されたので、その次に行ったのは、一斉授業の形式で日本語学習の方法を学ぶというものでした。実際に勉強する内容は日本語ではなくて日本語学習方法なので、これは厳密な意味では「日本語教育」の定義には該当しないかもしれませんが、こうした知識やスキルも自律的に日本語力を向上させるためには必要なのです。

そして三つ目に行ったのが、今回ご紹介するプロジェクト学習型の日本語教育です。これを行った理由はいろいろありますが、その一つはインド政府から2020年に「国家教育政策2020」という非常に重要な政策文書が発出されたことです。ここでは語学学習を含むすべての科目で「経験学習」という教育方法が取り入れることが求められていて、プロジェクト学習はその中の代表的なものなのです。

プロジェクト学習にはいろいろな形式のものがありますが、今回は日本語を学んでいるインド人と、インドに関心を持っている日本人のオンライン交流会を行う形式にしました。

オンライン交流イベント「言葉から心へ」の参加者の集合写真
「言葉から心へ」参加者の皆さん

オンライン交流イベントは2021年1月21日にZoomを使って行われました。皆さんが興味を持ってくれそうなトピックを事前に38個用意しておき、同じ数のブレイクアウトを開き、それぞれの部屋でそれぞれのトピックについて話してもらうようにしました。おかげさまで参加者からの評判は非常に良く、88名のアンケート回答者の全員が「また参加したい」と回答してくれました。

この交流イベントは僕が主催者だったのではなく、プロジェクト型学習のクラスに参加したインドの日本語教師の皆さんが作った「印日キズナ」というグループが主催者となり実施しました。プロジェクト学習では教師に言われたまま参加者が作業をするのではなく、それぞれの自律性が重要なので、この「印日キズナ」という団体名はもちろん参加者の皆さんが決めたものです。団体名だけではなく、「言葉から心へ」というイベント名や、広報用のチラシ、公式サイトの内容なども全てプロジェクト学習のコースに参加したインドの日本語教師の皆さんが作りました。

イベント終了直後の実行委員会「印日キズナ」のメンバー集合写真
イベント終了直後の実行委員会「印日キズナ」のみなさん

プロジェクト学習コース自体は、このオンラインイベントを一度開いただけで終了しましたが、本コースをきっかけに結成された「印日キズナ」グループはその後も活発に活動を続けていて、前よりも進化したバージョンの「第2回言葉から心へ」を2021年4月10日に開いています。

ただ、大変残念なことに、この原稿を作成している2021年5月の段階では、インドは20万人以上の犠牲者を出している新型コロナウイルスの影響で、第3回目のイベントを企画できる状況ではありません。プロジェクト型学習のコースに参加された皆さんが無事にこの災厄を乗り越えることができ、次のオンライン交流会が誰も欠けることなく開催されることを切に祈っております。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け ニューデリー日本文化センターより南インドのバンガロールにオンラインで赴任し、インド南部5州と1連邦直轄地域を中心に日本語教育の質の向上と拡大を図る。具体的には、1) 現地人教師・教育機関支援、ネットワーク形成 2) 機関訪問等による情報収集、調査、分析 3) 南アジアの近隣諸国も含めたセミナーや勉強会など、各種支援活動の実施
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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